マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第222話 2泊3日カナンの旅

「パパ見て! あっちに渡りドードーの群れが飛んでるよ!」

「本当だ。もうそんな季節か」

 

 チューブ荒野から南に伸びる長い線路の上を高速で走るハムカー柄の魔道列車の車窓から、アルテミスは遠くの空を指差した。

 

「危ないからあんまり身を乗り出すでないぞ」

「大丈夫だって、アンバーお姉ちゃん」

 

 窓から身を乗り出していたアルテミスがボックス席の床に置かれた金魚鉢型のポッドに戻ると、ぱちゃんと水が跳ねて俺の膝枕で眠っていたミュールの顔に掛かった。

 

「うにゃあー」

 

 ミュールは寝言を言ってゴシゴシと顔を(こす)った。

 

「あっ、ごめんねミュールちゃん」

 

 残念なことにアルテミスにとってもミュールはお姉ちゃんキャラではなかった。

 

「まだかな~、まだかな~」

 

 生まれて初めてアクアマリンから出るアルテミスはワクワクした感情をその全身で表現している。

 

「焦っても早く着いたりはせんからのう、わしのようにゆっくり本でも読んでおるがよい」

 

 俺達はアルテミスを連れて、2泊3日のカナン旅行に出掛けていた。

 イクコさんにちょっとした届け物をするついでだ。

 

 本当であればギザードやアザミとも会うつもりだったのだが、残念なことに片方は天国におり片方はアクアマリンに住んでいる。

 仕方がないので、今回は家族旅行に全振りである。

 

「アルテミス、今日の修行はしないでいいのか?」

「朝にやったから大丈夫!」

 

 どうやら旅行が楽しみ過ぎて早起きしてしまったらしい。

 ここ1ヶ月の間、飽きないよう街のあちこちへと遊びに連れ出しつつ魔道スキルの鍛錬を続けさせていたが、いい感じにルーチン化しているようだ。

 

「じゃあ、またパパと勝負してみようか」

 

 俺は石の流体で土俵のミニチュア作って空中に浮かべると、その上にちょんまげ柄のハムマンフィギュアを作って立たせた。

 昔ハムマン祭りで見た、ふんふんと鼻を鳴らす動きを再現する。

 

「今度は負けないよ!」

 

 アルテミスが作ったゆるめのハムマンフィギュアが土俵の上に立って構えた。

 ノリのいいアンバーは本に栞を挟んでパタリと閉じると、審判役を務める。

 

「いざ尋常に……勝負じゃ!」

 

 両者が激突すると、発生した衝撃波がボックス席の中を吹き抜けた――。

 いや、それはただのイメージなんだけどね。

 実際には二つのハムマンフィギュアはゆっくり動いて取っ組み合いをしている。

 

 この勝負の目的は土生成スキルで生み出した物体を自由自在に操るイメージ力の強化であり、勝ち負けに意味はない。

 今は1匹だけだが、ゆくゆくはマルチタスク能力も鍛えたいところだ。

 

 俺は適度にアルテミスを勝たせてモチベーションを保ちつつ、あの手この手で半日掛かる列車旅の暇を潰したのだった。

 

 

 海都カナンの駅のプラットホームに到着した魔道列車から降りた俺達は、駅前で待機していたハーフリングタクシーに乗り込んだ。

 

 カラフルな観光タクシーは駅前に何十台も止まって客引きをしていたが、俺達が選んだのはハムカーの柄がプリントされたものだ。

 やはり、贔屓(ひいき)をするならお得意様に限るだろう。

 

「お客さん、どちらまで?」

 

 ハムマン愛好家なのだろう、運転席の近くに古ぼけたハムマンの写真を飾っているハーフリングのおっちゃん(見た目は少年)が尋ねてくる。

 

「『パイレーツオブギース亭』まで頼む」

 

 俺の左隣に座るアンバーが答えると、おっちゃんは少し困った顔をした。

 

「あそこは最近結構な繁盛をしているんだが、お客さんは予約しているかい?」

「もちろんしてるにゃ!」

「してるにゃー!」

 

 俺の膝の上に乗っているアルテミスが、助手席のミュールに合わせて笑顔で拳を振り上げた。

 

「ならいい。ちょっと遠いから、これでも聞きながらゆっくりと待っていてくれ」

 

 それから俺達は彼の推しであろうサクレアの楽曲を聞きながら、海都カナンの西にある温泉街まで運んで貰った。

 

 端末にギルドカードをタッチしてイーラペイ(海都カナンは迷宮塔イーラのダンジョンの圏内にある)でタクシー料金を支払い、大きな武家屋敷の前に降り立つ。

 俺にお姫様抱っこ状態のアルテミスは装具から取り出したポッドに乗り込んだ。

 

 夕暮れに赤く染まる和風庭園を抜けて旅館の入口にある引き戸を開いて玄関に入ると、すぐに和服を着たオーガの仲居さんがやってきた。

 

「皆様、ようこそおいで下さいました」

 

 柔らかな笑みを浮かべているのはモモちゃんの母親であるサクラさんだ。

 俺達はスリッパに履き替えて旅館の中に上がり込み、サワムラ氏がコスプレしている偽ギースの大きな肖像画の近くにある受付でチェックインさせて貰った。

 

 今回は1泊100万もメルする金鼠(ゴールデンハムマン)の間ではなく、ちょっとお高い1泊2000メルほどの棘熊(ニードルベア)の間だ。

 

 旅館のロビーには以前よりも多くの宿泊客がおり、浴衣姿で(くつろ)いでいた。

 そしてロビーの一角に設置されたガラスケースの前には人だかりができていて、パシャパシャと写真を撮影しているのが見える。

 

 あそこに展示されているのはイクコさんの収集したギースコレクションだ。

 ジョニアートなど高価な一部を除いてのものだが、それでも一般の観光客には十分に価値があるものとして映っているようだ。

 

 

 ここ1ヵ月の間に、俺達やウィリアムが中央大陸に持ち帰った東大陸の情報は世界中に広まっていた。

 

 何しろ、俺がノル王家に提供した写真――特にギースとキンちゃんのツーショット写真はギースファンやハムマン愛好家にとっては絶大な価値を持っていたからな。

 

 当然のように新聞の一面を飾ってセンセーショナルに報道されたので、「海賊王ギースの冒険記」は重版に次ぐ重版でリバイバルブームを引き起こしていた。

 

 「旅館 鬼瓦」改め「パイレーツオブギース亭」を経営するイクコさんもこれには大喜びで、期間限定宿泊料金割引セールに加えて金鼠(ゴールデンハムマン)の間に隠していたギースコレクションを引っ張り出して展示することにしたのである。

 

 おかげさまでこの旅館は猛烈に繁盛しているようで、9割引きで1泊10万メルの金鼠(ゴールデンハムマン)の間すら夏の終わりまで予約で一杯になっているそうだ。

 

 

 サクラさんに案内された棘熊(ニードルベア)の間で荷物を降ろした俺達は、夕食の前にひとまず温泉に入ることにした。

 

 ここの大浴場は男女別なので俺だけ1人でちょっと寂しい気持ちはある。

 まぁ、JCの娘(魚の下半身だが)と混浴というのもアレだしこれで丁度いいのかもしれない。

 

 マーメイドに熱い湯は健康にとてもよろしくないので、アルテミスだけは温泉水を冷ました水風呂に入っていることだろう。

 

 俺が湯治にきていたワーキャットのお爺さんと肩を並べて露天風呂で温まり、それから浴衣姿でロビーに置かれた魔動マッサージ機に座りブルブルしながらアンバー達を待っていると……。

 

「おやおや、そこにいるのはハルトさんじゃないですかぁ」

「ん?」

 

 カシャリとシャッターが切られる音が聞こえたので、俺は閉じていた目を開いた。

 するとそこにいたのは、ピンクの羽毛をしたハーピィの女だった。

 両翼で器用に一眼レフカメラを持ったその姿は、まさしくオーブリーのものだ。

 

「誰かと思えばオーブリーじゃん。何でここにいるんだ」

「何でって、取材ですよ取材。ほら」

 

 オーブリーが名刺を差し出したので見てみると、その名刺には「フリーランスハムマンライター オーブリー」と書かれていた。

 

「そっか、お前アモロ新聞社をクビになったんだっけな」

「うぐぐ……痛いところを突きますね……」

 

 オーブリーの友達のゴシップ記者がタヌヨシの不動産詐欺被害をすっぱ抜いたせいで、アモロ新聞社は定期的に広告を依頼してくれる大口スポンサーを失ったのだ。

 当然、その責任は誰かが取らないといけない。

 

「それで、東大陸帰りの時の人であるハルトさんはどうしてここに?」

「んー……」

 

 この万年金欠のアラフォー女は俺から聞き出した情報を雑誌編集部に売り込んで記事にする気満々のようだが、どうしたもんかな。

 

「どうせお前が今書こうとしているのもギース関連のネタだろう? アンバーの次の新刊を宣伝してくれるなら、特別に取材を受けてあげてもいいよ」

「新刊! 『わしとこん棒』の続編が出るんですか!?」

「出る出る、来月には出るよ。で、どう?」

「もちろん引き受けさせて頂きます!」

 

 そう言って、オーブリーは片翼でシャキッと敬礼したのだった。

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