マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第200話 アバロン魔道具職人組合

 ピピピ……ピピピ……ピ、ガチャ。

 いつもの時間に目を覚ました俺は、上半身を起こしてぐーんと伸びをした。

 

 パンツ一丁でダブルベッドから降りて閉め切っていたカーテンと窓を開けると、ひんやりとした冷たい朝の空気が日光とともに部屋の中に入ってくる。

 

 今日も天気は晴れのようで、青い空にはハケでさっと引いたような細糸のような巻雲(けんうん)が薄く浮かんでいた。

 

「おはよー、ハルトくん」

「おはよう、アイリス」

 

 一糸(まと)わぬ姿をした褐色ムチムチ巨乳のダークエルフはベッドから降りて、テーブルの上に脱ぎ捨てられていた紺色のスクール水着を手に取った。

 

 防汚のエンチャントが発動して青くピカッと光り綺麗になったスク水をしゅるりと着込むと、アイリスは姿見の前で髪の毛を編み込み始めた。

 

 俺がそんな彼女を見ながら探索者服に(そで)を通していると、ガチャリと自室の扉が開いた。

 どうやらアンバーとミュールが俺達を起こしにやってきたようだ。

 

「ふむ。二人とも、夜更かしはしとらんかったようじゃのう」

「昨晩は随分(ずいぶん)とお楽しみだったみたいだにゃ。あんにゃに激しく……」

「えっ、嘘だろ。ちゃんと防音の結界は……」

 

 ニヤニヤしているミュールのその言葉を聞いた俺は、慌てて床に置かれた箱型の防音用魔道具を確認した。

 

 魔石の魔力も十分に残っているし、昨晩起動したまま……スイッチオフ。

 とことこ歩いてきたアンバーがなぜか魔道具の位置を20㎝くらい横にずらした。

 

「わしもミュールの部屋に泊まった時に気付いたんじゃが、設置する位置が悪いみたいでのう。ちょっとだけ結界がミュールの部屋に飛び出しておったんじゃ」

「き、聞いてたの……?」

 

 昨晩の痴態を思い出したアイリスが、編み込み途中の銀髪から飛び出している褐色のエルフ耳を赤くした。

 ううむ、恥ずかしがるアイリスもかわいいぜ。

 

「聞いておったのは壁に耳を当てておったミュールだけじゃ。夜中に急に起き出して何をするのかと思えば……まったく、困った娘じゃ」

「にゃはは~」

 

 こいつ、知っていてずっと黙っていたな……。

 反省するまで、しばらくリンパマッサージは抜きにしてやる。

 

「うー……、ミュールちゃん、言いふらしたら絶対に許さないからね……」

「わ、分かってるにゃ! あちしは口が固いことで有名なのにゃ!」

 

 その代わり、ホラはむちゃくちゃ吹くがな。

 俺はメカメカしい魔杖(まじょう)を構えて恨めしそうにミュールを見るアイリスを落ち着かせるように肩を抑えた。

 

「まあまあ、過ぎたことを気にしていてもしょうがないだろう。今日から忙しくなるんだからさ、早く顔を洗ってご飯を食べに行こうよ」

「……うん」

 

 俺は納得していない様子のアイリスを連れて向かった洗面所で身だしなみを整えた後、先に食堂に行っていたアンバー達と合流して朝食を取った。

 

 その時、アイリスは子供達にどうしてライザみたいな水着を着ているのかと質問されたが、彼女は「腕のいい魔道具職人(クラフター)はこういう格好をするものなんだよー」と答えた。

 

 アイリスが目の前に魔法陣をパカパカ浮かべて花火のような光を出すオモチャの魔杖(まじょう)を作って見せると、子供達は凄い凄いと喜んだ。

 

 俺はそのやり取りでアイリスの機嫌が直ったことに安心して、ホッと胸を()でおろしたのだった。

 

 

 朝食を終えた俺達はギースの屋敷を出ると、外の道を歩いて療養院に足を運んだ。

 やってきた療養院の庭先では、今日も記憶媒体を新品に取り換えた戦士(17名)が刃を潰した武器を手に朝の鍛錬を行っていた。

 

「ほうほう、やはり肉体に染みついたルーティーンは問題なく行えるようですね!」

 

 竜人族(マムクート)の看護師達がマンツーマンで廃人状態のまま武器を振っている戦士達のサポートを行っている後ろで、オリエルは手に持ったバインダーに挟んだ紙に何やら書き込んでいる。

 

 ユニエルの作成したカリキュラムに沿()った再教育プログラムでは看護師の介助が不要になるまで1年、言語能力の獲得まで10年は掛かる見込みだったが、それをどこまで短縮できるかはオリエルの手腕にかかっていると言っても過言ではないだろう。

 

 俺達はそんな彼らの様子を遠巻きに見ながら、療養院の大扉を潜った。

 すると大広間の一角に運び込まれた大荷物の前で、バイスとシャムロックが立ち話をしているところに遭遇した。

 

「おはよー、二人とも早いねー」

「あっ、教授! 今までどこに行っていたんですか、探しましたよ!」

 

 シャムロックは宴会の最中に酔っ払ってダウンしていたので、一足先に療養院に用意された客室まで運び込まれていた。

 つまり、彼はアイリスが外泊したことを知らないのである。

 

「どこって、ハルトくんの部屋にお泊りだけど?」

 

 アイリスは俺の右腕に腕を回して、ぎゅっとおっぱいを押し付けた。

 

「そうならそうと、書き置きくらいは残してください! 心配したんですから!」

「おや、昨日とは態度が違うみたいだ」

 

 てっきりまたダメージを受けて床でも転げまわるのかと思っていたのだが。

 

「非モテを舐めないで頂きたい。僕はフラれることに慣れているんだ……!」

「ちなみにシャムロックくんはアリウム姉さんの文通友達だよー」

 

 アリウムは王都ラブオデッサのジョニアート美術館でガイドをやっている人だ。

 

「あのライザオタクの? アイリスよりよっぽど相性の良さそうな人いるじゃん」

「あの人、人妻ですけどね……」

 

 俺は知らなかったが、アリウムは人妻だったらしい。

 シャムロックの話によると、アリウムは200年ほど前にノル王家主催の婚活パーティーで相手(国軍勤務のイケメンエルフ)を見つけたのだという。

 

 彼がそれを知ったのは若かりし学生時代に王都ラブオデッサで行われたライザオタクの(つど)うコスプレイベントでアリウムと出会い友人になってから、20年が過ぎたある日のことだった。

 

 シャムロックは魔道学院を卒業したらアリウムに告ろうと思っていたらしいが、卒論に手こずっている間に時節を逃してしまったようだ。

 

 失恋の悲しみを抱えたままネフライトのとある研究所に平の研究員として就職したシャムロックは、農学系の術式や魔道具を研究開発する部署に配属された。

 

 それからなんやかんやあって魔道学院にやってきたアイリスのせいで長年の研究がパーになった彼は、研究所をクビになって路頭を彷徨(さまよ)っていたところをアイリスに助手として拾われたのだとか。

 

 どこかマッチポンプの香りがするが、一端の魔道具職人(クラフター)としての才能があるシャムロックがずっとどうでもいい研究で人生を浪費していたというのは確かに勿体ないことではあった。

 

「あれっ、アンバー達は?」

 

 俺がシャムロックからどうでもいい話を聞いている間に、隣にいたはずのアンバーとミュールの姿がどこにも見えなくなっていた。

 一体、どこに行ったのだろうか。

 

「バイスさんと飛行場に格納庫を建てるって言って行っちゃったよー」

 

 バイスは昨日、ミュールと旅客機の整備をするって話をしていたな。

 多分、マジックコンテナに詰め込んできた資材でプレハブ建築をするのだろう。

 力持ちのアンバーがいたらその作業も(はかど)るに違いない。

 

「アンバーにはこっちの荷運びを手伝って欲しかったんだが……まあ、俺がやるか」

 

 目の前に積み上げてある大荷物は全部、新しく建てた魔道具工房で使うものだ。

 俺は石の流体を足元に(はべ)らせると、その三分の一くらいを石の触手で持ち上げた。

 

 マジックバッグを山ほど持たされたシャムロックと手ぶらのアイリスを連れて向かったのは、療養院から徒歩1分の場所に建っているそこそこ大きめの建物だ。

 入口の上に設置された看板には「アバロン魔道具職人組合」と書かれている。

 

「おー、思ったよりも広い。これなら十分に使えそうだねー」

「ここも建材に世界樹の枝を使っているのか。贅沢過ぎるぞ……」

 

 俺は新しい職場の状態を確かめている二人に声を掛けた。

 

「じゃあここに荷物置いておくから、後はよろしく」

 

 それから三往復ほどして療養院に置かれていた荷物を全て工房に運び込んだ俺は、アイリスの指示のもとマジックコンテナやマジックバッグから取り出した設備や資材を工房の各所に配置した。

 

 二人がアバロンの里に持ち込んだ荷物は非常に多く、荷解きをしているだけで今日の午前中は丸々吹っ飛んでしまった。

 

「それで、午後からはどうするんだ?」

 

 俺達は工房の二階にある生活用のスペースで、北欧風なネフライト様式のソファに座って昼食を取っていた。

 

 ソファの前のテーブルに置かれているのは竹の皮に包まれた鳥の炊き込みご飯のおにぎりに漬物と、湯呑みに入った温かい世界樹茶。

 外に働きに出るアバロンの里の住人がよく食べる三点セットだ。

 

「んーと……最低限の準備はできたから、まずはギースさんの屋敷と療養院で使う生活魔道具作りかなー。後は温室で使うミスリル発魔機の製造もしたいねー」

「教授、そんな悠長(ゆうちょう)に……異形獣の調査はいいんですか?」

 

 今回の東大陸派遣隊は移住組を除いて10日で中央大陸に帰ることになっている。

 俺達もその時に便乗させて貰う予定なので、この里で過ごせるのも後9日だ。

 

「本格的な調査は後任に任せるつもりだし、調査自体は1日も掛からないから。それとシャムロックくん、何の為に第一陣にわたし達が選ばれたと思っているの?」

「それは教授が手を挙げたからでは?」

「そんな適当な理由があるわけないじゃん。この里に魔道具職人(クラフター)組合を立ち上げる必要があったから、資格を持っている魔道具職人(クラフター)が選ばれたの。つまり君ね」

「えっ、僕ぅ? (裏声)」

 

 アイリスが腰に左手を当てて右手の指先でシャムロックを差すと、彼は驚いたのか変な声を出した。

 

「大変だけどやりがいのある仕事だよ。この里に100戸近くある個人宅で使う生活魔道具の製造と管理修繕、装具とマジックバッグの製造。国の予算で高ランクの魔杖(まじょう)も作り放題、本当に(うらや)ましいなー」

「きょ、教授は本気で僕を置いて行く気ですか……?」

 

 まさか本当に島流しされるとは思っていなかったのか、シャムロックは血の気の引いた青ざめた顔をしている。

 

「他にここで仕事をしたいって手を挙げる魔道具職人(クラフター)が見つかったら交代で帰ってきてもいいよ。わたしはしばらく休職するから、助手の役職には戻れないけどねー」

「見つかったらって、組合長になれる高度魔道技術資格持ちがそんなに簡単に見つかってたまるものですか! ああ、僕はダークエルフのいないこんな東の辺境で童貞のまま朽ち果てる運命なんだ……」

 

 ソファに座ったまま頭を抱えてガックリと項垂(うな)れたシャムロックのそばに立ったアイリスは彼の肩をポンポンと叩いた。

 

「20年くらいしたら増えていると思うから大丈夫だよ」

「アイリス、偉く具体的だな」

「むふふー、二人でいっぱい頑張ろうねー」

 

 俺の膝の上に横向きに腰掛けたアイリスは、そう言って俺にぎゅっと抱き着いてきたのだった。

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