マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第191話 サウナでととのう

 療養院の大広間で行われた年越しの(うたげ)でたらふく肉を食べた俺達は、昼間の大掃除で疲れた身体を癒す為にお風呂に入ることにした。

 お風呂と言っても、ここの大浴場にあるのはサウナだ。

 

 俺は男湯で身体を洗った後、ハムマン柄の海パンを()いて男湯の奥にある引き戸を開いた。

 

 むわりと吹き出した湯気に構わず中に飛び込んで戸を閉めると、サウナ室にある一番下段の長椅子に腰掛ける。

 

「くぅー、熱いぜ……」

 

 一番熱い上段の長椅子には、背中の開いた薄手の浴衣を着た竜人族(マムクート)達が座って汗を流している。

 彼らは水分補給用の水も横に用意して、長サウナの構えである。

 

「おお、すんごい熱気じゃのう。こんなにいいサウナならば、屋敷から通うだけの価値は十分にありそうじゃな」

「ふにゃー、こういうのもアリなのかにゃ」

 

 丁度いいタイミングでスク水姿のアンバーとミュールが女湯の方からやってきた。

 ミュールは俺の隣に腰掛けたが、アンバーは一番上の段に座った。

 

「ミュールよ、サウナはきっかり10分じゃ。出たらきちんとかけ湯をして、汗を流してから水風呂に浸かるのじゃぞ」

 

 雪国出身だけあって、アンバーもサウナには一家言(いっかげん)あるらしい。

 

「そう何度も言われなくてもちゃんと分かってるにゃ」

「それならばよいが……」

 

 俺達の出入りで室温が下がったのが気になったのか、ドラゴンブレスで窯焼きして作った伝統の備長炭で熱されたストーブの上に載っているサウナストーンにラグラスがひしゃくで水を掛けた。

 

 ロウリュでシューっと立ち昇った蒸気によって一気にサウナ室の湿度が上昇する。

 体感温度の急上昇に俺はたまらず、頭に()れタオルを巻いた。

 こうしておくとのぼせにくくなるらしい。

 

「ああ、至福のひと時。私はこのサウナに入る為に生まれてきたのかもしれません」

 

 農業でがっつり鍛えた細マッチョエルフのラグラスは、ハムマンのお腹を吸っている時とまったく同じ表情をしていた。

 

「ラグラス、そう言う割に普段は屋敷の風呂に入っていないか?」

「あれは別腹です。私は仕事帰りにいつもここのサウナに入っていますよ」

「いつも用事があるって言っていたのはこれのことだったのか……」

 

 俺は研究室でマジックポーションとか農薬の調合をしているのかなとばかり思っていたのだが、全然違ったらしい。

 

 よくよく考えたら仕事帰りの竜人族(マムクート)達はみんなこの療養院のサウナで汗を流してから家に帰っているわけだし、ラグラスが似たようなことをしていても何も不思議ではなかった。

 

 

 しばらく我慢していると、壁に設置された魔道具の砂時計がくるりと回った。

 あの砂時計は1回転で5分くらいらしいので、そろそろいい頃合いだろう。

 

 俺はサウナ室の外に出てアンバーの勧め通りかけ湯をしてから水風呂に浸かった。

 ここの水風呂は雪を溶かしてあるからか、かなり冷たい。

 心臓に悪そうだなと思いながらも、100まで数えてザバッと上がる。

 

 それから水分補給をしてサウナ室と男湯を往復すること2回、タオルで身体を拭いた俺は脱衣所に並んだ世界樹製のベンチで横になっていた。

 

「ととのうー」

 

 房中術スキルで得る快感とはまた別の、天上へ(いざな)うような快楽に包まれた俺はゆったりと幸せに浸っていた。

 

 大量に並べられた他の翡翠色のベンチでも、うつ伏せになってだらんとしている竜人族(マムクート)の男達がむくつけき肉体を見せつけながらととのっていた。

 ここは特定の性癖を持つ人物には天国のような場所だ……。

 

 

 しばらく休むと波が引いたので、俺は大きな満足感を抱えながら大広間に戻った。

 大広間の壁際には沢山の敷布団が並べられて、お泊り会の様相を(てい)している。

 子供達はもうお眠だったようで、みんな雑魚寝状態だ。

 

 片付けられた大広間の中央ではギース達がつまみを囲んで酒を飲んでいた。

 竜人族(マムクート)の老人が何人かと、デュラにユニエルもいる。

 

「ギースさん、まだ飲んでいるんですか?」

「俺はあいつとサウナに入るのが嫌いでな。ちゃんと後で入るさ」

 

 どうやらラグラスと一緒にサウナに入りたくなかっただけらしい。

 確かにちょっと気持ち悪いな……と俺も思ったが、ハム吸いをしてトリップしているギースの表情も大概(たいがい)だと思う。

 

「ハルト様、この後少しよろしいですか……?」

 

 (さかずき)を置いたユニエルが真っ白な頬を上気させながら、そう尋ねてきた。

 

「い、いや……それは流石に不味いって……」

 

 俺、アンバーに次はないって言われているんだ。

 浮気がバレたら今度こそ三つ折りにされちゃうよ。

 

「いえ、そちらではなく患者の手術の件です……」

「……そっちですか」

 

 ちょっと残念な気持ちを抱えつつも詳しく話を聞いたところ、どうも俺達がサウナで楽しんでいる間に重度の瘴気病患者のご家族から手術の打診を受けたらしい。

 

 それも今すぐに、決心が揺らぐ前にお願いしたいと言われている。

 どうやら見て見ぬ振りをしてきた最後の宿題を片付ける時がやってきたようだ。

 

 

 昏睡状態の瘴気病患者が眠る広い病室にやってきた俺とユニエルは、患者のベッドの前で今回の手術を依頼した竜人族(マムクート)の女性(ネル1533歳)と話をすることにした。

 

「はっきり言います、命以上の保証はできません。それでも構わないのですね?」

 

 脳の記憶野に甚大な損傷を受けた者を回復スキルで治療すると記憶の欠損が発生することはユニエルの持つ医学書からも分かっている。

 だから脳みそを全部取り換えたら……まず間違いなく彼は廃人化するだろう。

 

「もう、待ち続けることに疲れました。例えすべてを記憶を失ったとしても、私はテオと一緒に暮らしたいんです」

 

 気の長い竜人族(マムクート)であっても、全員がそうというわけではないのか。

 そりゃそうか、どれだけ長生きでも若さは有限だ。

 

 一切の希望もなく寝たきりの夫の介護を永遠に続ける虚無感から抜け出したいという、その選択を(とが)めることは誰にもできない。

 

「では、この同意書にサインをしてください……」

 

 ユニエルの差し出した手術の同意書には今回の手術内容—―瘴気に侵された患者の脳を摘出して再生スキルで再生させる――が記載されている。

 

 ユニエルの読み上げたその内容を聞いたネルはしばしの躊躇(ためら)いの後、同意書に覚えたてのティアラ語でサインをした。

 

「テオをよろしくお願いします、ユニエル先生」

「大丈夫です、命だけは助かるでしょう……」

 

 患者(テオ1649歳)をストレッチャーに乗せ換えた俺とユニエルは、暗い廊下をガラガラとストレッチャーを押しながら歩いて手術室に移動した。

 明かりを点けた手術室で、俺達はいつものように手術の準備を行う。

 

 開頭手術は流石にショッキングなので、今回はカーテンを閉めたままだ。

 夜に起きてトイレに向かう子供が近くを通りかかるかもしれないしな。

 トラウマになったら可哀想だ。

 

「では、オペを始めましょう……」

 

 手術と言っても、やることは単純だ。

 いつものように俺が麻酔を掛けて意識を深く沈めた後、ユニエルが医療スキルで患者の心臓と肺を操作して延命措置を取る。

 

 そして座らせた状態で固定した患者の髪の毛に接触しないように、シュパッと風の刃で頭蓋骨の周りを一周させる。

 

 そのままユニエルが念動スキルで持ち上げると、どこぞのメロンパンみたいに脳みそが露出した。

 分かっていたことだが、やはり……完全に瘴気で汚染されて赤黒く染まっている。

 

「3つ数えたら、再生させてください……」

「了解」

「1つ……2つ……3つ……」

 

 風の刃でくり抜かれた脳みそがすぽんと宙に浮いた瞬間、俺は全力で魔力を込めてリジェネレーションを行使した。

 

 脳みその再生はプレーリーラットを相手に何度もやっている。

 空っぽの頭の中に青い光が凝縮し、つやつやピンク色の脳みそが再生した。

 ユニエルは上に浮かべていた頭の上部分をはめ込み、医療スキルで繋ぎ合わせた。

 

「さて、どうなりますか……」

 

 摘出した赤黒い脳みそをミスリルプレート入りのガラスでできた浄化ボックスに入れたユニエルは、血の汚れを洗浄してテオをストレッチャーに乗せ換えた。

 

 俺達がガラガラとストレッチャーを押して手術室の外に出ると、待っていたネルが涙ぐんだ様子でテオの身体に(すが)りついた。

 

「ユニエル先生、テオは、テオは本当に治ったんですよね?」

「手術自体は成功です。後は経過観察を行って、それからですね……」

 

 患者が退院して空っぽになった別の病室に一つだけ置かれたベッドにテオを寝かせたユニエルは、懐から取り出した魔道具の鈴をネルに手渡した。

 昔、クロがジャスティンでオリエルを呼ぶ時に使ったやつだ。

 

「私は探索者ギルドの方に詰めていますので、何かあったらすぐにこの鈴を鳴らしてください……」

 

 ユニエルは探索者ギルドアバロン支部ができてからずっとそこで生活をしている。

 セキュリティは専用の魔道具でどうとでもなるらしいが、彼女はできる限り常駐するように心掛けているのだそうだ。

 

「はい。本当に、ありがとうございました」

 

 ネルの感謝の言葉を受け取った俺達は一礼して病室の外に出た。

 暗い廊下をユニエルの浮かべた光の球だけが照らしている。

 

「じゃあ、俺も休みます」

「ええ、また明日お会いしましょう。ハルト様……」

 

 ユニエルと別れた俺はそのまま大広間に戻った。

 壁にいくつも設置された炭ストーブの放つ暖かい光に照らされた大広間に敷かれた沢山の羽毛布団の上では、竜人族(マムクート)達が雑魚寝をしてスヤスヤと寝息を立てている。

 

 ギース達がこの里にやってくる前は雪除けの結界など存在しなかった。

 雪に閉ざされた長い冬を、彼らはこうやって身を寄せ合って過ごしていたそうだ。

 

 俺は彼らを起こさないよう忍び足で歩いてアンバー達の寝床に向かった。

 今回はちゃんと事前に手術をすることを伝えていたので勘ぐられることもない。

 

 靴を脱いでふかふかの羽毛布団に潜り込んだ俺は、いつものようにアンバーの小さな身体をぎゅっと抱き締めると夢の世界に旅立ったのだった。

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