マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第182話 縁側で酒を飲み、金鼠を待つ

 お風呂から上がった俺達は、縁側で酒を飲みながら親睦を深めることにした。

 今日は冬にしては天気がよく月が出ているから世界樹の(うろ)に住むゴールデンハムマンが久々に顔を出すかもしれない、と聞いては早寝をするのも勿体(もったい)ない。

 

 ギースの屋敷は数百メートルの樹高を持つ世界樹の丁度真ん中あたりの高さの斜面に建っている。

 ここは和風庭園の庭先から大きな(うろ)が見えるベストなポジションだ。

 

 外気温は軽く氷点下マイナスを行っているが、雪避けの結界に守られたこの屋敷の敷地内は厚着したパジャマで快適に過ごせるくらいには暖かかった。

 

 北の氷海で獲ってきたという魚の燻製をアテに、どぶろくみたいな自家製の鬼米酒を飲みながら俺達の旅の話をしていると、半纏(はんてん)姿であぐらをかいているギースは不思議そうに顎をさすった。

 

「お前ら、本当にあの次元の狭間(はざま)を越えてきたのか。俺が言うのも何だが、頭がおかしいんじゃないか?」

「おかしいとは心外じゃのう。わしらだって好きでそこを旅したわけではないわい」

「いや、理屈は分かる。魔獣除けに望遠鏡、帆の代わりになるものさえあれば俺でも不可能ではないだろう。だがな……肝心の食糧はどうした?」

 

 うっ、一番聞かれたくないことを……。

 

「俺の持っていた食材と保存食で半月は持たせましたけど、その後は……」

 

 俺がアンバーに目配せすると、彼女はポーチから果物の入った大袋と乳製品の入ったクーラーボックスを取り出した。

 アンバーは俺が石で作った大皿に果物とチーズを並べてちょいちょいと説明する。

 

「これがハルトが種から育てた果物じゃ。こっちのチーズは……」

「ふふふ……」

 

 アンバーが言葉を(にご)すと、ユニエルが組んだ腕で胸を持ち上げて意味深な笑みを浮かべた。

 

「俺も嵐で船が難破した時は相当な無茶をしたがな、流石にお前らはそこまでしなかったか。どれ」

 

 ギースはチーズの燻製を(つま)んで口に放り込んだ。

 もぐもぐ咀嚼(そしゃく)してゴクンと飲み込み、豪快に鬼米酒を(あお)った。

 

「甘い香りも相まっていい酒のアテになるな。それに……チーズを食うなんて500年ぶりだ」

 

 どうやらここでは乳の取れる家畜は飼っていないらしい。

 ダンジョンで狩りをして生活しているのなら必然的にそうなるのだろう。

 

「これ、種を貰ってもいいかい?」

 

 ラグラスは大皿から取ったブドウを摘んで食べながら俺にそう尋ねてきた。

 

「もちろん構いませんけど……ここでは果物の栽培はしていないんですか?」

「細々としてはいますが、ここまで品種改良されたものではありません。皆様のおかげでこれから人手が余りますから、温室を増やすには丁度いいタイミングでしょう」

 

 明日からユニエルと一緒に、療養院が空になるまで治療をするつもりだからな。

 そうでなければ困るというものだ。

 

「なるほどのう、いい考えじゃな」

「このリンゴもとても美味しいです。これならきっと、子供達も喜びますね」

 

 俺が石の触手でスパスパ切り分けて皿に並べたリンゴを、ミラがシャクシャクと小さな口で食べながら微笑んだ。

 

「俺としては酒に変えて欲しいんだが……」

「駄目ですよ、ギースさん。子供達が優先です!」

「それくらい分かってらぁ」

 

 なんだかミラの尻に敷かれているギースが可哀想になってきたので、俺は船旅の途中に造ったお酒を供出することにした。

 しばらくお世話になるわけだから、家主の機嫌を取っておいて損はないだろう。

 

「実はこれで造ったお酒もあるんですが、飲みます?」

 

 外との時差を利用した時間加速で熟成させるのが楽しくて結構造ったんだよな。

 失敗作は全部お酢に変えたから、ポーチに残っているのは自信作だけだ。

 俺がポーチから取り出した酒瓶を縁側に並べると、ギースは嬉しそうな顔をした。

 

「いいもの持っているじゃないか。それを早く言え」

「へへへ、さーせん」

 

 栓を抜いた赤ワインを豪快に(あお)るギースを見ながら、俺は膝枕で眠るミュールの耳を()で回した。

 

「んにゃ……もう食べられないにゃ……」

 

 夕食で2回もお代わりをしてお腹いっぱいの彼女は、ゴールデンハムマンが姿を現すまで起きていられなかったようだ。

 まぁ、その時がきたら俺が起こせばいいだろう。

 

 

 俺達はそれからもギース達と沢山の話をした。

 それはギースの冒険の話だったり、ラグラスの仕事の話だったり、ミラの日常の話だったりした。

 

 ギース達がどうやって絶海を越えて東大陸に行ったかと思えば、彼らは海流に逆らって北から氷河地帯に船で突っ込み徒歩でこの里までやってきたらしい。

 

 世界樹の大まかな位置、そして異形獣と瘴気の存在をミラから聞いていたからこそ迷いなく行動できたそうだ。

 

 そうしていなければギース達も他の冒険家と同様に、南方から東大陸に乗り込んで異形獣の餌食になっていただろう。

 

 ゴールデンハムマンに会う為なら人生をともにした自慢の海賊船さえ棄てる覚悟、流石は海賊王ギースだと感心した。

 

 

 話の流れでギースから中央大陸の情勢について聞かれたので、俺は迷宮都市アザゼルの消滅から関連した一連の出来事の話をした。

 

 ミラはそれに思うところがあったのかずっと沈黙していたが、ギースは「アザゼルもやっと決心がついたのか」と言ってガハハと豪快に笑い飛ばした。

 

 アンバーが迷宮塔イーラとフェニキス族の話をすると、フェニキスがギース海賊団に拾われてからダンジョンマスターになるまでの経緯をラグラスが教えてくれた。

 

 フェニキスはギースが西大陸のダンジョンで拾った帰還者(リターナー)だった。

 生命力に特化したステータスで、ギースからダンジョン・ブートキャンプを受けた彼女は自身を火の鳥に変える化身スキルの力で随分(ずいぶん)と活躍していたそうだ。

 

 ギースが海都カナンで商人達にイーラのダンジョン踏破を依頼された当時、イーラのダンジョンコアの位置は特定されていなかった。

 

 しかし五層のダンジョンコアの近辺がF.O.E(フィールドオンエネミー)に守護される傾向から考えて、ダンジョンコアが火山の中にあるのは明白だった。

 

 それでフェニキス以外には踏破が不可能だと考えたギースは返答を(しぶ)ったのだが、フェニキスが「ギース海賊団から受けた恩を返したいの、断ってもワタシは行くから!」と頼み込んだので仕方なく引き受けることにしたのだという。

 

 商人達から受け取った報酬をそっくりそのままフェニキスに渡したのは彼女をカナン商人の悪意から守る為で、ギースはそれを対価として知人のベリアルにフェニキスのお目付け役を頼んだのだそうだ。

 

 まさか二人が結ばれるとは夢にも思っていなかったらしいが……。

 この繋がりが後にアルビオン解放軍がアモロ共和国から資金援助を引き出すきっかけになったことを考えると、運命とはかくも面白いものである。

 

 

 俺達はアバロンの里の長老をしている竜人族(マムクート)の老婆デュラからも話を聞いた。

 それはマグダラという竜人族(マムクート)の男の話だ。

 

 マグダラは保守的な竜人族(マムクート)の中では変わり者で、旅がとても大好きだった。

 彼は頻繁に他の大陸に渡っては、珍しいものを持ち帰って妻のデュラに自慢した。

 このマグダラという男はとても勇敢で、優しい心を持っていた。

 

 当時の中央大陸に住む人々はポゴスタック帝国の圧政に苦しんでいたが、マグダラは下手な干渉が更なる悲劇を呼ぶということを東大陸で起こったいざこざで知っていたので、旅人にできる範囲で小さな人助けをするので精いっぱいだった。

 

 小さな、と言っても彼は強大な力を持つ竜人族(マムクート)の戦士だ。

 隠れて竜化して人々を困らせる凶悪な魔獣を退治したり、スタンピードを鎮圧したりとなろう主人公みたいなムーブを繰り返していたそうだ。

 

 だからプンレク島のダンジョンでスタンピードが起こり、大陸に避難した島民が故郷に帰れなくなったことを(なげ)いている姿を目にしたマグダラは、いつものようにこっそり手助けすることにした。

 

 優れた戦士であった彼にとってスタンピードはさほどの脅威ではなかったようで、夜闇に紛れて密かにプンレク島へと渡ったマグダラは丸々1年掛けて島を埋め尽くす魔獣の群れを狩り尽くした。

 

 そしてその狩りの途中で小さな洞窟に丸まっているゴールデンハムマンを見つけた彼は、これは珍しいものを見つけたぞと思ってアバロンの里に連れ帰った。

 

 恐る恐る島に戻ったプンレク島の住民がゴールデンハムマンを目撃したのは、スタンピードの後始末が終わってマグダラが東大陸に帰る前日のことだった。

 

 ネタを明かせばなんてことはない。

 ギースが生涯を掛けて追い求めたゴールデンハムマンの正体、それは4000年前に起こった大災厄で命を落としたデュラの夫、マグダラのペットだったのだ。

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