マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第223話 ギースコレクションプラス

 偶然にもパイレーツオブギース亭のロビーでオーブリーと再会した俺は、お風呂上がりのアンバー達と合流して旅館の自室で夕食を取っていた。

 

「いやーただでさえ取材に協力して貰えるというのに、こんな豪華な晩御飯までご馳走になれるとは本当にありがたいですねぇ」

 

 金鼠(ゴールデンハムマン)の間と同じくらいの広さがある畳敷きの和室の食卓の前で、オーブリーは片翼で器用に持った箸で懐石料理に舌鼓(したづつみ)を打っている。

 

 彼女はこの旅館でも最低ランクの水餅(スライム)の間で素泊まり(それでも通常500メルはする)の予定だと聞いたので、どうせならと夕飯を(おご)ることにしたのだ。

 

 経済的にそこまで困窮(こんきゅう)しているわけではないようだが、せっかく高級旅館まで取材にきて安いプランで済ませるのは勿体(もったい)ないだろう。

 

「このお刺身、私好きかも!」

 

 ビキニの上から浴衣を羽織っているアルテミスは、青白く発光する謎の刺身をパクパク食べて満面の笑みを浮かべた。

 

 普段は小食な彼女でも、好物のお魚だけは別腹のようだ。

 いや、魚嫌いのマーメイドなんて聞いたこともないけどね。

 

「アルテミスは魚が大好きだもんな。ほら、パパの分も食べていいよ」

「いいの?」

「もちろんだ。成長期なんだから、好きなだけ食べなさい」

「ありがとう、パパ!」

 

 俺が人魚姫相手にパパ活に(はげ)んでいると、あらかた懐石料理を片付けた頃になってようやく待ち人が現れた。

 

「よう、元気かい?」

 

 部屋の入口の障子(しょうじ)を開き大股でズカズカと畳を踏みしめてやってきたのは、海賊服を着た大柄なオーガのおばさん――パイレーツオブギース亭の名物女将、イクコさんだ。

 

「イクコよ、今日は随分(ずいぶん)と遅かったのう」

「こうも客が多いと忙しいったらありゃしない。猫娘の手を借りたいくらいさ」

 

 そう冗談を吹かしながら、イクコさんは畳にズンと腰を下ろした。

 今回は腰の袋から鬼米酒の瓶を取り出したりはしない。

 なぜなら、これから非常に大事なやり取りをする必要があるからだ。

 

「それで、例のブツはどこだい?」

 

 座布団から立ち上がったアンバーは、壁際に置いてあったオーガが横になれそうなくらい大きな長い木箱を持ってきた。

 

「できるだけ努力はしたがのう、あやつと交渉するのは大変じゃったぞ」

 

 イクコさんは腰の袋から取り出した白い手袋をつけると、木箱の蓋を開けて中身を(あらた)める。

 

 巨大な木箱の中には、海賊王ギースの私物が保護材に梱包された状態で詰め込まれていた。

 

「うほぉ、こりゃあ……最高だね」

 

 度重なる異形獣との戦闘でボロボロになったお古の海賊服に、刃が欠けた大斧。

 愛用の酒杯とか、ギースが描いた東大陸のダンジョンマップに航海図など。

 「Pirates of Geese」と書かれたギース直筆のサイン色紙まである。

 

 ちなみにギースのサインはハムマンの意匠が組み込まれていて結構かわいい。

 

「こ、こ、これが全部ギースのものなんですか!?」

 

 口では驚いているが、オーブリーは冷静にパシャパシャと一眼レフカメラで開封の様子を撮影している。

 

「そうじゃ。わしらが東大陸から持ち帰った一番のお宝じゃな」

「むーん、そこまで興奮するものなのかにゃ?」

「そりゃあするだろうさ、何しろ本物であることが保証されているんだからな」

 

 どんな業界であれ、有名人のグッズには贋作(がんさく)が付き物だ。

 大枚叩いて手に入れた美術品(ジョニアート)が偽物であることなど珍しくはない。

 だからこそ、蒐集家(コレクター)にとって本物であることは何よりも尊ばれるのだ。

 

「うん、状態も完璧だねぇ。本当に良くやってくれたよ」

 

 俺達はイクコさんから教わった竜人族(マムクート)や東大陸の情報にめちゃくちゃ助けられたからな。

 オークションで売れば億は下らないだろうが……これくらい安いものだ。

 

「これは明日にでもロビーのショーケースと金鼠(ゴールデンハムマン)の間に展示させて貰うとしよう。いやぁ、アイツらの驚く顔が目に浮かぶよ」

 

 ギースファン仲間に自慢できると嬉しそうに巨大な木箱を肩に担ぎ、部屋から出ていこうとするイクコさんに俺はちょっとした疑問をぶつけてみた。

 

「イクコさんはギースに会いに行ったりはしないんですか? Aランク探索者ならアバロンの里への渡航許可も得られると思いますが」

 

 考えてもいなかったのか、イクコさんの動きがぴしりと固まった。

 そして、少しの間を置いて彼女はこちらに振り返った。

 

「……いくらギースが好きだと言っても、アタシは旦那のことを愛しているのさ。ほら、浮気は良くないだろう?」

 

 にやりと笑みを浮かべたイクコさんは、そう言い残して部屋から去っていった。

 

「それってどういうことにゃ?」

「一度会ってしまえば心が揺らいでしまうくらいには、ギースのことが好きだということじゃろうか」

 

 その姿は容易に想像できるが、それを口にするのはよくない気がした。

 

「いや、どちらかと言うとイクコさんなりの照れ隠しじゃないか? じゃなきゃ玄関に親父さんの肖像画を飾りっぱなしにしたりはしないだろうし」

「ふむ……愛じゃな」

 

 うんうん、そういうことにしておこう。

 

「パパ、変なおばさんだったねー」

 

 12歳の少女にとってはパイレーツオブギース亭の名物女将も変なおばさんでしかなかった。

 

「イクコさんはアルテミスのお祖母(ばあ)ちゃん――プリメラ・アクアマリンの元パーティーメンバーだからね、あんまりそういう言い方はしない方がいい」

「そうなの?」

「今のアクアマリンがあるのも彼女の活躍があってのものだ。何事も、先達(せんだつ)(うやま)うものだよ」

 

 Aランク探索者パーティー「アクアマリーンズ」特攻隊長の名は伊達じゃない。

 俺がプリメラさんから聞いたイクコさんの武勇伝をアルテミスに話していると、ふとオーブリーが必死にメモを取っていることに気が付いた。

 

「オーブリー、これは記事にするなよ」

「えぇ、ダメですかぁ?」

「ダメ。イクコさんを怒らせたら、記事を載せた出版社の編集部が物理的に吹き飛ぶことになるからな……」

 

 俺が遠い目をすると、オーブリーは無言でパタリと手帳を閉じたのだった。

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