マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第187話 近況報告/月下の決闘

 俺達がアバロンの里にやってきて1ヵ月が過ぎた。

 

 昼食を終えた俺は、いつものようにユニエルと地下道を通って療養院に出勤する。

 並んでいたベッドが片付けられてすっかり綺麗になった大広間を抜けて、入り組んだ通路を歩いて建物の奥にある手術室へと向かった。

 

 元々、この療養院は里の集会所として作られた施設だったらしい。

 雪に閉ざされた長い冬でも安心して集団生活が行えるよう、この大きな建物には沢山の部屋があり浴場や食糧庫などあらゆる設備も整っている。

 

 548年前にギース海賊団がこの里にやってきて個々人の家に張れる雪除けの結界などの便利な技術が伝わったこと、子供達の面倒をギース海賊団の男に嫁いだ竜人族(マムクート)の娘達が引き受けたことで、ここは完全な療養院として使われるようになった。

 

 そしてラグラスのネフライト式温室農業によってマンパワーが余ったことでこれまで諦めていた瘴気病患者の面倒も見られるようになり、その結果としてあの大広間までベッドが並べられるようになってしまったわけだ。

 

 瘴気病患者の治療は順調で、既に入院していた半数以上が退院してベッドと一緒に自宅に帰り元の生活に戻っていた。

 

 ギース達がやってくる前から眠っていた患者は言葉(東大陸固有の古語)の通じない他人種が我が物顔でアバロンの里を練り歩く現在の状況を喜ばしく思っていないようだが、表向きは平穏を保っている。

 

 そりゃあ不満はあるだろうが、長い間シモの世話をして貰った妻に「そんなに嫌なら今からでもマグダラに食わせてやろうか」などと言われては、いかな戦士であろうと押し黙るしかないだろう。

 

 よほどの達人でもない限り、技術の差は竜化するだけで簡単に埋められるからな。

 夫婦喧嘩が怪獣大決戦になるのはこの里では当たり前のことで、双子山の谷底近くに誰も住んでいないのもそこがドラゴンレスリング場になっていたからだった。

 

 それはそれとして、療養院の大広間が使えるようになったから久々にここで年越しの(うたげ)を行えると長老のデュラは喜んでいた。

 

 残念ながら脳に重度の瘴気汚染を受けた瘴気病患者の回復の見込みは立っていないが、それでも喜ばしいニュースには違いないだろう。

 

「ユニエル先生、ハルトさん、今日の患者を連れてきました!」

 

 この療養院で看護師をしている竜人族(マムクート)のお姉さん(ナルハ1002歳)が昏睡患者の乗ったストレッチャーを転がして手術室に入ってきた。

 

「いつも手伝って頂いて、本当に助かっております……」

 

 手慣れた様子で竜人族(マムクート)のおじさん(全裸)を手術台に乗せ換えたナルハは笑顔で返事をする。

 

「ユニエル先生のおかげで私の父も元気になったんです。私に手伝えることなら何でも言ってください!」

 

 ん? 今何でもするって……。

 

「やる気があるのは結構です。時間ができたら、貴女(あなた)に看護の心得を叩き込んであげましょう……」

 

 ギルド病院の院長先生から直々に教えを受けられるなんて滅多にないことだ。

 きっと彼女は優秀な看護師になるだろう。

 

「ありがとうございます!」

 

 ぴょんと小さく飛び上がってその喜びを身体で表現したナルハは、ストレッチャーを押して手術室から退出していった。

 

 桃色の竜翼を背負った彼女を見送ったユニエルは、指を振って手術室の中を医療スキルで除菌してからチラリと俺に目を配った。

 俺はこくりと頷いて、そっと患者の額に指を触れた。

 

 さあ、今日のオペを始めよう。

 

 

 

 

 雪雲に隠れて久しく顔を出していなかった青白い月が姿を現した12月の初旬、ギースの屋敷の裏庭で二人の若い竜人族(マムクート)の戦士がそれぞれの武器を手に向かい合っていた。

 

 一人は紫色の竜翼を背負い、刃を潰した薙刀(なぎなた)を構えた和装の少女。

 一人は灰色の竜翼を背負い、刃を潰した長剣を構えた洋装の少年。

 

 渡り廊下から俺達を含む野次馬が固唾(かたず)を飲んで見守る中、立会人である銀の竜翼を背負った厳つい男が決闘の合図を送った。

 

「始め!」

 

 先に動いたのは洋装の少年――ナバルだ。

 ばさり竜翼を振ったかと思うと、瞬時に距離を詰めて長剣を振り下ろした。

 

 和装の少女――ミラは短く構えた薙刀(なぎなた)の刀身でその初撃を受け流した。

 ギャリン、という金属の触れ合う音に合わせて火花が散る。

 

 ミラは擦り足で一歩下がると、長柄を活かした全力の薙ぎ払いをお見舞いした。

 (かわ)せないと思ったのか、長剣で横に受けたナバルの身体が強く弾き飛ばされる。

 

 ナバルは少女の体格に見合わない刀撃の重さに目を見張ったが、すぐに意識を切り替えて右から回り込むように走り出した。

 

 技巧(ぎこう)に優れたナバルの繰り出す素早い剣戟(けんげき)の連続を、ミラは我慢強く耐えている。

 しかし、このままだと武器が持たない。

 

 どこかで反撃に出なければ、じり貧になるのは間違いないだろう。

 どうする、ミラ――。

 

 その時だ。

 ミラの持つ薙刀(なぎなた)が青く光り、ナバルの長剣を空中に巻き上げた。

 

「おおっ!」

 

 野次馬から歓声が上がるが、まだ勝負の終わりは告げられていない。

 ナバルは灰色の竜翼をはためかせると、飛び上がって空中で回転する長剣の柄を掴み取った。

 

 少し遅れてミラが紫色の竜翼を振るって飛び上がり、空を飛ぶナバルの背中を追いかけた。

 第二ラウンドが始まったのだ。

 

 月夜の空を駆ける二人の竜人は離れては近付いて、またすれ違う。

 その度にギン、という音とともに火花が散り、満天の星空を(いろど)った。

 

 戦いの終わりは唐突に訪れる。

 一際大きいギィィン、という金属音と同時にミラの持つ薙刀(なぎなた)の刀身が付け根から折れ飛んだ。

 

「そこまで!」

 

 銀翼の竜人—―戦士長のモーランが終わりの合図をすると、ミラとナバルの二人はバサリと羽音を立てて裏庭に降り立った。

 二人とも汗に()れた頬を紅潮させて荒い息を吐き、とてもお疲れの様子だ。

 

「剣を巻き上げた時、気ぃ抜いただろ。ミラ、勝利を確信した瞬間が一番危険だって前に教えたよな?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 渡り廊下の柱に大きな背中を預けて見ていたギースが簡潔(かんけつ)かつ的確なアドバイスをすると、ミラは竜翼を畳んでしょんぼりとした。

 

「レベル差があるとはいえ、武器を持ってひと(つき)も経っていない小娘に一本取られるなど戦士の恥だ! お前はこの10年間、療養院で何をしていたんだ!」

「はい、弁解の余地もございません……」

 

 父親のモーランにガチ目の説教をされたナバルは竜翼を畳んでしょんぼりとした。

 

「ナバルくんってあんなに強かったんだ。ちょっと見直したかも」

「そう? ナバルなんかより私のお父さんの方が全然強かったよ」

「病み上がりだから腕が鈍っているんじゃない?」

「ミラお姉ちゃん、格好よかったね」

「俺も久しぶりに槍の練習をしてみようかな」

「それならうちの爺ちゃんに教わってみる? 爺ちゃん、寝起きでやることなくて暇してるからさ」

「いいね、そうしよっか」

 

 見世物が終わったとばかりにおしゃべりをしながら浴場への移動を始めた子供達を横目に、俺は隣のアンバーに話し掛ける。

 

「アンバーの目から見て、ミラはどんな感じなの? 俺的には結構頑張っている方だと思うんだけど」

 

 ダンジョン・ブートキャンプ1日目が終わった翌日に丸1日寝込んでいたくらいひ弱だった少女が、1ヵ月経った今では見違えるような成長を遂げているのだ。

 

「身体の使い方が全然ダメじゃのう。まるっきりステータスに振り回されておる」

「そうだにゃー。200キロ出せるバイクで80キロしか出ていない感じにゃ」

 

 残念なことに、ベテラン前衛職の二人からしたらまだまだ子供レベルらしい。

 ミラは鍛錬を始めたばかりだから、今後の成長に期待したいところだ。

 俺は模擬戦の二本目が終わってモーランから熱血指導を受けている二人を眺めた。

 

「ミラ、君は生命力が高い。受けていい攻撃を見極めて、攻めの機会に変えなさい」

「うぅ、分かっていても痛いのは嫌なのです……」

「ナバルは脇が甘い! そんなことではまた異形獣にやられるぞ!」

「親父、俺にだけ当たりきつくない?」

「死人が口答えをするな!」

「はい……」

 

 キンちゃんが起き出す夜の9時になるまで暇だった俺は、終わりなき模擬戦を続ける二人の若い戦士達に頑張ってーと軽いエールを送ったのだった。

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