マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第217話 ハーフリングオーブ

 ギザード・イーラは俺達が強制招集を受けてアクアマリンを出立した4ヶ月後、月光歴2527年の7月に迷宮塔イーラのダンジョンマスターに就任した。

 

 彼がリザーブマスター就任時に発表した政策、サクレアのワールドツアーの迷宮塔イーラ招致が成功裏に終わったこともあり、海都カナンや迷宮塔イーラの住民からは好意的に受け入れられたという。

 

 500人を越える実子を持つギザードは教育関係の政策に特に力を入れており、優れた人材を集めて迷宮塔イーラ内に公営の専門学校をいくつも開校した。

 

 アザミはそんなギザードに頼まれて、魔道具職人を目指すバードマン向けの専門学校の講師をすることになったそうだ。

 

 数万人の住人を抱える世界一大きい迷宮塔だ。

 探せば魔導士(ウィザード)適性を持つバードマンもいるもので、アザミは優秀な弟子の卒業生に「マーメイドの喉笛」や「不死鳥の羽衣」といったオリジナルの魔道具やマジックアイテムの制作を任せて悠々自適な生活を送っていた。

 

 ギザード・イーラのダンジョンマスター就任からぴったり10年が経った月光歴2537年の7月、ギザードが自室のベッドで女に刺されて死ぬまでは……。

 

「ボクは変な女を連れ込むのはやめた方がいいって忠告したんだけどね。本当、馬鹿な男だよ」

 

 犯人はギザードの実子で、幼い頃に娼婦をしていた母親が死んだことで認知を受けられず海都カナンの裏社会で苦しい生活を送っていたことが犯行の動機とされた。

 

 こうしてギザードは命を落としたわけだが、これまたギザードの実子のBランク探索者ハーツ・イーラが既にリザーブマスターとなっていたので、ダンジョンマスターの代替わり自体はスムーズに行われた。

 

 実権を手にした彼女はギザードの教育政策で膨れ上がった財政赤字の改善に動き出し、その第一の標的としてアザミの魔道具工房シスルを接収した。

 

 清掃業者とのコネを使ってフェニキス族の羽毛を集めて弟子に「不死鳥の羽衣」に加工させ、五層の焔斑(ほむら)火山で活動する上級探索者相手にレンタル契約をして莫大な利益を上げていたアザミの権益を丸ごと奪ったのだ。

 

「それでボクは家無し子になっちゃったから、仕方なく実家に帰ってきたのさ」

「お前、よくそれで納得したな。ゴネたりしなかったのか?」

 

 金の亡者のアザミがやることとは到底思えない。

 俺の疑うような視線を受けたアザミは、虚空から青白く光る卵大の宝玉を取り出してにこりと笑った。

 

「お主、まさか……!」

「これはハーフリングオーブさ。アンバーの故郷……ハイランドにある野良Aランク迷宮を調査した探索者が出現品(ドロップアイテム)として手に入れて、カナンのオークションに流したんだ」

 

 何故か俺に渡されたので、試しに使ってみることにした。

 右手に握り込んで念じてみるとしゅるしゅると身体が小さくなって、アンバーと同じくらいの身長のショタに変身した。

 

「ハルトがチビになっちゃったにゃ!」

「ミュール、わしのこともそう思っておったのか……?」

「これは言葉の(あや)にゃ! あちしは小っちゃくなっちゃったって言いたかったのにゃ!」

 

 ムッとしたアンバーに詰め寄られて焦っているミュールを尻目に、俺はアザミから渡された手鏡を覗き込んだ。

 うーん、種族補正か子供時代の俺よりも10倍くらい可愛く見えるな。

 

「ちゃんとステータスも変わるよ」

 

 ダボダボになった民族服の懐から取り出したギルドカードにはこのようなステータスが表示されていた。

 

 ハルト・ミズノ 31歳 ランクB 賢者(ウォーロック) Lv72

 魔力S 筋力D 生命力D 素早さA 器用さA

 

 恐らくステータス上昇補正で死ぬほどレベルが上がりにくくなるだろうが、紙装甲だった耐久がカバーされる上に爆裂に伸びた器用さがあればマジで最強の魔導士(ウィザード)になれる可能性がありそうだ。

 

「つ、強すぎる……!」

 

 どうにか譲って貰えないかな。

 いや、流石にそれは難しいか。

 

「いいにゃー、あちしも使ってみたいにゃ!」

 

 ミュールに肩を揺すられた俺が仕方なく念じると、身体がしゅるしゅると大きくなってどこからか現れた青白いオーブが右手の中に握られた。

 

 今はゆとりのある大人用の服を着ているからいいが、子供服に着替えてから変身を解除したら大変なことになるに違いない。

 

「使うなら服装に気を付けた方がいいぞ。はいこれ、落とすなよ」

「分かっているにゃ。忍法早着替えの術!」

 

 ぼふんと白煙を上げてサイズ自動調整機能付きのスク水に早着替えしたミュールがハーフリングオーブの力で猫耳の赤毛スク水ロリータに変身した。

 

「どうにゃアマリリス、あちしの美貌(びぼう)見惚(みと)れるといいにゃ!」

「しっぽ、しっぽ~」

「ぎにゃ!? 引っ張らないで欲しいにゃー!」

 

 魔道具の整備をしているアルメリアさんに代わってアマリリスの相手を始めたミュールを見ながら、俺はアザミに質問した。

 

「それで、目的のブツはできたのか?」

 

 アザミが男娼をしてまで大金を稼いで魔法のオーブを手に入れたのは、女に変身するマジックアイテムを作る為だと聞いている。

 

「解析したから必要になる素材は分かったよ。ほとんどは手持ちで代替(だいたい)できるんだけど、一番重要な素体の入手が困難で困っているんだよね」

 

 アザミがカウンターの上に置いたチェックリストには「セイレーンの尾びれ」だの「ミュータントゴリラのXXX」だのといった聞いたこともないような名前が並んでいる。

 

 どれも名前の横にチェックマークがついているが、一番最後に書かれた名前の横だけが空欄になっていた。

 その名前とは――。

 

「8年戦争で絶滅した魔竜の魂石。ジャイアントオーブの代わりはなんとか見つかったけどさ、流石のボクもこれにはお手上げだね」

 

 アザミはあははーと笑い、両手を上げてバンザイした。

 

「アザミよ、お主はどうしてそこまでして女になりたい。お主の目的は何じゃ」

「目的って……子供を産む為に決まっているでしょ。ボクは男のままでもこんなに可愛いんだからさ、それ以外に女になる理由なんてなくない?」

 

 かなりナルシストが入っているが、確かにダークエルフのアザミは美形であった。

 そして数多(あまた)の裕福な女性を相手にしてきた彼には、ただの男には決して出せないような色香がある……。

 

「エルフの秘薬で良くないか?」

「それ、本気で言ってる?」

 

 殺気のこもった視線とめちゃくちゃ低いトーンで返された。

 アザミにとって、母親から再三に渡って言われたであろうその言葉は特大級の地雷だったようだ。

 

「ごめん、無神経だったな」

「フン、どうせボクの気持ちなんて君達には絶対に分からないさ」

 

 ()ねたアザミは椅子をくるりと回転させてそっぽを向いてしまった。

 

「ハルト」

「ああ」

 

 アンバーと一言で意思を共有した俺は、ポーチから手のひら大の小箱を取り出してカウンターの上に置いた。

 ピクリと褐色のエルフ耳を動かして反応したアザミの椅子がくるりと回転する。

 

「え、まさかこれって……」

 

 アイリスとそっくりなリアクションをしたアザミが恐る恐る小箱を開けると、中から翡翠色をしたギリーオームシルクの布に包まれた金色の竜石が姿を現した。

 

「お望みの竜石じゃ。これは東大陸に住む竜人族(マムクート)の長老から預かったものじゃが――」

「俺達の頼みを引き受けてくれるなら譲ってもいい。どうだ?」

「言っておくけど、お金はもうないよ」

「金などよい。ちいとばかり、東大陸で仕事をして欲しいのじゃ」

 

 頼みとはズバリ、アバロンの里の魔道具職人(クラフター)組合で働かないかということだ。

 俺達はアザミ (メス)をアバロンの里に送り込んでシャムロックに(あて)がおうとしたのである。

 

 選り好みの激しそうなシャムロックでも、初恋の相手(アリウム)()ならきっと満足してくれることだろう。

 

 俺はアイリスとの間に沢山の子宝を儲けるつもりだが、あのうるさいキノコ頭を自分の息子にだけはしたくなかった……。

 

「ふーん、アリウム姉さんの友達か。血筋も悪くないね」

 

 依頼の詳細を聞いたアザミは俺から渡されたシャムロックの写真を見ながらペロリと舌なめずりをした。

 ヤる気は十分なようで何よりだ。

 

「オマエら、鬼じゃないかにゃ?」

「言わなければ……分からんじゃろう」

「そうそう、知らぬが仏ってね」

 

 それから1年後に性別を転換するマジックアイテム、トランスオーブを完成させたアザミはネフライト王国が後援する東大陸派遣隊の一員となり東大陸へと渡った。

 

 のちに彼の娘のマグノリアが竜人族(マムクート)の少女ミラと探索者パーティーを組んでアクアマリンで隠居生活を送る俺達の家を訪ねてくることになるのだが、それは今の俺にはまったく知る(よし)もないことだった。

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