マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第176話 竜の門

 漂流生活35日目

 

 夢のような非日常はあっという間に過ぎ去っていき、ついに次元の狭間(はざま)での旅も最終日と相成った。

 

「世界樹までもうちょっとにゃ。みんな忘れ物はないかにゃ?」

 

 機関室から魔道エンジンとミスリル発魔機を回収してきたミュールがリビングで出発の支度をしている俺達にそう呼び掛けた。

 

「うむ、大丈夫じゃぞ」

 

 リビングの床には収穫した果物の詰まった大きな袋とチーズなどの乳製品が入ったクーラーボックスが置かれている。

 

 食糧をマジックバッグに入れてしまうと時間加速で劣化してしまうので、外に出るまではそのまま運ぶ予定だ。

 

「世界樹の根がこれほど大きいものとは、驚きましたね……」

 

 胸元にこん棒の形をしたミスリルの首飾りを提げたユニエルが次元潜航船ハムカー号のフロントガラスから向こう側を見ながら、ぽつりと口にした。

 

 直径が1kmはあるのではないかと思うほどの太い翡翠色の幹に、何kmあるのか見当も付かない大きな広がりを見せる翡翠色の根……。

 世界を冠する樹と名付けられたのも納得の威容だ。

 

「時間だ、そろそろ出発しようか」

 

 俺はリビングの壁に用意しておいた出入口の扉を開き、その先に石の流体で乗用車サイズのハムカーを作った。

 

 運転席には俺、助手席にはユニエルが乗り込む。

 後ろの荷物置きにアンバーが食糧を積み込んで後部座席にミュールとアンバーが座ったことを確認した後、ユニエルが念動スキルでハムカーを勢いよく発進させた。

 

「グッバイハムカー号、達者でやれよ……」

 

 俺は遠く離れゆく次元潜航船ハムカー号に別れを告げた。

 

 船の各部に設置されたミスリルプレートが残っている間は、あの船がダンジョンの幼体に食われることもない。

 これから気が遠くなるような長い間、あの船は次元の狭間(はざま)を旅することになる。

 

 遠い遠い未来にあの船を発見した人々は何を思うのだろう。

 旅の最中に山ほど作ったハムマンフィギュアと金属板に残したメッセージ。

 好意的に受け取って貰えたら俺は嬉しいが……きっと変な考察をされるだろう。

 

 

 次元潜航船ハムカー号を出発した俺達の乗るハムカーは、真っ直ぐに世界樹の根が生えている根元の部分へと進んでいた。

 昨日、天体望遠鏡で観察している時に謎の人工物の存在を確認したのだ。

 

 その見た目は銀色をした両開きの扉のようであり、脱出の為に世界樹の幹をくり抜く作業を覚悟していた俺達にとってはまさに福音と言っていいものだった。

 

 近くまで行くとその見上げるほど大きな扉には翼の生えた竜のような文様が左右対称に施されているのが見て取れた。

 

 ミュールが構えた一眼レフカメラでカシャリとその竜の門の写真を撮影する。

 今日は彼女がカメラマン役だ。

 

「ユニエル、開けられるか?」

「試してみましょう……」

 

 ユニエルが指を振ると、両開きの大扉がミシリと音を立てた。

 しかし随分(ずいぶん)と固いようで、何度試してもピクリとしか動かない。

 

 風の刃でスパリと大扉の間と上下に切れ込みを入れてもう一度指を振ると、今度こそズズズと音を立てて大扉が開いた。

 その向こう側は真っ暗な闇であり、先は何も見通せなかった。

 

 ユニエルがポンポンと光の球を送り込むと、ようやく中の光景が目に映る。

 そこは黒い石材で全面を舗装された空間になっており、その天井には階段があった。

 

「間違いない、外に繋がる階段だ」

「じゃが、天地が逆みたいじゃな」

 

 世界樹の枝に見えているのは根っこの部分なのでそうもなろう。

 ユニエルの意思でくるりと反転したハムカーはふわふわと泳いで内部に侵入した。

 何が起こるか分からないので、念の為に大扉は元のように閉じておく。

 

 ヘッドランプ(額の部分に付けた照明用魔道具)で先を明るく照らすハムカーでPUIPUIと足音を立てながら真っ直ぐ続く長い階段を(のぼ)っていくと、不意に俺達の身体に重力が戻った。

 

「おお、外に出たみたいじゃ!」

「ついにあちしらはやったのにゃ!」

「そう、ですね……」

 

 呑気に喜ぶ二人とは対照的に浮かない様子のユニエル。

 それもそのはず、彼女はこの外に出たら探索者ギルドの腐れ天使どもから聖都のダンジョンの管理者責任を問われることになっているのだから……。

 

「あれ? 行き止まりだ」

 

 ようやく階段を(のぼ)り切ったと思ったらその先の広間の壁が崩れていて、そこから(こぼ)れ出した翡翠色の枝で通路の先が埋め立てられていた。

 葉っぱが生えていないから根かな? どっちでもいいが邪魔で先に進めない。

 

「ちょいと切り出す必要があるようじゃな。ここはわしに任せるがよい」

 

 ハムカーから降りたアンバーがポーチから大きな鉈を取り出した。

 鞘を外すと銀色の刀身の先っちょにピカリと光る青白いミスリルの刃。

 この日の為に用意しておいた世界樹専用の大鉈だ。

 

「そうれ!」

 

 アンバーはちょびっとだけ付いたミスリルの刃部分を当てて、崩れた壁際から生えた翡翠色の枝をスッパリと切り落としていった。

 崩れていた部分は俺の生成した石材で塞いだ上にがっつり補強もしておいた。

 

 それと大事な資源を捨て置くのは勿体(もったい)ないので、切り落とした枝は適当に切り分けてアンバーのポーチに突っ込んだ。

 きっと、アイリスへのいいお土産になるだろう。

 

 ちなみにアンバーはこれで世界樹のこん棒を作るつもりらしい。

 原材料費が高いだけで特に珍しいものでもないから、それは彼女の好きにしたらいいと思う。

 

 

 小一時間ほど掛けて伐採作業を進めていくと、黒い石材で全面を舗装された通路はスッキリ綺麗に元通りになった。

 

「ふいー、やっと終わったわい」

「お疲れ様、アンバー」

 

 一仕事終えていい汗かいた様子のアンバーに、俺は温かい天使のミルクティーが入ったティーカップを差し出した。

 

 ゴクゴクと天使のミルクティーを一気飲みしたアンバーは、口の周りに白いヒゲを付けたままぷはーと息を吐いた。

 俺は汚れた口周りをスパイダーシルクの白いハンカチで拭いてあげた。

 

「それでは、行きましょうか。あの扉の向こう側へ……」

 

 世界樹の枝に埋め尽くされた通路の先には、外にあったものと同じ翼の生えた竜の文様が施された銀色の大扉が隠されていた。

 

 恐らく、この先が外に繋がっているはず……。

 繋がっているといいな。

 多分繋がっているだろう。

 

 俺達はハムカーをその場に放置して大扉の前に立った。

 グッバイハムカー(以下略)。

 

 アンバーが小さな手で扉の中央を思い切り押すと、ズズズと音を立てて重い大扉は左右に割れるように開いた。

 

 それと同時に、大扉の向こう側からひゅるりと冷たい空気が流れ込んだ。

 吐いた息が白く染まるが、俺達はちゃんと探索者服の下に水着を着ているのでそこまで寒さは感じない。

 

 手に持った魔道ランタンを照明代わりに大扉の先にある大広間へと歩を進める。

 戸締りは大事なのでちゃんと大扉はアンバーが閉めておいた。

 

「何かの遺跡みたいにゃ」

 

 ミュールは広間の壁に刻み込まれた、ところどころが欠けた古い壁画を見上げた。

 竜の翼が生えた人と耳の長い人が何かのやり取りをしている姿が描かれている。

 彼らの足元に小さなハムマンが描かれているのが印象的だ。

 

「世界樹は有史より以前からあったそうだし、きっと古代人が遺した遺跡だろう」

 

 この生きたダンジョンが(あふ)れる異世界では、古来より数多の文明が発展と滅亡を繰り返していた。

 ネフライト王国が建国された1万年より前の記録は断片的にしか残されていない。

 

 人が技術を進歩させても、進歩させたからこそ滅びの道を辿ることも多い。

 俺がこの世界に(もたら)した終末装置は現在、魔道学院の管理下にあるはずだ。

 はてさて、俺達の文明はきちんと未来を紡ぐことができるのだろうか。

 

「誰!?」

 

 俺達が時間も忘れて壁画を眺めていると、そんな驚くような声が聞こえてきた。

 声のした方に顔を向けると、広間の入口にふかふかの防寒着を着た若い少女が立っていた。

 

 右手にはランタンを持ち、深い紫色の髪をふわふわのフードから覗かせた少女は金色の竜眼を丸く見開いている。

 そしてその少女は背中に深い紫色の鱗をした竜翼を背負っていた。

 

「驚かせてすまんのう、わしらは探索者じゃ」

「探索者……そんな、一体どこから……」

「あの大扉の向こう側からだよ。竜人族(マムクート)のお嬢さん」

 

 俺達が竜人族(マムクート)の少女に歩み寄ると、少女は俺の顔を見て小さく呟いた。

 

「ミン・ノルさん……いえ、そんなはずは……」

 

 俺は彼女の顔を知っている。

 彼女はかつて8年戦争で猛威を振るった魔竜の生き残り。

 海賊王ギースとともに東大陸へ渡った、竜人族(マムクート)のミラ。

 

 だからここは中央大陸にあるネフライトの世界樹などではなく――瘴気(しょうき)(あふ)れる呪われた大地、東大陸の世界樹だ。

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