マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第192話 脳筋ここに極まれり

「ハルト様、起きてください……」

 

 翌日の早朝、俺はユニエルに肩を揺すられて目を覚ました。

 眠っているアンバーを隣に残したまま羽毛布団から()い出た俺は、靴を()いて立ち上がった。

 

 今日も天気は(くも)りのようで、天窓から差し込む光はあまり明るくない。

 朝食の支度が始まっているのか、厨房の方からはお米の炊けるいい香りがほんのりと漂っていた。

 

「ユニエル、何かあったのか?」

 

 ユニエルはこくりと頷いて、手に持った鈴を俺に見せた。 

 

「先ほどネル様から呼び出されたのですが、病室にはテオ様の姿は影も形もありませんでした。どうやら二人は現在、療養院の外にいるようです……」

「え、それって不味くない?」

 

 まだ経過も見ていないのに、いきなり外に連れ出すってどうなんだ。

 

「私の探知スキルでは何をしているかまでは分かりません。様子を見に行きましょう……」

 

 俺はユニエルと一緒に玄関の大扉を潜り、療養院の外に出た。

 すると雪除けの結界で守られた療養院の敷地内には竜人族(マムクート)の男達が大勢集まっていて、みんなで何かを見ているようだった。

 

「すいません、ちょっといいですか?」

 

 俺が声を掛けると、背中を向けていた彼らは振り返って口々に挨拶してきた。

 

「ハルトさんにユニエル先生。おはようございます」

「よう、元気そうだな」

「オハヨォーウゴジィマス」

 

 これは中央大陸の言葉を勉強中の戦士の人。

 

「おはようございます。皆様、何をされているのですか……?」

「見た方が早い、ちょっと待ってな」

 

 壮年の戦士が合図をすると、俺達の前にあった人の壁が二つに分かれた。

 

 療養院の敷地の外に降り積もった白い雪の上で、長剣を片手に銀翼の戦士長モーランと向かい合っていたのは、昨晩俺達が治療したばかりのテオだった。

 

 深紅の竜翼を背負った竜人族(マムクート)のイケメンは視線も定まらず、だらしなく開いた口からダラダラと(よだれ)を垂れ流して心ここにあらずな状態だ。

 

 そんな状態にも関わらず長剣はしっかりとその右手に握り締めて、背筋もピンと真っ直ぐに立っている。

 

「行くぞ!」

 

 モーランは雪を蹴ってテオに素早く接近すると、手にした模擬剣を振り下ろした。

 無防備な状態で受けたら一撃で頭がかち割られるであろう重い斬撃。

 

 テオはその剣には一切目もくれず条件反射的に身体を動かし、右手に持った長剣でその斬撃を弾き返した。

 

「そうだ……思い出せ! 俺達の青春の日々を思い出すんだ!」

 

 何度も何度も振り下ろされたモーランの剣を、テオはその場から一歩も動かずにことごとく受け流した。

 

「凄い、これがかつて若かりしモーランと競い合ったという男の剣なのか……!」

 

 俺がそれっぽいことを言うと、隣に立っている壮年の戦士が腕を前に組んでうんうんと頷いた。

 冗談で言っただけなのに、マジなの?

 

 続けて観戦していると、立ち合いの中でモーランが大きな隙を見せた。

 すると一瞬だけ視線が定まった……ような気がするテオの振るった長剣の先がモーランの腹部を()いだ。

 

「ぐっ……!」

 

 くの字で吹き飛ばされたモーランはズザザッと雪に二本の長い線を引きながら止まると、左手で腹を触って不愉快そうに表情を歪ませた。

 

「足りん、足りんぞテオ! お前の力はこんなものではなかったはずだ!」

 

 ガインガインと火花を散らせながら雪の上で戦い続ける二人の戦士……。

 キラキラと目を輝かせながらその姿を眺めている(だいだい)色の竜翼を背負った女性に俺は話を聞いてみることにした。

 

「ネルさん、これは一体どういうことですか?」

「聞いていた通り、目を覚ましたテオは心を無くしていました……。でも、病室までやってきたモーランが『記憶が無くとも筋肉は全てを覚えているはずだ! それを俺が教えてやる!』って言って彼を外に連れ出したんです」

「えぇ……」

 

 脳筋ここに極まれりって言うか、筋肉脳理論が過ぎる。

 彼女は本当にそれでいいのか?

 あなたの旦那さん、お()らしして岩本虎眼みたいになっているけど……。

 

「記憶を無くしても、私の愛したテオは確かにここにいるんです。それだけで、私は十分に救われました」

 

 廃人になった旦那さんの介護をする奥さんの空元気は見てて(つら)いものがある。

 戦闘を中断した二人に小走りで近付いて、「あーうー」言ってるテオを抱き上げて浴場に向かうネルの背中を俺はただ見送ることしかできなかった。

 

「ユニエル、こんなことをしても大丈夫なのかな」

「予定していたリハビリでも状況に合わせて似たようなことをするつもりでしたが、彼らは少々スパルタが過ぎるようです……」

 

 ネルがテオを抱き上げた時に落ちて雪に刺さった長剣を拾い上げたモーランは、こちらにやってきて笑顔で感謝の気持ちを()べた。

 

「よくやってくれた! 再びテオと剣を交えることができて俺は最高に嬉しいぞ!」

「そ、そうですか。それは良かったですね」

 

 地面にザクっと二本の模擬剣を突き刺したモーランは、俺の両肩に手を乗せてずいと顔を寄せた。

 

「で、だ。他の連中も起こせるんだよな?」

 

 俺的にはある程度、テオの経過観察をしてからの方がいいと思う。

 いずれ重度の瘴気汚染を治療する別の方法が見つかるかもしれないわけだし……。

 

「いやぁ、それはどうでしょう?」

 

 俺はギリギリと肩に食い込む指の痛みを我慢しながらユニエルの方に顔を向けた。

 何をするにしても、主治医の判断を仰ぐべきだ。

 

「可能ではありますが、手術にはご家族の同意が必要不可欠です……」

「同意さえあればいいんだな?」

「ええ、まあ……」

「よし分かった! 俺が説得しよう!」

 

 モーランは俺の肩から手を離すと、ダッと走って療養院の中へと消えていった。

 俺は腕をクロスさせて痛む両肩に手を触れると、指先に魔力を込めてヒーリングを行使した。

 

「これは年明け早々、忙しくなりそうだ」

 

 あの熱血漢ならあっという間にご家族の同意を取り付けてしまうに違いない。

 近い未来に待っているのは戦闘力だけを持て余した痴呆老人の介護施設化である。

 

「そうですね。考えなければならないことが増えてしまいました……」

 

 モーランの暴走の引き金を引いてしまった俺達が今後のリハビリの内容を含めてどう対応していこうかと相談していると、療養院の入口の方から声を掛けられた。

 

「二人とも、とっくに朝食は始まっておるぞ! (はよ)う戻ってくるのじゃ!」

 

 おっと、起き出してきたアンバーに呼ばれてしまった。

 気付けば周囲にいた竜人族(マムクート)の男達は影も形もない。

 俺達が立ち話をしている間に、彼らはとっくに解散していたようだ。

 

「ごめん、今行く! ……行こうか、ユニエル」

「はい、ハルト様……」

 

 これからのことは腹ごしらえをしてから考えよう。

 俺とユニエルは急ぎ足で療養院の中へと戻っていったのだった。

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