マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第177話 魔竜と竜人族

 回想—―パイレーツオブギース亭

 

 鬼米酒の瓶を片手に畳の上であぐらをかいている、海賊服を着た赤肌で大柄なオーガの女将イクコさんはしたり顔でギースが東大陸に向かった理由を(かた)った。

 

「じゃあどうしてギースはそんなことをしたのか。それはねぇ――東大陸からやってきた竜人族(マムクート)末裔(まつえい)から教わったのさ。東大陸の世界樹の(うろ)に住む、ゴールデンハムマンの存在をね」

 

 イクコさんは分厚い耐魔ガラスで守られた状態で壁に飾られているギースコレクションのうちの一つ、一枚の絵画を指差した。

 

 描いたのはジョニーではないようだが、その大きな絵画には海賊船を背景に東大陸へ向けて出港の準備をするギースと船員達の姿が描かれていた。

 

「見えるかい、船の端っこにいるフードで背中の翼を隠した紫髪の娘。この子がその竜人族(マムクート)のミラだよ」

 

 「10分で分かるティアラキングダムの歴史」にはミン・ノルとその仲間達に特別なダンジョンの在り処を教えて姿を消したと書かれていたが、実際にはアルビオン解放軍に同行していたようだ。

 

 俺はこの少女が描かれた絵をジョニアート美術館で見た覚えがある。

 家出中のエルフの王族、ラグラス・ネフライトと一緒に酒場で飯を食ってた。

 

「マムクートって何にゃ?」

 

 自分だけ黙々と懐石料理を食べていたミュールが首を傾げた。

 一応、ちゃんと話は聞いていたのね……。

 

「有翼のドラゴニュートのことをミン・ノルはそう呼んでいたのさ。ティアラキングダム出身のお嬢ちゃんには魔竜、と言えば分かるかねぇ」

「みゃ!?」

「魔竜の正体が、この娘じゃと……!?」

 

 中央大陸東部を席巻(せっけん)したグライズ帝国は強大な竜種を支配する術を持っていた。

 魔竜と呼ばれ恐れられたその竜種はグライズ帝国と敵対する国の街に突如(とつじょ)として飛来し、破壊と殺戮(さつりく)の限りを尽くしたという。

 

 アルビオン解放軍によって魔竜はすべて討伐されたと記録されているが、中央大陸に生息していた竜種系の魔獣が絶滅するまで狩り尽くされる原因となったほどに、魔竜が中央大陸東部に住んでいた人々の心に残した爪痕は大きかった。

 

 500年が経った今でもティアキン民が子供を(しか)る時に「悪い子にしていると魔竜がやってくるぞ」と脅すことがあるくらいには恐れられている存在だ。

 

「なるほど、化身スキルか」

 

 テイムスキルなんてないこの世界でどうやってそんなことを成したのかと思えば、しっかりとしたタネがあったわけだ。

 

「そうさ。ドラゴニュートが竜人化の化身スキルを持っているのと同じように、竜人族(マムクート)は竜化の化身スキルを持っているのさ」

「ただの人が意思一つでAランク魔獣に早変わりか……戦時中に街中で起こったことを想像するとぞっとするのう」

 

 日本人のミン・ノルが彼らをマムクートと呼んだのも納得だ。

 俺だけじゃなく、過去にファイアーエ〇ブレムをプレイしたことがある人間なら誰しもが同じイメージを持つだろう。

 

「どうして竜人族(マムクート)のことが歴史の教科書に載っていないのかにゃ? 結構大事そうな話っぽいにゃ」

「当時、ドラゴニュート差別の原因になってねぇ。竜人族(マムクート)が戦争に利用されるのを避ける為にも、国家ぐるみで存在を隠すことにしたのさ」

 

 イクコさんは鬼米酒の瓶を傾けて乾いた喉を(うるお)した。

 

「それじゃ、最低限の知識を入れたところで竜人族(マムクート)とギースの話を始めようか――」

 

 それからイクコさんによるティアラキングダム史のお勉強の時間が始まった。

 

 

 竜人族(マムクート)、彼らは太古の昔から東大陸の北の山脈に住んでいたという。

 彼らは二つの山の間に挟まれるようにして生えている翡翠色の大木……世界樹を神樹と(まつ)り、東大陸に住む悪しき心を持つ人間達から守っていた。

 

 しかしある時、大いなる災いにより東大陸全土が瘴気(しょうき)(おお)われて人の住めない呪われた大地に変わってしまったそうだ。

 

 住処(すみか)を追われた彼らは安住の地を求め別の大陸に移住する者と、東大陸に留まり神樹を守護する者に別れた。

 

 竜の姿となり大海を越えて西に渡った竜人族(マムクート)達は中央大陸東部、アマゾン地方にあるジャングルの奥地に居を構えることとなった。

 

 強大な力を持つ竜人族(マムクート)は自身の力が争いに使われることを避ける為に、中央大陸に住む人々との交流を固く禁じていた。

 

 だが長い年月が経ち世代が移り変わると、その窮屈(きゅうくつ)なしきたりに反発する者も出てきてしまう。

 

 ある日、若い竜人族(マムクート)の男が興味本位で隠れ里を抜け出したことがすべての悲劇の始まりだった。

 

 人里に出た彼はその力を一切隠すこともなくひけらかし、それがグライズ王国の狂王子ウルフロード・グライズの目に止まってしまった。

 

 酒に睡眠薬を盛られて密かに捕えられた彼は、グライズ王国の教会を束ねる月光教の指導者によって凄惨(せいさん)な拷問を受けて竜人族(マムクート)の隠れ里の場所を吐き出した。

 竜人族(マムクート)の隠れ里は王国兵によって襲撃され、その全員が虜囚(りょしゅう)の身となった。

 

 そして……薬物による洗脳、調教の果てに竜人族(マムクート)達は魔竜という名の人間兵器へと変えられた。

 繁殖用として取り置かれた竜人族(マムクート)の少女ミラだけを除いて。

 

 狂王子ウルフロード・グライズは父王を廃し自らを皇帝と名乗ると、魔竜の力を使って周囲の国々に侵略戦争を始めた。

 この争いより多くの血が流れ、悲劇の連鎖は留まることを知らなかった。

 

 中央大陸東部に住む人々にとって幸運だったのは、移送の途中で(おり)から脱走したミラがユダの町で偶然出会ったミン・ノルとその仲間達に命を助けられたことだろう。

 

 この出会いによって運命の歯車は回り、8年戦争の果てに皇帝ウルフロード・グライズは正義の剣に(たお)れることになる。

 

 

 さて、ここで話は主題に入る。

 

 8年戦争の当時、ゴールデンハムマンを求めて世界中を冒険した末に夢破れたギースはユーストの街の酒場で飲んだくれていた。

 

 貯め込んだ財産を使い果たしてもなお、ツケで毎日のように大酒を飲みにくるオーガの存在は酒場の主人を困らせる悩みの種だった。

 出禁にしようにも、レベル200を越えるギースには誰も手が出せなかったのだ。

 

 そこに現れたるはミン・ノル率いるアルビオン解放軍。

 帝国兵の一団がユーストの街を襲うという情報を手にしていた彼らは、要地であるユーストを守る為に港街を戦場に帝国兵との戦いを始めた。

 

 その戦いはアルビオン解放軍の優勢に傾いていたが、(いくさ)の途中でギースの居る酒場に帝国兵が乱入した。

 割れる酒瓶、吹き飛ぶテーブルと椅子、カウンターの下で怯える店主。

 

 客の悲鳴が酒場に木霊(こだま)する中、帝国兵が酔っ払いのオーガの背中に振り下ろした剣は大きな赤い手でむんずと掴み取られた。

 

 どれだけ酔っ払っていようと、ただの兵士が世界最強のオーガに敵うはずもない。 

 酒場に乱入した帝国兵はその剛腕ひとつで全員、店の外に吹き飛ばされた。

 赤ら顔のギースは手に持った酒瓶を(あお)りながら、酒場の外に顔を出した。

 

 ここで軍師ミン・ノルはギースと旧知のハムマン愛好家、ラグラス・ネフライトを動かして説得コマンドを使用する。

 

「船長、やはりここに居ましたか。今こそ我々とともに戦いましょう」

「こんなグズども、俺が居なくてもお前らだけで片付くだろうさ」

「いいえ、グライズ帝国の操る魔竜は船長の力なしでは対抗できません」

「やかましい、俺はもう終わった男だ。どんなに大金を積まれようとお前らを手伝うつもりはない」

「あーあー、ようやくゴールデンハムマンの()()を見つけたというのに。分かりましたよ、船長はそこで一人で飲んだくれていたらいいでしょう」

「ゴールデンハムマンだと!? どこだ、どこに居るんだ!?」

「それはグライズ帝国との戦争が終わったら教えてあげます」

「くそ、足元見やがって。嘘だったら承知しないからな!」

 

 ピローン、ギースが仲間になった。

 

 

 8年戦争の後、ギースは約束通りゴールデンハムマンの情報を教わった。

 それは幼いミラが母親から寝物語として聞かされた、古い古い言い伝えだった。

 

「神樹の(うろ)に大いなる金色(こんじき)のハムマン有り。()は悪しき異形の竜神を退(しりぞ)け、神樹を守護する神獣なり」

 

 ギースはミラの口から紡がれたその言葉を信じた。

 探索者を引退して世界中に散らばっていたギース海賊団の団員を集めた彼は、自慢の海賊船に乗って強大な海棲魔獣の(うごめ)く絶海を越え前人未到の東大陸へと旅立った。

 

 その海賊船には竜人族(マムクート)の少女ミラと、旧友のラグラス・ネフライトも同乗していた。

 その後、彼らがどうなったかは誰も知らない。

 

 

 語り終えたイクコさんは二本目の鬼米酒の酒瓶を(あお)り、一息に飲み干した。

 

「ギースが中央大陸に帰ってくることはなかったけれど、彼が生きていることだけは分かっているのさ。それはギルドカードに紐付けられたギースの銀行口座が証明している」

 

 イクコさんの話によると、死んだ人間の銀行口座は自動的に封印処理が行われて引き出し以外の一切の干渉ができなくなるのだという。

 

 しかしギースの銀行口座はいまだ生きており、口座番号を知る者なら誰でも自由に振り込みが行えるそうだ。

 

 だから海賊王ギースのファンは定期的に彼の銀行口座にお金を振り込んで生死を確かめているのだとか。

 

 (ちり)も積もれば山となり、そこに売れに売れた自伝本の印税が加わることを考えると今のギースはとてつもない大富豪になっていると考えられる。

 まあ、探索者ギルドのない東大陸じゃお金の使い道なんて一切ないけどね。

 

「本懐を遂げたギースはゴールデンハムマンの住む世界樹を(つい)住処(すみか)にした……ってコトなのかな」

「船が壊れて帰れなくなっただけかもしれないけどねぇ。東大陸に向かった冒険家のバードマンが誰も帰ってこないところを見ると、呪われた大地って話の信憑性(しんぴょうせい)も増すってものさ」

 

 俺は脳裏に放射能で汚染されたポストアポカリプスな世界を思い浮かべていた。

 

「面白い話じゃったが、一つ()せないことがあるのう。ミラはなぜ東大陸に向かったのじゃ? ノル王家の保護を得られる以上、ドラゴニュートの迫害が原因というわけでもあるまい」

 

 アンバーが疑問を(てい)すると、イクコさんはちょっぴり困ったような顔をした。

 

「会ったことがないアタシにはそこまでは分からないさ。でも、一つ思い当たることがあるとしたら……」

「あるとしたら?」

「彼女は虜囚(りょしゅう)となってから何年もの間、教会の研究施設に収容されていたそうだ。だから月光教のないところに行きたかったのかもしれないねぇ」

 

 竜人族(マムクート)の少女は悪辣(あくらつ)な天使によって家族を失い、心に深い傷を負っていた。

 だから、俺達の後ろに立つユニエルの姿を見たミラが(おび)えたのも仕方のないことだったのかもしれない。

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