マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

227 / 288
第227話 とあるエルフ貴族の同人小説

 書店で貰ったハムカーの紙しおりを挟んでぱたりと本を閉じた俺は、活字を読んで疲れた目を癒す為に指先に魔力を込めて目頭を揉んだ。

 これをやっておくと視力が落ちるのを防ぐことができる……そんな気がする。

 

 もちろんそれはプラシーボ効果だ。

 視力が落ちても医療スキルで治せるし、最悪再生スキルもあるからな。

 この世界の眼鏡は大抵の場合、何らかの付加価値があるマジックアイテムである。

 

随分(ずいぶん)と熱心に読んでいたようじゃが、その本はそんなに面白いのかのう?」

「分かりやすく(まと)められていていい感じなんだけど、ちょっと挿絵が多すぎるかな。これならいっそのこと漫画で読みたかった」

 

 俺は前の座席の背に付いたミニテーブルの上、昼食として配られた機内食(アクアマスフライ弁当)の下に敷いていた分厚い本の背表紙を指先でつーっと()でた。

 

 「ハムマンで学ぶネフライト王国史」の挿絵は、デフォルメされたハムマンが登場人物のコスプレをしている現代ではよく見る画風だった。

 

「漫画……って何じゃ?」

 

 ほっぺたに鬼米の粒をくっつけているアンバーは割り箸を片手に首を傾げた。

 そういえば、この世界にはまだ漫画が存在しないのか。

 

 ミン・ノルもジョニーに性癖を詰め込んだ絵本なんて描かせてないで、漫画を普及させたらよかったのに。

 

 500年もあれば絶対、日本でも読んだことのないような名作漫画がいくつも生まれていたことだろう。

 

「こう……コマを割ってな、効果線で人の動きを演出したりするんだ。吹き出しを使えば会話も表現できる」

 

 俺は弁当と本を横によけて、適当な紙に簡単な1ページ漫画を描いてみた。

 地の底を()う器用さをカバーする為に、石の触手に持たせたボールペンでしゃっとやる。

 

 腹ペコで巣穴から顔を出したキンちゃん、ぎりおを沢山捕まえて頬袋に詰め込む、頬袋が巣穴につっかえて困る、それをいきなり登場した俺 (メアリー・スーかよ)が指摘して、お礼にぎりおを分けて貰う、俺はそのぎりおを腹ペコミュールに売って大金持ちになったのでした、完!

 

「ふむ。内容はともかくとして……確かに絵本よりも表現の幅が大きく、小説よりも読みやすいようじゃ。これはお主の故郷で流行るのも頷けるのう」

「機会があったら人を雇って『わしとこん棒』のコミカライズでもさせてみる?」

「そうじゃな、それもええじゃろう」

 

 旅に出たばかりなのに早速アクアマリンに帰ってやりたいことが増えてしまった。

 まぁ、まだまだ人生は長いのだから気長に考えるとしよう。

 

 アンバーが俺の描いた素人1ページ漫画を大事そうにファイルに収めているのを横目に見つつ、俺は手に取った割り箸をぱちんと2つに割った。

 それじゃあ、いただきまーす。

 

 昼食後、エコノミークラス症候群(この世界では夜行バス症候群と呼ばれている)対策に軽くストレッチをした俺は、キリのいいところで中断していた読書を再開することにした。

 

 

 クラッスラによって発明された魔道具は中央大陸に住む人々の文明を飛躍的に発展させた。

 豊かさは人々に余裕を与え、その余裕は人口の増加と生存圏の拡大に繋がった。

 

 魔石を求めて積極的にダンジョンで魔物を倒せば倒すほど、人は力を得る。

 中央大陸には多くの迷宮都市が築かれ、そのうち複数の都市を束ねる君主が生まれた。

 

 ネフライト王国は初代国王ネフライトの時代より、学問を探求する者の目指すべき聖地として知られていた。

 

 世界樹の(ふもと)にある城、すなわち魔道学院には人類の英知を信仰する数多の種族が集い交流を交わし、遠い未来を見据えた。

 

 魔道学院の近郊にあるダンジョンの周囲には魔石や資源を採取する労働者の為の小さな拠点がある程度で、人もそこまでは住んでいなかった。

 

 しかし今よりおよそ4500年前に大霊山(後のデスマウンテン)の地下深くを首都とするドワーフの国、ポゴスタック帝国が独自に開発した魔道技術の力—―人工ゴーレムによるもの――によって中央大陸に点在する国々を支配すると状況は一変した。

 

 皇帝ポゴ・スタックの命によって、大霊山の(ふもと)に広がる大森林に住むエルフ達の集落が襲撃を受けたのだ。

 植民地化した国々でも同様に布告が成され、大陸中でエルフ狩りが始まった。

 

 栄華を極めた帝国の皇帝がなぜ、このようなことをしたのかは分からない。

 統一帝国史を研究する専門家の話によると、メル硬貨の製造にエルフの生まれ持つ多くの魔力を必要としたというのが最も有力な説だとされている。

 

 確実に言えることは、ネフライト王国とポゴスタック帝国の関係は大陸統一より以前から非常に険悪だったということだ。

 

 それは世界樹由来の素材の国外への輸出が完全に停止され、1000年以上も昔から魔道学院に滞在していた古参のドワーフが国外追放されるほどだった。

 

 命からがらエルフ狩りから逃げ延びたエルフ達は、ポゴスタック帝国に対して強硬な鎖国体制を敷いたネフライト王国の庇護(ひご)を求めて北の果てを目指した。

 

 しかしながら研究者の聖地である魔道学院には大陸中のエルフを食べさせていくだけのキャパシティが存在しない。

 

 世界樹の結界の守りからあぶれたエルフ達は、仕方なく魔道学院近郊のダンジョンの周囲に入植した。

 

 ネフライト王国のバックアップによって魔道学院ほどではないが強固に守られた城塞都市で暮らし始めたエルフ達は、力を求めてひたすらにダンジョンへと潜った。

 ポゴスタック帝国の手で家族を連れ去られた彼らは復讐と奪還を誓っていたのだ。

 

 2000年の時を生きるエルフの執念は連綿とした血脈に受け継がれ、その研鑽(けんさん)の末に現代におけるネフライト王国のエルフ貴族家は誕生した。

 

 南東の国境を堅守する、魔道具制作に()けたアズライト家。

 南西の国境で魔導士(ウィザード)を養成する、魔道技術に()けたパイライト家。

 北東の迷宮都市で斥候(スカウト)を養成する、弓技に()けたルベライト家。

 北西の迷宮都市でエレメンタルを狩る、魔力に()けたフローライト家。

 

 その中でもこの四大貴族家はとりわけ優秀な人材を輩出することで知られている。

 

 彼らは当時ネフライト王国を治めていた女王の命によって結成した国防組織、護り手(ガーディアン)の一員となりポゴスタック帝国が次々と繰り出す新型ゴーレム兵器との戦いを続けていた。

 

 これから語られるのは、この時代に生まれたとある二人の男の恋物語である――。

 

 

 ページをめくり幕間(まくあい)を越えると、いきなり薬師コスのハムマンボーイと軍人コスのハムマンボーイによる濃厚なBL展開が始まって、俺は自分の目を疑った。

 

「こ、これ歴史の勉強をする為の本じゃなかったのか……?」

 

 パラパラとページをめくって続きを流し読みしてみたが、そこから先はどのページの挿絵もコスプレハムマンが乳繰り合っている、ある種の前衛的な同人小説と化していた。

 

 奥付を確認してみると、出版社名は空白で著者名には達筆な筆跡でローズ・パイライトと記されていた。

 どうやらどこかのエルフが自費出版した書籍が書店の棚に紛れ込んでいたようだ。

 

「絶対、途中で筆者の趣味が混じって脱線したやつだろ……」

 

 内容的に、どうもエルフの秘薬の開発秘話を解説したかったらしいが……。

 最後のページが薬師ハムマンと軍人ハムマンがそれぞれ赤ん坊ハムマンを抱えているイラストで〆られていて、もう何と感想を述べたらいいのか分からなかった。

 

「なんじゃ、どうしたんじゃ?」

 

 アンバーがこそっと耳打ちするように尋ねてきたので、俺はジェスチャーを踏まえてざっくりと現状を説明した。

 

「なるほど、お主はハズレを引いたのか。それはツイてなかったのう」

「なまじイラストの出来がいい分、落差が辛くてね……」

 

 パラパラとめくって内容を確認したアンバーは、ぱたりと本を閉じた。

 そして俺に作者名の書かれていない表紙を見せびらかすようにフリフリと振るう。

 

「要らぬなら、これはわしが貰ってもええか?」

「いいよ、もう好きにして……」

 

 意気揚々と「ハムマンで学ぶネフライト王国史」を最初から読み始めたアンバー。

 俺は新しい本を読む気が失せたので、通路を挟んだ向こう側でぐーすかイビキをかいているミュールに(なら)って昼寝をすることにしたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。