マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第209話 テニスの王子様

 テンカイ城は元々、悪の帝国と名高いグライズ帝国の帝城だった場所だ。

 

 ティアラキングダム建国の当時は戦禍に傷ついた街の復興の費用を捻出する為に帝国の貯め込んだ財宝のほとんどを売り払ったりしていたわけで、そんな状況で皇帝ウルフロード・グライズとの最後の戦いで破壊された城を修繕する余裕などなかった。

 

 だから最初は使えそうな場所だけを直して、国王夫妻や従者といった関係者の生活用スペースにしていたそうだ。

 

 国政を動かす行政機関や軍の練兵所などは城壁の外、王都ラブオデッサの各所に分散されそれぞれの役割を全うした。

 

 テンカイ城が現在のような煌びやかな城になったのは建国から30年が過ぎ、宰相ベネディクトの仕掛けたダンジョンパール恐慌によってティアラキングダムが強国に成り上がってからのことだ。

 

 月光教に関わりの深い投資家どもからむしり取った豊かな財源を投入して一から白亜の城を建て直したというわけだな。

 

 つまるところテンカイ城とはティアラキングダムの復興の象徴であって、ノル王家の人間が住んでいるだけの無駄にデカい家なのである。

 

 

 俺達は天井のくっそ高い城内を獣人のメイドさんに案内されて、豪華な内装をした応接室までやってきた。

 

 後ろにファルコとクロが突っ立っているジャイアントサイズのソファに三人で腰掛けて待っていると、ガチャリと奥の扉が開いてぞろぞろと数人の男女が入ってきた。

 

 フサフサのたてがみが生えたワーライオンのおっさん、オレンジ色の猫耳を生やしたワーキャットの婦人、利発そうな顔の赤茶色の猫耳をしたワーキャットの少年だ。

 ついでに黒ずくめの恰好をした護衛も五人ほど連れている。

 

 俺達がジャイアントサイズのソファから立ち上がって一礼すると、シジオウは手で制しつつにこやかな笑みを浮かべた。

 

「無理に呼び出して済まないな。みな、壮健のようで何よりだ」

「シジオウよ、お主は昔と比べてだいぶ落ち着いたようじゃのう」

「子が育てばそうもなろう。改めて紹介しよう、妻のタチバナと息子のカミエシだ」

 

 シジオウの紹介を受けた二人は一歩前に出て軽く目礼をした。

 

「こうして直接お会いするのは初めてですね、『こん棒愛好会』の皆様。以前は不肖(ふしょう)の夫がお世話になりました」

 

 おっとりとした優しそうな貴婦人に見えるが、俺はサクレアのライブ会場で見たシジオウのボコボコに腫れあがった顔面を忘れたことなど一度もないぞ。

 

「初めまして、カミエシ・ノルです。お三方は東大陸から戻られたと聞き及んでおりますが、もしやあの海賊王ギースとお会いしたのですか?」

 

 礼儀正しく喋りながらも、彼の瞳の奥からはワクワクとした感情が隠せていない。

 ここは応えてやらねばならないだろう。

 

「そうとも。俺達は東大陸の北の果てにある双子山の谷間にそびえる世界樹を守る竜人族(マムクート)の里でギース海賊団の生き残りと出会い、そして異形の魔獣との戦いで瘴気に倒れ命の(ともしび)が尽きかけていた海賊王ギースを救ったのさ」

「ハルトは最上級天使のユニエルと二人で前代未聞の大手術をしたのにゃ! いやー、アレは凄かったにゃー」

 

 ここでファルコがニヤニヤと笑みを浮かべながらネタバレをした。

 

「そんでその日の晩、お前らは長い眠りから復活したギースと酒盛りしながら世界樹の(うろ)に住むゴールデンハムマンを眺めたんだよな?」

「そんなことが……! 皆さん、もっと聞かせてください!」

 

 取り(つくろ)っていた仮面が一瞬で吹っ飛んだカミエシが年相応の表情を見せると、シジオウが後ろからがしりと彼の両肩を抑えた。

 

「待て待て、そう(はや)るものではない。今夜はサクレアとエコーも(まね)いて食事会をするのだろう? お前だけが楽しんではあの娘がへそを曲げてしまうぞ」

「そ、そうでしたね父上……。僕としたことがうっかりしていました」

 

 車上でファルコ達から色々と話を聞いているが、カミエシは幼少期にティアキン民の愛読書である「海賊王ギースの冒険記」を読んでギースファンになったらしい。

 

 ちなみにこの自伝本にはジョニーが絵本「魔道具職人(クラフター)ライザの冒険」を発表する前に描いた挿絵が使われている。

 まだ画家として未熟だった頃のジョニーの絵も楽しめる一冊なのでお勧めだ。

 

「たった今、二人も城に到着したようですね。早速、食堂へ向かうとしましょう」

 

 女性の親衛隊員に耳打ちされたタチバナ夫人に(うなが)されて、すぐに俺達はぞろぞろと応接室から出ていくことになった。

 

 

 誰が作ったのかも分からない高価そうな美術品の並んだ広い廊下を歩いていると、向かいの廊下の奥から使用人に連れられた二人のハーピィが歩いてきた。

 

 遠目でも分かるほどの美しい黄金色の羽毛は間違いようもなくサクレアのものだ。

 そして俺達を見た黄金色の羽毛をしたハーピィの少女がパタパタと走り出す。

 

「カミエシさま!」

 

 バサッと翼を振るって飛び上がったエコーがカミエシに勢いよく飛び付いた。

 お腹に鳥足を回してホールドすると、翼を首に回してギューッと抱き締める。

 

「エコー……。人前でそのようなはしたない真似は止めなさいといつも言っているだろう」

「いいえ! カミエシさまは私だけのものだということを、そこにいる泥棒猫に分からせなければなりません!」

 

 エコーはバサリと翼の先をミュールに向けた。

 

「あ、あちしかにゃ……?」

 

 他人事だと思って(実際他人事だ)アホ面を(さら)してボケーっとしていたミュールは、いきなりの流れ弾にビックリしている。

 

「僕は君以外を愛することはないとあの日に誓ったじゃないか。それをもう忘れてしまったのかい?」

「だって、カミエシさまは学園を卒業したらプロになられるのでしょう? そうしたら二人で会える時間はめっきり減ってしまいます」

 

 ティアラキングダム王立高等学校(通称ティアラ学園)でテニス部のエースをしているカミエシは、元プロテニス選手の母親から受けた薫陶(くんとう)もあって忖度(そんたく)抜きで全国大会で無双するほどの腕前を持っていた。

 

 この世界で行われるスポーツはスキルの存在もあってやたらと派手だ。

 サッカーではシュートで人が吹き飛び、野球では魔球が乱舞する。

 つまり名は(たい)を表すように、カミエシはテニスの王子様なのである。

 

「私はバードマンでカミエシさまはワーキャット。今は良くとも、同種に()かれないとどう証明できましょう……」

 

 確かエコーが12歳でカミエシが14歳だったか。

 思春期真っ只中だと色々と考えちゃうんだろうな。

 彼くらいにもなると学園内にも非公認ファンクラブくらい作られているだろうし。

 

「エコー、今だから言うよ。僕はプロになるつもりはないんだ」

「え……?」

 

 悲壮(ひそう)な表情を浮かべるエコーを抱き返したカミエシの突然のカミングアウトに、彼の将来を期待していたであろうタチバナがポカンと口を開けた。

 

「母上に気を遣ってずっと隠していたけれど、僕はテニスをするよりも絵を描く方が好きだったんだ。それも君が昔、僕の描いた(つたな)い絵を()めてくれたからだよ。……エコー、また君を描かせてくれるかい?」

「はい、カミエシさま……」

 

 ポッと顔を赤らめたエコーの頬にカミエシが軽く口づけをすると、エコーは感極まったのか白目を()いてガクリと気を失った。

 

 慣れた様子で気を失ったエコーを護衛の女性に渡したカミエシに、タチバナが客人に見せるべきではない恐ろし気な顔をして(せま)る。

 

「待ちなさいカミエシ! 貴方がプロにならないで誰がプロになるというのですか! そのようなこと、母が絶対に許しませんからね!」

「母上ならよくご存じでしょう。ティアラキングダムの王太子たる僕が死の危険の付き(まと)う戦場に立つことが許されるとお思いですか」

「ここ100年、テニスで死人が出たことなどないでしょう!」

「ですが母上は現役時代に何人もの選手を再起不能に追い込みましたよね? お得意のナパームで」

「それは軟弱なあの娘が悪かったのであって――」

 

 ただ食事会に行くだけのはずが、一体何を見せられているのだろう。

 頼りのシジオウは喧嘩が始まったと同時に尻尾を巻いて食堂に逃げ出し、ファルコとクロはやれやれと肩を(すく)めている。

 

「お久しぶりです、アンバーさんにハルトさん。そしてミュールさん」

「相も変わらず美しい羽毛じゃのう、サクレアよ」

「私もそろそろ歳なので手入れが大変なんです。いつまでも若々しいアンバーさんが(うらや)ましいですよ」

「わしはまだぴちぴちの32歳じゃから当然じゃ。そうそう、お主に少し頼みたいことがあるのじゃが――」

 

 俺達は口論を続ける二人の母子を遠巻きに眺めながら、こっそりサクレアと再会の喜びを分かち合ったのだった。

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