マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第195話 マイマイダンジョン

 長い冬が明け春の芽吹きが始まった4月の初頭、アバロンの里では建築ラッシュが始まっていた。

 

 この里に農作物を供給している五棟のガラス張りの温室の隣には果樹用に新しく二棟の温室が建てられようとしており、療養院にほど近い場所に建つ翡翠色の家屋は新たな住人の到着を待っている。

 

 そうやって里の力自慢が大工仕事に励む中、俺はひたすら双子山の西の山頂に向けて石の階段を作っていた。

 

 なぜダンジョンにも行かずにこんなことをしているのかと問われれば、もうすぐネフライト王国の東大陸派遣隊がやってくるからだと答えよう。

 

 彼らは遠い惑星の裏側から飛行機を飛ばしてやってくるわけだが、この里にはまだその飛行機を受け入れられる飛行場が存在しない。

 

 一応、南の防壁が使えなくもないが装具に入らないサイズの小型旅客機を整備できるガレージがないと困るし、カーススタンピードがきたら大変面倒なことになる。

 

 アバロンの里の周辺にはこれから世界樹を起点にした超強力な結界が張られることになっているので、あんまり近くに作ると事故が怖い。

 そういうわけで飛行場は双子山の西の山頂に作られることに決まったのである。

 

 この工事はやることも特にない俺一人に任されていたのでまー大変だったが、ギースが手伝ってくれたこともあって到着予定日の3日前に施工作業は終わった。

 終わったのはいいのだが……。

 

「なんか殺風景だなぁ」

 

 平らに(なら)された山の頂上で、俺は腕を前に組んで不満を(あら)わにしていた。

 そりゃあ何もない方がいいに決まっているが、なんというか物足りない気持ちだ。

 

「ふーむ……んじゃ、灯台でも作るか」

 

 完成した飛行場の出来を確かめにきていたギースの提案に、俺は首を傾げた。

 

「灯台?」

「夜になったらこの辺りは真っ暗になるからな、目印があった方がいいだろうよ」

 

 船乗りらしい意見だが、目印は世界樹があるから大丈夫じゃ……いや、待てよ?

 いいこと思いついちゃった。

 

「ギース、その灯台なんだけど……こうしてみないか?」

 

 俺の提案を聞いたギースは、にんまりと笑みを浮かべて快諾(かいだく)したのだった。

 

 

 それから3日後の午後3時過ぎ、中央大陸からの来客を出迎えにやってきた俺達は山の頂上に建つ巨大なゴールデンハムマン像を見上げていた。

 

 南を向いて背伸びするキンちゃんの頭の上には、ギリーオームを模した灯台部分がちょこんと乗っている。

 奈良の大仏よりも大きい全長30mのビッグサイズだ。

 

「おお、可愛いキンちゃんじゃのう」

「アンバー、材料の切り出し手伝ってくれてありがとう。おかげで間に合ったよ」

「なに、あれくらいお茶の子さいさいじゃわい」

 

 本当なら材質は金の合金にしたかったが、時間が足りなかったので金色に近くて丈夫なメツニウム銅合金を使用することにした。

 

 アンバーのいかずち丸……ではなく養殖用の再生銅の板金から切り出した合金を鍛冶スキルで変形させて、ギースの用意した設計図に沿()って組み上げた。

 インスタ映え間違いなしの観光スポットの出来上がりである。

 

「あ、ここから中に入れるみたいにゃ!」

 

 ミュールはキンちゃんのお尻の辺りにあるジャイアントサイズの扉を開けて中を覗き込んだ。

 

「そりゃあ入れるよ、灯台なんだから」

「へへん、あちしが一番乗りにゃ!」

「俺が作ったんだから俺が一番なんだが……まあいいか」

 

 俺とアンバーはキンちゃんの中に入ったミュールの背中を追い掛けた。

 がらんどうの内部空間にはジャイアントでもギリギリ(のぼ)れるサイズをした手すりの付いた螺旋階段があり、上から差し込んだ細い光が中を照らしている。

 

「ちゃんと望遠鏡もあるにゃ! ハルトは分かってるみたいだにゃ〜」

 

 一足先に灯台部分の展望台に着いたミュールが早速、望遠鏡を発見したようだ。

 次元の狭間(はざま)で作ったものと同じ2mサイズの長い望遠鏡を覗き込んで動きが固まったミュールのお尻をアンバーが指先でつんつんとつつく。

 

「なんぞ、面白いものは見えたかのう?」

「にゃ……」

 

 ミュールは絶句して言葉が出ないようだ。

 そりゃな、俺も最初に見た時は超ビビったもん。

 

「どれ、わしにも見せい」

「ふにゃあ……」

 

 ミュールを強引にどかして望遠鏡を覗き込んだアンバーの目と口が、驚愕(きょうがく)に大きく開かれる。

 

「ハルト、これは……」

「ああ、見間違いじゃないよ」

 

 俺がアンバーの次に望遠鏡を覗き込むと、彼女達が見ていた光景が目に映った。

 すっごい遠くに、真珠色に輝いている山のような大きさの巻貝状をしたダンジョンの外殻がそびえ立っている。

 

 それは見るからに高度文明の跡らしき高層ビルの廃墟のど真ん中に生えていた。

 しかも外殻の隙間からは時折、赤黒い異形獣が湧き出ている様子も確認できる。

 明らかにアレが大災厄の元凶じゃんね。

 

 外殻の頂点には異形竜マグダラの姿が確認できるし、カタツムリみたいな赤黒くて細い頭が外殻の下の隙間からひょろりと飛び出ているのも見えている。

 

 頭って言うか、ダンジョンコアを裏返しにしたような感じでグロテスクに肥大したダンジョンコアの核が一本だけ生えて目っぽい感じになっていた。

 

「これぞまさしく、マイマイダンジョン……」

 

 俺は195話目にしてタイトルを回収した。

 

 トゥルーエンドを迎えたかったらあのダンジョンを倒せって?

 無理無理かたつむり、1万kmは向こうにあるあのダンジョンに到達する前にマグダラに見つかって瘴気ブレスでこんがり焼かれるのが関の山だ。

 

 地上を隠れて行こうにもコラーナ焦土から南の森には月光の浄化から逃れた瘴気の地雷原が埋もれている上に、異形獣化した魔獣が闊歩(かっぽ)している。

 異形獣の攻撃はプロテクションの絶対防御を貫通するし、俺にはもうお手上げだ。

 

 こうなったら当初の計画通り、ロリ嫁と子供に囲まれてアクアマリンで幸せな老後を過ごすビターエンドを目指すしかないだろう。

 俺が望遠鏡を覗きながら決意を新たにしていると、ポンポンと肩を叩かれた。

 

「お主、飛行機がきたようじゃぞ」

 

 望遠鏡から目を離した俺が展望台から空を見渡すと、遠く西の方角から小さな点が近づいてきているのが見えた。

 

「このことは時間がある時にでも相談するとして、まずは本来の目的を果たそうか」

「うむ、それがよいじゃろう。ほれ、ミュールもゆくぞ」

「うにゃ〜」

 

 正気度を喪失してグルグル目のミュールを肩に担いだアンバーに続いて螺旋階段を降りた俺はキンちゃん灯台の外に出た。

 

「お前ら、やっと戻ってきたな。上からの眺めはそんなによかったか?」

 

 キンちゃん灯台の近くに設置された大きなベンチにはギースと長老のデュラ、戦士長のモーランが三人で並んで座っていた。

 

 この人選には特に理由はない。

 どうせ後で世界樹前の広場に集まって顔合わせをするからな。

 わざわざここまでやってきたのは暇な人間だけだ。

 

「まあ、今後の目標だけは見つかったよ。っていうかさ、先にきていたギース達もアレは見ただろう」

「あたしの記憶が間違っていなければ、あそこはシュレイド帝国の首都があったところだねぇ」

「まさかマグダラがF.O.E(フィールドオンエネミー)化していたとはなぁ。面倒な置き土産を残されちまったもんだ」

「お前達なら、あのダンジョンを倒せそうか?」

 

 モーランが金色の竜眼で期待の眼差しを向けたが、残念ながら答えはNOだ。

 

「無理じゃ」

「無理でーす」

「勇気と無謀を()き違えるようなら殴ってでも止めていたところだ。命拾いしたな」

 

 はい、ギースさんのおっしゃることは至極ごもっともです。

 

「ほいで、あれが飛行機かい。そこな猫娘が持っているものよりも随分(ずいぶん)(いか)ついようだねぇ」

 

 デュラが杖先で指し示したのは、上空でホバークラフト機構を発動させて着陸態勢を取っている小型のジェット旅客機だった。

 ……いくらなんでも10年で進化しすぎだ。

 

「あんなヘンテコなのよりあちしの忍者ハヤテ号の方が百倍カッコいいにゃ!」

「明らかに機体スペックはあっちの方が上だろ」

「フライスには一発、理解(わか)らせないとイケないみたいだにゃ……」

 

 正気度の喪失から復活したミュールは担がれていたアンバーの肩から降りた。

 飛行機も止まったことだし、おしゃべりをするのもここまでだ。

 

 重い腰を上げてベンチから立ちあがったデュラを挟んで付き添うように歩くギースとモーラン。

 俺達は何となくその隣に並んで歩いた。

 

 レンチが印象的なフライス航空のロゴが施された両翼の下に付いたジェットエンジンが静かになると、ウィーンと音を立てて扉代わりのタラップが降りた。

 真っ先にコツコツコツ、と足音を立ててタラップから降りてきたのは……。

 

「アルメリアさん……?」

 

 どこかで見た覚えがある、巨乳の褐色スク水ダークエルフだった。

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