マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第18話 歌姫

「お主! バイクを買いに行くぞ!」

「ふぁいふぅー?(バイクぅー?)」

 

 開口一番、どういう風の吹き回しだ。

 

 俺は朝っぱらからモモちゃんの作った大量のおやきを片付けていた。

 なんか親父さんの目を盗んで勝手に作ったらしい。

 

 いたずらのしたい年頃とはいえ、被害を被る身にもなって欲しいものだ。

 口に含んだおやきをゴクリと飲み込んだ俺は、彼女に事の委細(いさい)を聞くことにした。

 

「それで、どういう経緯があってバイクを買いに行くことになったんだ?」

「ほれ、わしらはこれから一緒にパーティーを組むのじゃろう? そうなると狩り場は三層以降になる。悠長に移動していたら日が暮れてしまうからのう。わしがおんぶしてやってもよいが、流石にそれは嫌じゃろう?」

「確かに、それは恥ずかしいな」

 

 子供におんぶされながらダンジョンを走り回るのは勘弁願いたい。

 ハーフリングライダーとか、そんな感じの変なあだ名を付けられてしまうよ。

 

「じゃから、お主にも移動手段が必要になるのじゃ。これは上級探索者の(たしな)みというやつじゃ」

「でも、バイクって結構するんじゃないの? 俺、一昨日マジックバッグを買ったばかりであんまりお財布に余裕がないんだけど」

「それくらいわしが出してやるわい。必要経費じゃ」

「分かった。そこまで言うなら乗ってみるよ、バイク」

 

 初めて会った時から貰ってばっかだな、俺。

 まるで細長くてものを縛るアレみたいな扱いだ。

 

 ここは少しでもお返しをしなければならない。

 俺は大皿の上のおやきを取って半分に割ると彼女に差し出した。

 

「……それ、わしも食わんといかんか?」

「病める時も健やかなる時も、苦しい時も互いに支え合うのだ……」

 

 一世一代の告白によって俺達は晴れて恋人同士になったわけだが、それ以上の進展は特に何も起こらなかった。

 あの後は普通に宿に帰って飯食って寝た。

 

 いやいやそこはベッドインするところじゃんと思うかもしれないが、生まれたての童貞に無理を言わないで欲しい。

 ぶっちゃけ昇格試験でめちゃくちゃ疲れてたんだよ。

 性欲は睡眠欲には勝てんのだ。

 

「むぐ、むう。モモも腕を上げたのう」

「そりゃあこれだけ焼けば上手くもなるさ」

 

 ハズレは俺が先に片付けたからな。

 余ったおやきは包んで昼の弁当代わりにしよう……。

 

 

 お腹も膨れたところで俺達はバイクを購入する為に街の郊外に向かうことにした。

 目的地の周辺はバスが通っていないのでハーフリングの個人タクシーを利用する。

 

 バス停の近くで手を上げて待機していると一台のタクシーが俺達の前に止まった。

 すぐに後ろの扉が開いたので、二人で後部座席に乗り込んだ。

 

「……どこに向かえばいい」

 

 運転席から声を掛けてきたのは黒髪黒目のハーフリングの男性だった。

 子供みたいな見かけによらず、ハードボイルドな口調だ。

 運転席の裏に貼られていたステータス表を見ると、どうやら彼の年齢は100歳を越えているようだった。

 

 カーター 108歳 ランクD 運転手(ドライバー) Lv60

 魔力C 筋力E 生命力E 素早さA 器用さA

 

「フライス整備工場までじゃ」

「……任せておけ」

 

 バス停から発進したタクシーはスピードを上げて道路を走っていく。

 運転席の前にあるスピーカーからは、女性ボーカルの歌が流れていた。

 

 ティアラキングダムの歌姫サクレアの曲だ。

 ハーピィである彼女はどうやら大層な人気があるようで、街中を歩けば必ず一度は耳にするほどだった。

 

「アンバーはサクレアの歌好き?」

「わしは好きじゃぞ」

「そうなんだ。俺はちょっと苦手なんだよね。歌のジャンルに一貫性がないというかさぁ」

 

 なんかどこかで聞き覚えのあるような曲ばっかりなんだよな。

 地球の進んだサブカルに漬かっていた俺としては評価が一段落ちるというか。

 

「……殺すぞ」

「!?」

 

 前方から発せられた突然の殺気に全身が硬直した。

 俺はどうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 

「い、いや嫌いってわけじゃないんだ。彼女の歌は俺も大好きだ。ただもうちょっと仕事を選んで欲しいと思っただけで……」

「……仕事を選ばないのが彼女の魅力だ」

 

 アンバーがこっそり俺に耳打ちする。

 

「(お主、走り屋にはサクレアの熱狂的なファンが多いのじゃ。下手なことを言うでないぞ)」

「(もっと早く教えて欲しかった……)」

 

 流石にこの空気のままだとまずいな。

 何とかして場を繋ぐ必要がある。

 

「カーターさんはサクレアのファンになって長いんですか?」

「……俺は彼女が卵だった時から知っている。会員No.007だ」

 

 揺り籠から墓場までか、こいつはヘビーだ。

 しかもこいつらファンクラブの会員になった順番まで誇るのか。

 こりゃ下手にディスった日には、翌朝湖に浮かんでいてもおかしくないな。

 今後は口には気を付けよう……。

 

「一桁台か。そいつは失礼なことをした」

「……お前はどの曲が一番好きだ?」

 

 踏み絵が始まった!?

 く、くそっどうする……。

 俺は今、この世界にきて一番の命の危機を感じていた。

 ええい、どうにでもなれ!

 

「テクノロジー・ソング」

「……疑って悪かったな」

 

 通っちゃった。

 通っちゃったよ。

 

「……お前には上級会員しか知らない特別な曲を聴かせてやろう」

 

 カーター氏は車のダッシュボードから一枚のマジックディスクを取り出すと、音楽プレイヤーを操作してディスクを入れ替えた後に再生スイッチを押した。

 スピーカーから流れてきたのは、軽快なサンバのリズムだった。

 

『――サクレアサンバ~♪』

 

「うほーっ! サクレアサンバじゃ! 初めて聴いたわい。すっごいのう!」

「こいつは()みるぜ……」

「……フッ」

 

 サンバのリズムに乗りながら、俺達の乗るタクシーは道路を駆け抜けていった。

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