マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第190話 年末の大掃除と年越しの宴

 今日は大晦日(おおみそか)、月光歴2537年最後の日だ。

 いつものように食堂で朝食を済ませた俺達は、ギースの屋敷の住人が毎年行っている年末の大掃除を手伝うことになった。

 

 掃除の前に、まずは部屋を占拠する邪魔な家具をどかさなければならない。

 アンバーやギースみたいな力持ちがタンスや机、ベッドといった大きな家具を次々と運び出しては裏庭に広げた麻布の上に置いた。

 

「よいしょっと。ハルト、子供達が危ないことをしていないかちゃんと見ておるのじゃぞ」

「ああ、分かっているよ」

 

 運び出した家具は子供達が薄めた洗剤を付けた布で磨いて綺麗にする。

 俺とかミラ、年長の子供は下の子の面倒を見つつ、仕上げの乾拭きも行う。

 

「もう、こんなに落書きして。いつも止めなさいって言っているでしょう?」

「だって、楽しいんだもん……」

 

 読み書きを覚えたての小さな子供が真っ先にやるいたずらと言ったら落書きだ。

 今年の大掃除を大変にしたのは間違いなく彼らである。

 

「だってじゃありません。全部消えるまで、遊ぶのはなしですからね!」

「はーい……」

 

 ミラに説教されて涙目の少年(ゼノ87歳)を横目に、俺は黙々と作業を進める。

 (しつけ)も大事だが、手早く済ませないと日が暮れてしまう。

 

 女性陣は家具が運び出されて空っぽになった部屋を急いで掃除しており、それが終わった端から俺達が綺麗にした家具をアンバー達が元の部屋に戻していく。

 

「談話室の掃除、終わりました!」

「次は食堂を片付けましょう!」

 

 ギースの屋敷はとても部屋が多いので、どこもかしこも戦争状態だ。

 

「上の掃除、終わったにゃあー」

 

 おっと、忍術スキルの軽業を使って瓦屋根の掃除をしていたツナギ姿のミュールが屋根の上から顔を覗かせたぞ。

 

「ミュール、さっき料理長のタヒメさんが探していたよ。食堂の応援よろしく」

「分かったにゃー」

 

 シュタっと飛び降りたミュールは、ポリポリと尻を()きながら歩き出した。

 彼女の背中を見送った俺は、複数の石の触手に持たせた布を駆使して家具を磨く作業に戻ったのだった。

 

 

 夕方、俺達は大掃除を終えて床までピカピカに磨き上げられたギースの屋敷の裏手にある土倉の前に立っていた。

 これからアバロンの里の住民全員が集まる年越しの(うたげ)に参加するのだ。

 

「皆さん、点呼を取りますよ。まずはゼノ君!」

「はい!」

 

 女性陣が療養院に持ち込む荷物の用意をしている間にミラが子供達がちゃんと全員いるか確認の点呼を取っている様子を、俺達は少し離れた場所から眺めていた。

 

「ミラ、すっかりお姉さんって感じだな」

「そうじゃのう。やはり女の子は元気が一番じゃ」

 

 ギースが瘴気に倒れたことを気に病んで竜の遺跡で一人隠れて泣いていた少女も、今は元の明るい性格を取り戻していた。

 ダンジョン・ブートキャンプで鍛えられて自信が付いた影響もあるかもしれない。

 

「どーでもいいけど、あちしは早く晩ご飯が食べたいにゃ」

 

 ミュールはいつまで腹ペコキャラでいるつもりだ。

 大掃除の最中にも隠れて間食を取っていた癖に……。

 

「全員いるみたいですね。じゃあ、行きましょう!」

 

 俺達は魔道ランタンを片手に行列を作って、地下道を歩き療養院へと向かった。

 徒歩で5分も掛からないのだから、何も問題は起こらなかった。

 

 療養院の廊下を歩いて大広間に行くと、そこには民族衣装で美しく着飾った竜人族(マムクート)達が集まっており思い思いの場所で(くつろ)いでいた。

 ギースの屋敷で預かっていた子供達は、それぞれの家族の(もと)に向かった。

 

「遅かったねぇ、やっときたのかい」

 

 朝から療養院に出向いて年越しの(うたげ)の準備を指揮していた長老のデュラが、大広間の中心付近に敷かれた大きな布の上に並んだ豪勢な料理の前で俺達を待っていた。

 

「悪いな。俺達はババアに合わせるほど暇じゃねぇんだ」

 

 デュラの対面(結構遠い)にあぐらをかいて座り込んだギースがそう返事をする。

 

「ギース、あんたは歳を取ってもまるで変わらないねぇ」

「三つ子の魂千までって言うだろう? ほら、お前らもつっ立ってないで好きな場所に座りな」

「あ、はい」

 

 俺達はギースの近くの床に座り込んだ。

 束ねた羽毛布団という名のお泊りセットを大広間の壁際に置いてきた女性陣と子供達も適当な場所に腰を下ろす。

 

 デュラが持ち上げた杖の先を床に打ち付けると、コォーンと大きな音が鳴った。

 (くつろ)いでいた竜人族(マムクート)達が集まり、探索者ギルドを閉めたユニエルや厨房で料理をしていた女性達もやってくる。

 

「全員集まったねぇ。奥で眠っているお寝坊さんと石頭のモーランはまだきていないみたいだけれど、それでも全員と言っていいだろうさ」

 

 (しわ)くちゃな顔を歪ませて笑みを浮かべたデュラは続けて言葉を(つむ)いだ。

 

「あたしはまたここで年越しの(うたげ)を開けるようになるなんて夢にも思っていなかった。だからねぇ、みなの元気な姿を見ることができて本当に嬉しいよ」

 

 デュラは長い眠りから目覚めて中央大陸の言葉を覚えつつある戦士達と、彼らに寄り添う妻と子供達の顔を一人一人見回した。

 

「年が明ければもっと大きな変化がこの里に(もたら)されるだろう。それを受け入れるのはきっと大変だと思う。でもねぇ、あたしは信じているよ。いつかこの大陸から異形獣を駆逐(くちく)して、マグダラを永劫(えいごう)の苦しみから解放する日がやってくるってねぇ」

 

 そう言ってデュラは手元にあった木の(さかずき)を持ち上げた。

 俺達もそれに(なら)って、手元の(さかずき)を持ち上げる。

 

「あたしの話はこれでおしまいだ。さあ、年越しの(うたげ)を始めよう」

 

 乾杯の合図はそれだけだった。

 俺達は言葉もなく、ただ黙って(さかずき)の酒を飲み干した。

 

 

 それから始まったのはただの宴会だ。

 ワイワイガヤガヤと(やかま)しい喋り声が木霊(こだま)する大広間で、俺達はアバロンの里伝統の肉を主に使った郷土料理を頂く。

 

 ぶっちゃけそれだけだとワイルドに過ぎるので、この500年でアバロンの里に広まった和風なアモロ料理も一緒に(きょう)された。

 

「さっき石頭のモーランがきていないって言っていましたけど、それってどういう意味なんですか?」

 

 どっかで見たようなマンガ肉に勢いよく食らいつくミュールを横目に見ながら、俺はギースに質問した。

 

「戦士長の責任ってのかな、あいつは今もコラーナ焦土を見張っているんだろう」

「難儀な性格じゃのう」

 

 瘴気を浄化するブルームーンが出ていなくても、夜間は異形獣の活動が大きく(にぶ)ることが経験則で分かっているので、戦士の多くもこうして安心して休んでいる。

 それでも慢心しないのは良いことなのか、悪いことなのか……。

 

「飯は後であいつの嫁が届けるだろうし、俺達はゆっくり楽しませて貰えばいいさ」

 

 息子のナバルはちゃんと(うたげ)に出席させているわけだから、後は個人の自由ということなのだろう。

 

「それならいいか……」

 

 気になることもなくなった俺は食事を再開することにした。

 

 ……うん、このハミングダックの丸焼きもなかなかイケるな。

 次はあのマンガ肉に挑戦してみるか。

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