マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
双子山の東側の高台には黒い石の墓標が立ち並ぶ
私はその竜の墓地の片隅に建てられた、ゴールデンハムマンの像が両側に並んだ大きな墓の前に立っていた。
「お久しぶりです、ギースさん」
これは私と一緒に東大陸までやってきたギース海賊団の仲間達が眠る墓だ。
私は腰のポーチから一本の酒瓶を取り出し、湯呑みに白濁したどぶろくを注いで墓前に供えた。
ラグラスさんが造った鬼米酒……ギースさんが生前、好んで飲んでいたものだ。
地面に片膝を付いた私は目を閉じると、そっと手を合わせて祈りを捧げた。
「あれから、本当に色々なことがありました。本当に……」
私が世界樹の中に眠る竜の遺跡であの人達と出会ってから200年が経った。
ギースさんが老衰で亡くなってからは150年だ。
この200年の間に、東大陸の北部には多くの迷宮都市が築かれた。
その住民の多くは他の大陸からやってきた有志の探索者とその子孫であり、異形獣の脅威からこの東大陸を解放するべく活動していた。
しかし……はっきり言って、その活動は難航している。
ミスリルプレートの城壁で強固に守られた前線基地はカーススタンピードによって破壊され、南方に調査に向かった探索者はみんなマグダラの餌食になった。
そうして私達が手をこまねているうちに、東大陸を人の住めない地に変えた大災厄の元凶であるカースダンジョンは更なる成長を見せていた。
拡大した外殻の規模から推定した脅威度は……人知を超えたSランクに相当する。
地上で成長した特殊なダンジョンの寿命はいまだ見えず、外殻の隙間から湧き出す異形獣の数は日に日に増えている。
数年に一度だったカーススタンピードは月に一度になり、週に一度になった。
竜化した私達のブレスでは倒せないような超大型の異形獣も現れた。
東大陸近海の瘴気汚染は深刻で、他大陸への異形獣の到達は時間の問題だ。
これ以上の放置は東大陸だけではなく中央大陸や西大陸――人類全体の存続を脅かすことに繋がりかねない。
この現実に直面した探索者ギルドは、全世界に対して緊急事態宣言を発令した。
ネフライト王国、ティアラキングダム、アモロ共和国、西方諸国、そして数々の独立した迷宮都市の支援を得て世界中の上級探索者が東大陸の迷宮都市に派遣された。
彼らが携えるのは探索者ギルドがネフライト王国と共同で用意したミスリル製の武器だ。
ミスリル製の武器で倒すことで死んだ異形獣から放出される瘴気は大きく軽減され、乱戦中の事故による探索者の異形獣化を予防することができる。
これらの武器を作る為に費やされた費用は大国の100年分の国家予算にも届くと噂されている。
それだけ本気でなければ、脅威度を増した異形獣には対抗できないということだ。
そして……私は迷宮都市を守る彼らとは異なり、最も重要な役割を担うことになった。
カースダンジョン討伐パーティーの一員として選ばれたのだ。
「ギースさん、私に力を貸してください……」
際限のない異形獣の増殖が続けば、このアバロンの里もカーススタンピードで押し潰されて人の住めない土地になる。
頼みの綱だった魔道学院の開発した弾道ミサイルはカースダンジョンを守るマグダラにことごとく撃ち落とされてしまった。
誘い出そうにも、カースダンジョンが成長してからマグダラが外殻の頂点から移動したという記録は一つもない。
人工衛星が撮影した写真にはカースダンジョンから湧き出した異形獣を食らって瘴気を補充するマグダラの姿が確認されている。
マグダラがキンちゃんに会いにくることはもう、
だから……他の誰でもない、私達がやらなければこの世界に未来はないのです。
長い時間を掛けてマグダラと戦う決心を固めた私は、閉じていた目を開けて立ち上がった。
振り返ると、この場所で待ち合わせをしていた5人の探索者が私を待っていた。
「もういいの? ミラちゃん」
「はい、お待たせしてすみません」
一人はミスリルの流体を金魚鉢のような形に変えてその中から身を乗り出したマーメイド。
土属性スキルのスペシャリスト、魔力量に優れたAランク探索者の
「あたいは別に気にしないけどね。帰ったらイクコ婆ちゃんにギースの墓に行ったって自慢してやろうっと」
一人は大きなミスリルの金砕棒を肩に担いだ大柄なオーガの女性。
アルテミスのパーティーメンバー、
彼女の作る特別な料理は食べた者のステータスを一時的に強化する力がある。
「ボクはお金が貰えるなら何だっていいよ」
一人は座って大きな狙撃銃の手入れをしている水着姿のダークエルフの少女。
私の相棒、
幼い頃から面倒を見ているが、彼女は変なところばかり
「君に頼んだのは私だ、いくらでも待とう」
一人は魔導士服を着た美しい天使の男。
探索者ギルドの初代ギルドマスター、
今作戦の司令塔であり、カースダンジョン討伐パーティーのメンバーを決めた張本人だ。
「王様がどうしてもと頼むからやってきたがのう、余り年寄りに無茶をさせないで欲しいものじゃ」
一人は黒ずくめの格好をした赤毛のハーフリングの女性。
元ノル王家親衛隊隊長、
彼女はこの世界で最も高い能力を持つ斥候だ。
「ルビーちゃんはまだ若いんだから余裕でしょ」
「アルテミス、わしはお
「そこは、気合で?」
「今どき根性論かい……」
そして最後の一人が私――
「今も各地の迷宮都市では異形獣との終わりなき戦いが続いています。……皆さん、行きましょう」
私は胸元に提げられているキンちゃんの首飾りが抱えた竜石に手を触れて念じた。
すると視界が高く広がり、仲間の姿がとっても小さくなった。
更に私の背中が青く光り、装具から取り出した
「ミラちゃん、あーんしてあーん。お口開けてー」
アンズが腰のマジックバッグから大きな樽を取り出した。
私が言われるがままに地面に身体を伏せて牙の生えた大きな口を開けると、口の中にザラザラと丸い塊が転がり込んでくる。
『むぐむぐ……もしかして、お団子ですか?』
「あったりー! これはアンズ印の超特大キビ団子さ!」
ごくりと飲み込むと、身体の奥底から力が
お団子なら腹持ちも良さそうだ。
これならきっと、最後まで戦えるに違いない。
「ほらほら、みんな乗るよー」
装具に狙撃銃を仕舞ったマグノリア――マグちゃんから順番に皆さんが背中の
「問題はないようだ。ミラ、作戦開始だ」
『出発します!』
私が紫の竜翼をはためかせて竜の墓地から飛び立つと、アルテミスの操作したミスリルの流体が竜身に
「これで装備は万全、ゴーゴーゴー!」
南の防壁の上で押し寄せた異形獣の群れと戦い続ける戦士達の姿が見える。
眼下に広がるコラーナ焦土は月光でさえ浄化しきれないほどの濃い瘴気で埋め尽くされ、真っ黒に染まっていた。
『アザゼルさん!』
私は魔力を込めた竜翼を強くはためかせて加速する。
パァンと音を立てて音の壁を越えた私の周囲に円錐状の結界が展開された。
身体に重くのしかかる空気抵抗が一切なくなり、私は最高速に到達した。
高度を上げた私は一瞬でコラーナ焦土を越え、南の森の上空を真っ直ぐ飛翔した。
まだか……まだか……きた!
チカっと遠くが光ったかと思うと、ミスリルの鎧に弾かれた赤黒い瘴気のビームが斜め下に
「なんつー威力じゃ……」
「こんなもの序の口さ。まだまだくるよ」
初撃から1分もせずに再び遠くがチカッと光り、ミスリルの鎧に弾かれた瘴気のビームが天高く伸びていった。
何度も、何度も、何度も……止まる気配のない殺意の光を受け流し続けた私は、出発から5時間後にようやくカースダンジョンを目視できる範囲まで接近した。
現在時刻は午後16時11分。
本来であれば異形獣の活動が抑制される満月の夜に挑むのがベストだろう。
だけど、夜になったら外殻から顔を覗かせているカースダンジョンのダンジョンコアは月光から逃れようと身を隠してしまう。
「次のブレスが終わり次第、予定通りBチームは降下する。ミラ、着陸ポイントを確認してくれ」
『はいっ!』
言うが早いか、カースダンジョンの頂点に留まっている異形竜マグダラが瘴気ブレスを射出した。
その光がミスリルの鎧に弾かれたのを確認するやいなや、竜翼を広げて急制動を掛けた私はできるだけ頑丈そうなビルの頂点に着陸した。
「どりゃー!」
「行ってくるのじゃ」
「ミラ、死ぬなよ」
身体を
ここから先は出たとこ勝負だ。
私はビルの裏側から地上に降下する三人と距離を取るように崩れかけた都市ビルの廃墟の中を回遊しながら、デスマウンテンよりもずっと大きく育ってしまった巨大なカースダンジョンの外殻へと接近する。
真珠色の外殻の頂点より放たれた数発の瘴気ブレスを私がミスリルの鎧で受け流すと、異形の竜神はついに動き出した。
「ミラ、釣れたよ」
『分かっています!』
チラリと背後を見ると、複数の竜翼を持つ異形の竜が私を追ってきていた。
度重なる瘴気ブレスの放出で体積は大幅に減っているが、それでも私の5倍近いサイズがあるようだ。
アザゼルの障壁がないと先ほどまでの速度は出せないから、この迷路のような都市の地形を活かしてなんとか追いつかれないようにしなければならない。
「どんどん精度を増しているね。このままじゃ不味いよ」
チュンと放たれた瘴気ブレスが、背中に張られたミスリルの盾に弾かれてツタに覆われたビルを破壊した。
ミスリルで完全に守っているようでも、関節の可動域を確保する為の隙間はある。
そこを抜かれたら私も化身を
「カースダンジョンから十分に距離は取ったんだし、もう殺っちゃっていいよね?」
マグノリアが私の
『……やるしかありませんか』
「じゃあ行くよー」
そこを狙って撃ち抜けば異形獣化した
……問題は、それをマグダラが許してくれるのかということだけれど。
「うーん、グリングリン動いて照準が付けられないなぁ~……そこっ!」
ガォン、と放たれた魔道レールガンのヒヒイロカネ弾頭が異形の竜神を貫通した。
しかし当たったのは足の先っぽだ。
「うそっ、
「その傷も治っているみたい」
やはりマグダラは他の異形竜とはモノが違うようだ。
治らないはずの異形獣の肉体も、内に溜め込んだ瘴気を使って修復している。
二度、三度と致命の一撃を交わされたことで
「じゃあ、虎の子っ!」
マグノリアが狙撃銃の代わりに取り出したのは……多連装誘導ミサイル。
シュパパパパッと12の弾頭がばら撒かれたかと思うと、マグダラの周囲に飽和攻撃が仕掛けられた。
一発一発がAランク魔獣を蒸発させる火力を持つ魔道弾頭から発生した爆炎が、ビルを巻き込んで異形の竜体を包み込む。
「やったか?」
「それはフラグだよマグちゃん!」
私は決して油断していなかった。
していなかったけれど……突然の衝撃に意識が一瞬だけ吹き飛んだ。
『ぐっ!』
風を切って天高く吹き飛ばされていく私の竜体。
精神がシンクロした竜体の腹部が酷く痛む。
ミスリルの鎧を貫通した一撃が、私のお腹の中をぐちゃぐちゃに破壊していた。
これが
『速い!?』
赤い瞳から殺意を
――狙いは背中の二人か!
私がとっさに身を
天から地へ斜め下方に吹き飛ばされた私は、二つのビルに大穴を開けながらひび割れた道路へとまるで隕石のように墜落した。
耐久の限界を迎えた竜体が魔力に還元されて消滅していく。
ガランガランと音を立てて、脱ぎ捨てられたミスリルの鎧が道路に散らばった。
痛みで思い通りに動かない身体を起こした私の目に映ったのは、二棟のビルに開いた大穴の向こう側でホバリングしてブレスのチャージを始めたマグダラの姿だった。
「に、逃げて……」
私は
「駄目っ、ミラちゃんは絶対に私が守るから!」
散らばったミスリルの鎧を流体に戻したアルテミスが、持ちうる限りのミスリルを
それと同時に、マグダラの瘴気ブレスが発射される。
アルテミスの盾に弾かれた赤黒いブレスが私達の周囲を瘴気で埋め尽くす。
まだ、まだ、まだブレスは終わらない。
「うそ、私のミスリルが……」
赤と青が対消滅するかのように、アルテミスの盾がゆっくりと小さくなっている。
かつてないほどの莫大な瘴気エネルギーを受けて、絶対に壊れない性質を持つはずのミスリルが蒸発していた。
ちびりちびりと薄くなっていくミスリル、そして――。
「……終わった?」
ペラペラの薄い紙のようになったちびたミスリルだけを残して、マグダラのブレス攻撃が終わった。
「でも、詰んでるよこれ」
私達の周囲は瘴気で埋め尽くされて一歩も歩けない状態になっていた。
勝者の余裕か、マグダラはゆっくりと大穴を抜けてこちらに飛んできている。
残念なことに見逃してくれそうにはなかった。
「ごめんなさい、ギースさん。今逝きます……」
「私は十分に頑張ったよね、パパ……」
「処女のまま死ぬなんてやだー!」
私達は身を寄せ合ったまま、終わりの時を待った。
降下したマグダラの鋭い竜爪が振りかぶられ――私達のすぐそばを振り切った。
道路に大きな爪痕を残しながら地面に倒れ込んだマグダラは、ピクリとも動かなくなった。
「え……?」
地鳴りとともに地面が揺れる。
ぴしり、と音がした気がして私は振り返った。
すると都市の中心にそびえ立っていた真珠色の外殻にヒビが入っていた。
「カースダンジョンが……」
「夢じゃないよね?」
「やった、アンズちゃん達がやったんだ!」
シュウゥと音を立てて、私達の周囲を埋め尽くしていた瘴気が消えていく。
まるでこれまでのすべてが悪夢だったかのように。
何もかもが消えてなくなっていく。
「マグダラさん……」
蒸発していく倒れた漆黒の竜身から、ずるりと黒い人型が抜け出てきた。
影そのもののような、顔の見えない
彼はシュウシュウとその身を蒸発させながら私達の前までやってきて、そして地面に片膝を付いて
私は装具から愛用の薙刀を取り出した。
なんとなく、彼がそれを望んでいると思ったのだ。
「里で待つデュラさんに伝えます。
薙刀でその首元を振り切ると、スッと彼の影は消えていった。
同時に身体がズシリと重くなったような感覚がした。
きっとミスリルの首飾りではカバーできないほどの経験値減少を受けたのだろう。
それは彼がただの消滅ではなく、名誉の死を遂げたことを証明していた。
後でギルドカードを見るのが怖いけれど……下がったレベルはまた上げればいい。
大事なのは、彼から次のバトンを受け取ったということだけだ。
「さて、皆さんを探しに行きましょうか」
「それはいいけどさ、ミラはまだ化身できるの?」
「できません。でもマグちゃんは車、持っていますよね?」
「あー……うっかり忘れちゃった」
「じゃあこれからどうするんですか!?」
私がマグノリアと喧嘩をしていると、魚の下半身で地面を
「もう、二人とも喧嘩しないの。私のハムカーで送ってあげるから大丈夫だよ」
アルテミスは生み出した石の流体をハムカーの形に変化させた。
「さっすがアルテー!」
「なんですかそのあだ名……ちゃんとアルテミスかアルちゃんって呼んでください。ほら、早く探しに行きますよ」
そしてアルテミスの運転するハムカーは、激しい戦闘で崩壊したビル群の廃墟の中をPUIPUIと足音を立てながら走り出したのだった。