マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第183話 ゴールデンハムマンの貴重な捕食シーン

 中央大陸や西大陸にある古い時代の遺跡では黒竜信仰がよく見られる。

 地方で細々と続いていたそれらの信仰は月光教の隆盛で自然に消滅したが、実はその黒竜の正体はすべてマグダラだったようだ。

 

 そんな神の如き力を持った竜人族(マムクート)の戦士は東大陸で起こった大災厄に真っ先に立ち向かい、死んだ異形獣から噴き出した瘴気を浴びて異形獣と変じ姿を消すこととなった。

 

「そ、それってヤバくないですか……?」

 

 世界最強の竜人族(マムクート)が異形獣になるとか、完全に闇落ちしてラスボス化してるパターンじゃん。

 

「今でも大規模な異形獣の襲来に乗じて、マグダラの成れの果てが里の近くに姿を現す事がある。だけど不思議なもので、マグダラがやってくると必ずキンちゃんが()()から飛び出して里の南にある防壁の上に立つのさ」

 

 キンちゃんというのがゴールデンハムマンの愛称らしい。

 

「キンちゃんとしばらく見つめ合うと、マグダラはふっと背を向けて南に飛び去るんだ。もしかしたら、この里が滅んでいないのは全部キンちゃんのおかげなのかもしれないねぇ」

 

 瘴気に侵されて異形獣になった人は、自我を無くして本能のままに人を襲う怪物になってしまうという。

 それでも生前の残滓(ざんし)というか、ペットを愛する心だけは未だに残っているのかな。

 

「それがゴールデンハムマンが神獣と呼ばれた所以(ゆえん)ですか」

「そんな感じさね。言っておくけれど、マグダラを倒そうなんて思っちゃいけないよ。これまで何人もそうやって、命を落としてきたんだからねぇ」

 

 言われなくても手を出すつもりはない。

 ここはゲームの世界じゃないんだから、どんな時も命を大事に生きていきたいんだ。

 

「わざわざ竜の尾を踏むような真似はせぬほうがよいじゃろうな。倒したところで、得られるものは何一つないのじゃからのう」

 

 そればかりか、溜め込んだ経験値を失うって話だしな。

 強力な異形獣であるほどレベルダウンは強烈らしいし……。

 

「それが賢明さね。……さてと、そろそろいい頃合いじゃあないか?」

「ああ、時間だな」

 

 老人二人がそれっぽいことを言った。

 どうやら約束の時間がやってきたらしい。

 

「ミュール、起きて」

 

 俺の膝枕で眠っているミュールの口元に魚の燻製を近付けると、くんくんと匂いを嗅いだ彼女はぱくりと食いついて口をもぐもぐしながら目を開いた。

 

「むぐむぐ……んにゃあ、もう朝かにゃ?」

「ゴールデンハムマンがきたら起こしてって言っていたじゃないか。ほら見て」

 

 俺は青白い月光に照らされて薄ぼんやりと発光する翡翠色の大木を指差した。

 するとそこでは世界樹の葉っぱの陰から現れた白い芋虫が大移動を始めていた。

 

「ぎりおがいっぱいいるにゃ!」

 

 ぞろぞろと幹を移動して枝の上に並んだギリーオーム達は、天に浮かぶブルームーンを見上げて一斉に鳴き声を上げ始める。

 

 ( ^ ^)<久慈だよー

 (  )  <神

 ( ) <ほっし

 ( )

 

 俺は無言で手に持った懐中時計の時刻を夜の9時に合わせた。

 東大陸標準時刻、調整完了。

 

「やかましいのう。これでは寝ている子供達が起きてしまうのではないか?」

「あたしらは慣れているから気にならんさ。それ、キンちゃんが出てきたぞ」

 

 世界樹の(うろ)の中から、美しい金色の毛皮を身に(まと)った大きなハムマンがのそりと顔を覗かせた。

 

「おお……!」

 

 寝起きなのか、キンちゃんは前足でゴシゴシと顔を(こす)って毛繕いをしている。

 か、かわいい……。

 

 ふんふんと鼻を鳴らしたキンちゃんは器用に幹を伝って大きな枝に飛び移ると、ギリーオームを小さな手でひょいと捕まえて頬袋に詰め込んだ。

 突然の凶行に驚いたギリーオーム達が枝の上を逃げ惑う。

 

 (^ ^ )<ひー

  (  )  <ひー

  ( ) <ひー

  ( )三

 

 そんなギリーオーム達にキンちゃんは容赦なく飛び付いて捕食していく。

 あっという間にキンちゃんの頬袋は両側ともパンパンに膨らんだ。

 まるでヒマワリの種を限界まで溜め込んだハムスターみたいにボコボコしている。

 

 狩りを終えたキンちゃんはまた幹を伝って()()(うろ)に帰ろうとしたが、頬袋がつっかえて上手く中に入れないようだ。

 あれ、おかしいな……とばかりに首を傾げて何度か頭を突っ込んだキンちゃん。

 

 ようやくほっぺがつかえていることに気付いたのか、お尻から(うろ)に入ったキンちゃんはギリーオームを何匹か吐き出して、それから(うろ)の中に消えていった。

 涙目でヒューッと下に落ちていくギリーオームがちょっぴり可哀想だった。

 

「……もう終わりかにゃ?」

「終わりだ」

「終わりかぁ」

 

 今日のハム配はこれで終わりらしかった。

 

「ギースよ、お主が生涯を掛けて追い求めたゴールデンハムマンの姿がこれなのか……」

 

 余りのしょぼさにアンバーはがっかりした様子だった。

 ゴールデンハムマンの貴重な捕食シーンも、ハムマン愛好家ではない人間にはちょっとタイムラインに流れてきたバズ動画を見たくらいの体験でしかなかったようだ。

 

「春になれば枝の上で日向(ひなた)ぼっこをするキンちゃんも見られるぞ。運が良ければ下の広場で()でることさえ可能だ。分かるか? この世のすべてがこの里にある……!」

「ワンピー〇……!」

 

 あの漫画、ずっと読んでいたけど結末はどうなったんだろうね。

 生きてるうちに日本人の帰還者(リターナー)に出会えたら詳しい話を聞きたいところだ。

 

「やれやれ、年寄りに夜更かしはきついねぇ。あたしはもう寝かせて貰うとするよ」

 

 ハムマン狂いには付き合っていられないとばかりに面倒臭そうな表情を浮かべたデュラは、杖をついて自室に帰っていった。 

 

「わしらもそろそろ寝るかのう。ハルト、ゆくぞ」

「えー、もうちょっと起きててもよくない?」

 

 俺は先ほど見たゴールデンハムマンの貴重な捕食シーンを(さかな)に、ギースとハムマントークをしたい気分だった。

 

「お主は明日からユニエルの仕事を手伝うのじゃろう? 早めに寝て身体を休めるべきじゃ」

 

 うぐぐ、正論だ。

 確かに寝不足が原因で医療ミスを起こしてしまったら大変なことになるもんな。

 

「分かったよアンバー。……じゃあ、そういうことなので。おやすみなさい」

「おうおう、ゆっくり休みな」

「おやすみなしゃい!」

 

 ミラ、甘い果実酒を飲み過ぎて顔が真っ赤だけど大丈夫かなぁ。

 まぁ、ラグラスが面倒を見ているから滅多なことにはならないか。

 

 まだしばらく酒盛りを続けるらしいギース海賊団の三人を残して、俺達は用意して貰った客室に向かうことにした。

 

 きちんと洗面所で歯磨きをしてから廊下を歩いてやってきた狭い客室には羽毛布団の敷かれた簡素な木のベッドが2台と、ユニエルの持ち込んだ豪奢(ごうしゃ)なベッドが設置されている。

 

 急だったのでベッドは2台しか用意できなかったらしいが、俺はいつもアンバーと一緒に寝ているから何も問題はないだろう。

 

「ふかふかにゃー……ぐぅ」

 

 靴を脱ぎ捨てて羽毛布団に頭から潜り込んだミュールは、すぐにぐーぐーと寝息を立て始めた。

 相変わらず寝つきがよくて(うらや)ましい限りだ。

 

「アンバー様、一つお願いがあるのですが……」

 

 ドエロい下着姿のユニエルは脱いだ聖衣みたいな白衣をベッド脇の衣装掛け(さっき作った)にハンガーで引っ掛けつつ、話を切り出した。

 

「もう駄目じゃぞ」

 

 靴を脱いで羽毛布団に潜り込んだアンバーは不機嫌そうにそっぽを向いた。

 困ったな、ついに恐れていた修羅場が始まってしまうというのか。

 

「それは別に構いません。一生分、堪能させて頂きましたので……」

 

 薄く微笑んだユニエルはおへその辺りをそっと手で()でた。

 俺も色んな意味で一生分、堪能させて頂きました。

 

「ならば、何の話じゃ」

 

 アンバーはもぞりと寝返りを打ってユニエルを見上げた。

 

「私はこの里に探索者ギルドの支部を開こうと思っています。ですからこの里に住む子供達の教育の為に、アンバー様の蔵書を譲っては頂けないでしょうか……?」

 

 故郷のハーフリングの里に図書館を建てようと考えていたアンバーは、旅に出る前に私財を費やして本を何万冊も買い揃えてマジックバッグに詰め込んでいた。

 そのおかげで俺達は快適な漂流生活を送れたわけだが……。

 

「教育、か」

「見たところこの里の竜人族(マムクート)は文盲のようです。今後中央大陸との交流が始まることを踏まえると、ティアラ語を学び知識を蓄えておかなければいずれ足元をすくわれてしまうでしょう……」

「なるほどのう。わしも考えてはおったが、学のないわしが教えるよりお主に任せる方が無難か」

 

 アンバーはスタック語をスラスラと読めるくらいには読書家で知識もある方だと思うのだが、学校には一度も通ったことがないからその辺りのことを心配しているのだろう。

 

「では……」

「ええじゃろう。本は中央大陸に帰ってから買い直すとするわい」

 

 アンバー、また買う気なんだ……。

 この10年で本の印税が貯まっているといいけどね。

 

 そうだ、俺のハムカーグッズのロイヤリティとかどうなっているのかなぁ。

 タヌヨシが調子に乗って会社を潰していないか、心配だ。

 

「ありがとうございます……」

「お主もいつまでもぼけーっと突っ立ってないで、こっちにくるのじゃ」

 

 アンバーは腕で持ち上げた羽毛布団の下をポンポンと叩いた。

 

「ああ、悪い」

 

 俺は靴を脱いでベッドに上がり、その空きスペースに身体を潜り込ませた。

 そしていつものようにアンバーの小さな身体をぎゅっと抱き締める。

 息子さんがちょっと元気になってきちゃったが、我慢我慢だ。

 

「灯りを消しますね……」

 

 ユニエルが指を振ると、サイドテーブル(さっき作った)の上に載っていた魔道ランタンのスイッチがオフになった。

 

 照明が落ちて真っ暗になった部屋の中を、俺達の胸元に提げられたミスリルの首飾りが放つ青白い光だけが薄っすらと照らしている。

 

 明日も早いからもう寝てしまおう。

 ぎゅっと強く目を閉じた俺は、抱き締めたアンバーの体温を感じながら深い眠りに落ちていった。

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