マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第215話 実家のような安心感

 フライスの運転する小型バスに乗ってやってきた鬼の隠れ家亭。

 1年ぶりに見る懐かしい白岩石(はくがんせき)造りの三階建ての宿屋は、この11年の間に大きな変貌を遂げていた。

 

「これは……」

「おお、凄い変わり様じゃな」

 

 鬼の隠れ家亭の右隣に建っていた建物が綺麗になくなっており、その代わりに宿の酒場から続くオシャレなオープンテラスが作られていたのだ。

 

 夕暮れに照らされている日除け用の高い屋根の下に何組も並べられたテーブルと椅子の中には、ジャイアント向けの巨大なものまである。

 きっとモモちゃんのパーティーメンバーであるギリアムくん専用のものだろう。

 

「儂らは外で待っているからな」

「ああ、気を利かせたようで悪いね」

 

 外のテラス席に腰を下ろしてポーチから取り出したマイアルコールを片手に酒盛りを始めたドワーフ従業員達(鬼の隠れ家亭ではマナー違反ではない)を横目に見ながら、俺達は閉店中の表札が付いた両開きの扉を押し開けて宿の中に入った。

 

「ただいま!」

「ただいまなのじゃ!」

「あちしらは帰ってきたのにゃ!」

 

 開店直前にも関わらず勝手に入店して駄弁っていたであろう、見覚えがない若い数人の常連客の視線が俺達に注がれる。

 

 俺達の声に酒場の厨房の前にあるカウンターで何やら作業をしていた、二本角の生えた頭にバンダナを巻いてエプロン姿をしている大柄なオーガの男が顔を上げた。

 成長しても分かるその驚きに染まった顔は、まさしくタケシくんのものだ。

 

「あれぇ?」

 

 そしてポカンと口を開けてつっ立っているタケシくんの後ろからやってきた、二本角の生えた頭にバンダナを巻いたエプロン姿の大柄なオーガの女性が俺達を見て満面の笑みを浮かべた。

 

「アンバーお姉ちゃん、ハルトお兄ちゃん!」

「あちしもいるにゃ」

「ミュールちゃんも!」

 

 残念なことにモモちゃんにとってミュールはお姉ちゃんキャラではなかった。

 

「モモよ、随分(ずいぶん)と大きくなったようじゃのう!」

「すっかり美人さんになっちゃって、サクラさんかと思ったよ」

 

 モモちゃんはダッと駆け寄って、笑顔で両腕を広げたアンバーを抱き上げた。

 

「もう、みんな死んじゃったんだとばかり思ってたんだから! 約束を破ったアンバーお姉ちゃんには後で罰ゲームだからね!」

「ふがふが……」

 

 オーガの怪力でむぎゅっと抱き締められているけど、生命力の高いアンバーはなんてことのない様子だ。

 

 ……胸筋みたいなオーガ特有のおっぱいで息は詰まっているようだが。

 もうこれが罰ゲームでいいんじゃないかな。

 

「モモちゃんはCランク探索者になったって聞いているけど、今は酒場の仕事と両立している感じ?」

 

 俺がそう尋ねると、嫌々抱っこされた猫みたいに暴れていたアンバーを剛腕から解放したモモちゃんは指先を顎に当ててうーんと考えてから答えた。

 

「モモはタケシくん達と一緒に午前中の短い時間だけ麺麭屋(ぱんや)平野で狩りをしてるんだ。だって酒場のお仕事の方が大事だからね!」

 

 三層の麺麭屋(ぱんや)平野は結構危険な異界だが、タンクのギリアムくんの肩に斥候のスネヲくんを乗せておけばヒュージパンヤモールも怖くないだろうし、焼き立てのパンの匂いが全身に染みつくことを除けばいいチョイスだろう。

 

「それで、そこのタケシくんはどうして酒場の手伝いを?」

「なんか急におじさんから料理を習いたいとか言い出したんだ。小さい頃からやってるモモに比べたらずっと下手くそだからホールに回されちゃってるけど」

「ふぅーん……」

 

 俺達がニヤニヤしながら固まっているタケシくんを見ていると、彼は正気を取り戻して狼狽(ろうばい)し始めた。

 

「なっ、なんだよ。そんな目で俺を見るんじゃねぇ!」

若人(わこうど)よ、頑張るのじゃぞ……」

 

 幼い少年時代から続いたタケシくんの恋は未だに成就していないようだった。

 

「料理は下積み10年一生勉強だからね。飽き性のタケシくんには難しいと思う!」

「余計なお世話だ! 今度の今度ばかりは俺が勝つんだよ!」

 

 二人の考えている勝利条件は確実に違うだろうが、まだまだ心身ともに若い彼の努力に水を差すようなことはしたくないな。

 俺達はせいぜい近くから行く末を見物させて貰うとしよう。

 

 壁に掛けられた時計の針が17時を示すと、ボーンと音を鳴らして酒場の開店時刻を知らせた。

 

「タケシよぉ、注文ヨロシクー」

 

 駄弁っていた若い常連客グループのリーダーが手に持ったメニュー表を振った。

 

「ああ、今行く!」

 

 タケシくんはエプロンのポケットから取り出したバインダーを片手に注文を取りに行った。

 

「いっけない、開店の時間。みんなも注文が決まったらタケシくんによろしくね!」

 

 モモちゃんは宿の入口の扉に付いた表札を開店中に差し変えると、オープンテラスに続く大きなガラス戸を解放してから急ぎ足で厨房へと消えていった。

 鬼の隠れ家亭の看板娘の腕前がどれだけ上達したか、今から食べるのが楽しみだ。

 

 

 俺達がフライスとゲイルが待つオープンテラスに移動して空いていた席に着くと、店内から店主の親父さん――サワムラ氏が大きな酒樽を担いでやってきた。

 

 親父さんが手慣れた様子で店の横口の棚に設置したのは、蛇口の付いたキンキンに冷えている鬼米酒の大樽だ。

 飲み屋でよく使われている冷却術式の刻まれた業務用のタイプだな。

 

 酒場を拡張してから飲み放題制に変えたようで、テーブルに備え付けてあったメニュー表にもでかいジョッキの写真と一緒にでかでかとその旨が書かれていた。

 

「親父さん、お久しぶりです」

 

 エプロンのポケット(に隠したマジックバッグ)の中から取り出したジョッキをドワーフ達に配った親父さんがこちらにやってきたので挨拶をすると、まだ右目に眼帯を着けている彼はにっこりと笑みを浮かべて返事をした。

 

「お前さん達の部屋はそのまま残してあるからな。またウチに泊まっていくといい」

「なんじゃ、もう宿屋は辞めたのか?」

 

 モモちゃんが成長したから普通に宿の方も再開しているものだとばかり思っていたが、どうやら違ったようだ。

 

「イクコ抜きではどうにも面倒だからな、今は知り合いを泊めるくらいで丁度いいと思っている。その後のことはモモ次第だろう」

 

 テーブルの上にある店員呼び出し用の魔道具でドワーフ達から呼び出されて必死に注文の内容をメモしているタケシくんを見ながら、親父さんはバンダナを巻いた頭の後ろをポリポリと()いた。

 

「それにはまだまだ時間が掛かりそうですね」

「そうだな……。ところで、お前さん達は今日は何を食べるんだ?」

 

 おっと、確かに早めに注文しておかないと不味いな。

 開店早々に、酒場の店内の席はどんどん埋まってきている。

 

 フライスとゲイルが先に注文している間に、俺達は分厚いメニュー表をペラペラとめくって今晩のオーダーを考えた。

 

「じゃあ、俺は久々にモーニング南蛮定食にしよう」

「わしはレイクルマエビのチリソース炒めにライスを小じゃ」

「あちしはアクアマスの姿揚げを大盛りに、モモの日替わり定食にゃ!」

 

 注文を取り終えた親父さんはすぐに店内の厨房の方へと戻っていった。

 俺達はでかいジョッキにセルフで白濁した鬼米酒を注いで、それから乾杯をした。

 

『かんぱーい!』

 

 適当に冷えたジョッキを打ち付けて、ゴクゴク飲む。

 シュワシュワとした冷たい微炭酸のお酒が、渇いた喉を(うるお)していく。

 

「くぅー! これじゃこれ!」

「これを飲むと帰ってきたって感じがするにゃー」

 

 アバロンの里で飲んだ自家製のどぶろくも悪くなかったが、やはりここの鬼米酒が一番美味い……と感じるのはただの思い出補正だろう。

 

 

 それから俺達が居ない間にアクアマリンで起こった出来事を色々と聞いていたが、その中にはこういうものがあった。

 

「じゃあ、シンイチ達はもういないのか」

 

 アクアマリンの探索者事情に詳しいゲイルは箸の先で皿の上にある爆弾カニクリームコロッケをつついて転がした。

 

「確か1ヵ月くらい前だったかな。東大陸の開拓事業に応募したとかで、ネフライト王国に向かったって聞いたぞ」

 

 俺達がこの間ネフライト王国の依頼で調査した、あのAランク迷宮の周囲に作る迷宮都市に入植するということだろう。

 

 異形獣だけではなく野生の魔獣にも対応する必要があるので、最初の入植者は西大陸での活動歴がある優秀な探索者でなければならない。

 これがAランク探索者パーティー「竜牙の刃」ならば、安心して任せられそうだ。

 

「あそこの五層、二度と行きたくない最悪級の環境だったにゃ」

「おっ、知っているのか?」

「そりゃあ、俺達は東大陸帰りだからな。こう、蛍光色の毒沼が延々と広がっていて――」

 

 お酒を手に土産話に花を咲かせ、モモちゃん手作りの(とても美味い)晩御飯に舌鼓(したづつみ)を打つ。

 俺達は実家のような安心感に包まれながら楽しい夜のひと時を過ごしたのだった。

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