マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第224話 アルテミスと姉妹

 上手く息ができなくて苦しい。

 全身に重くのしかかる重圧。

 まるで布団が一枚の岩になっているかのような……。

 

「って、アルテミスか……」

 

 悪夢から目覚めた俺が薄明かりの中で目を開くと、人魚の少女が布団の上を横断するように転がってスヤスヤと寝息を立てていた。

 どうやら、アルテミスの寝相はミュール並みのようだ。

 

 ……いや、普段の彼女はアクアリウムの海水の中で眠っているからかもしれない。

 少なくとも、慣れない環境でも熟睡できているだけ上々といったところだろう。

 

 俺はアンバーとアルテミスを起こさないようにそっと布団から抜け出すと、浴衣を嫌に湿らせている寝汗を流す為に朝風呂へと向かうことにした。

 

 オートロックで締め出されたら困るので、ちゃんとギルドカードを持っていることを確認してからハイテクな障子=ドアを開いて廊下に出る。

 魔道行燈(あんどん)に照らされた夜明け前の薄暗い廊下を歩いてロビーへ。

 

 俺はロビーのショーケースに展示されているギースコレクション(昨日の今日でもう飾られていた、サイン色紙とか価値の低いものだけだが)の隣に立つ夜勤警備員のお兄さんにぺこりと会釈(えしゃく)をしつつ、大浴場の男湯へと足を運んだ。

 

 昨日は家族連れの宿泊客で騒がしかったが、今は夜明け前ということもあって大浴場には誰もいなかった。

 

 ちゃっちゃと身を清めた後、岩で囲われた湯舟の中央に置かれた大きな岩に背中を預けて肩までしっかりお湯に浸かる。

 こうやって広い露天風呂を一人占めするのも悪くないな。

 

 俺は朝日が昇るまでのんびりと温泉を堪能してから、アンバー達を起こしに部屋へと戻ったのだった。

 

 

 アンバー達と食堂のバイキングで朝食を取ったらいよいよお出かけの時間である。

 俺達は「みるだむ カナン」を片手に観光へと乗り出した。

 

 今日の観光ルートは魔導列車の中で決めていたが、移動の足は必要だ。

 ということで、昨日貸し切り契約を交わしたハーフリングタクシーのおっちゃんに案内をして貰いつつ、海都カナンの観光名所を巡る。

 

 月光教の異端審問から生き残った古い神社(多分御神体がハムマンだったのが理由)や、ベリアルが設計したというオーガの豪商が住んでいた古屋敷。

 

 カナン歴史博物館でちょっとした体験型アトラクションを交えたお勉強もしつつ、お腹が空いたら釜めし専門店「かまめしどんFC(ファンクラブ)」でお昼を頂く。

 午後は海上に建てられたグンシモールカナン南店でショッピングだ。

 

 深都コーラルに隣接したこの辺りの商店ではマーメイド向けの商品が多く売られている。

 ……むしろ、海水に強いマーメイド向けの商品しかない。

 

 じゃあコーラルに建てろよと思わなくもないが、そこは従業員の雇用の関係とか色々とあるのだろう。

 

 半分水没した広いショッピングモールの1階(満潮の時は完全に水没するらしい)を楽しそうに泳ぐマーメイド達を横目に見ながら、水着姿の俺達はウィンドウショッピングを始めた。

 

 アクアマリンのマーメイド向け高級デパート「蘭丹(らんたん)」では見ないような珊瑚(さんご)を素材に使った珍しい小物が多くて、眺めているだけでなかなかに楽しい。

 

 アルテミスがエクレアにお土産を買いたいというので、俺達は良さげなぬいぐるみを売っている店がないか探し回ることにした。

 

 ユースト産の生乳を100%使っているという売り文句のアイスクリームを食べたりしつつショッピングモールを巡っていると、3階の真ん中辺りに小さなホビーショップを発見した。

 

「アルテミスよ、これはどうじゃ?」

「あちしはこっちの方がいいと思うにゃ!」

 

 二本の角が生えているオーガオクトパスの大きなぬいぐるみを頭の上に持ち上げたアンバーと、リアルで美味しそうなデメキンメダイのぬいぐるみを抱えるミュール。

 

「うーん、どっちにしようかな」

「どうせなら両方買っちゃおうよ」

「パパ、こういうのは一つじゃないとダメなの!」

「そ、そうか……好きにしなさい」

 

 最終的に、アルテミスはオーガオクトパスのぬいぐるみをチョイスした。

 触腕の感触がぷにぷにで気持ちいいというのが選んだ理由だそうだ。

 

 俺がレジ前で料金を支払って買ったぬいぐるみをポーチに仕舞っていると、いきなりアルテミスがポッドの中にぽちゃんと沈んだ。

 

「ん?」

 

 ポッドの中を覗き込んでみると、彼女は頭を抱えて目を閉じているようだ。

 

「にゃにゃ、閉じこもっちゃったにゃ」

「いきなりどうしたのじゃ?」

 

 俺達がアルテミスの謎の行動に困惑していると、浮遊椅子に乗ったマーメイドの少女達がやってきた。

 

「あれー? これアルテミスのポッドじゃない?」

「本当だ。どうしてここにいるんだろうね」

 

 アルテミスと同年代くらいの二人組で、赤い瞳の色が彼女とよく似ていた。

 二人とも、ビキニの上からオシャレな薄手の羽衣を着ている。

 

「おーい、出てこーい」

 

 彼女達はポッドの中に指先を突っ込んでアルテミスの頭をツンツンし始めた。

 この遠慮のない感じ、家族特有の距離感だ。

 

「やめなさい、アルテミスが嫌がっているじゃないか」

 

 それまで眼中になかったのか、彼女達は俺の発言でようやく俺達の方を見た。

 

「誰? おじさん」

「おじさんて。血縁上の父親の顔くらい覚えておけよ」

「……父親?」

 

 不審げにジーっと俺の顔を見つめた少女は、思い出したのかポンと手を叩いた。

 

「あー、そう言えばなんか居たね。ハルトとか言ったっけ」

「そうそう、めっちゃ魔力高い人。あざっす、おかげ様で人生楽ショーで超助かってまーす」

 

 ノリが軽いっていうか、都会のギャルかよ。

 コーラル留学の悪影響が出ているのか……?

 いや、JCなんて普通はこんなもんか。

 

「ねーねー、ママ元気にしてた?」

「上級探索者だからお金持っているんでしょ? どっかで(おご)ってよー」

「お、おい……」

 

 俺が両側から(まと)わりついてきたJCにどう対応していいか分からず困っていると、ポッドからバシャンと水音を立ててアルテミスが顔を出した。

 

「私のパパから離れて! デメテル、ヘラ!」

 

 おっと、アルテミスはドリルみたいにした石の触手をポッドの周囲に(はべ)らせて臨戦態勢だ。

 

「わっ、アルちゃんが怒った!」

「何? 雑魚の(くせ)にアタシ達とやる気?」

 

 二人は浮遊椅子から跳ね上がって俺から距離を取ると、空中に浮かべた水の流体に潜り込んだ。

 しかも装具から取り出した、シードフス合金鋼製のトライデントまで構えている。

 

 一触即発の気配。

 にらみ合う三者を見て、レジにいるヒューマンのおばちゃんがビビっている。

 しかしここで、スク水アンバーが両腕を前に組んで三人の間に仁王立ちした。

 

「やめんか三人とも、ここは公共の場じゃぞ。それとも、わしの百叩きが希望か?」

 

 見た目がちびっ子でも、上級探索者の持つ気迫(きはく)は本物だ。

 二人の少女は気が削がれたのか、すぐにトライデントを装具に収めた。

 

「教官じゃあるまいし、百叩きはカンベンして欲しいね。行こっかヘラちゃん」

「ちぇっ、せっかく楽しめると思ったのに。ママにシクヨロー」

 

 二人は水の流体に乗って背後にある大きな吹き抜けの手すりを飛び越え、1階を満たしている海水の中に飛び込み遠くへと去っていった。

 ミュールは手すりから下を覗き込んで、ぽつりと言葉を(こぼ)した。

 

「行っちゃったにゃ……」

 

 俺は「お騒がせしました」とレジのおばちゃんにペコペコ頭を下げてから、アルテミスの方に向き直った。

 

「アルテミス、ちょっとこっちにきなさい」

 

 石の触手をくたりとさせてしょんぼりしているアルテミスを連れて、俺は吹き抜けの近くにあるベンチまで移動した。

 その隣にアンバーがちょこんと座る。

 

「ごめんなさい、パパ……」

「アルテミスはパパが他の()に取られちゃいそうで嫌だったんだよな」

「うん……」

 

 アルテミスが姉妹に対してコンプレックスを持っていることは知っていたが、ここまで過剰に反応するとは思っていなかった。

 

 父親としてはここで一つ説教をするべきところだろう。

 でも、弱っている娘を追い詰めるような真似はしない方がいい気がした。

 甘いと言われそうだけど、ここは飴を与えておくべきか。

 

「アルテミス、おいで」

 

 ポンポンと膝を叩くと、アルテミスはのそのそとポッドから()い上がって膝の上に座った。

 俺はいつもアンバーを相手にしているように、優しく抱きしめて語り掛けた。

 

「嫌なことに立ち向かうのには勇気がいる。アルテミスのやり方は間違っていたけど……パパは嬉しかったよ」

 

 アルテミスは腕の中から、不安そうに俺の顔を見上げた。

 

「私のこと、嫌いにならない?」

「ならないさ」

 

 アルテミスは自分のお腹の上にある俺の両手をぎゅっと掴んだ。

 肌から伝わるマーメイドの体温はひんやりと冷たい。

 

「よかった……」

 

 俺達はアルテミスが落ち着くまでしばらくベンチで休んで、それから屋上の駐車場で待っていたハムカータクシーに乗って旅館に帰ったのだった。

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