マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第185話 療養院でお仕事(後編)

 みんなが積極的に協力してくれたので、カルテ作りはお昼前に終わった。

 俺とユニエルはラグラスの研究室のテーブルを借りて、カルテの挟まった分厚いファイルを前に今後の治療方針の相談を始めた。

 

「重度汚染は30%が上限みたいだ。中度汚染も合わせて49%が上限、それと100年以上眠っている患者からは軽度汚染がほとんど見られなかった」

 

 俺は塩鮭のおにぎりを片手に、昏睡患者のカルテから取った統計を(まと)めた紙を指差した。

 

「こちらも似たようなものですね……」

「瘴気汚染が閾値(いきち)を越えた時点で異形獣となるわけだから、ギリギリで持ち(こた)えた者が生き残ったと見るべきだな。加えて月光療法で軽度汚染は回復可能、と」

 

 それでも治療にはかなりの時間を要するようだ。

 短命種は瘴気汚染を受けた時点で月光療法での完治は不可能と見るべきだろう。

 

「脳に深刻な瘴気汚染を抱える患者がこれほどいるとは、困りましたね……」

 

 調査の結果、昏睡患者51名のうち17名が脳に重度の瘴気汚染を抱えていた。

 これは事実上の脳死判定と言っていい。

 

「治療は最後に回すしかないだろう。それもご家族に相談してからだな」

 

 重度の瘴気汚染にミスリルの魔力光を当てると浄化された患部が消滅してしまう。

 他の部位はリジェネレーションで簡単に再生させられるが……それが脳みそだったらTHEENDだ。

 

 脳みそを新しいものに取り換えても大人の身体を持った赤ん坊が出来上がるだけ。

 魂の存在が実証されたこの世界でも、失った記憶を取り戻せる可能性はゼロに近い。

 

「ええ、そうしましょう。急いで対応が必要な患者が居ないと分かっただけでも十分です……」

「じゃあ、午後から本格的な治療に移るか」

「まずは意識のある患者からですね。皆様、お待ちかねのようですから……」

 

 ユニエルが研究室の入口に目を向けると、入口の壁から飛び出ていた灰色の翼がピクリと動いた。

 頭隠して翼隠さずってか、盗み聞きが下手すぎる。

 

「な、治してくれるのか……?」

 

 壁から恐る恐る頭が出た。

 左腕のない竜人族(マムクート)の少年(ナバル550歳)は不安げに眉を歪ませている。

 

「午後からオペを行います。若い順に治療しますから、皆様にはそのようにお伝えください……」

「は、はい!」

 

 急ぎ足で走り去っていったナバルを見送った俺達は、中断していた昼食を再開して英気を養うことにしたのだった。

 

 

 俺達は宣告通り、午後から若い竜人族(マムクート)の汚染浄化手術を始めた。

 前回は万全を期す為にすべての瘴気汚染を浄化していたが、今回は重度汚染と中度汚染のみの治療に留めることにした。

 

 長時間の手術は患者の負担も大きいし、何より魔力を大量に使う。

 だから軽度汚染に関しては、ミスリルプレートを使った酸素カプセル型の月光治療装置による治療へと切り替えていくつもりだ。

 

 まだミスリルの用意ができていないから、それは10日くらい後のことになる。

 月光治療装置が中度汚染に対してどれくらい効果があるかはまだ分からないので、昏睡患者を相手に治験を行う必要もあるだろう。

 

「そういうわけだから、完治するまでは里を出ないようにしてくれよ」

 

 手術台に腰掛けて、新しく生えた左腕の状態を確かめるようにぎにぎしている病院着姿のナバルに俺はそう注意をした。

 

「里を出なければ仕事をしてもいいのか?」

 

 ナバルはアバロンの里――竜の谷の南に蓋をする分厚い防壁を守る竜人族(マムクート)の戦士長の息子だ。

 

 彼は12年前に里を襲った異形獣の群れとの戦いの最中に、強い瘴気に侵された。

 お目付け役の戦士が重度汚染された彼の左腕をその場で切り落としていなかったら、彼も異形獣に成り果てていただろう。

 

「言葉が足りなかったか、異形獣との接触を控えろってことだ。汚染の残った状態で瘴気に触れたら次はどうなるか分からんからな」

「そうなのか。俺も親父には怒られたくないから、しばらくは大人しくしているよ」

「ナバル様、次の患者を呼んできてください……」

「はい、ユニエル先生!」

 

 ナバルはダッと走って手術室を出ていった。

 なんだかどこぞの猫娘を彷彿(ほうふつ)とさせるせっかち具合である。

 

 

 俺達が次の手術の準備をしながら5分ほど待つと、扉が開いて手術室に新しい患者が入ってきた。

 

「え、えっと……その……よろしくお願いします……」

 

 空色の翼を背負った大人しめの性格をしてそうな竜人族(マムクート)の少女(イシュ562歳)は恥ずかしそうに指先をもじもじさせている。

 

 それもそのはず、大窓の向こう側から竜人族(マムクート)の少年達が覗いていたのだ。

 スケベなガキどもめ、シッシッ。

 俺は手で追い払うようなジェスチャーをした。

 

「下着はそのままで大丈夫ですので、服を脱いで手術台に横になってください……」

 

 ユニエルが指を振ると、大窓に新しく設置されたカーテンがシャっと閉じた。

 防音仕様の二重真空ガラス窓越しでも、悲嘆(ひたん)に暮れるエロガキどもの心の声が聞こえてくるぜ。

 

「よ、よかったぁ……ずっと気になっていたんです……」

 

 野郎だから適当に扱ったのであって裸で手術を受けないといけない決まりはない。

 ホッとした様子で大きめの胸を()でおろしたイシュは、下着姿で手術台に横になった。

 

 彼女の身体には皮膚病のような赤黒い斑点があちこちに浮かんでいるのが見える。

 イシュは7年前に里に潜り込んだ小型の異形獣に()まれてこうなったそうだ。

 若い女性には(つら)かったろうが、その苦しみも今日までだ。

 

「目を閉じて、ゆっくりと深呼吸して……はい落ちた」

 

 俺は額に触れた指先に魔力を込め、医療スキルで痛覚をカットして意識を奪った。

 麻酔も慣れたものである。

 

「では、オペを始めましょう……」 

 

 俺達はこの日6人の患者の瘴気浄化手術を行い、そのうちの2人を完治させたのだった。

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