マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第178話 アバロンの里

 ここで次元の狭間(はざま)を脱出した俺達が東大陸にある世界樹内部の遺跡で竜人族(マムクート)の少女ミラと出会ったところに場面は戻る。

 

「俺の名前はハルト・ミズノ。間違ってもミン・ノルではないしその子孫でもない。ただ、同郷だから雰囲気は似ているかもしれないけどね」

 

 俺は懐からギルドカードを取り出して、ステータスをミラに見せた。

 彼女はジーっとギルドカードを見つめた後、困ったような顔をした。

 

「えっと、読めないんですけど……」

「ハルトよ、ティアラ語が普及したのはギース達が旅立った後のことじゃぞ」

「あっ、そう言えばそうだった。ごめんミラ」

 

 俺はポリポリと頭の後ろを()いた後、懐にギルドカードを仕舞った。

 

「ハルト様はこの方のことをご存じなのですか……?」

 

 ばさりと羽音がすると、上で天井の壁画を調べていたユニエルが俺達の背後に降りてきた。

 

「……っ!」

 

 俺にそう尋ねる長身のアルビノ天使の姿を見たミラはびくりと肩を震わせた。

 ああ、驚かせてしまったか。

 

 大丈夫、彼女は悪い天使じゃないよ。

 ちょっと探索者ギルドから国際指名手配を受けただけの天使さんだよ。

 

「ユニエル、ここは東大陸の世界樹だ。つまり海賊王ギースとその仲間が居たとしても何も不思議じゃないってこと」

「では、ここは本当にネフライトではないと……」

「そうだよね? ミラ」

 

 俺がミラに顔を向けると、彼女はこくりと頷いた。

 

「あの……皆さんのことをお聞かせして貰ってもいいでしょうか?」

「わしらだけがお主のことを知っているのはフェアではないからのう。まずはきちんと自己紹介をせねばなるまい」

 

 俺達はそれぞれ自己紹介をした後、ミラにこれまでの経緯を軽く説明した。

 

 俺達が中央大陸の迷宮都市アクアマリンで活動するBランク探索者パーティー「こん棒愛好会」であること、探索者ギルドの任務で聖都のダンジョンを探索中にスタンピードに巻き込まれたこと、次元の狭間(はざま)を旅してここまでやってきたこと。

 

「まさか竜の門の先がそんな場所に繋がっていたなんて……」

「ミラよ、お主はなぜここにおるのじゃ?」

「私はその……ただ、一人になりたくて……」

 

 暗い顔をしたミラはうつむき、じっと床を見つめた。

 これはどうにも穏やかじゃないですね。

 

「ここの住人にいじめられてたりでもしているのかにゃ?」

 

 ミュール、流石にそれはないんじゃないかな。

 

「ギースさんが床に伏せられてしまって、それで……」

 

 ポロポロと涙を(こぼ)すミラに、俺達はどう接したらいいか分からなかった。

 

「それは病ですか、それとも怪我ですか……?」

 

 おっと、ここで頼れるお医者様のユニエルが問診を始めたぞ。

 

「そのどちらでもありません。ギースさんは、瘴気に侵されてしまっているのです」

「瘴気?」

 

 俺がユニエルに目を向けると、彼女は首を横に振った。

 医療のスペシャリストでも分からないってことは、東大陸固有のものだろう。

 

「診てみなければ分かりません。ミラ様、ギース様のもとへ案内してください……」

 

 フードの(そで)で涙を拭ったミラはこくりと頷いて、俺達に紫色の竜翼が生えた背中を向けた。

 

「里の療養院まで案内します。皆さん、私についてきてください」

 

 こうして俺達は世界樹の遺跡で出会った竜人族(マムクート)の少女とともに、竜人族(マムクート)の里へと向かうことになったのだった。

 

 

 大広間から出た俺達は長い通路を抜けて遺跡の外までやってきた。

 どうやらここは二つの低い雪山に挟まれた谷間にある川の中州に位置しているようだ。

 

 傾斜の緩い左右の山は棚田状に削られており、その上に丸い屋根をした翡翠色の家屋が建ち並んでいる。

 世界樹の真下、遺跡の周辺は翡翠色の落葉が散乱する開けた広場になっていた。

 

 俺は振り返って日光を(さえぎ)る翡翠色の大木を見上げたが、何もない異空間にのびのびと広がっていた根と比べて明らかにスケールが小さかった。

 

 具体的に言うと10分の1くらいかな。

 下半身に比べて上半身が貧弱過ぎるだろ。

 

「すっごいにゃ! 世界樹の葉っぱがいっぱい落ちてるにゃー!」

 

 久しぶりの外に、落ち葉を蹴散らしながらはしゃぐミュール。

 

「ひー」

 

 あ、ミュールが蹴飛ばした落ち葉の山の中から大きな白い芋虫が飛び出して逃げていった。

 

「おお、ぎりおじゃ!」

「知っているのか、アンバー」

 

 俺も知っているけど、お約束として聞いておかねばならない。

 

「うむ。ぎりおとは世界樹固有のワーム種であるギリーオームの略称じゃ。普段は世界樹の葉っぱの影で生活しており、夜9時頃になると枝の上に集まり月光を浴びる習性がある。弱点はみぞおち」

 

 こいつから取れるギリーオームシルクはとっても魔力抵抗に優れているんだよね。

 生産量が限られているせいで超お高いけど、俺達の探索者装備にもしっかり使われている。

 

「ミュールさん、ぎりおは繊細な生き物なのであんまりいじめないでくださいね」

 

 ミラがほんのりと怖い笑みを浮かべながらミュールに注意した。

 彼女、見た目は少女でも結構なお年だからな。

 

 Mira AGE:652 RANK:E Shaman Lv73

 MAG:C STR:A VIT:S AGI:B DEX:D

 

 さっき彼女に見せて貰ったギルドカードのステータスにもこう書かれていた。

 ドラゴニュートは3000年ほど生きるらしいので、ヒューマン換算だと20代に入ったくらいだろう。

 

「ごめんなさいにゃ!」

 

 ミュールがミラの前にシュバっと土下座して謝った。

 悪いことをした時も素直に謝れるのがミュールの美点だ。

 

「ミラ、この里の住人はどれくらいいるんだ?」

「アバロンには現在、252人の竜人族(マムクート)が住んでいます。ですが……その三分の一近くが瘴気に侵されて病床にあり、健康な者が面倒を見ている状況なのです」

 

 谷底に架けられた石橋を渡り山際に作られた長い階段を(のぼ)る道すがら聞いた話によると、瘴気とはこの東大陸に生息する異形獣の生み出す蓄積毒のようなものらしい。

 

 異形獣はダンジョンの魔物のように食事を一切取らず、近くにいる人間を執拗(しつよう)に狙い……死ぬと死骸が蒸発し、その際に発生した赤黒い魔力の煙が触れた生物を汚染する性質を持つ。

 

 何よりも厄介なのは異形獣を殺すと経験値が減少してレベルダウンすることだ。

 倒せば倒すほど弱くなる異形の獣が無限に湧いて出る地獄のような場所が、この東大陸だった。

 

「瘴気の汚染が閾値(いきち)を越えると人も異形獣に変わってしまいます。そうなってしまえばもう手遅れで……」

「その病床にいるという患者達は大丈夫なのですか……?」

「瘴気の汚染は月の光を浴びることで軽減されることが分かっています。ですがその効果は微々たるもので、回復には長い時間が必要になるのです」

「月の光、か」

 

 俺は胸元に提げられたこん棒の形をしたミスリルの首飾りを触った。

 もしかするとこいつがキーになるかもしれない。

 

「ギースさんは老齢で、回復の前に寿命を迎えてしまいかねません。もう、私達にはどうしようもなくて……」

「ふむ、それは困ったことになったのう」

 

 俺達はそれを何とかする為に向かっているわけだ。

 

 

 浅く積もった新雪に真新しい足跡を残しながら、俺達は谷の西側にある大きな翡翠色の建物の前までやってきた。

 

 この療養院でガラス張りの天窓から差し込む月光を瘴気病の患者に浴びせるのだというが、雪の降る日の多いこの北の地ではその効果も薄そうだ。

 

 敷地内に足を踏み入れると、吸い込む空気が幾分か暖かいものに変わった。

 どうやらこの建物には雪国でよく使われている雪除けの結界が張られているようで、その証拠に建物の周囲の雪が綺麗な円形に途切れていた。

 

 ミラに続いて大扉を潜って療養院の中に入ると、炭ストーブの暖房が効いた暖かい大広間では背に竜翼を背負った竜人族(マムクート)の女性達が木製の寝台に横たわる竜人族(マムクート)の男達を世話していた。

 

 薄い衣を着て眠る患者達はみな身体の一部が赤黒くなっていて、腕や足など肉体の一部を欠損している者さえいた。

 恐らく……瘴気の汚染を食い止める為に切り落とさざるを得なくなったのだろう。

 

「ミラ、その方々は?」

 

 通路の奥からやってきた翡翠色の魔術師(ウィザード)服を着ている黒髪青目をした華奢(きゃしゃ)なエルフの男がミラにそう尋ねてきた。

 

「中央大陸からきた探索者さんと、探索者ギルドの最上級天使さんだそうです」

「最上級天使……あのアザゼルと同じ?」

「はい、私が最上級天使のユニエルです……」

 

 ユニエルはスッと懐からギルドカードを取り出して彼に見せた。

 

「いいのか、ユニエル」

「ええ、問題ありません……」

 

 ユニエル 542歳 ランクS 医者(ヒーラー) Lv109

 魔力S 筋力C 生命力C 素早さA 器用さS

 

 彼女が俺に見せたギルドカードは以前のようなステータスが黒く焼き付いたものではなく、青い文字が浮かび上がっている普通のものだった。

 

「あれっ、探索者資格を剥奪されたんじゃなかったのか?」

「どうやら、この10年の間にアザゼル様が手を回してくれていたようです……」

 

 あのグレゴリーホテルの居候もたまには真面目に仕事をするみたいだな。

 

「むぅ……」

 

 騙されたことを知ってほっぺをぷくーと膨らませるアンバーに顔を向けたユニエルは、ぺろりと小さく舌を出した。

 

「一時的に探索者資格を剥奪されたのは嘘ではありませんよ……」

 

 俺はアンバーの取引のせいで後ろの処女を失ったけど、その代わりに楽しい性活が送れたので何も文句は言えなかった。

 

 むしろ、ユニエルの懲罰刑が無かったことになってホッとした気持ちが大きい。

 一度でも愛した女が刑務所にいるなんて寝覚めが悪いったらありゃしないからな。

 

「まあまあ。気にしない、気にしない」

 

 俺がアンバーの小さな身体をぎゅっと後ろから抱きしめて(なだ)めていると、考え込んでいたエルフの男は懐からギルドカードを取り出して自己紹介をした。

 

 Lagurus Nephrite AGE:828 RANK:A Pharmacist Lv126

 MAG:S STR:C VIT:C AGI:C DEX:A

 

「私の名はラグラス・ネフライト。ネフライト王家よりこの地の世界樹の管理を任されている者です。勇気ある無謀な探索者達、世界の果てにようこそ。歓迎しますよ」

 

 彼はそう言って、柔らかな笑みを浮かべたのだった。

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