マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第218話 月のお姫様

 午前中を魔道具工房バタフライで過ごした俺達は、喫茶リブトンでランチを食べた後に探索者ギルドへと足を運んだ。

 

 エクレアはダンジョンマスターの仕事が終わった午後の時間をいつも暇そうに過ごしていたから、この時間であれば会えるだろうと考えてのことだ。

 

 探索者ギルドのロビーの受付で居眠りしている人魚の職員さんの鼻ちょうちんをミュールが指先でパンと割ると、ハッとした人魚の職員さんは俺達の方を見た。

 

「これは『こん棒愛好会』の皆さん。西大陸からお戻りになられたのですか?」

「ぬ? わしらはまだ西大陸には行っておらんぞ」

「皆さんはハイランドに移住したと聞いていたのですが……どうやらそれは私の聞き間違いだったみたいですね」

 

 知り合いにアンバーの故郷に行くと触れ回ってから旅に出て、それから11年も音信不通になっていたらあらぬ噂が流れるのも仕方がないか。

 

 強制召集の件は表向きなかったことになっていたわけだし、モモちゃん達が一時期信じていた死亡説も俺が持っていたハムカーの権利がエクレアに渡ったことで結構な真実味を帯びていたもの。

 

「わしらの11年間の冒険についてはまた今度、本にして出すつもりじゃ。楽しみに待っておるがよい」

「そうさせて貰いましょう。ところで、本日のご用件はどういったものでしょうか」

「それはもちろん、エクレアとの面会に決まっているよ」

「分かりました。ええと、ちょっと待っていてくださいね……」

 

 人魚の職員さんが手元の端末をちょちょいと操作すると、すぐに水路の奥から小舟を()いた人魚がやってきた。

 実はアクアマリン探索者ギルドのマーメイドで二番目に偉いナナミさんだ。

 

「皆さん、よくお戻りになられました。ささ、こちらにお乗りください」

「いつもありがとうございます、ナナミさん」

「いえいえ、これが私のお仕事ですからー」

 

 俺達を乗せた小舟は入り組んだ迷路みたいな水路の上をスーッと進み、そしてテーブルと大小一組のソファしかないダンジョンマスター専用の応接室に到着した。

 

 小さい方のソファの背もたれからメロンおっぱいをぶら下げた上半身を乗り出して小舟から降りた俺達をじっと見つめているのは、このアクアマリンのダンジョンマスター、エクレア・アクアマリンだ。

 

「なぁんだ、随分(ずいぶん)と元気そうじゃない」

「お主も変わらずのようじゃの――」

「パパ!」

 

 アンバーの言葉を(さえぎ)って、ジャイアントサイズのソファの肘掛けの裏から小柄な人魚の少女がぴょーんと飛び出してきた。

 俺が慌てて受け止めると、魚の下半身がべちゃりと民族服を水に()らした。

 

「会いたかった、ずっと会いたかったんだよ。パパ、私のこと分かる?」

「分かるさ、アルテミスだろう? 最後に見た時はあんなに小さかったのに、すっかり大きくなったなぁ」

 

 俺とエクレアの間に生まれた娘は五つ子で、どの子もエクレアによく似た透き通るような青い髪と赤い瞳をしていたので俺には一切の見分けがついていなかった。

 

 とはいえ、事前にモモちゃんからアルテミスの存在を聞いていたので余裕でパーフェクトコミュニケーションを取ることができたのである。

 

「私ね、パパに会ったら話したいことが沢山あったんだ。聞いてくれる?」

「いいとも。アルテミスの好きなもの、全部パパに教えてくれ」

 

 俺がアルテミスをお姫様抱っこしたままジャイアントサイズのソファに腰掛けると、アンバー達とアイコンタクトを取った。

 

『ごめんねみんな、ちょっと相手をする必要がありそうだ』

『わしは茶でも飲んでおるわい』

 

 アンバーはテーブルの上に置かれたティーセットで紅茶を()れ始めた。

 

『あちしは昼寝でもしてるにゃ』

 

 ミュールはジャイアントサイズのソファの背もたれの辺りにごろりと寝転んだ。

 

「アルテミス、ママはパパに用事があるんだからほどほどにしておきなさいよ」

「分かってるもん。パパ聞いて、私ね――」

 

 それから俺は小一時間ほど、アルテミスの話し相手をした。

 

 彼女は現在12歳になるわけだが、アモロ共和国の深都コーラルに留学した他の姉妹とは違い初等学校を卒業してからもずっと実家暮らしをしていたようだ。

 

 高等学校に進学するわけでもなくギルド職員になる為の勉強をするわけでもない。

 良く言えば箱入り娘、悪く言えば引きこもりのニート予備軍だ。

 

 そんなアルテミスの趣味は読書と魔道スキルのお勉強。

 どうやらエクレアが俺達の昔話をして()きつけたことで、探索者になりたいという気持ちが芽生えたらしい。

 

 現在は守り人のテトラから水属性スキルの扱い方を学んでいるようで、アルテミスはぷかぷかと空中に浮かべた水の塊をおっかなびっくり操って見せてくれた。

 

「パパ、これだけできたら私も探索者になれるかな?」

「ダメダメ、これじゃあプレーリーラットも倒せないよ」

 

 エクレアと違って姉妹と不仲なアルテミスは水中専門の探索者に向いていない。

 しかし陸上で冒険をする探索者とパーティーを組んで活動するには、まず自前の移動手段を確保する必要がある。

 

 役割は魔杖(まじょう)で火力を出す魔導士(ウィザード)とはいえ、エクレアみたいな戦闘用の浮遊ポッドは金ドブ過ぎるから大成するまでは使わない方がいい。

 じゃあ、未熟なアルテミスはどうしたらいいのか。

 

 彼女の指導をしているテトラが勧めているように、スキルで生成した物体を操ってそれで移動するのが一番だろう。

 問題は、その域に到達するまでかなりの修練が必要になるということだな。

 

「テトラは()めてくれたのに! パパにはこれができるの!?」

「できるよ、ほら」

 

 俺は水生成スキルで生み出した水の流体を、ソファと水路との間にある空間にぷかりと浮かべた。

 そしてパッパとハムマンとかハムカーとか、ライザフィギュアとかに変化させる。

 

 最後に天井まで届くでっかい水の世界樹を作り出してゴールデンハムマンの貴重な捕食シーンを再現すると、エクレアがパチパチと拍手をした。

 

「アンタ、気持ち悪いくらい上達しているわね。見世物小屋でも始めたら?」

「どうだアルテミス。パパは凄いだろう?」

 

 エクレアを無視して俺がドヤ顔すると、アルテミスは暗い顔をして落ち込んだ。

 

「うん……私が間違っていたみたい……」

 

 テトラが()()めて伸ばした鼻っ柱がポッキリ折れてしまったようである。

 まぁ、想定内の反応だ。

 

「なあに、パパも昔はそんなもんだったさ」

 

 俺はアルテミスの頭を()でると、こう提案した。

 

「アルテミス、パパは2ヵ月もしたらまた旅に出るんだ。もしよかったら、それまでの間勉強を見てあげようか」

 

 アルテミスが顔を上げると、彼女の赤い瞳の中にジョニー・〇ップ似のイケメンの顔が写り込んだ。(注:三枚目という意味)

 

「いいの?」

「もちろんだとも。アルテミスが俺みたいな凄い魔導士(ウィザード)になれるように、ビシバシ鍛えてやるからな」

「やった! 私、パパみたいになれるように頑張ってみる!」

「その意気だぞ、アルテミス。……パパはママと大事な話があるから、今日はこのくらいにしておこうか」

 

 俺は水の世界樹を水の流体に戻すと、ソファから水路まで続く水の橋を作った。

 そしてその上に、アルテミスを放流する。

 

「またね、パパ!」

「また明日なー」

 

 アルテミスは今日一番の笑顔を浮かべて水の橋から水路へと消えていった。

 俺はそれを追うように水の橋を水路に全部流し込んで綺麗さっぱり片付けた。

 

「やっと落ち着いて話ができるわね」

「ずっとアルテミスと話をして喉が渇いたじゃろう。これでも飲むがよい」

 

 ジャイアントサイズのソファから降りて紅茶を()れなおしたアンバーが、湯気を上げるティーカップを俺に差し出した。

 

「ありがとう。それでエクレア、用事って何だ?」

 

 暖かい紅茶を受け取った俺がフーフー冷ましながら尋ねると、エクレアは肩を(すく)めて首を振った。

 

「特にないわ」

「ないのかよ」

「本当はまたアンタに子供を頼もうと思っていたんだけど、2ヵ月後に旅に出るんじゃ絶対に間に合わないでしょ。アンバー、半年後にできたりしないの?」

 

 言っておくが俺は絶対にタダ働きはしないぞ。

 もしやるとしても必ずそのメロンおっぱいを自由にさせて貰う。

 ……いやでも、アルテミスの教育によくないことになりそうだから加減は必要か。

 

 ファザコンに成長した娘を見て俺は急速に父親としての自覚が芽生え始めていた。

 これじゃあファルコのことを笑えないな。

 

「半年後じゃと北国は冬に入ってしまうからのう。ハイランドと行き来するならば夏の間でなければならんのじゃ」

「魔道学院にアイリスを迎えに行く必要もあるしな。また次の機会ってことで」

「そう、分かったわ」

 

 別にそこまで期待をしていなかったのか、エクレアは普通そうだった。

 

「その代わりと言っては何じゃが、お主に特別な土産を用意してあるぞ」

 

 アンバーがポーチから取り出したのは、赤ん坊くらいの大きさをした白い芋虫—―等身大ぎりお人形だ。

 

「それ、ぎりおじゃないの!」

 

 投げ渡された等身大ぎりお人形をエクレアがキャッチすると、ぎりお人形から「ひー」と音が鳴った。

 

 ぎりお人形の顔を大きな胸に押し付けて抱き締めたエクレアがぎゅむぎゅむすると、更に「ほっし」とか「神」とか音が鳴った。

 

 これは中にシャムロック製の魔道具が仕込んであるのだ。

 ちなみに夜9時になると「久慈だよー」と言って時間を知らせてくれるアラーム機能もある。

 

「一度やってみたかったのよね。これ、どこで買ったの?」

「東大陸にあるアバロンの里で裁縫の得意な竜人族(マムクート)に頼んで作って貰った特別製じゃ。もちろん、海水の中でも使えるぞ」

「東大陸ねぇ。噂には聞いていたけど、詳しいところはまったく知らないわね。アンバー、どんなところだったの?」

「それはのう――」

 

 夕方に守り人のリコリスが呼びにやってくるまで、俺達は離れ離れになっていた時間を埋め合わせるようにじっくりと語り合った。

 

 なお、おしゃべりの途中で起き出したミュールは茶菓子だけを食べてまた就寝したことをここに記録しておくことにする。

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