マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第194話 カーススタンピード

 三日三晩続いた猛吹雪が明けたその日の早朝、俺達はいつものように食堂に集まり朝食を取っていた。

 

 今日の献立は狩人が北の海で獲ってきた魚の開きに根菜の味噌汁、白菜の漬物。

 これといって変わり映えはしないが、元日本人としては炊き立てのお米があるだけで元気モリモリご飯パワー(死語)だ。

 

 天気も回復したから今日こそ楽しいダンジョン探索に行くぞと意気込んだは良いものの、残念なことにまたもやアクシデントが発生した。

 

 ドタドタという足音を立てながら食堂に飛び込んできた少年によって、その知らせは届いた。

 灰色の竜翼を背負った若い戦士のナバルは焦った様子でギースに呼び掛ける。

 

「ギースさん、カーススタンピードです!」

「俺もそろそろかと思っていたがな……ナバル、規模はどうだ?」

「規模はA、里の総力を挙げて迎撃する必要があります!」

 

 にやりと笑みを浮かべたギースは、向かいの席に座る俺達の顔を見回した。

 ラグラスはいつも不参加なのでどうでもよさそうだが、ミラは緊張でガチガチに固まっているようだ。

 

「聞いたなお前ら、予定は変更だ。対異形獣戦闘の実習を始めるぞ」

 

 異形獣の襲撃からアバロンの里を守る防衛戦。

 大災厄より4000年続く生存闘争に、俺達は参加することになったのだ。

 

 

 身支度を整えた俺達は竜化したミラの背に乗ってアバロンの里の南に向かった。

 そこには谷間を塞ぐダムのような、白い石造りの巨大な防壁がそびえている。

 これこそが南の防壁—―ホワイトウォールだ。

 

 厚さ100mはあろうかという分厚い防壁の上は門番を務める戦士達によって綺麗に除雪されており、戦闘が可能なフィールドが十分に確保されていた。

 

 防壁の上の中心部(里側にある柵の付近)に建っている翡翠色の詰め所の前には武装した竜人族(マムクート)の戦士達が集まり、炭ストーブの前で暖を取っている。

 俺達がミラの背から降りると、彼らは口々に話し掛けてきた。

 

「ギース、今日はヘマするんじゃないぞ!」

「俺を誰だと思っている。二度目はないさ」

 

 そう軽口を叩くギースとモーラン。

 

「アンバー……アイツラニ、コンボウノパワーヲミセヨウナ!」

「うむ、剣なんかよりもこん棒の方がずっと強いということを教えてやろうぞ!」

 

 この里唯一のこん棒使い(ガロア2235歳)と気炎を燃やすアンバー。

 

「ミラ、大丈夫か?」

「これは武者震いだから、何も問題はないのです」

 

 薙刀(なぎなた)を手に緊張を隠せないミラはナバルに心配されているようだ。

 

「で、あれがカーススタンピードってやつか……」

「ちょっとどころじゃなくヤバそうにゃ」

 

 俺とミュールは望遠鏡を片手に、詰め所の上から南のコラーナ焦土を眺めていた。

 ピントを合わせたレンズを通した先に、真っ白な雪原を埋め尽くす赤と黒の入り混じった異形の怪物の群れが見える。

 

 どうやら大型の異形獣が降り積もった雪を踏みしめて道を作り、その後ろを中型や小型の異形獣がぞろぞろと歩いているようだ。

 サイズ感的に王蟲の群れよりはマシそうだけど、規模はどっこいどっこいだな。

 

「ハルト様、おはようございます……」

 

 ユニエルの声がしたので振り返ると、そこにはユニエルとデュラが立っていた。

 デュラの後ろにはゴールデンハムマンのキンちゃんがちょこんとお座りしている。

 

 こうして見るとでっかいな、ジャイアントハムマンが牛くらいのサイズだとするとゴールデンハムマンは象くらいのサイズがある。

 きっとキンちゃんはプンレク島のダンジョンのF.O.E(フィールドオンエネミー)だったのだろう。

 

「おはよう。キンちゃんがきたってことは、もしかして……」

「今回のカーススタンピードは規模が大きい。間違いなくマグダラは姿を現すさね」

 

 そう言ってデュラは手に持った杖の先で床を叩いた。

 コォーンと高い音が鳴り、戦士達の注目が詰め所の上にいる俺達まで集まった。

 

「あんたたち、仕事の時間だよ! 遠くで見物しているマグダラにあたしらの里が健在だってことを思い出させてやりな!」

『ウオォォォォォ!!!』

 

 武器を掲げて雄叫びを上げた戦士達は次々に走り出し、ばさりと背中の竜翼をはためかせて防壁の上から飛び立った。

 

 彼らの胸元に輝くのは俺が丹精込めて作ったミスリルの首飾りだ。

 金の合金で形作られたゴールデンハムマンが抱える竜石が、ミスリルの青白い光を受けてキラキラと輝いている。

 

 彼らが竜石に手を添えると、身体が青い光に包まれて巨大なドラゴンに化身した。

 長い眠りから復活した魔竜達は、雪原を埋め尽くす異形獣の群れに向かって火炎のブレスを吐き出した。

 

 すると見る間に雪は溶けて蒸発し、白煙とともに地は灼熱に包まれる。

 焼け死んだ異形獣から噴き出した赤黒い瘴気の煙が、露出した地の底に充満した。

 

 強い風に(あお)られているというのに、一切その場所から流れず留まり続ける異常な魔力の霧が燃え盛る熱を吸収して鎮火させる。

 そうして瘴気の中から飛び出した異形獣の群れを、また魔竜の炎が焼き尽くした。

 

 火炎のブレスを使い切った戦士達は次々と防壁の上に戻り化身を解いた。

 これから先は接近戦になる。

 瘴気に侵されて異形獣した際のリスクが非常に高い竜化状態での戦闘は厳禁だ。

 

 断続的に続いたマップ攻撃から生き残った異形獣が防壁の下に取り付いたのを見て、少し後ろに下がった戦士達はそれぞれの武器を構えた。

 

「8割ってところか。こりゃあ、思ったよりは楽になりそうだ」

「が、頑張ります……」

 

 歴戦の海賊王ギースが背負った大斧を抜き取って肩に担ぐと、その隣でミラが両手に持つ薙刀(なぎなた)を構えた。

 

「ハルトよ、危ないと思ってもプロテクションはなしじゃぞ!」

「分かってるって! 異形獣は魔力障壁をすり抜けるんだろう!」

 

 下でギース達と並んでいるアンバーに詰め所の上から返事をした俺は、スーパーマナバレットのこん棒を片手に持ち石の流体を足元に(はべ)らせた。

 

「お前ら、異形獣のお出ましだ!」

 

 ねじくれた身体を持つ赤黒い異形の獣が、次々と防壁の上に()い上がってくる。

 まずはお手並み拝見とばかりに、見上げるほどのサイズの大型異形獣に素早く接近したアンバーが抜き打ちしたいかずち丸を振り抜いた。

 

「そうれ!」

 

 杭のような歯がずらりと並んだ大顎(おおあご)を砕かれながら宙を飛んだその大型異形獣は放物線を描いて防壁の下へと消えていった。

 

 アンバーはハーフリングのフットワークを活かし、モグラ叩きのように()い上がる異形獣を次々と吹き飛ばした。

 

 ギースやミラ、他の戦士達も負けてはいない。

 瘴気の発生条件である止めを刺さないよう的確に筋や関節を攻撃して動きを封じ、高い筋力値を活かした体術で防壁の向こう側に突き落としていく。

 

 しかし……異形獣が増えて乱戦になってくるとそうもいかないようだ。

 

 千切れた四肢の一部や、絶命した異形獣から噴き出した瘴気がフィールドに留まり、段々と戦闘可能区域を(せば)めてしまう。

 異形獣が血の通わない怪物でなければ、返り血でもっと苦戦していただろう。

 

 異形獣を倒した時に起こる経験値の減少は装備しているミスリルの首飾りで防ぐことができるが、それでも瘴気に触れてしまえば汚染は(まぬが)れられない。

 そこで出てくるのが、詰め所の上で待機している俺達みたいな非戦闘員だ。

 

「ロングスロー!」

 

 ミュールが手に掴んだ頭ほどの大きさの氷の塊を邪魔な位置にある瘴気に投げ込むと、浮かんでいた赤黒いモヤがその氷に吸収されて消滅した。

 

 空を飛ぶ若い戦士達が脇に抱えた樽から取り出して落とした氷の塊も同様に、防壁の上に漂う瘴気を吸収して赤黒い氷の塊に変化する。

 

 これはダンジョンで捕獲してきたスライムを凍らせたものだ。

 異形獣化したスライムは大した脅威ではないので管理もしやすいし、月光やミスリル光に晒せばすぐに浄化されて消滅するから事後処理も楽なのである。

 

 普通の異形獣はAIが単純なのかすぐ近くの人間を襲う性質があるので、詰め所の上に居る俺達にはあんまり近寄ってこない。

 

 とはいえ、戦士達のガードをすり抜けてやってくる固体もたまにはいる。

 そうやって詰め所の壁に取り付いた異形獣は、俺が伸ばした石の流体で拘束して地面に転がした。

 

 動きの封じられた異形獣は、ユニエルが念動スキルで誰もいない防壁の向こう側の空中まで飛ばして風の刃で切り刻む。

 

 ずっと同じ場所で処理していたら瘴気がどんどん濃くなって真っ黒になってしまったが、デュラによると大丈夫らしいので俺達は気にせず処理を続ける。

 

 俺は負傷して撤退してきた戦士の肩に手を添えてハイヒーリングで治療しながら、瘴気で埋め尽くされたコラーナ焦土を見渡した。

 

 最初の群れよりは格段に数が減っているが、遠くの森から新たな異形獣がまだまだやってきている。

 こいつは長い戦いになりそうだ。

 

 

 此度(こたび)のカーススタンピードは午前の8時頃に始まり、午後の3時頃に終息した。

 通常であれば数日は掛かる規模の異形獣の襲撃が、日が落ちる前に片付いたのは快挙と言っていいだろう。

 

 それも瘴気病から回復して戦線復帰した戦士達が加わって、戦闘員がこれまでの3倍以上に増えたおかげだ。

 

 幸いなことに死者はゼロに抑えられたが、それでも20人は軽度の瘴気汚染を負ったと診断され、3人は腕や足などの肉体の一部に重度の瘴気汚染を受けて戦線から離脱することになった。

 

 規模は異なるものの、カーススタンピードは数年に一度はこの里を襲っている。

 今回は上手く行ったとはいえ、決して油断はならないだろう。

 

「あれが、異形竜マグダラか……」

 

 まだまだ元気そうな戦士達が投槍で防壁の下に残った手負いの異形獣を処理をしているのを横目に見ながら、俺達はキンちゃんを中心にして防壁の端に立っていた。

 

 瘴気で埋め尽くされたコラーナ焦土……その中を禍々しいオーラを身に(まと)った異形のドラゴンが我が物顔でのしのしと練り歩いている。

 マグダラの過ぎ去った後は瘴気が綺麗に消えて、赤茶けた地面が露出していた。

 

「マグダラはああやってその身に(たくわ)えた瘴気をブレスに乗せているのさ。それが異形獣の本能なのか、彼の意志によるものなのかはさっぱり分からないけどねぇ」

 

 縄張りに入り込んだ人間を焼き尽くす超長射程の瘴気ブレスってやつか。

 見ている間にもマグダラは瘴気を吸収しながらどんどん防壁に近付いてきた。

 

 ……思っていたよりも遥かにでかい。

 竜化した通常の竜人族(マムクート)ドラゴンの10倍以上のサイズがあるぞ。

 

「キューキュー」

 

 背伸びをしたキンちゃんが甘えるように鳴くと、防壁のすぐそばで立ち止まったマグダラの巨大な瞳がギロリと俺達を(にら)み付けた。

 

 手を出さなければ大丈夫だと分かっている。

 それでも、背中の芯を貫くかのような恐怖に息が詰まった。

 

 俺達が言葉も出せず立ち尽くしていると、不意にマグダラは背中を向けた。

 歪な竜翼をはためかせて飛び立ったマグダラは遠く南の空へと消えていった。

 

「た、魂が抜けるかと思ったにゃ」

「わしらはとんでもないものを見てしまったようじゃな」

「これは、一筋縄では行きそうにありませんね……」

 

 知ってはいたが、やはり俺達にはどうしようもない相手のようだ。 

 マグダラを倒してこの東大陸を救うのは未来の誰かに託すことしよう。

 

 タイトル詐欺を決め込んだ俺は、こうして最初で最後のマグダラとの邂逅(かいこう)を終えたのだった。

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