マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第180話 ハム吸い

 俺達が長時間のオペをしている間に、手術室の壁に設置された大きなガラス窓の向こう側にある広い廊下には仕事から帰った大勢の竜人族(マムクート)達が集まっていた。

 

 ミラが持ってきたほつれた古い海賊服に袖を通し、右目に眼帯を着けたギースが手術室から出ると竜人族(マムクート)達からワッと歓声が広がった。

 彼はこの500年の間にそれだけの信頼をこの里の住人から得ていたのだろう。

 

 ギースは竜人族(マムクート)の戦士達の中心にいる腰の曲がった竜人族(マムクート)の老婆に声を掛けた。

 

「おう、ババア。ジャリンコどもは元気にしているか?」

 

 地面についた杖を両手で持ち、もたれるように体重を預けている白髪金翼の老婆は(しわ)くちゃな口元をにんまりと歪めて親しげに返事をした。

 

「あたぼうよ。あたしの目の黒いうちは、怪我一つさせるつもりはないさね」

 

 とことこ歩いて隣にやってきたアンバーがぎゅっと俺の手を握って解説する。

 

「アバロンの里の長老をしておるデュラじゃ。わしが聞いた話だと、あの婆さんは5000年くらい生きとるらしいぞ」

「まじでか……」

 

 竜人族(マムクート)ってそんなに長生きなのか。

 道理でミラが600歳を越えても少女みたいな見た目をしていたわけだ。

 

其処(そこ)なエンジェルとヒューマンの男よ」

「なんでしょうか?」

 

 デュラは俺達の方に向き直ると、深く頭を下げた。

 

「感謝する。おぬしらのおかげで、この里は緩やかな滅びから救われるだろう」

「まだ一人しか治していませんよ……」

「おぬしはあたしらの信用が欲しかったのだろう? そうでなければ、秘密主義のエンジェルが治療の過程を見せるはずがあるまい」

「デュラ様は我々のことをよくご存じのようですね。古い時代の我々のことを……」

 

 今はみんな月光教が広めた天使という名で呼んでいるが、統一帝国時代の彼女達はエンジェルという種族名で呼ばれていたそうだ。

 

 統一帝国時代は紀元前2000年~500年くらいの間のことを指すので、デュラが5000年生きているという話もあながち嘘ではないのかもしれない。

 

「むかーしむかし死んだ旦那から聞いたのさ。ま、その話はまた時間のある時にでもするさね。ジジイがお待ちかねだ」

 

 しかめ面で空っぽの胃袋をさすって空腹を我慢している赤肌の大男に、デュラは顔を向けた。

 ギースはやっとかというような顔をして、俺達に声を掛けた。

 

「この状況じゃ里をあげて宴会ってわけにもいかないが、ひとまず俺の屋敷で歓迎会をしよう。なにしろ、これから長い付き合いになるんだからな」

 

 ここを(つい)の棲家《すみか》に決めたギース達と違って、俺達は飛行機で中央大陸に帰るつもりなんだけどね。

 

 一仕事終えて腹ペコの俺はギースの勘違いを訂正するのは後回しにして、歩き出した彼の背中を追うことにしたのだった。

 

 

 時刻は既に夕方になっていたようで、療養院の外は赤い夕日に照らされていた。

 

 山間の斜面に作られた翡翠色の丸い建物に向かって竜翼で空を飛ぶ竜人族(マムクート)達が帰宅していくのを遠目に見ながら、雪を踏みしめつつ山道を歩いてやってきたのは世界樹のすぐ近くの斜面に建っている瓦屋根の大きな武家屋敷だ。

 

 ここも雪除けの結界が張られているようで、敷地内には雪が積もっていなかった。

 低い柵に囲まれた広い和風庭園のあちこちには、ハムマン図鑑でも見たことのない珍しい柄のハムマン達が思い思いの場所で(くつ)いでいる。

 

「ハムマンがいっぱいにゃ!」

「こいつは凄い……!」

 

 主人の帰宅を敏感に感じ取ったハムマン達は、てこてことこちらに走ってきて俺達の足元にスリスリと身体を(こす)りつけてきた。

 か、かわいい……。

 

「おっ、お前らもイケるクチか?」

 

 嬉しそうに俺達の方を見るギースに、俺は手のひらの上で石をこねてハムマンフィギュアを作って答えた。

 

「俺は一介のハムマン職人ですけど、やっぱり珍しいハムマンを見ると胸が(おど)りますね」

 

 しゃがみ込んだギースはハムマン達を()でながら、ニカッと笑った。

 

「だよな! 俺はこいつらを()で回す為に生きてるってもんだ!」

 

 両手で持ち上げたハムマンのお腹に顔を近づけて匂いを嗅ぎながら恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべてトリップするギースの姿に、俺は本物ってスゲェ……という感想しか出てこなかった。

 

 俺達がハムマンを()でながらそんなギースの姿を眺めていると、いきなり屋敷の玄関口の引き戸がガラリと開きその奥から小さな竜人族(マムクート)の子供達がこちらに向かって走ってきた。

 

「せんちょー! せんちょーが帰ってきた!」

「ほんとだー!」

「おかえりせんちょー!」

 

 ハム吸いをしているギースに子供達は勢いよく飛び付き、あっという間に彼の姿は小さな翼で埋もれて見えなくなってしまった。

 

「これっ、離れんかい!」

「わー! ばあちゃんが怒った!」

 

 デュラがぶんと杖を振り上げると、子供達はギースから一斉に離れて屋敷の中に走って消えていった。

 おっと、年長っぽい身長が高めの子が戻ってきてピシャリと戸を閉めた。

 

「一体、何だったのじゃ……」

「ここで面倒を見ている子供達さね。半分は瘴気に倒れた戦士の子供で――」

 

 いまだにハム吸いを続けているギースの背中をデュラが杖でバンバンと叩くと、彼はハッとした様子でハムマンを手放して立ち上がった。

 

「残りの半分はウチの船員が遺したガキどもだ。不帰(かえらず)の旅に出ようなんて命知らずはモテない野郎ばかりでな、ここで嫁を貰ってそのまま寿命であの世行きよ」

 

 女余りの激しそうなこの竜人族(マムクート)の里なら相手には困らなかっただろうな。

 

「じゃあ、ギース海賊団の生き残りは」

「今じゃ俺達三人だけさ。それももうすぐ、二人になる」

「ギースさん……」

 

 ギースは悲しげに自分の顔を見上げるミラの頭を大きな手でガシガシ()でた。

 

「こいつがこんな様子じゃ安心して逝けやしねぇ。だから心の準備ができるように、一から鍛え直してやらないとな」

 

 ミラのレベルは確か70とかだったか。

 弩伏(どふす)坑道でパワーレベリングしてそのままベンチで放置した感がある。

 

「船長、アレをやるんですね?」

 

 ギースの隣でハム吸いをしていたラグラスが手に持ったハムマンのお腹をコチョコチョくすぐりながらにやりと笑みを浮かべて尋ねると、ギースもにやりと笑みを浮かべて頷いた。

 

「ああ、アレだ」

 

 アレって言うのはギース海賊団伝統のダンジョン・ブートキャンプのことだろう。

 新人団員が受けるハードなやつで、彼の自伝本に詳しい内容は書いてある。

 

「が、頑張ります……」

 

 この弱弱しい泣き虫な少女(602歳)も、いずれは上級探索者並みの力量を手に入れることになる。

 

 それもダンジョンでの厳しい訓練についていけたらの話なのだが、彼女は生命力も高いし何とかなるんじゃないかな。

 多分、何とかなるだろう。

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