マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第181話 学食と銭湯

 ギースの屋敷の外観は武家屋敷のようだったが、屋内は普通に土足で洋風だった。

 贅沢にも建材に世界樹の枝を使っているので、壁の色はどこもかしこも翡翠色だ。

 

「思ってたのと違うにゃ」

「……なんかチグハグじゃないですか?」

 

 和風なアモロ様式は木の床か畳敷きで土足厳禁が一般的なんだけどな。

 期待外れ感が半端ない。

 

「これはだな……」

 

 苦い顔で言葉を(にご)すギースを見て、半笑いのラグラスが補足した。

 

「農作物の種はきちんと持ち込んでいたのですが、い草の種を用意するのをすっかり忘れてしまいまして。近辺のダンジョンをしらみつぶしに探しても一向に見つからなかったので、諦めたんです」

「な、なるほど……」

 

 内装が洋風な理由の説明にはなっていないが、きっと趣味か何かなのだろう。

 俺達が石敷きの廊下を歩いていると、廊下の向こうからお米の炊ける美味しそうな香りが漂ってきた。

 

「こ、米の匂いじゃ。米の匂いがするぞ!」

「ふおぉ……じゅるり」

 

 療養院の近くにネフライト式の温室が何棟も建っていたから期待していたのだが、やはり彼らはそこで鬼米を栽培していたようだ。

 

 大きな食堂には長テーブルが沢山並べられており、席に座った竜人族(マムクート)の子供達がワイワイガヤガヤとおしゃべりをしていた。

 随分(ずいぶん)と多いな、年齢はバラバラみたいだけど30人くらいいるぞ。

 

「せんちょー、早く早く!」

「わーってらぁ!」

 

 食堂のカウンターの向こう側の調理場にいる割烹着(かっぽうぎ)を着た竜人族(マムクート)の女性達は、湯気の上がる大鍋や大釜から出来立ての料理を木の器に移していた。

 

 なんか周囲にいるのが子供ばっかりで、どこかの学食にいるみたいだ。

 そんな感想を心に秘めた俺達は行儀よく配膳を待つ子供達の行列の後ろに並んだ。

 すぐに行列は()けていき、俺達の番がやってきた。

 

「あちしは大盛りがいいにゃ」

「わしは半人前で頼む」

「どうぞ、沢山お代わりしてくださいね」

 

 推定未亡人の竜人族(マムクート)のお姉さんにワンプレートセットを貰った俺達は、明らかにギース専用っぽいでかい椅子がど真ん中に置かれた一番奥の長テーブル席に着いた。

 

 少し待って部屋の全員が席に着いたところでギースは自分の席から立ち上がって、食前の挨拶を始めた。

 

「長いこと心配を掛けて悪かったな。俺はお前らの元気そうな姿を再び見ることができて、嬉しく思うぜ」

 

 ぐるりと食堂を見回したギースは、俺達に指を使ったジェスチャーで席から立ちあがるよう(うなが)した。

 立ち上がった俺達の顔を、子供達が不思議そうに眺める。

 

「ここでみんなに伝えたいことがある。今日、新たな同胞が遠い中央大陸からこの里にやってきた。一人一人、軽く自己紹介を頼む」

 

 じゃあまあ、俺から行くか。

 

「俺はヒューマンのハルト・ミズノ。魔力量に優れた魔導士(ウィザード)で、特に土属性スキルの扱いに自信がある。ちなみにハムマン職人だ」

 

 手のひらの上で石をこねて普通のハムマンフィギュアを作った俺は、それを子供達に見せびらかしてから席に着いた。

 

「わしはハーフリングのアンバーじゃ。ギフトホルダーと言ってのう、こう見えて世界一の力持ちじゃぞ。こん棒のことならわしに何でも聞いてくれ」

 

 アンバーは虚空から深紅の巨大バット、ひひいろ丸を取り出して構えた。

 その材質に気付いたのか目を丸くするギースをチラリと見てドヤ顔をしたアンバーは、ひひいろ丸を仕舞ってから席に着いた。

 

「あちしはワーキャットのミュールにゃ! 忍術スキルは忍者のあちしに全部お任せにゃ! ニンニン!」

 

 印を組んだミュールはそれだけ言って普通に席に着いた。

 派手なパフォーマンスをしたらご飯にゴミが入りそうだったので止めたらしい。

 

「私は天使のユニエル。探索者ギルドのお医者さんです。皆様、怪我や病気で困ったことがありましたら気軽に相談してくださいね……」

 

 胸元を抑えるポーズを取ったユニエルはにこりと微笑んで、そっと席に着いた。

 俺達の自己紹介が終わったところで、最後にギースが音頭を取った。

 

「色々と聞きたいことはあるだろうが、飯が冷めちまうから後にしよう。まずは腹ごしらえだ!」

 

 ギースがパンと両手を合わせると、子供達が息を合わせて両手を叩いた。

 

『いただきます!』

 

 この食前の挨拶もミン・ノルが広めたものらしい。

 子供達が食事を始めたのを見届けたギースは満足そうな顔をして席に着いた。

 

「はふっはふっ! むぐむぐ……」

 

 ミュールが茶碗に山のように盛られた大豆大の白米を()っ込んでいるのを横目に見ながら、俺は自分の箸を手に取った。

 

 今日の献立は分厚いポークステーキに具沢山の豚汁、白菜の漬物と羊羹(ようかん)だ。

 どうやら近場のダンジョンでは猪の(たぐい)がよく穫れるらしい。

 

 木のお椀を手に取ってズズっと豚汁を(すす)ると、節制生活で縮んだ胃袋が歓喜の声を上げた。

 

「美味い……」

「そうじゃのう、お主……」

 

 子供達の楽しそうな話し声が木霊(こだま)する騒がしい食堂で、俺達は食の喜びを深く()み締めたのだった。

 

 

 夕食の後、俺達はお風呂に入ることになった。

 ぞろぞろと歩く子供達を追いかけてやってきた浴場は、男女別ののれんが掛けられてまるで銭湯のようになっていた。

 

 この場合、両性のユニエルはどうするんだろう……と思ったのだが、彼女は普通に女湯へと消えていった。

 

 男湯の脱衣所で服を脱いでカゴに突っ込んだ俺はギース達と一緒に浴場に入ったのだが、そこもやはり銭湯のようになっていた。

 大きな湯舟の壁にはデスマウンテンのモザイク画まで描かれている。

 

 木の風呂椅子に腰掛けた俺達はざばりとかけ湯をして、それから置かれていた石鹸を擦りつけた手ぬぐいでごしごしと身体を洗う。

 ラグラスによると髪の毛も大丈夫な石鹸らしいので、ついでに頭も洗った。

 

 その間に女湯の方からキャーという女の子の(嬉しそうな)悲鳴が上がったが、原因の分かっている俺達は(つと)めて無視をした。

 

 幼稚園児から中学生くらいの見た目をした竜人族(マムクート)の子供達に紛れて、オーガとエルフとヒューマンの野郎が三人肩を並べて湯船に浸かる。

 

「ああ゛~」

 

 気持ちよすぎてうっかり変な声が出た。

 熱い湯が疲れた身体に()みるぜ……。

 

「ハルト、お前はつくづくミン・ノルに似ているな。あいつの子孫か何かか?」

「それ、ミラにも言われました。ただの同郷なだけですけど、そんなに似ています?」

「同郷ってーとニホンジンってやつか?」

「はい。ずっと気になっていたんですけど、ミン・ノルってどんな人だったんですか? 彼の記録はなぜか断片的にしか残されていなくて、人物像が掴めなかったんですよね」

「あー……」

 

 ギースとラグラスは顔を見合わせて、困った顔をした。

 

「あいつはなぁ、ロクな男じゃなかった。声だけはデカくて威勢はいいが、戦いになるといつもオデッサの背中に隠れていたな」

「出会う女性みんなに粉を掛けて、オデッサにお仕置きをされていましたね」

 

 お仕置きか……なんかいきなり親近感が()いてきたな。

 

「あいつの指揮した軍は必ずと言っていいほど壊滅したな」

「ですが、窮地(きゅうち)を脱する手段を見い出す嗅覚には()けていました。彼の機転に何度も命を助けられたものです」

「それもベネディクトが居なかったらどうなっていたことか。俺は今でもあの日の絶望的な戦況は夢に見るぞ」

「アレは酷かったですね……」

 

 遠い目をする二人の姿を見て、俺は軽々しく質問したことを後悔してきた。

 とはいえ、好奇心には勝てない。

 

「……そんなに酷かったんですか?」

「酷かった。お前はザ・糞軍師シリーズって言葉を聞いたことないか?」

「聞いたことありませんが……」

「チッ、あいつやっぱり無かったことにしたな。いいか、よく聞け――」

 

 俺は長湯でのぼせ上がるまで、ギースとラグラスから軍師ミン・ノルの迷采配の数々を聞くことになったのだった。

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