マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第231話 ようこそ魔道学院へ

 無茶をして腰をいわしたローレルが前線基地の医務室に搬送されたことでギガンティックタイタン埋没地の見学が爆速で終了したので、俺達はまたオスプレイみたいなジェット輸送機に乗せられてネフライト王国内を移動していた。

 

 護り手(ガーディアン)第一特務部隊所属の若い軍服の男—―ピンクブロンドの長髪が(まぶ)しいイケメンエルフのフェンネル・フローライトの話では、彼らは元々俺達を魔道学院まで送迎する為に派遣されてきたそうだ。

 

 だからまぁ、本当に寄り道だったんだな。

 前線基地までの移動でロスした時間もおおよそ2時間くらいだ。

 

「ウチの長官が迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ない。あの人も悪気があったわけではないんです」

 

 フローライト家は代々、魔力を増やすことに心血を注いでいる奇特な家系である。

 だからこそ、稼働に搭乗者の魔力が大量に必要な魔道アーマーの運用を任されているのだろう。

 

「面白いアトラクションではあったけどさ、あんなやり方で本当に安全に処理できているのか?」

 

 一章で登場した厄介な中ボスの初見殺しも、ギミックを完全に理解しているとその辺のダンジョンにいる雑魚敵みたい倒せたから楽しかった。

 俺達もこの3年で随分(ずいぶん)と強くなったものだ。

 

「普段は安全マージンを確保しつつ複数人で囲んで叩いているので……問題が起こったのは今回が初めてです」

「確かにそれが一番だよな」

 

 アイリスが重機と称したように、あの魔道アーマーは現在ギガンティックタイタンを処理する為だけに使われている。

 

 装具にギリギリ入るサイズとはいえダンジョンに持ち込むには大きすぎ、強大な魔獣を倒すには費用対効果が悪すぎる。

 時代が時代なら戦争に使われていたかもしれないが、今はとっても平和な世界だ。

 

「ちなみになのじゃが、あの機体の修理費用は一体いくらかかるのじゃ?」

 

 アンバー、ナイス質問。

 それは俺もちょっと気になっていた。

 

「シャイニングフローライトの修理費用はざっと2億メルほどになるでしょうか。始末書の内容的に上からの予算は降りてこないので、恐らく大半は長官の懐から出ることになるかと……」

 

 お遊びで壊して貯金も退職金も全部パー。

 実家に帰ればフローライト家を束ねる大奥様からの大目玉は間違いなし。

 老い先短い爺さんの余生は非常に(わび)しいものになりそうだ。

 

 

 ネフライト王国内を真っ直ぐに北上した輸送機は、お昼頃になって王都ネフライト――魔道学院近郊にある道路脇の平地に着陸した。

 

 ここに俺達を降ろした理由はただ一つ。

 世界樹の結界を管理している王族の許可を得ていない状態だと、俺達だけ結界にぶつかってミンチより酷い状態になってしまうからである。

 

「ここが魔道学院か……」

 

 仕事を終えて飛び去る輸送機を見送った俺達は、世界樹の結界に合わせた形をした低い城壁を持つ円形の城塞都市――その中心地にそびえるネフライト城を眺めた。

 

 天高く伸びる翡翠色の大木を背にした、黒くそれでいて気品のある豪奢(ごうしゃ)な城の周囲には高さの違う沢山の塔が林立している。

 

「ついにここまでやってきてしまったのう」

 

 あの太い塔の一つ一つが、魔道学院に所属する学者に与えられた研究棟。

 学部によって塔のサイズはピンからキリまであるが……その中でも一番大きな塔を使用しているのがアイリスの所属する魔道工学科だ。

 

「これに比べたらテンカイ城なんて屁みたいなものにゃ」

「ミュール、屁は言い過ぎだよ」

 

 言葉には魂が宿るのだ。

 自分の母国を(けな)すのは良くないよ。

 

「ゲップみたいなものにゃ」

「変わってねぇ……」

 

 俺は矯正することを諦めて唯一の出入口に向かって道路を歩き出した。

 アンバーと手を繋いで歩調を合わせ、その後ろをミュールがついてくる。

 今は6月の中旬、冬は厳しい北国もポカポカとした温かい陽気でいい散歩日和だ。

 

 10分ほど歩くと、俺達は世界樹の結界から張り出した城門の入口に到着した。

 すると閉じられていた木製の大扉がギギギと音を立てて二つに割れて、その向こう側に一人分の影が現れる。

 

「ようこそ、魔道学院へ。歓迎しますよ」

 

 挨拶をして優しい微笑みを浮かべたのは、肩に白いハムマンを乗せている黒髪碧眼の華奢(きゃしゃ)なエルフ、ウィリアム・ネフライトだ。

 

 エルフは寿命が長いのでネフライト王家直系の王族は結構な数が居るのだが、今回は俺達の顔見知りということで案内役に選ばれたのだろう。

 

「ところで皆さん、到着予定時刻はとうに過ぎていますが……何か問題でも起こりましたか?」

 

 どうやら輸送機で俺達を迎えにくることだけは伝えられていたようだが、その先のことまでは報連相が行われていないようだった。

 

「ローレルのやつに南の国境まで連れ回されてしまってのう。お主は知っておるか? ピンクブロンドで髭の長い爺さんじゃ」

「ああ、またあの人ですか……」

 

 またって言ったな今。

 これまでどれだけ問題を起こしていたんだ、あの爺さん。

 大事な国防組織なんだからもうちょっと人材には気を遣って欲しいものだ。

 

「ウィリアム、ここの世界樹の結界に入る為には何か手続きが必要か?」

「もう登録は済んでいますから、通っても問題ありませんよ」

「そっか、じゃあ遠慮なく」

 

 大丈夫らしいので、俺達は床に引かれた結界の範囲を示す線を越えて城門の中へと踏み込んだ。

 

 城壁の向こう側には、アズライトの城門の中から窓越しに見たような石造りの古風な城下町が広がっていた。

 

 外縁部にガラス張りのネフライト式農業用温室がずらっと並んでいたり、魔道機械の試作研究をしている巨大工廠(こうしょう)がドカンと建っていたりもするが……それを除けばイメージ的にはハリー〇ッターのホグズミートみたいな感じだろう。

 

 昼食時だからか、大通りを歩いている人はほとんどがローブを着ている学生だ。

 その種族は様々だが、若々しい見た目をしているのはエルフや長命種ばかり。

 

 短命種は入学するのも一苦労、卒業するのも一苦労だから仕方がないのだが。

 とはいえ一度でも入ってしまえば魔道学院の在学中は生活費が国から支給されるので、学生のまま生涯を終える者もそれなりにいたりする。

 

「城へ案内する前に、ひとまずランチに行きましょう」

「ほほう、どこのお店に行くのにゃ?」

「友人が近場でカフェを経営していまして。ほら、あそこです」

 

 大通りから少し外れたところにある、2階建ての古民家の1階にそのカフェはひっそりと収まっていた。

 小さな木の扉に取り付けられたプレートには「Hamu’s Cafe」と書かれている。

 

 ハムマン愛好倶楽部の会員証を扉に取り付けられたカードリーダーにスッと通して開錠したウィリアムに続いて店内に入ると、そこにはかわいいハムマンが思い思いの場所で(くつ)いでいる楽園が広がっていた。

 

「ほう、ここはハムマンカフェか。随分(ずいぶん)とオシャレじゃのう」

 

 ハムマン達は入店した俺達に気付くと、とっとこ走って足元にすり寄ってきた。

 ウィリアムはしゃがんで、ちょっとブサイクなハムマンの頭を優しく()でた。

 

「ここにいる子達はみんな、ハムマン愛好倶楽部が保護した捨てハムなんです」

「そうなのか?」

 

 確かにちょっとブサイクかなとは思ったけど……。

 自分の都合だけでペットを捨てるなんて、けしからん連中もいたものだ。

 

「この子も心ない飼い主に虐待を受けたことでずっと心を閉ざしていましたが、ようやくここまで元気になりました。私はハムマン愛好倶楽部の活動を通して、こういった子が生まれないようにしたいんです。……到底、無理な話だとは分かっているのですけどね」

 

 物寂しそうな雰囲気を敏感に感じ取ったのか、肩の上のスノーハムマン (相棒のスオミー)がウィリアムのほっぺたに頬ずりをした。

 ウィリアムはスオミーの顎下を指先で()でながら立ち上がった。

 

「すみませんね、お客様にこのようなことを……」

「お主は良くやっていると思うぞ。理想を口に出すだけの輩が多い中、きちんと自分の信念に(もと)づいて動いておる。その想いはいずれきっと、世界中に広がるじゃろう」

「励ましてくれてありがとうございます、アンバーさん」

 

 ちょっとしんみりしちゃったが、俺達は気を取り直してテーブル席に着いた。

 備え付けられていたメニュー表にはハムマンモチーフの凝ったパンケーキやパフェなどの写真が並んでいる。

 

 どれにしようか相談しつつ軽食とデザートをオーダーすると、カフェのオーナーをしているエルフのお姉さんがすぐ目の前にあるダイニングキッチンで調理スキルを駆使してパパパッと作ってくれた。

 

 ウィリアムから東大陸の近況を聞きつつ、出来立ての美味しいふわふわパンケーキに舌鼓(したづつみ)を打つ。

 

 こうして俺達は隠れ家風の会員制ハムマンカフェで、ちょっとブサイクなハムマン達がたわむれる姿を眺めながら優雅なランチタイムを過ごしたのだった。

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