マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
ネフライト王国からやってきた東大陸派遣隊を迎えた俺達はジャイアントサイズの石造りの階段を降りて療養院で荷物を下ろした後、調印式を執り行う為にアバロンの里の中心地へと向かっていた。
日中の気温は10度と少し肌寒いものの天気は快晴で、式典をするにはまたとない好天に恵まれていると言っていいだろう。
北に向けて雪解け水の流れる小川に架かった石橋を越えると、俺達は高い中州に生えている世界樹の真下の大きな広場まで辿り着いた。
広場の外周には子供を含めた
今日は年越しの
世界樹の落ち葉が綺麗に掃除された広場のど真ん中には小さなテーブルが一つだけ置かれていて、その前にはユニエルとラグラスの二人が立っていた。
「ラグラス兄上、お元気でしたか?」
肩に白いハムマンを乗せたウィリアムが一歩前に出てラグラスに話し掛けた。
「ええ。ウィリアム、
「そんな、私は幼き日に兄上から教わったことを愚直に繰り返しただけに過ぎません。兄上ならば、私よりももっと上手く育てられるはずです」
「
「兄上……!」
「さあ、皆が待っています。手早く儀式を済ませましょう」
ラグラスが長老のデュラに目を向けると、一つ頷いた彼女は杖の先で地面を叩きコォーンと音を立てて周囲の注目を集めた。
広場の中心にある小さなテーブルの前までやってきたウィリアムとデュラ。
ウィリアムが虚空から取り出した
モブの天使がささっと設置した音楽プレイヤーのスピーカーから、
……どうしてサクレアがカバーしているバージョンなのだろうか。
「これより、調印式を始めます……」
曲が終わった後、立会人のユニエルは大きな声でゆっくりと契約書の内容を読み上げた。
この契約はネフライト王国とアバロンの民の相互理解によってのみ成立する。
ネフライト王国はアバロンを領土の一部とし、アバロンにおける
ネフライト王国はアバロンに住む全ての
ネフライト王国は
この契約はアバロンの世界樹が失われた時に効力を失うものとする。
契約書の内容を抜粋して書いてみたが、簡潔に言うとこのアバロンの里をネフライト王国の一部として承認するというものだ。
それはつまり、アバロンの里が魔道学院と同等の扱いを受けるということである。
これからはネフライト王国がインフラ維持費とか防衛費、医療費などにかかる費用を全部引き受けてくれるわけだな。
アバロンの里が対価に支払うものはせいぜい、戦士が集めて余った魔石と
「大層なことを言っているけれどねぇ、これまでと何も変わらないじゃないか」
「こういったことは形式が大事ですから」
ラグラスは羽ペンを手に取り、サラサラと達筆なネフライト語で署名した。
その下にデュラが謎の古代語で署名し、最後にユニエルがムーンライト語で署名して、そのファイルをみんなに見えるように高く掲げた。
「全然読めないにゃ」
「気にせんでええぞ、わしも読めん」
この契約書には特別なインクを使っているので、誰が書いているかだけが重要だ。
ユニエルからファイルを受け取ったウィリアムは装具にファイルを仕舞い、その代わりに綺麗な装飾の施された小瓶を虚空から取り出してラグラスに手渡した。
「あれが世界樹の雫か……」
飲んだ者に無限の魔力を与えるというエルフの霊薬。
かつてネフライト王国の女王はあの世界樹の雫の力で、万を越えるギガンティックタイタンの軍団を深い地の底に封じたのだ。
ラグラスが封を開けた小瓶の中身を一息に
神々しい蒼のオーラを身に
「これが古代エルフの生み出した究極の結界術式……凄い、凄い!」
「壊れた脳みそが回復していくぅ~」
アイリスとシャムロックは空中に浮かび上がっていく巨大な魔法陣を見て、キラキラと目を輝かせている。
ド素人の俺には人体錬成か何かをしているようにしか見えないが、魔道具職人にはまた違うものが見えているようだ。
「……これ、いつまで掛かるのかな。いい加減
石畳から現れては空中に浮かんでいく魔法陣を触って楽しそうにワーキャー叫んでいる子供達の姿を眺めながら、俺はついに本音を口にした。
「世界樹の雫の効果が切れるまでだから、大体3時間くらいかなー」
「そんにゃに」
ミュールが胃袋をグーと鳴らして我慢の限界を主張した。
夕飯にはまだ少し早いが、流石に終わるまで待っていたら日が暮れてしまうな。
「どうします? デュラさん」
俺が近くに戻ってきていたデュラに尋ねると、彼女の隣に立っていたモーランが代わりに返事をした。
「やるべき儀式は終わったのだから、すぐにでも宴会をするしかないだろう!」
「モーランの言う通り、ラグラス坊やの邪魔さえしなければ大丈夫さね。それっ」
デュラが再び杖の先で地面をついてコォーンと音を立てて周囲の注目を集めると、モーランが大きな声で周囲に呼び掛けた。
「ラグラスの仕事は夜までかかるそうだ! そんなに待っていたらせっかく用意した料理が冷めてしまう! だからもう、歓迎の
ワッと歓声が上がると、今まで人混みで隠されていた大きなテーブルが次々と広場のあちこちに設置され、そのテーブルの上に療養院の厨房から運び込まれた大鍋や箱の中から出てきた温かい料理が次々と並べられた。
設置されていた音楽プレイヤーのスピーカーからは、軽快なサクレアの歌声が流れ始める。
天に広がり続ける魔法陣を眺めながら酒を飲む、楽しい宴会の始まりだ。