マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第214話 飛行機製作所

 フライス整備工場で働いているドワーフ達の本来の仕事はアクアマリン湖に水を引き込んでいる取水パイプの保守管理だ。

 

 アクアマリン迷宮の一層から五層までぶち抜いているごん太の取水パイプを造ったのはフライスなのだから、それも当然のことだろう。

 

 彼らが普段自動車やバイクの整備を請け負っているのはいわばただの趣味であり、腕が鈍らないようにしていただけだったのだ。

 まぁ、新人研修という意味も含まれているが……それはさておき。

 

 フライス整備工場の流れを()むフライス航空が主要都市に飛行場として使える広大な土地を確保して、100機を越える小型プロペラ旅客機を就航させることができたのはこのアクアマリン市の後ろ盾によるものが大きい。

 

 なお、銀行から多額の融資を引き出せたのはフライスがAランク探索者だからだ。

 そして軍事的価値の高い航空事業を一企業が独占的に運営できるのも、世界を牛耳(ぎゅうじ)る探索者ギルドから公企業認可を受けたからに他ならない。

 

 今のフライス航空はティアラキングダムのビースト鉄道公社やアモロ共和国のバードマン郵便と並んで国際社会すべての利益の為に運営されている。

 当然、防犯セキュリティにもそれなりの配慮を行う必要が求められたのである。

 

 

 俺達は仕事帰りの警備員ゲイルと一緒に、フライス整備工場に隣接された場所に建てられた飛行機製作所の近くまでやってきた。

 

 赤褐色をしたスタック銅合金製の巨大な格納庫の周囲に張られた、青い半透明な半円状の結界が余人の侵入を防いでいる。

 ゲイルはその結界から飛び出すように建てられた検問所の中に大声で呼び掛けた。

 

「おい、起きろフュエル!」

「うはぁ!?」

 

 ガタガタゴトン、と何かが落ちる音がした。

 俺は後ろから覗き込んでみたが、どうやらサボって居眠りをしていた守衛の天使が安楽椅子から崩れ落ちた時に出た音みたいだった。

 

 守衛室にはごちゃごちゃとした私物が散乱しており、棚に置かれた音楽プレイヤーのスピーカーからはゆっくり安眠できそうなサクレアの穏やかな歌声が流れている。

 

 こういう閑職(かんしょく)は勤務態度の優良な下級天使の休暇代わりに回されることが多い。

 余った時間を使って将来の為に勉強をしなさい、という意図がある。

 つまり彼女は探索者ギルドの幹部である中級天使に昇格する気のない残念天使だ。

 

「ゲイルさんじゃないっすか。驚かせないでくださいよ~」

 

 頭の悪そうな糸目でウルフカットのアルビノ下級天使は痛めたお尻をさすりながら、耐魔ガラスと結界越しに困り顔を浮かべた。

 

「いいから働け、三人分の入所手続きだ」

「分かっているっす。そっちの端末にギルドカードをタッチしてくださ~い」

 

 俺達は懐から取り出したギルドカードを目の前の認証端末にタッチした。

 するとアホ面の天使は自分の手元の端末を見て首を傾げた。

 

「あれれ? もう登録されているっす。しかも全員Aランク!」

 

 AランクはVIP用のフリーパス、Bランクは社員用の限定パス、Cランクは客人用の時限パスだったかな。

 要するにギルドカードさえ持っていたら自由に結界を出入りできるってことだ。

 

「しばらくはこちらに出入りするつもりじゃ。じゃからわしらの顔と名前はしっかりと覚えておくがよいぞ」

「えっとぉ、アンバーさん、ハルト・ミズノさん、ミュールさんですね。ちゃんと覚えたっす!」

 

 俺達の名前を知っても一切反応しないアホ天使は自ら無能の証明をした。

 アクアマリン迷宮を踏破したBランク探索者パーティー『こん棒愛好会』の名前は歴史の教科書の(すみ)っこに小さく載っているくらいには有名なのである。

 

「うむ、それでよい」

「じゃあにゃー」

 

 俺達は音楽プレイヤーを弄り始めたアホ天使を放置したまま検問所を突破して結界の中に侵入した。

 

 分かっていたことだが、フライス整備工場の隣に建っていたレクナムのミスリル鉱物研究所は跡形もなくなって更地になっていた。

 

 魔道学院で元気にしているとアイリスからは聞いているけど、あの豆腐ハウスが見られないのは少しだけ残念な気持ちだ。

 

 やってきた巨大な格納庫の中では、フライス航空のロゴが入っている汚れたツナギを着たドワーフ達が大きな加工機械を使って飛行機の部材を製造していた。

 ある程度は鍛冶スキルで形を整えて、残りの微調整だけが手作業のようだ。

 

「おーい! わしじゃ、アンバーじゃ! フライスはおるかー!」

 

 アンバーがいつものように大きな声で呼び掛けると、ドワーフ達は作業の手を止めて俺達の方を見た。

 新参はぺこりと会釈をし、古参は立派な髭の生えた口元を歪ませて手を振った。

 

「お前達、やっと帰ってきたか!」

 

 汚れたツナギを着た短足のドワーフが大声で叫びながら、奥から走ってきた。

 見間違いようがないほどに見慣れた、俺達の友人のフライスだ。

 彼は俺達の前で立ち止まると、私服姿のミュールを見て変な顔をした。

 

「おい、その服はなんだ?」

「ミュールの忍者装束は強敵との激しい戦闘 (テニス)でボロボロになっちゃってな……」

(あや)うく死ぬところだったにゃ」

「……そうか、大変だったんだな」

 

 俺達が行方不明になっていた11年の間、大変な冒険を乗り越えてきたのだろうと想像したフライスは悲痛な面持ちを浮かべているが、もちろんそれは勘違いである。

 面白いから訂正はしないけど。

 

「わしらはこれからゲイルと鬼の隠れ家亭に行くつもりなのじゃが、お主も一緒に飲みに行くか?」

「当然だ。……おおい! 今日はもう閉めるぞ!」

 

 フライスが大声でドワーフ達に呼び掛けると、すぐに終業の音楽が流れ始めた。

 格納庫のあちこちの壁に設置されたスピーカーから流れている、帰宅したくなるようなBGMに乗っている歌声はもちろんサクレアのものである。

 

 俺達は定時前に退社したホワイト社員なドワーフ達を連れて飛行機製作所の外まで行くと、フライスが装具から取り出した小型バスに乗り込んだ。

 

 ウィーンと音を立てて閉まっていく格納庫の巨大なシャッターを後ろに見ながら、ズボラな天使の検問所を通って結界の外に進み出る。

 

 アクアマリン市の中心部と東端のレッドラインを繋ぐ幹線道路に乗り出したフライスの運転する小型バスは、赤く色づき始める前の太陽を背に走り出した。

 今から向かえば、きっと酒場が開く少し前に鬼の隠れ家亭に到着するだろう。

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