マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第220話 魔導スキルのお勉強

 午前中の時間をハムカー社のオフィスで過ごした俺は、一階の社員食堂でアンバーと10メルの格安ランチ(タヌヨシは弁当持参だった)を頂いた。

 

 アクアマ出版の編集部で新刊の校正作業を続けるアンバーを残して向かったのは探索者ギルドだ。

 

 今日は午後にアルテミスの相手をする約束をしていたからな。

 これですっぽかしたら娘の好感度はデスマウンテンの山頂から奈落の底へ真っ逆さまだ。

 

 昼過ぎで人通りの少ない探索者ギルドのロビーまでやってくると、上部に大きな時計の掛けられた四角い柱の下に置かれている、白い金魚鉢型ポッドから身を乗り出したアルテミスが俺の姿を見つけて手を振った。

 

「パパ、遅いよ!」

「アルテミス、もうきていたのか。待ち合わせの時間より10分近く早いぞ」

「だって、待ちきれなかったんだもん!」

「そうかそうか。じゃあ早速だけど、ダンジョンに行こうか」

「うん!」

 

 俺はアルテミスを連れて受付に行き仮探索者登録を済ませると、ダンジョンゲートを潜って狭間(はざま)平原のダンジョン内広場から少し離れた場所まで移動した。

 

 この辺りの方角なら誰も通る人はいないし、見晴らしもいいから誤射する危険性はないだろう。

 

魔導士(ウィザード)にも色々あるけどね、まずは魔杖(まじょう)の使い方を教えてあげよう」

 

 俺は石の流体を足元から伸ばすと、遠くにプレーリーラットの石像を作った。

 ずんぐりむっくりとした身体で立ち上がって、威嚇(いかく)したポーズの大きな石像だ。

 

「でも、魔杖(まじょう)くらい私も授業で使ったことあるよ?」

「それは普通の魔弾でしょ。探索者が使うものとは全然違うよ」

 

 金魚鉢型ポッドの後ろに立ちアルテミスを抱きかかえるように腕を回した俺は、虚空からそこはかとなくこん棒に見えなくもない(あか)い長杖を取り出した。

 

「パパが後ろから支えてあげるから、構えて魔力を込めるんだ。……そう、もっと、もっとだ……」

 

 アルテミスが恐る恐る魔力を込めると、杖の先に蒼炎球が浮かび上がった。

 中にぐるぐると炎が渦巻いて、どんどん熱量を増していく。

 

「ど、どうしたらいいの?」

「あの的をよーく狙って撃つんだ。後は杖がやってくれる」

「……えいっ!」

 

 放たれた蒼炎球が放物線を描いてプレーリーラットの石像に着弾すると、ズゴゴゴゴ……と円状に爆炎が広がった。

 後に残されたのは、ドロドロに液状化した地面と余波で灰になった草地だけだ。

 

「どうだ、授業とは全然違うだろう」

「これ……本当に私がやったの?」

 

 俺はブレイズノヴァの魔杖(まじょう)を仕舞うと、困惑するアルテミスからそっと離れた。

 

「そうだ。魔力さえあれば誰でも同じ魔道スキルを扱えるのが魔杖(まじょう)の強さであり、怖いところでもある。もしもこれがダンジョンの外なら? 間違って仲間に当たってしまったら? 考えるだけで恐ろしいだろう」

 

 自分の手のひらを見つめているアルテミスに(さと)すように、俺は講義を続ける。

 

魔導士(ウィザード)は探索者の花形だけど、責任は探索者の中で一番重い。アクアマリンでも月に一人は誤射で死人が出ているし、その半数は故意によるものだ。エクレアはダンジョンマスターだから、その現場を必ず目視で確認している。パパの言っている意味、分かるよな?」

「懲罰……」

「そう、誤射で仲間を死なせた探索者は必ず懲罰の対象になる。前衛職が基本的に魔杖(まじょう)を使わないのはこれが理由だ。もっとも、魔石代の節約という意味も大きいけどね」

 

 俺はまた石の流体を伸ばして、冷えてガラス化した地面の上にプレーリーラットの石像を作った。

 

「今時の魔導士(ウィザード)は猫も杓子(しゃくし)魔杖(まじょう)頼りだ。それが悪いとは言わないけど、パパのやり方は違う。魔杖(まじょう)を使うのは必要な時だけにして、鍛えた魔道スキルの力で臨機応変に対処する。それがパパのやり方だから、アルテミスに教えるのはこっちの方になる」

 

 足元に(はべ)らせた石の触手の先っぽに金属製の穂先を付けると、シュンと細く槍のように伸ばして四方八方からプレーリーラットの石像を貫いた。

 

「アルテミスはパパのステータスを知っているよな。器用さEでどうやってこんなにスキルの有効射程を伸ばしていると思う?」

「えっと……もしかして、紐?」

「正解。魔力の繋がりを利用することで、手足の延長線上として扱っている。簡単に見えて、これがなかなかに大変なんだぞ」

 

 ちょっとでも繋がりが途切れたらその時点で操作権を失っちゃうからな。

 それだけで魔力を丸々損することになる。

 

 俺は石像を貫いていた石の触手を引き戻すと、こねて金魚鉢の形にした。

 その上に乗り込んで、アルテミスの方に向き直る。

 

「今アルテミスが使っているポッドも言ってみれば魔杖(まじょう)と同じだ。試しにちょっと追いかけっこしてみようか」

「あっ、待ってパパ!」

 

 俺が念じて浮かべた金魚鉢で逃げるように移動すると、アルテミスは慌てて俺を追いかけた。

 少しずつ、二つのポッドの距離は離されていく。

 

「ほらほら、もっと頑張って!」

「パパ、速すぎー!」

 

 アルテミスが入っている金魚鉢型のポッドはエクレアの乗っていたものによく似ているが、走る程度の速度しか出ない普通のものだ。

 ハムカーの操作で鍛えた俺のドライビングテクニックには遠く及ばない。

 

 追いかけるのを諦めたアルテミスのポッドが停止したので、俺は乗っていた金魚鉢をハムカーの形に変えた。

 

 運転席に座ってアルテミスの近くまで走らせると、助手席のドアをにゅっと開けて彼女を誘う。

 

「アルテミス、パパと一緒にドライブに行こう」

「パパ、どこまで連れて行ってくれるの?」

 

 ハムカーに飛び込んだアルテミスのポッドがスポッっと助手席に(はま)った。

 俺はPUIPUIと足音を立てながら適当に狭間(はざま)平原を走りつつ、考えを巡らせる。

 

「そうだなぁ、この際だからプレーリーラットでも見に行くか」

「プレーリーラット! 私もレベル上げしてみたい!」

 

 上目遣いでおねだりされたが、流石にそれはちょっと無理がある。

 

「魔力Sは大変だぞ、パパの時なんか初心者講習で500匹も狩らされたんだから」

「500匹!?」

「エクレアに魔弾の魔杖(まじょう)を渡されて……レベル2になるまで3時間くらい掛かったかな。アルテミスの魔力だったら最低でも15時間は掛かりそうだ」

「じゅうごじかん……」

 

 ちなみに仮登録の際に見たアルテミスのステータスは以下の通りだ。

 

 アルテミス・アクアマリン 12歳 ランクE 魔導士(ウィザード) Lv1

 魔力S 筋力E 生命力E 素早さD 器用さC

 

 ギフトホルダーのアルテミスは通常のマーメイドと比べると筋力、生命力、素早さが1ランクダウンした代わりに、器用さが1ランク、表記されていないが魔力が2ランク上がっている。

 

 とはいえ俺から遺伝した魔力の分を考えると、5%も増えていないだろう。

 悲しいかな、ギフトホルダーはアンバーみたいにプラスに働く方が珍しいのだ。

 

「まぁ、アルテミスも魔力量だけ見るなら普通の魔導士(ウィザード)が一生かけても追い付けないだけあるんだ。そのアドバンテージを活かしてひたすら鍛錬に打ち込めば、すぐにパパみたいな魔導士(ウィザード)になれるさ」

「本当かなぁ。私、1年頑張ったのに全然なんだけど……」

 

 もしかして俺、天才魔導士(ウィザード)の部類だった……?

 いやいや、そんなことはあるまい。

 

 俺にできたくらいなんだから、アルテミスだってやればできるはず。

 きっとテトラの教え方が悪かったのだ。

 

 どんなやり方をしていたのか聞いてみると、勉強のついでに1時間くらいスキルで生み出した水を操る訓練をさせていただけだった。

 やっぱりテトラの教え方が悪いじゃん!

 

「飽きずに鍛錬を続けるコツは趣味の日課に組み込むことだ。アルテミスには何か好きなものはあるか?」

「好きなもの……本かな? あと、ぬいぐるみとか」

「じゃあ試しに、石を使って適当なぬいぐるみを作ってみて」

 

 アルテミスはうーんと念じると、目の前に生み出した石をぎりおの形にした。

 昨日アンバーがエクレアに渡したお土産はどうやら彼女の手に渡ったらしい。

 俺はその隣に石で見本用のぎりおを作って浮かべ、アルテミスに比べさせる。

 

「魔力操作の練度はまずまずだけど、イメージ力が足りないな。これくらいのものは見本なしで瞬時に作れるくらいになるのが最初の目標だ」

「難しいんだから、そんな簡単に言わないでよ!」

「パパみたいに強くなりたかったら数を(こな)せ。今日から毎日、魔力が尽きるまでフィギュアを作り続けるんだ。それ、始め!」

「うー、パパの意地悪!」

 

 そう言いながらも、アルテミスは必死にぎりお人形を作り始めた。

 PUIPUIと足音を立てながら草原を爆走するハムカーの窓の外にポイポイと放り出されていく失敗作のぎりお人形達。

 

 不法投棄も(はなは)だしいが、ここはダンジョンの中だから何も問題はないのだった。

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