マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第193話 こん棒ゲーム

 年が明けてから早くも1ヵ月が過ぎようとしていた1月も末の日、俺は昼間からギースの屋敷の庭先で飼われているハムマンと(たわむ)れていた。

 

「おー、よしよし。()いやつめ……」

 

 俺は抱き上げた(あかね)色のハムマンの耳の裏をコショコショ()でた。

 この子はこうされると喜ぶのだ。

 

「のう、お主。いつまでここにおるつもりじゃ? わしはもう飽きたわい」

 

 赤松みたいな庭木に背中を預けてハムマンの群れに埋もれているアンバーに、俺は(あかね)色のハムマンを抱いたまま歩み寄った。

 

「だってさぁ、しょうがないじゃん。デートの予定がパーになっちゃったんだから」

 

 見上げた空は真っ白に染まっている上に、雪除けの結界の向こう側は堆積した雪で高い壁ができていた。

 

 雪除けの結界によって軽減されてもなお冷たく感じる強風が庭に植えられた草木を揺らしている。

 

 今日の空模様は生憎(あいにく)の雪。

 それも猛が付く吹雪の日だ。

 

 ようやく瘴気病患者全員の治療が終わり、助手の仕事から解放されて自由にダンジョンに行けるようになったと思ったらこれだ。

 タイミングが悪くてやんなっちゃうね。

 

「予定が先延ばしになって残念な気持ちは分かるがのう。たまにはわしの娯楽に付き合ってくれてもよいとは思わぬか?」

 

 アンバーはこん棒と読書の次くらいにボードゲームが好きで、その中でも特にアモロ将棋を(この)んでプレイしていた。

 彼女お得意のこん棒銀戦法はアクアマリンのアマチュア将棋クラブでも有名だ。

 

 俺は観る将なのでそれに付き合うのはもっぱらミュールの役目だったが、ギース海賊団が過去にアモロ将棋をこの里で流行らせていたこともあって最近は好敵手(ライバル)に不自由していなかった。

 

「アモロ将棋をやるくらいだったら、俺はハム吸いすることを選ぶ……」

 

 雪に閉ざされた竜の谷でできる娯楽などそう多くはない。

 屋敷で子供達の相手をするか、本を読むか、ハムマンと(たわむ)れるかだ。

 

 もちろん、アンバーとのお楽しみだったらいつでも付き合うけどね。

 子供に悪影響を与えないよう夜中にこっそり隠れてやるのがここでのマナーだ。

 

「お主がそう言うと思って、今日は違うものを用意しておいたぞ!」

 

 そう言ってアンバーが立ちあがると、彼女の上に乗っていたハムマンがころころ地面を転がった。

 ちっちゃい尻尾を巻いてとことこ逃げていくハムマンもかわいい……じゃなくて。

 

「違うものって?」

「それは見てのお楽しみじゃ!」

 

 暇つぶしになるならなんでもいいか。

 俺は抱えていた(あかね)色のハムマンを地面に降ろすと、屋敷に向かうアンバーの背中を追い掛けることにしたのだった。

 

 

 それから10分後、談話室には4人のプレイヤーが集められていた。

 俺とアンバーに加えて、炭の燃える暖炉の前で丸くなっていたミュールとでかいソファで昼寝をしていたギースである。

 

 ラグラスは療養院の研究室で農薬の調合をしておりミラは裏庭の運動場で稽古中。

 子供達はだいたい大きい方の談話室で過ごしているので、この部屋にいるのは俺達だけだ。

 

「メンバーも集まったところで、早速『こん棒ゲーム』を始めるとするかのう」

「こん棒ゲーム……一体、何をするんだ?」

 

 寝起きのギースがぼさぼさになった白髪の寝癖を手櫛で直しながら首を傾げた。

 

「ふふん、これを見よ!」

 

 アンバーはポーチから二つ折りにされた大きな厚紙を取り出して床に広げた。

 その厚紙には曲がりくねった太い線が引かれており、その中に等間隔でマス目が描かれている。

 

 他に用意したのは謎のカードの束とサイコロ、そして……この間俺が作らされた色違いの小さなハムマンフィギュアがいくつか。

 

「どう見てもただのすごろくにゃ」

 

 実際、ただのすごろくだった。

 

「これはのう、サイコロを振ってデッキのカードを一枚めくるのじゃ。ゴールに着くまでにこのこん棒カードを沢山集めて、最後の品評会で一番凄いカードを持っていた者の勝ちじゃ。分かりやすいじゃろう」

 

 へー、止まったマスの効果によって相手のカードを手に入れたり、持っているカードをデッキに戻されたりと色々なイベントが発生するのか。

 

 こん棒カードにもそれぞれ特殊効果があって、特殊マスのデメリットを無効化したり、任意の相手を妨害したりできるっぽい。

 

 どれが一番凄いこん棒カードなのか良く分からないことを除けば、それなりに上手くできているようだ。

 

「物は試しだ。一度やってみるか」

 

 ギースは青いハムマンフィギュアを手に取ってスタートの位置に置いた。

 俺達もそれに(なら)って好きな色を選んだ。

 アンバーは黄色、ミュールは赤、俺は緑だ。

 

 じゃんけんで順番を決め、一番最初になったアンバーがサイコロを転がしてカードを一枚手札に加えた。

 

「『こん棒ゲーム』、スタートじゃ!」

 

 最初に勝ったのはミュールだった。

 序盤で相手の防御を無視するヒヒイロカネのこん棒カードを手に入れたミュールは、俺達のレアなこん棒カードをどんどん墓地送りにしてダントツトップで勝利した。

 

 次に勝ったのはギース。

 中盤にアンバーの展開した特定のこん棒カードを()びさせるシーニウムのこん棒カードの地形効果で俺達は大いに苦しめられた。

 

 しかしギースは最後まで隠していた世界樹のこん棒カードの特殊効果で品評会の内容を手持ちのこん棒カードの枚数制に切り替えたことで逆転勝利することになった。

 

 最後に勝ったのは俺だ。

 特殊な条件で出現するジョーカー扱いのミスリルのこん棒カードを4人でひたすら取り合った結果、最終的に俺の手元にきた状態でゴールした。

 

 

 そうこうしているうちに夕方になったので、今回のこん棒ゲームのテストプレイはこれでお開きになった。

 

 俺はぺらぺらとデッキをめくってアンバー直筆のこん棒カードのイラストを見ながらゲームの感想を口にする。

 

「これ、思ったよりも面白かったな」

 

 無駄にこん棒カードの種類が多いせいで、周回ごとに違ったゲーム性になるのが楽しかった。

 

「そうだにゃー、あちしも思わず熱くなっちゃったにゃ」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 

 自作のボードゲームが評価されたアンバーは鼻を膨らませてご満悦のようだった。

 ずっと同じ部屋で過ごしていたのに、よくもまあ存在を隠し通したものだ。

 もしかしたら、彼女は図書館に行っている間に作っていたのかもしれない。

 

「これがハムマンゲームだったら百点満点だったんだがな。そこだけが残念だ」

 

 ギースの願望100パーセントの指摘を受けたアンバーはうむと頷いた。

 

「わしもその方が子供達には受け入れやすいと思うたのじゃが、ハムマンには全然詳しくないからのう。その辺りのことはハルトと相談して考えるとするわい」

「おっ、そうか! いいものができたら教えてくれ。ジャリンコどもと遊ぶからな」

 

 こうして生まれたアンバーのこん棒ゲームはのちに「ハムマンゲーム」として売り出されてそれなりにヒットすることになるのだが、それはまた別のお話だ。

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