マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第211話 紳士の社交場

 紳士服に袖を通した俺が夜のテンカイ城の玄関先でパスカルの愚痴を聞きながら待っていると、しばらくして着飾ったシジオウがクロともう一人の黒装束の護衛を連れてやってきた。

 

「妻がいつまでも離してくれなくてな。待たせて済まないと思っている」

 

 シジオウの頬には細い引っかき傷のようなものができている。

 一体、俺を待たせてナニをしていたんですかね。

 

「誘って貰ったのはありがたいけどさ、本当に抜け出しても大丈夫なのか?」

 

 シジオウはサクレア誘拐事件でジャイアントオーブの紛失が王妃にバレて以降、厳しい夜間の外出制限を設けられていた。

 

 彼は王妃の妊娠中に「紳士の社交場に行く」と称して城を抜け出しては王都の歓楽街にある高級娼館に通っていたのだからそれも当然のことであるが……。

 

「今回は貴様が目付け役ということだ。それを忘れないでいて欲しい」

「ああ、分かっているよ。カミエシの結婚式で父親が不在じゃ困るもんな」

「冗談ではない。それは事件だぞ……」

 

 ティアキン民から世紀のぼんくら扱いされているシジオウが居なくなったところで誰も困らないというのが実情だ。

 

 俺達があの日の晩、せっかちな猫娘と出会っていなければガチでサクレア革命が起きていた可能性大である。

 

 

 本当なら夜道を散歩しながらゆっくりと会場に向かうつもりだったが、シジオウが大幅な遅刻をしたので予定を変更して黒服の運転する黒塗りのリムジン的高級車に乗って移動することにした。

 

 テンカイ城の広い敷地内を5分ほど走ってやってきたのは、なんか大きい前衛的な建物—―つまりジョニアート美術館の前だ。

 俺達が車から降り立つと建物の前で立っていた夜間警備員がビシッと敬礼をした。

 

「シジオウ様、タチバナ様の許可は取られておりますか?」

 

 国宝を守る警備員にさえシジオウの信用は皆無のようであった。

 いや、これも全部ノル王家親衛隊が彼を甘やかしすぎたせいなんだけどね。

 この父親を反面教師として立派に育ったカミエシだけが最後の希望だ。

 

「隣にいるこのハルト・ミズノが証人だ」

 

 俺がサッと懐から取り出したギルドカードを提示すると、目つきの鋭い獣人の警備員は念話でどこかとやり取りをした後に一つ頷いた。

 

「確認できました。どうぞ、お入りください」

「ご苦労」

 

 警備員を(ねぎら)ったシジオウと一緒に護衛を引き連れて、俺はジョニアート美術館に入館した。

 

 明るくライトアップされた美術館のエントランスホールには以前と変わらず、巨大なジョニーの肖像画が飾られていた。

 

 慣れた足取りで順路を進むシジオウとともに向かったのは、「魔道具職人(クラフター)ライザの冒険」の原画が飾られているギャラリーだ。

 通路を歩いていると夜間の美術館にも関わらず、(にぎ)やかな話し声が聞こえてきた。

 

 そこにいたのは眼帯を身に着けた多様な種族をした大勢の紳士達だった。

 分厚い耐魔ガラスから距離を取るように丸テーブルが置かれ、その上には高そうな酒瓶やワイングラスが並んでいる。

 

 ここはティアラキングダムの上級国民が毎週末に集う紳士の社交場。

 政治の話に花を咲かせながらライザをキメるちょっとヤバい場所である。

 

 護衛を引き連れてぞろぞろとやってきたので、眼帯を上げ下げしながらライザ成分を適度に摂取していた彼らもすぐに俺達の存在に気が付いた。

 

「おや珍しい、シジオウ様ではありませんか」

「あの醜態を晒してよくもまあ、タチバナ様の許可を得られたものだ」

「そちらのお方はどなたですかな?」

 

 当然のことながら、俺達もしっかり眼帯を身に着けている。

 ライザの原画は両目で見ると精神が侵されちゃうからな。

 

「アクアマリンのBランク探索者、ハルト・ミズノ殿だ」

「あのハムカーの生みの親の!?」

 

 小太りの政治家っぽい豚獣人(ピグレットマン)は驚きに目を丸くした。

 俺の知らない間に、どれだけハムカーは有名になっているんだ……。

 

「『こん棒愛好会』は聖都のダンジョンに消えたはずではありませんでしたかな?」

 

 事情通っぽい山羊獣人(ワーゴート)の老紳士が杖を片手にそう尋ねる。

 

「貴様らも東大陸のことは既に聞き及んでおよう。この『こん棒愛好会』こそ次元の狭間(はざま)から生還し、東大陸の世界樹に到達した唯一の探索者なのだ」

 

 ざわ……ざわ……とざわめきが広がる。

 

「そ、それは本当なのか?」

「ヒューマンの割に見た目もまるで変わっておらん。簡単には信じがたい話だ」

「詳しくお話を聞かせて貰いたいものですねぇ」

 

 胡散臭い見た目をしたワーフォックスのおじさんにシジオウが牽制をする。

 

「資料ならハルト殿からすべて預かっている。この場でいくらでも見せてやろう」

 

 それからクロが用意したフリップ(ノル王家親衛隊の人が俺から借りたネガを急いでプリントして拡大コピーしたやつ)を使った東大陸の報告会が開かれた。

 シジオウの代わりに矢面に立って受け答えをするのは当事者の俺だ。

 

「ネフライトが竜人族(マムクート)を手に入れたのは間違いないのだな」

「ネフライト王国は竜人族(マムクート)の公的権利と自治を保障しただけに過ぎません。すべては彼らの自由意志に任されています」

「何が違うというのだ! ネフライトが魔竜の力を得たのだぞ!」

「何度も言いますが、魔竜はグライズ帝国と協力関係にあった月光教によって生み出された生体兵器であって――」

 

 ティアラキングダムの国政を動かしている老練の紳士達から送られる鋭い質問に、高校中退の一般人が一人で対応するのは正直なところかなりしんどい。

 

 でも、この場では俺しかそういうことは話せないからな。

 無能のシジオウに任せたらどうなるか分かったものじゃないし、頼れる保護者のクロは俺達から話を聞いただけで当事者でも何でもない。

 

 死ぬほどやりたくない仕事だが、これもろくでもない政治家の干渉から異形獣との戦いを続ける東大陸の人々を守ることに繋がるのだ。

 遠く離れたアバロンに住むみんなの為に出来る限りのことをさせて貰うとしよう。

 

 昔に迷宮塔イーラで見たギザードの会見を思い起こした俺は、それからも頑張って政治家の真似事を続けた。

 

 

 2時間後、知りたいことを知って満足した様子で帰宅していく紳士達を見送った俺は社交会場の片付けをしている夜勤の美術館スタッフの姿を眺めながら休んでいた。

 

「面倒な仕事をさせて済まなかったな。貴様のおかげでカミエシも楽になるだろう」

 

 保証人のくせして途中で席を外してライザ鑑賞を楽しんでいた男が言うと違うな。

 俺はシジオウのぼんくらぶりを甘く見ていたぜ。

 

「探索者のする仕事じゃないよ、まったく……」

「これでお前の仕事は全部終わったんだ。それでいいじゃないか」

 

 パスカルにポンポンと肩を叩かれて励まされた。

 彼の義祖父(ぎそふ)の元法務大臣はかなりのやり手で、俺は大いに苦しめられた。

 具体的に言うと、めちゃくちゃ積極的に親戚の娘を紹介されたのがきつかった。

 

 どうやって知ったのか、砂漠の民の現地妻(シルキー)やアクアマリンの正妻(エクレア)の存在をあげつらって愛人でもいいからとねじ込んでくるしさぁ。

 

 俺の正妻はアンバーだということを強く指摘して強引に話を打ち切ったけど、そうじゃなければ俺もパスカルみたいに巨乳の地雷女を斡旋(あっせん)されていたかもしれない。

 政治の世界は恐ろしいところだ……。

 

「よし、気を取り直してジョニアート鑑賞に行くか!」

 

 アンバーと約束していた門限は当の昔にブッチしているから、今更戻ったところでもう遅い。

 それなら楽しまなきゃ損だろう。

 

 

 前回の訪問でアンバーにお預けされていた成人向けのエッチなジョニアートを思う存分鑑賞した俺は、日付が変わった後にテンカイ城の尖塔にある客室に帰った。

 

 待ちくたびれたアンバーはミュールと一緒にダブルベッドでぐっすりと眠っており、空いているベッドは一つだけ。

 ご丁寧にここを使うがよいと書置きまで残されている。

 

 ミン・ノルがジョニーに描かせたであろう「ホムヒカ」だの「セルフィ」だのといったどこかで見た覚えがある二次元キャラクターのソフトエロスな神イラストを堪能した俺は(たぎ)る性欲を持て余していた。

 

 しかし流石に今から起こすのも可哀想だったので、寝相の悪いミュールがはだけさせた布団をそっとアンバーに被せてから粛々(しゅくしゅく)と紳士服を脱いで就寝したのだった。

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