マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第203話 さらばアバロン

 翌日の午前8時半頃、荷物を(まと)めた俺達はギースの屋敷と療養院を繋ぐ道の中ほどにある、双子山の山頂へと続く長い石階段の前までやってきていた。

 その目的はもちろん、飛行機に乗って中央大陸に帰る為である。

 

 療養院の探索者ギルド学校に行っている子供達との別れは前日の夜に済ませてあるので、今日の見送りに集まったのはギースとラグラス、ミラにデュラ……後はシャムロックくらいだ。

 

「お前らがやってきてからこの里に流れる風の向きが大きく変わった。それも、すべてがいい方向に……ありがとうな」

「なに、わしらはお主が築いた信頼の上に乗っかっただけじゃ。大したことはしておらんわい」

「それでもだ。達者でな、『こん棒愛好会』」

 

 ギースがごつごつした大きな赤肌の右手を差し出すと、アンバーもそれに応えるように小さな右手を差し出して握手を交わした。

 

「私はもっと強くなって、いつか皆さんに会いに行きます。だから……お元気で」

「その時はまた一緒に釣りでも行くとするにゃ」

 

 ミラがペコリと頭を下げると、ミュールは腕を後ろに組んでそう返事をした。

 その両隣ではギンジとライルが笑顔でサムズアップをしている。

 

「はいっ!」

 

 操縦士ギンジと副操縦士ライルの休暇に(移動の足として)半ば強引に付き合わされていたミラはこの10日ばかりの間に釣りの趣味に目覚めていた。

 なんでも、心を無にして魚と向き合うのがとても落ち着くのだとか。

 

 その割には深海魚みたいなデカい怪魚を釣ってきて子供達を泣かせていたが……。

 そういうのってもっとこう、小川で小魚相手にするものじゃないのかな。

 まあ、実益を兼ねた趣味だから好きにしたらいいと思うけど。

 

「教授、本当に行っちゃうんですかぁ~」

「シャムロックくん、この()(およ)んでまだ言っているの?」

「だ、だって……」

「あーもう分かった、誰か良さそうなダークエルフの魔道具職人(クラフター)を探しておくから。それでいいでしょ?」

「できれば独身の若い女の子でお願いします!」

 

 シャムロックはネフライトの四大貴族家の出身なのだが、性癖に従って見合いを何度も破談させたことが原因で地元では地雷男として扱われていたそうだ。

 

 魔力の高い男エルフは他種族に(種馬として)モテるからそっちなら選り取り見取りだと思うのだが、やはりどうしてもダークエルフは外せないらしい。

 完璧と言っていいほどに、彼は初恋を(こじ)らせていた。

 

「はいはい。希望を叶えて欲しかったらキリキリ働きなさい」

「アイアイサー!」

 

 シャムロックはアイリスにビシッと敬礼するとダッシュで仕事場に戻っていった。

 

「兄上、本当に帰らなくてもよろしいのですか?」

「本音を言うと帰りたいですね。魔道学院で進んだ現代の農学や薬学を学びたいし、趣味のサウナ巡りもしたい。ですがそうすると、何年もこの地を離れることになる。それは世界樹の管理者として決して許されないことです」

「兄上の代わりに私が残ることもできましょう」

「ウィリアム、貴方(あなた)にも守るべき家族(ハムマン)がいるでしょう。その子達は今も貴方(あなた)の帰りを待っているのですよ」

「兄上……!」

 

 この二人のやり取りはどうあがいても最終的にハムマンに収束するのか。

 

「ハルト坊や、こいつを持って行きな」

 

 そう言ってデュラが俺に渡したのは、手のひらに乗るくらいの小さな木箱だった。

 

「デュラさん、これは?」

「あたしからの感謝の気持ちさ」

 

 デュラは年甲斐もなく、子供のようにパチリとウインクした。

 中身が気になった俺はその場で開けてみたが、木箱の中から現れたのは翡翠色をしたギリーオームシルクの布に包まれている金色の竜石だった。

 

「これはデュラさんの竜石でしょう。受け取るわけには……」

「あたしはもうこんな歳だから竜石なんて必要ないのさ。要らなかったら適当に売っ払うなり何なりしたらいいさね」

 

 竜人族(マムクート)にとって命の次に大事な竜石を預かるのだ。

 大切にしなければバチが当たってしまう。

 

「お気持ち、ありがたく頂戴(ちょうだい)します」

「もう出発の時間だろう? さっさと行っちまいな」

 

 俺が深々と頭を下げると、フンと鼻を鳴らしたデュラは照れ隠しをするかのように金色の竜翼の生えた背中を向けたのだった。

 

 

 それから30分、俺達は傾斜の緩い斜面に作られた石の階段をひたすらに(のぼ)って双子山の頂上にあるキンちゃん灯台が目印のアバロン飛行場までやってきた。

 

 階段を(のぼ)り切った踊り場のすぐ近くには、全長20m近くある小型旅客機が2機は納められるサイズの大きな格納庫がそびえ立っている。

 

 バイスは格納庫の入口近くの日陰に置かれた安楽椅子に座って、何かの雑誌を読みながら俺達を待っていた。

 

「遅かったな。待ちくたびれたぞ」

 

 そう言う割には自由な時間を満喫しているようだ。

 たまにやってくる竜人族(マムクート)の戦士を相手に武器を鍛えて、後はずっと遊んでいるだけで高給を貰える天国のような職場で(うらや)ましい限りだ。

 

「悪い、ちょっと話が長引いてな」

 

 懐から取り出して確認した懐中時計の針は出発予定時刻の午前9時を軽くオーバーしていた。

 

「今思ったのじゃが、竜の背に乗せて運んで貰えばもっと早く着いたのではないかのう」

「俺もそれ、途中で気付いて引き返すか悩んだよ……」

 

 あんなにいい感じに別れたのに、すぐに戻って背中に乗せてくれと頼み込むのは流石に気が引けたのだ。

 

「じゃあ俺ら、急いで準備してきますんで!」

「ゆっくりやるにゃ。パイロットはどんな時も安全第一にゃ」

「分かっていますぜ、ミュールの姉貴!」

 

 ギンジとライルはシャッターが解放された格納庫の中に止まっている小型旅客機の扉の近くにギルドカードをかざすと、ウィーンと降りたタラップの階段を(のぼ)って中に乗り込んだ。

 

 俺達も彼らに続いてタラップの階段を(のぼ)ると、中の様子が目に入った。

 魔道列車の三等車で使われているものに近いリクライニング式の座席が通路を挟んで2席ずつ、合計20席並んでいて、奥には貨物の置けるスペースとトイレを示す看板がある。

 

「思ったよりも普通だな……」

 

 俺はてっきりプライベートジェットみたいな感じになっているのかと思っていた。

 最新鋭の旅客飛行機とはいえ、流石にそんな遊びを入れる余裕はまだないか。

 

「あちしは一番前にするかにゃー」

 

 ミュールはそう言って左前の座席にぴょんと腰を下ろした。

 コックピットは壁と扉で仕切られているので見えないが、壁に設置された伝声管のような魔道具を使って向こうと会話をすることはできるようだ。

 

「私はここにします」

 

 ウィリアムは一番後ろの右の席に腰を下ろすと、シートを倒して横になった。

 お腹の上で丸くなったスノーハムマンのカリンを()でながら目を閉じた彼は完全にお休みモードだ。

 

「ハルトくん、せっかくだから隣の席にしようよー」

「別にいいけど……あんまり関係なくない?」

 

 俺が適当に前から3列目の左側、窓際の席を選んで腰を下ろすとアイリスはその隣の席に腰掛けた。 

 

「関係あるの。アンバーちゃんはどうする?」

「わしの定位置は最初からここに決まっておる」

 

 アンバーはいつものように俺の膝の上にお尻を乗せた。

 俺は両手で彼女のお腹をホールドしてスリスリと()でる。

 

「いいなぁ、アンバーちゃん。わたしも昔だったらできたんだけどねー」

「今でもやろうと思えばできるじゃろう」

「だってほら、恥ずかしいし……」

 

 いやぁ、初々しくていいですね。

 照れ臭そうに指先をもじもじするアイリスを俺達がニヤニヤしながら見ていると、伝声管からライルの声が聞こえてきた。

 

 

 皆様、今日はフライス航空111便、ジャスティン経由アズライト行をご利用くださいましてありがとうございます。

 この便の機長はギンジ、私は副機長のライルでございます。

 

 まもなく出発いたします。

 シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。

 ジャスティン飛行場までの飛行時間は15時間30分を予定しております。

 

 本日は乗務員はおりませんが、ご不便なことがありましたらお気軽に私共まで声をおかけください。

 それでは、ごゆっくりおくつろぎください。

 

 

 テンプレに沿()った機内アナウンスが流れると、小さな丸窓から見える主翼の下に付いた魔道ジェットエンジンがゴォーッと(うな)り声を上げ始める。

 

 ゆっくりと格納庫から進み出た小型旅客機はホバークラフト機構を発動させてふわりと空中に浮かび上がると、ぐんぐんと加速して勢いよく青空に飛び立った。

 

 機体の傾きに合わせて斜めになった身体に強いGが掛かり、アンバーの背中がグッと俺の胸に押し付けられる。

 

 丸窓から見えていたコラーナ焦土を飛ぶ銀竜の姿がどんどん小さくなり、ついにはまったく見えなくなった。

 

 俺はどこか懐かしい感覚を覚えながら、長い冬の半年間を過ごしたアバロンの里を後にしたのだった。

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