マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第179話 死の淵より甦れ、海賊王よ

 自己紹介を済ませた俺達は、療養院にあるラグラスの研究室まで案内された。

 広い部屋には多種多様な植物が植えられた鉢が並んでおり、棚には世界樹の葉が詰まった木箱がいくつも収められていた。

 

 薬剤師のラグラスはここでマジックポーションや薬品の(たぐい)を調合しているそうで、机の上には何かの液体が入ったフラスコや試験管などの容器が置かれている。

 

 研究室の壁の本棚には古ぼけた本や巻物が積まれており、ポーション瓶や調合用の素材が綺麗に棚に陳列されている様子は部屋の主人の性格をよく表していた。

 

「どうぞ、ギース海賊団の船医が400年前に遺した研究資料です」

 

 ラグラスは本棚から紙束の挟まったファイルを手に取ってユニエルに差し出した。

 受け取ったユニエルはぺらぺらとめくって速読しているが、その研究資料は英語ライクなスタック語で書かれていたので俺には全然理解できなかった。

 

「どうやら、その船医はあまり医学が得意ではなかったようですね……」

 

 上級天使以上に医学が得意な人はいないだろう。

 更に言えば月光教の時代は民間には(やぶ)医者しかいなかったわけだし。

 

 あっという間にすべての資料に目を通したユニエルは、ファイルを机の上にパサリと置いた。

 

「まずは重体の患者から手を付けていくべきでしょう。ハルト様、手伝って頂けますか……?」

 

 察するに俺はユニエルの助手役ということだろう。

 

「もちろんだ、好きに使ってくれ」

 

 俺の回答は当然、イエスだ。

 

「ラグラス様、空き部屋を用意して下さい。オペを行います……」

「……本当に治せるのか?」

「何が原因であろうと必ず治します。それが我々、天使の使命ですから……」

 

 疑念の入り混じったラグラスの視線を、ユニエルは軽く受け流した。

 

 

 それから1時間後、療養院の空き部屋を改装して用意された手術室に俺とユニエルの二人は立っていた。

 

 身に着けた衣服は医療スキルで完全に除菌され、頭にキャップを被りマスクを着けた戦闘態勢だ。

 

 天井の照明で照らされた明るい小部屋の中央に置かれた大きな手術台の上には、目を閉じた老齢のオーガの大男が裸で横たわっている。

 ミラの持ってきた彼のギルドカードにはこのようなステータスが表示されていた。

 

 Geese AGE:777 RANK:A Berserk Lv142

 MAG:B STR:S VIT:S AGI:B DEX:B

 

 ギースのレベルは200を越えていたはずだが、長年の異形獣との戦いで随分(ずいぶん)と擦り減ってしまっているようだ。

 

 それでもまだ高いと言えるレベルに裏打ちされた生命力のステータス補正によるものだろう、ギースは1年も意識が覚めないまま寝たきりだというのに、鍛えられた古傷だらけの肉体にはまるで衰えが見られなかった。

 

 眠り続けるギースの赤肌のあちこちには赤黒い(あざ)が浮かんでいる。

 これこそが異形獣の吐き出した瘴気に侵された者に付けられた烙印(らくいん)だった。

 

「オペを始めましょう……」

 

 手術室の壁に設置された大きなガラス窓の向こう側からはアンバー達、ラグラスにミラ、そして竜人族(マムクート)の女性や意識のある瘴気病患者達が心配そうにこちらを見ていた。

 

 グロいから手術の様子はあんまり見せたくないのだが、秘密主義のままだと他の竜人族(マムクート)の患者の治療を安心して任せて貰えないのでこういう形にしている。

 

「ハルト様、麻酔を……」

 

 俺はギースの額に触れて医療スキルで彼の全身の痛覚をカットした。

 それに加えて、手術の途中で彼が起き出さないように意識を深く沈める。

 今回は脳の治療も含まれているので意識がないからと手を抜くわけにはいかない。

 

「麻酔よし」

 

 簡単にしているように見えるが、この麻酔も高度な医療スキルがないとできない。

 どう言い(つくろ)っても魔力で脳に干渉するわけだから、下手な人が扱えばそのまま命を落としかねない危険な技術だ。

 

「では……」

 

 ユニエルが先端にミスリルの付いた細い棒でそっと肌の赤黒い(あざ)()でると、しゅうしゅうと音を立ててその(あざ)は消えていった。

 

 手術室の準備をして貰っている短時間の間にユニエルは瘴気汚染の治療法を確立させていた。

 治療の鍵はやはり、ミスリルの光に含まれる特殊なマナエネルギーにあったのだ。

 

 一通り浄化して皮膚の治療が終わったので、次は体内の治療に移る。

 ユニエルがスッと指を動かすと、ギースの腹部が切り裂かれてぺろりと広がった。

 念動スキルで広げられた腹膜の中から覗いたのは赤黒く染まった臓器の数々……。

 

 ギースの体内にあるいくつかの臓器は瘴気によって完全に汚染されて使い物にならなくなっている。

 

 このままミスリルを使って浄化してもその機能は戻らず、ただ消滅するだけだ。

 だから一つ一つ切除して、再生させなければならない。

 

「ハルト様、リジェネレーションを……」

「任せろ」

 

 ユニエルの操る風のメスによって赤黒い臓器が切除されて浮き上がった瞬間、俺は再生スキルを行使して一瞬で失われた臓器を再生させた。

 

 汎用的な機能しか持たない再生医療用の魔道具はこういった高度な技術が必要な手術には使えないから、俺かユニエルが自前の魔力でやるしかない。

 

 息の合ったコンビネーションによって、手術台の横に置かれたテーブルの上のミスリルプレートに血まみれの赤黒いモツが積み上がっていく。

 再生した患部の周囲にはミスリルの棒が突っ込まれ、徹底的な浄化が行われた。

 

 手術によって失われた血を俺の医療スキルで補充しながら、ギースの全身を切り開いてはミスリルの棒を突っ込み、骨の(ずい)に染み込んだ瘴気を浄化した。

 

 最後に残ったのは脳だ。

 これこそが一番の難題であり、ギースや竜人族(マムクート)達の昏睡の原因でもあった。

 

 当然、ユニエルはその治療法も考えている。

 ユニエルは砂粒サイズのミスリルを念動スキルで操り鼻の奥から頭蓋骨の中に潜り込ませると、傷を残さないよう慎重に動かして浄化作業を行った。

 

 (わず)かなミスも許されない繊細な作業を目を閉じたまま延々と続ける美しい長身の天使の姿を、俺達は息を呑んでただただ見守っていた。

 

 

 今回のオペは3時間にも及んだが、ユニエルの持つ高い器用さと研ぎ澄まされた集中力、(たぐい)まれなる医学の知識と医療スキルによってギースの身の内に潜んだ瘴気はすべて払われた。

 

 ユニエルは魔道スキルで生み出した温水で血まみれのギースの身体を洗うと、手術台と床に広がった大量の血液を()き集めて俺の用意した石の大箱に落とした。

 防汚のエンチャントを発動させて返り血で汚れた俺達の服も綺麗にする。

 

 ミスリルプレートに載っていたモツは浄化されて消滅していたので、残渣(ざんさ)だけを石の大箱に入れてきゅっと蓋をしたら封印完了。

 これは後で処分して貰おう。

 

 手術の後始末が終わったところで、俺はギースの額に触れてカットしていた痛覚と意識を元に戻した。

 

「ぐ……ここは……」

 

 左目を開けて(ミラに頼まれたので右目は治さないでおいた)起き上がったギースが、ぼんやりとした顔で周囲を見渡した。

 

「ギースさん!」

 

 バンと閉じられていた扉が開き、手術室に入ってきたミラがギースに飛び付いた。

 

「あん? ミラじゃないか。どうしたんだ、そんなに泣いちまってよ」

「ギースさんはカーススタンピードの最中に、手負いの戦士を助けようとして瘴気に侵されたのです。私はギースさんがもう二度と目覚めないと思って、だから、だから……」

 

 ミラはポロポロと涙を(こぼ)しながらギースの顔を見上げた。

 

「ああ、思い出した。あんな雑魚に足元をすくわれるなんて、俺も老いたものだ」

 

 彼は赤く大きな筋張った手で、ミラの頭を優しく()でた。

 

「お願いですから、もう無茶だけはしないでください……」

「分かっているさ。……それで、お前らは誰だ?」

 

 ギースは(そば)に立つ俺達を見て首を傾げた。

 

「私はユニエル、探索者ギルドの最上級天使です……」

「俺はハルト・ミズノ。ちょっとばかり医術に()けた、魔導士(ウィザード)の探索者さ」

「そうか。それはどうでもいいが、腹が減ったな。ミラ、帰って飯を食いに行くぞ」

「はいっ、ギースさん!」

 

 ギースから離れたミラは(そで)で涙を拭って、満面の笑みを浮かべたのだった。

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