マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第173話 重力の対価

 漂流生活10日目

 

 天体望遠鏡で遠くに見える翡翠色の輝きは着実に大きくなってはいるが、到着までどれだけ時間が掛かるか分からない俺達は食糧を節約していた。

 

 具体的に今日の献立を言うと朝はエナジーバー1本(アンバーは半分)、昼は小麦粉にエナジーバーを砕いた粉末を混ぜてかさ増ししたなんちゃってパン、夜は魚の缶詰で味付けした鬼米の粥だ。

 

 エナジーバーとエナジードリンク、それと調味料以外はほとんど使ってしまったので、後数日で俺達はエナジーバーオンリーの食生活に変化する。

 できればそれまでに育てた果物の収穫を間に合わせたいところだ。

 

 

 時刻は夕方前、俺はリビング脇のキッチンの戸棚を開いて首を傾げていた。

 気のせいか? なんだか食糧の減りが早い気がする。

 

「いや、やっぱりおかしい」

 

 残りの食材をメモしていた手帳を取り出して在庫と照らし合わせると、やはりエナジーバーとエナジードリンクが10本も減っていた。

 

「こんなことをするのはアイツしかいないな。後で問い詰めないと」

 

 俺は今日の分の食材を取り出した後、戸棚を石の流体で厳重に封じた。

 最初からこうしておけば良かった。

 

「これが最後のお米だ。大事に食べよう」

 

 俺が鬼米の入った袋を手に調理を始めようとしたその時、いきなり身体にGが掛かり背中から床に叩きつけられた。

 

「いって〜、何なんだ一体……」

 

 俺は痛む背中を(さす)りながら立ち上がった。

 あれ、重力が……ある?

 

「にゃ!?」

 

 慌ててリビングの方に顔を向けると、ミュールがハムカー号の出っ張り部分からリビングに敷かれた絨毯(じゅうたん)の上に落ちてきた。

 

 ガチャリと自室の扉が開くと、不思議そうな顔をしたアンバーが本を脇に抱えてとことこ歩いてくる。

 

「どうなっておるのじゃ?」

「分からない。何かが変だ」

 

 リビングに集まった俺達が不思議な現象に顔を見合わせていると、突然重力が失われて身体がふわりと浮き上がった。

 そしてまたすぐに重力が発生して、どかりと床に叩き落とされる。

 

「こりゃたまらんのう……」

「そうだ、ユニエルに聞いてみよう」

 

 俺が変化を続ける重力空間をなんとか移動してユニエルの部屋をノックすると、ガチャリと扉が開いてユニエルが顔を出した。

 

「皆様、どうかされましたか……?」

「ユニエルは何か感じないか?」

「何かと申されましても……」

「ほら、さっきから船内の重力がおかしいんだよ」

「あっ……」

 

 どうやらユニエルには心当たりがあったらしい。

 彼女がポンと両手の先を合わせると、再び船内に重力が発生した。

 

「自室で重力操作スキルの研究をしていたのですが、どうやら熟練度が上がって効果範囲が広がってしまっていたみたいですね……」

「ほう、重力操作スキルとな?」

 

 アンバーは興味深そうに目を輝かせた。

 これには俺もかなーり興味があるぞ。

 

 船内に重力があれば洗濯ができるし湯船にも入れる。

 それに何より、夜のお楽しみができるようになる。

 

「やはり、無重力というのは何かと不便ですから……」

 

 そう言って俺の方を見たユニエルは顔を赤らめた。

 

「もしかして、ナニかをしたいんですか?」

 

 漂流初日の会話を思い出した俺が尋ねると、ユニエルはこくりと首を縦に振って肯定した。

 

「いけませんか……?」

 

 俺はアンバーの顔色を(うかが)うことにした。

 

「アンバーはどう思う?」

 

 正直なところ、俺は10日もお楽しみを禁止されて溜まっている。

 新たな性癖の扉を開いてもイイと思っちゃうくらいには溜まっているのだ。

 

「わしは嫌じゃ。お主とユニエルが交わるところなど見とうない」

 

 残念、シルキーの時みたいにはいかないようだ。

 へそを曲げたアンバーはぷいっと顔を横に()らしてしまった。

 

「そう、ですか……」

「ユニエルとは少しばかり二人で話し合いをする必要があるのう。ハルトは向こうで夕食の支度でもしているがよい」

「分かったよ、アンバー」

 

 聞き分けのいい俺は(きびす)を返してキッチンに向かった。

 そのついでに絨毯(じゅうたん)に転がっていたミュールの首根っこを掴んで引っ張る。

 

「いきなり何するにゃ!」

 

 アンバー達から見えないキッチンの裏までミュールを連行した俺は、憤慨(ふんがい)する彼女の肩を抑えて問い詰める。

 

「お前、俺に謝らないといけないことあるよな?」

「にゃ、にゃんのことかにゃー?」

 

 ミュールは俺から目を()らしつつ、石で固められた戸棚の方を見た。

 こいつ、完全にバレてるのを理解した上でしらばっくれてやがる。

 お仕置きも恐れぬ猫娘の所業に呆れ果てた俺は大きくため息を吐いた。

 

「はぁ……。腹が減るのは分かるけどさ、それならそうとちゃんと言ってくれよ」

「言ったらご飯を増やしてくれるのかにゃ?」

 

 食糧は有限だからミュールだけを特別扱いするわけにはいかない。

 いかないが、盗み食いされるくらいなら俺が我慢した方がマシだ。

 

 どうせ自分の分のおやつを隠し持っているだろうと考えて一切の対策をしていなかった俺が悪いんだし、八つ当たりでアンバーにお仕置きをさせるのはちょっとな。

 それに……傷を治すのにも魔力は必要だ。

 

「俺の食事を分けてやるから、もう盗み食いだけは絶対にするな。いいな?」

「おお、言ってみるもんだにゃ!」

 

 俺は余った魔力を医療スキルで(かすみ)を食う修行に費やすことを心に決めた。

 グレゴリーホテルで優雅に隠棲(いんせい)しているアザゼル、俺に力を貸してくれ……。

 

 

 その日の晩、寝る支度を終えた俺はリビングでぷかぷかと浮かびながら瞑想をしていた。

 

 (かすみ)を食う修行をしていて思ったが、再生スキルで()(おとろ)えた肉体を修復するのと、医療スキルで失った栄養素を補充するのとではまた違ったベクトルの難しさがあるみたいだ。

 

 これは骨が折れそうだなぁ……と思いつつ一人でイメージトレーニングを続けていると、不意に重力が戻って俺の身体がぽすんと床に敷かれた絨毯(じゅうたん)に落ちた。

 

「またか」

 

 今の衝撃で集中が削がれてしまった。

 閉じていた目を開いた俺が小さくぼやくと、ガチャリと自室の扉が開いて部屋の中からアンバーが顔を覗かせた。

 

「ハルトよ、時間がないぞ。(はよ)うこちらにくるのじゃ」

「時間?」

「ユニエルに頼んで時間を作って貰った。後始末も含めてぽっきり1時間じゃ」

「おお、マジか!」

 

 二つの意味で立ち上がった俺は喜び(いさ)んで部屋に飛び込んだ。

 狭い自室の床には予備の寝袋が広げられていて、今か今かとその時を待っていた。

 

「わしものう、実は結構我慢しておったんじゃ。これも全部、スケベなお主に付き合っていたせいじゃぞ……」

 

 しゅるりとスク水を脱ぎながら興奮でほっぺを赤らめるアンバーに、俺は――。

 

 

 漂流生活11日目

 

 俺はユニエルに売られた。

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