マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第188話 探索者ギルドアバロン支部

 月下の決闘から10日が過ぎた12月の中旬、脳に中度の瘴気汚染を負って昏睡状態に(おちい)っていたすべての瘴気病患者の治療が終わった。

 

 脳に重度の瘴気汚染を抱える17名の瘴気病患者の、脳を除いた瘴気汚染浄化手術も終わり、後はご家族の判断を待つ段階に入っている。

 

 流石に全部の記憶を失って大人の身体を持った赤ん坊に戻ると言われては、ご家族の方も今すぐハイとは頷けない。

 元気になった他の戦士達の姿を見ていればなおさらのことである。

 

 とはいえこれで手術の必要はなくなり、多忙なユニエルの午後のスケジュールにも余裕ができた。

 

 アバロンの里の竜人族(マムクート)達の信頼を得て期も(じゅく)したということで、ユニエルは療養院の一角を借りて探索者ギルドアバロン支部をオープンした。

 

 この村社会では金銭のやり取りが発生する余地がないので探索者ギルド自体はしばらく開店休業状態になっているようだが、遠く海を挟んだネフライト王国から第一次東大陸派遣隊がやってくる予定の春先からは色々と忙しくなるだろう。

 

 

 これまでずっとユニエルの助手をしていた俺も手術がなくなれば暇になる。

 

 異形獣対策としてアバロンの里の住民に配っているミスリルの首飾り(ゴールデンハムマンデザイン)の制作をするか、ラグラスが竜人族(マムクート)の女性達と行っているハウス農業の手伝いをして汗を流すか……その辺りが俺の今の仕事だ。

 

 瘴気病患者全員の治療が終わるまではあまり危険なことはして欲しくないとユニエルには言われているのだが、たまには本業に立ち返りたい。

 ということで、久々にやってきました新ダンジョン。

 

「ブレイズノヴァ!」

 

 石で作られた高台から撃ち放った蒼炎球は放物線を描いて、ドギツイ緑色をした100mサイズの超巨大スライムの端っこに着弾した。

 

 急拡大した蒼い火炎の球体に焼かれたゼリー状の肉体が、有毒の煙を上げながら蒸発していく。

 

「気付かれたにゃ!」

「構わん、続けるのじゃ」

 

 蛍光色をした毒々しい沼地の上をスルスルと動き出したヒュージポイズンスライムに向けて、俺は持ち替えた白くドでかいこん棒でアイシクルカノンを連射した。

 

 ガシャンガシャンと大きな音を立てて発生した氷塊が、沼地に超巨大スライムを固定する。

 後は核の魔石に当たるまでブレイズノヴァを撃ち込むだけの簡単なお仕事だ。

 

 核の魔石を破壊されて消滅し始めたヒュージポイズンスライムの状態を確認したギースは、隣に立つミラに指示を出した。

 

「こいつがここのボスならきっと近くにゲートがあるはずだ。ミラ、探してこい」

「はいっ、ギースさん!」

 

 竜翼をはためかせて飛び立ったミラを見送った俺は高台から周囲を見回した。

 ポコポコと泡を噴き出す蛍光色の沼地には気持ち悪い見た目をしたカエルやらサンショウウオやらが徘徊している。

 

 ここはアバロンの里から西へ2000kmほど移動した山中にあるAランク迷宮の五層、仮称・汚泥(おでい)沼地だ。

 

 野良のAランク迷宮はスタンピードの危険があるので普通はあまり潜らないのだが、今回はネフライト王国からの依頼で新しい迷宮都市を作る予定のダンジョンの調査にやってきていた。

 

「ダンジョンコアのゲート、ありましたっ!」

 

 戻ってきたミラの報告を受けたギースは、高台の床に書きかけの地図を広げてミラにインクの付いた羽根ペンを差し出した。

 

「ほら、書いてみろ」

「えっと、ここがこうなってて……」

 

 ミラのマッピング訓練も大分進んでいるようで、彼女は迷いなく地図に情報を書き込んでいる。

 

「こんなものだろう。お前ら、引き上げるぞ」

 

 ここは100年ほど前にAランクに成長したばかりのダンジョンなので、ギースの手で四層までのマッピングは済んでいる。

 だからダンジョンコアの位置さえ特定できればそれで今回のお仕事はおしまいだ。

 

 俺が石の流体を生み出して高台の横に広いスペースを作ると、その上でミラは竜石を掲げて竜化した。

 

 いつものようにギースが背中に取り付けた鞍に全員が乗り込んだことを確認したミラは、ばさりと大きな竜翼をはためかせて飛び立った。

 

『出発します!』

 

 紫鱗のドラゴンはあらゆる地形をショートカットし、層を跨ぐダンジョンゲートを潜り抜け、あっという間にダンジョンの外に飛び出した。

 

 ダンジョン内での移動がこんなにも楽になるとはな。

 つくづく思うが、竜人族(マムクート)はとんでもないチート種族だ。

 

 空高く上昇して雪の降る雲を抜けたミラは、コンパスと東大陸の地図を片手で持つギースに時折方角を指示されながら雲海の上で航行を始めた。

 

 

 雲海から突き出した高い山の頂上でお昼休憩を取ったりしながら、空を飛び続けること8時間。

 俺達は夕方になる前に、なんとかアバロンの里まで帰ってくることができた。

 

 療養院の玄関先に降り立ったミラの背から降りた俺達は、被った雪を払い落としながら屋内に入る。

 

 廊下をすれ違った竜人族(マムクート)の看護師さんに挨拶しながら足を運んだのは、探索者ギルドアバロン支部だ。

 

 俺達は月を喰む影の紋章が描かれた看板が目印の大部屋に入ると、寒村の役所みたいなカウンターの向こう側でモニターに向かっていたユニエルに声を掛けた。

 

「ただいま、ユニエル」

 

 背もたれのない回転椅子を回してこちらに向き直ったユニエルは、にこりと薄い微笑みを浮かべた。

 

「お帰りなさい。皆様、探索は如何(いかが)でしたか……?」

「五層に旨味は無さそうだったがな、踏破そのものは魔導士(ウィザード)竜人族(マムクート)が揃えば容易だろうさ」

 

 ギースはそう言って、マッピングした五層の地図と異界に出現する魔物の情報を書き留めたメモをユニエルに差し出した。

 

「そうですか。結果はどうあれ、これで依頼は完了と見做(みな)してよろしいでしょう……」

 

 ユニエルが銀行業務に使う大きめの端末を操作すると、しばらくして端末からジジジーっとプリントされた振込明細書が出てきた。

 振込明細書の名前を確認してから、ユニエルは俺達一人一人にその紙を手渡した。

 

 今回のダンジョン調査依頼の報酬は一人当たり200万メルという話だ。

 流石はネフライト王国、探索者ギルドと違って太っ腹である。

 

「印税なんていらねえってあれほど言ったのに、あいつら馬鹿じゃねえのか」

 

 ギースは振込明細書の下部に印字された口座残高を確認して困った顔をした。

 それは多分、半分くらいは熱心なギースファンのせいだと思うよ。

 

「さーて、俺のハムカーはこの10年でどれだけ売れたかなー?」

 

 俺はウキウキ気分で10年ぶりに自分の口座残高をチェックした。

 ぜろ、ろく、いち、よん、ぜろ、ぜろ、に……200万4160メル?

 

「お、俺の貯金が無くなっている……!」

「あちしもにゃ……!」

「わしは特に変わっておらんのう。むしろ増えまくっておる」

 

 俺は振込明細書からバッと顔を上げてユニエルの顔を見た。

 するとユニエルは気まずそうに目を()らしてその理由を説明した。

 

「探索者ギルドの規約では、探索中にダンジョンスタンピードが発生した時点で死亡認定を出すことになっています。つまりはそういうことですね……」

 

 ダンジョンスタンピードに巻き込まれた探索者が次元の狭間(はざま)から生きて帰るなんて想定外ということか。

 

 確か……俺は何かあった時の為にハムカーの版権をエクレアに、預金をアイリスに相続するよう手続きをしていたはずだ。

 口座に振り込まれた端数を見る限り、生存確認はされていたようだが……。

 

「どうしてアンバーだけはそのままなのにゃ!」

 

 鼻息荒く憤慨(ふんがい)するミュールに、ユニエルが弁明する。

 

「アンバー様の口座には受取人のフォス様から組戻し手続きが行われています……」

「フォス爺はわしのことを信じてくれたのじゃな……」

 

 ジーンと感動して涙ぐむアンバー。

 

「アイリスは別にいいけど、エクレアのやつ……帰ったら覚えておけよ」

 

 あのメロンおっぱいめ、この恨み晴らさでおくべきか。

 ハムカーのロイヤリティをアクアマリンの財源に容赦なく組み込んだエクレアに、俺はくしゃりと紙を握り込んで怒りを(あら)わにしたのだった。

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