マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
その日、俺はアクアマリン西の工業地帯に居を構える金属卸売業者のアクアマ鉄鋼を訪ねていた。
内職で作り溜めたヒヒイロカネを売りにきたのである。
この会社の社長をしているドワーフ、クロガネと握手を交わした俺は、彼から見せたいものがあると言われて鉄鋼場の隣に建つレアメタル生産工場まで案内された。
スタック銅製の赤茶色をした大きなワンフロア工場にはフライスの考案した再生スタック銅合金自動裁断機がこれでもかと言うほどに並べられていて、切り離された板金が自動的にラインに流され、専用の魔道具でレアメタルを抽出している。
地下にも案内されたが、そこには数えきれないほどのミスリル発魔機が長い棚に設置されており、翡翠色の魔道線を通して工場内の魔道具に魔力を供給していた。
それはまるで仮想通貨のマイニングでもしているかのようだった。
「どうだ、凄いだろう」
クロガネはドワーフがよくするドヤ顔をした。
「結構な投資が必要だったんじゃないですか、これ」
「まぁな。言っておくが、レアメタル需要が多い西大陸の方はもっと凄いぞ。少なくともこの三倍の規模はある」
工業生産されたことで有り余ったスタック銅の価値はもはや紙切れよりも安くなってしまい、1本10メルだった銅の剣が今では1本1メルで売られるようになっていた。
底辺探索者にとっては朗報だったが、浮いた金は大抵酒や女、ギャンブルに消えるので大して意味はなかった。
「それじゃあ、また来年辺りにきますんで」
「おう、いつでも待っているからな」
工場見学を終えて持ち込んだヒヒイロカネの清算を済ませた俺は、横流しするだけで
今日はアルテミスと会う予定もないし、何をしようか。
アンバーは書籍化作業で忙しく、ミュールはフライス航空でアルバイト。
ハムカー映画の制作には口を出すなとソルティ氏に強く言われている。
どうしよっかなーと考えながらバイクを走らせていると、いきなり俺の進路を塞ぐようにシャっと横向きに黒塗りの高級車が止まった。
「まさかな……」
車の横に付けられている塔を模した国旗にイヤーな予感を覚えながら、俺はバイクを止めて装具に仕舞った。
後部座席のドアが開き、出てきたのは褐色肌で茶髪をした髭面の男だった。
俺を見つめるその
「帰ってきていたのなら、挨拶くらいしてくれてもいいじゃないか。つれないなぁ、兄弟」
彼の名はシャール・カーン。
ルメー首長国連邦のアクアマリン駐在大使だ。
俺がテバールの街を出立する前に、シャールにフライス
タイミング悪く遺書のようになってしまった手紙を受け取ったフライスは遺言通り俺の作り溜めたレアメタルを処分し、それを原資として砂漠の民向けの砂埃に強く整備のしやすいプロペラ飛行機を10機ほど製造してテバールの街へと送った。
本来ならば、これでテバールの街は他の砂漠の民の街との人材交流が活発になって万々歳で終わるはずだった。
しかしこの飛行機を手に入れたカーン族族長のアルマ・カーンは、あろうことか他の部族に対して侵略戦争を始めたのだ。
アデニウムが立ち上げたテバール
平安時代に未来から銃と飛行機を持ち込んだかのように、
砂漠の民の支配者となったアルマは、ルメー砂漠全土を領土とするルメー首長国連邦の建国をアクアマリン探索者ギルドを通じてギルド本部に通達すると、国民に対して探索者ギルドの誘致を行うことを大々的に宣言した。
この蛮行には流石に砂漠の民も
ただでさえしきたりを破って忌み子を生かした男が、今度は神聖なダンジョンの塔にまで手を出すというのか。
許すまじ、アルマ。
テバール在住の探索者ギルド反対派は息子のシャールと娘のシルキーを担ぎ上げ、クーデターを計画した。
そして驚くほどあっさりと成功したクーデターによって捕らえられたアルマは罪人の
こうして一応の解決は見たものの、成立した国が元のように戻ることはなかった。
それほどまでに砂漠の民が抱える血の病は深刻で、広いルメー砂漠を容易に飛び越えられる飛行機の力が必要とされていたのだ。
各部族から集められた族長会議の末、ルメー首長国連邦の君主には新たにカーン族の族長となったシルキー・カーンが
砂漠の民の吉兆を持つアルビノのシルキーは求心力とカリスマ性を持ち合わせていたから、
……ここまでのことがすべて、アデニウムの計画通りだということも知らずに。
壇上に立ったシルキーは自らの生い立ちを公表すると、これまで忌み子とされてきた子が私のように五体満足で生きていけるようにしたいと涙ながらに語った。
その為にはどうしてもこの地に探索者ギルドを受け入れる必要があるのです……そう言葉巧みにテバールの街の住人の同情を誘い、ついにはDランク迷宮テバールの管理ダンジョン化と探索者ギルドの誘致に成功した。
砂漠の民のしきたりを守る上でダンジョンマスターは
シルキーは銀行から多額の融資を引き出すと、砂漠の民の街を繋ぐフライス航空の定期便を就航させたり、あるいは街のインフラの整備などに懸命に取り組んだ。
ルメー統一戦争より10年、シルキーは砂漠の民の吉兆が真なるものであることを自らの働きを持って証明した。
「—―こうしてシルキーは名実ともにルメー砂漠の支配者になったんだ。今では人々から聖母なんて呼ばれているよ」
シャールに黒塗りの高級車に乗せられた俺は、アクアマリン西飛行場の近くに建てられたルメー首長国連邦の大使館までやってきていた。
テバールの街にあった族長の家を再現した、異国情緒あふれる木の屋敷だ。
「へー、そうなんだ」
俺は広間の床に敷かれた
「おいおい、真剣に聞いていないな? お前の妻の話だぞ?」
「妻と言ったって形だけのものだろう。あれから何年経ったと思っているんだ」
「それ、シルキーが知ったら絶対に怒るぞ……」
シルキーとの間に生まれた娘のアヤノはアデニウムの英才教育を受けてすくすくと成長しているらしいが、会いに行くつもりは毛頭なかった。
「俺はそういうことをして欲しくてお前達に飛行機を渡したわけじゃない。それを忘れないでくれとシルキーには伝えてくれ」
中央大陸で唯一、時代に取り残された砂漠の民に探索者ギルドの高度な医療を届けたいというシルキーの気持ちは理解できる。
それでも、良かれと思って与えた力が人殺しに使われたらいい気分はしない。
そして立場上、シルキーの夫とされている俺が犠牲者の親族から的に掛けられる可能性だってゼロじゃない。
砂漠の民がアクアマリンまでやってくることは滅多にないそうだが……自分から火中に飛び込むような真似は避けた方がいいだろう。
「……分かった。必ず伝えよう」
「元気でやっているならそれで十分さ。じゃあな、シャール」
俺は愛用のバイクで道路を走りながら、頭の片隅で考えを巡らせる。
シルキーについては、俺もアクアマリンに帰ってきてからそれなりに調べていた。
彼女は毎年のように他の部族の有力者の子を産んでは送り出すことによって、強固な血縁関係を築き上げている。
シャールが言うように表では聖母と呼ばれているが、その裏ではサキュバスなどと呼ばれて恐れられているそうだ。
……つまり彼女は、シモの力であの広大なルメー砂漠を支配している。
「とんでもない怪物が生まれちまったもんだな……」
俺は努めて、自らの犯した責任から目を