マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第206話 ネコミミマンション

 迷宮都市ジャスティンの探索者ギルドのロビーには、平日の真っ昼間だというのに武装した探索者の姿がチラホラと見えていた。

 

 ゴブリンと獣人種が半々くらいの割合で、そのほとんどが金属製のこん棒型魔杖(まじょう)を装備しているようだ。

 装具を使っていない辺り、普通の一般探索者といったところか。

 

 Bランク迷宮ジャスティンは宝珠の一大養殖地なので、ダンジョン内でも狭間(はざま)平原を往復する大型バスなどの公共交通機関が完備されている。

 だから気軽に探索者ギルドの近くで昼飯を食いに帰ったりできるのだろう。

 

 求人雑誌などのフリーペーパーが置かれた棚から「みるだむ ジャスティン」を取ったアンバーが俺と一緒に適当な長椅子に座って目を通している間に、ミュールは空いている受付に行ってゴブリンの職員さんに声を掛けていた。

 

「ちょっといいかにゃ?」

「こんにちハ、本日はどういったご用件でしょうカ?」

「あちしの母ちゃんの家が今どこにあるか教えて欲しいにゃ。昔、南通り三番街のXXX番地に住んでいたチュールっていう名前のワーキャットなんだけどにゃー」

 

 懐から取り出したギルドカードを提示したミュールは、母親のチュールが現在暮らしている住所を尋ねた。

 

「ええト、チュール様ですネ。しばらくお待ちくださイ」

 

 ゴブリンの職員さんがカウンターの上にある端末をちょいちょいと操作すると、奥から大きな分厚いファイルを抱えた老齢のゴブリンの職員さんがやってきた。

 

 寿命間近であろうその職員さんはぱらぱらとファイルをめくってチラシの裏に住所と簡単な地図をサラサラと書き込むと、ベリリと千切ってミュールに手渡した。

 

「どうゾ、こちらでス」

「助かったにゃ」

「またのご利用お待ちしておりまス」

 

 ベンチで待っていた俺達のところにミュールは戻ってきた。

 

「どうだった?」

「今の母ちゃん、結構イイところに住んでいるみたいにゃ」

 

 ミュールの母親のチュールはガルムに囚われていた女性達と一緒にしばらくシェアハウスで暮らした後、ワーキャットの男性と再婚したと聞いている。

 

「ミュールよ、ここはどうじゃ?」

 

 アンバーは「みるだむ ジャスティン」の飲食店紹介ページの(すみ)っこに載っていた喫茶店「ゴールドバード」を指差した。

 

「高等学校の近くにある老舗の喫茶店にゃ。夕方になるといっつも学生で混むけど、今ならいい感じに空いていると思うにゃー」

 

 なんだ、ちゃんといい店を知っているじゃないか。

 どうやらミュールがマツヤに通っていたのは探索者時代の話だったようである。

 

「じゃあ、今日はそこにしようか」

「うむ、そうするとしよう」

 

 ランチに行く店も決まった俺達は、用事も済んだので探索者ギルドを後にした。

 

 

 俺達がランチの為に「みるだむ ジャスティン」で見つけたギルド近くの裏通りにある喫茶店にやってくると、そこには思わぬ光景が広がっていた。

 

「ミュール、学生向けの喫茶店って言ってなかったか?」

「うーん、20年近く経つと変わるもんだにゃ」

 

 「ゴールドバード」は大きな吹き抜けのある二階建てのレトロな内装をした古き良き喫茶店だったのだが、店内にいる客は年配のおばちゃんばかりな上に接客していたのは頭に猫耳の生えたワーキャットのイケメン男子達だった。

 

「今どきはボーイズカフェでもしなければ食って行けぬのじゃろう」

「世知辛い世の中だ……」

 

 俺達がテーブル席に着いて開いたメニュー表を前にそんな話をしていると、お(ひや)を持ってやってきたイケメン店員にミュールが質問をした。

 

「にゃあアンタ、店主のバードマンはどこに行ったのかにゃ?」

 

 するとそのイケメンワーキャットは慣れた様子で返答した。

 

「前の店主は3年前に亡くなって、今はそのお孫さんが引き継いでいますよ」

 

 世代交代で経営者が変わった結果だった。

 

「へー、そうなのかにゃ。それで、あちしらの注文なんだけどにゃ――」

 

 次々と入店してくる女性客を見て待たされそうだと思ったのか、ミュールはチャッチャと俺達の分まで勝手に注文してパタリとメニュー表を閉じた。

 

「わしのオムライスはハーフリングサイズが良かったのじゃが……」

 

 忙しそうに注文を取りに行くイケメン店員を遠巻きに眺めながら、アンバーは小さく愚痴をこぼした。

 

「残したらあちしが食べるから問題ないにゃ」

「お主はいつもそうじゃな、少しは相手の気持ちを考えたりしたらどうじゃ?」

「もしかしてアンバーはこっちのナポリタンが食べたかったのかにゃ? ちゃんと後で分けてあげるから気にしないでも大丈夫にゃ」

「……もう、好きにせい」

 

 店員の出入りでチラッと覗いた厨房の中で地味な見た目をした若いヒューマンの女性店主がイケメン男子に囲われているところを見るに、どこかの乙女ゲーに出てきそうな逆ハー店舗経営系っぽかった。

 

 これはルート選択をミスったら大惨事なことになりそうだな、と俺はお(ひや)で喉を潤しながら適当に考えていた。

 

 それから少し待たされはしたものの、出てきた料理はデザートを含めてどれも満足のできる味だった。

 

 お値段もミュールの学生時代と変わらず良心的なままで、イケメン目当ての女性客がうるさいことを除けば素敵なランチタイムを過ごせた俺は心の中の口コミサイトに星4評価をしたのであった。

 

 

 小一時間過ごした喫茶店「ゴールドバード」を出た俺達は久々に装具から取り出した愛用のバイクに乗ってジャスティンの街中を移動した後、目星を付けていたお高めのホテルでチェックインを済ませた。

 

 本日の宿を確保した俺達が次に向かったのは、大通り沿()いの一等地に建っているネコミミマンションだ。

 

 正式名称はメゾン・ド・キャッツというのだが、街中でも目立って高い10階建てのドフス鋼筋コンクリートマンションの屋上に設置された月光発魔パネルがネコミミっぽい形になっているのでそういうあだ名が付いたらしい。

 

 最近ミスリル発魔機を導入したのか、昔見た時は翡翠色だったネコミミ部分が三毛猫っぽく塗り替えられて完全なネコミミモニュメントと化している。

 

「母ちゃんはここの最上階に住んでいるみたいにゃ」

「本当にイイところじゃん」

「新しい旦那さんは随分(ずいぶん)と稼ぎが良いようじゃな」

 

 俺達はネコミミマンションを背景に自撮りしている観光客を横目に見ながら、自動ドアを潜ってマンションの玄関ホールに入った。

 

「あちしはミュールにゃ。901号室に住んでいるチュールはいるかにゃ?」

 

 エレベーターの横に立っている厳つい警備員のお兄さん(こげ茶色の髪をしたワーキャット)にジロジロと見られながら、ミュールは受付にいるワーキャットのおばちゃんにギルドカードを提示した。

 

「ええと、チュールさんですね。ちょっとお待ちください」

 

 ワーキャットのおばちゃんは内線っぽい魔道具を操作すると、猫耳に電話口を当てて話し出した。

 

「チュールさん、ミュールさんという方がいらっしゃっていますが……いえ、確かにギルドカードは……はい、ヒューマンの男性とハーフリングの女性を連れています……はい、はい。分かりました」

 

 ガチャリと内線を切ったワーキャットのおばちゃんは俺達の方に向き直った。

 

「玄関ホールまで迎えにくるそうです」

 

 それから数分後、チーンと鳴って開いたエレベーターの扉の向こう側からチュールはやってきた。

 ミュールをそのまま老けさせた感じの赤毛をしたワーキャットのマダムだ。

 

「本当にミュールなのね……」

 

 チュールはミュールが絶対に見せないであろう優しげな表情を浮かべながら、小じわの増えた目尻に涙を(たた)えている。

 

「母ちゃん老けたにゃー、すっかりババアにゃ」

 

 そのミュールの第一声で優しげな表情は般若の面に変化した。

 

「ミュール、30にもなるというのにその言い草はどういうこと!?」

「何言ってるにゃ、あちしはまだ20歳にゃ」

 

 次元の狭間(はざま)で20代をスキップしたので、精神年齢は実際20歳である。

 とはいえ、それをチュールが知るわけもなく……。

 

貴女(あなた)が死んだと聞いて、お母さんがどれだけ悲しんだと思っているの! そもそも――」

「母ちゃんうるさいにゃ。だから帰りたくなかったのにゃ……」

 

 俺がいきなり始まったチュールの説教から目を()らすと、エレベーターの前でつっ立っていた厳つい警備員のお兄さんがちょっとショックを受けた感じの表情を浮かべていることに気が付いた。

 

 きっとチュールの普段見せている温和なイメージが崩れてしまったのだろう。

 ウチの猫娘がごめんなさいね。

 

 俺とアンバーは床に正座させられて説教を受けているミュールの後ろから、警備員のお兄さんと受付のおばちゃんにペコペコ頭を下げたのだった。

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