マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第232話 学院長の依頼

 統一帝国時代に行われたエルフ狩りによって大陸中のエルフが移住してくるまで、ネフライト王国は単純な研究機関として存在していた。

 

 だからこそ、初代女王クラッスラの代よりこの国の主導者は政治よりも研究者としての資質を強く求められた。

 

 具体的には世界樹の雫—―服用者に無限の魔力を与えるエルフの霊薬—―を作れるだけの並外れた薬学技術を持ち得る者だけがこのネフライト王国を継ぐ資格を手に入れる。

 

 世界樹の結界を管理するだけなら血統を守るだけでいい。

 だから伝説の薬師が遺した秘伝スキルを失いたくないというのが本心だろう。

 

 再生スキル(しか)り、優れた才を持つ特定の人物にしか扱えない特別なスキルというものはこの世界にいくつも存在する……。

 

 人は生まれつき適性が違うわけで、イーラのダンジョンマスターの如く当たりを引くまでネフライト王家の子供ガチャは続けられる。

 

 若かりしラグラス・ネフライトが家出をしたのは、そんな国の国主となることを(うと)んだのが理由だ。

 

 まぁ、伝説のゴールデンハムマンを求めて世界中を冒険するギースの強い輝きに惹かれたというのもあるが。

 むしろ生粋のハムマン愛好家のラグラスにとってはこっちが本命かもしれない。

 

 それはともかく……俺達がこれから面会するのは世界の最先端をひた走る魔道学院の学院長であり、アルメリアさんの恩師でもあるネフライトの女王だ。

 

 シジオウなんかとは比べ物にならないくらい偉い人なので、絶対に失礼のないようにしなければならない。

 

 

 城下町の中心地には高さの違う太い塔の林立した城—―魔道学院が建っており、その背後にある広い中庭には樹高数百mはあろうかという巨大な翡翠色の大木がそびえ立っている。

 

 遠目に見える世界樹の太い枝の上には、巨大な(はさみ)を持ったエルフの姿があった。

 

 彼らが剪定(せんてい)した世界樹の枝はミスリル発魔機や魔道バッテリー、魔道線や魔道回路などに加工され、採取した葉はマジックポーションや魔道インクの原料に利用されているのだ。

 

 俺達はウィリアムと一緒に、午後の講習を受けるローブ姿の学生達に混じり魔道学院の中へと入っていった。

 

 1万年前に建てられた世界最古の城の名残が残された天井の高い広い廊下を歩いてやってきた学院長室の大きな扉を、ウィリアムがコンコンとノックした。

 

 ギィと音を立てて勝手に開いた扉を潜ったウィリアムに続いて部屋に入る。

 部屋の中はラグラスの研究室を数倍広くしたような感じになっていた。

 

 鼻をつくのは様々な薬品の香りが入り混じった複雑な香りだ。

 部屋のあちこちに置かれたプランターに植えられた色とりどりの薬草が殺風景な部屋を美しく彩っている。

 

「あっ、きたきた。みんな待ってたよー」

 

 部屋の奥にある向かい合わせのソファで、艶やかな長い黒髪を背に流した美しい白衣のエルフとお茶をしていたアイリスが笑顔を浮かべてこちらに手を振った。

 俺達がソファの近くまでやってくると、白衣のエルフはにこりと薄く微笑んだ。

 

「『こん棒愛好会』の皆さん、魔道学院へようこそ。私が学院長のプロテア・ネフライトです」

「初めまして、ハルト・ミズノと申します」

「わしがアンバーじゃ。よろしくのう」

「あちしがミュールにゃ」

「どうぞ、お席にお掛けください」

 

 俺達がアイリスのそばに座ると、ウィリアムはプロテアの隣に腰掛けた。

 ジャイアントサイズのソファもこういう場面だと役に立つな。

 4人で並んで座ってもまだまだ余裕がある。

 

「わしに用があるとアイリスには聞いておるが、理由を説明して貰えるかのう?」

 

 アンバーが尋ねると、プロテアは早速とばかりに本題に入った。

 

「ネフライト王国は西大陸に新たな世界樹を植えようと考えています」

「新たな世界樹じゃと……?」

「はい。我々は協議の末、その候補地としてアンバーさんの故郷、ハイランド高原のダンジョンW442-Aを選定しました」

 

 プロテアがテーブルの上に手のひらを差し出すと、虚空から化粧箱が現れた。

 俺達の方を向いてひとりでに開いた化粧箱の中には、翡翠色に輝くこぶし大の種子が収められている。

 

「ラグラスが竜人族(マムクート)の協力を得て採取し、ウィリアムが持ち帰った世界樹の種子。ネフライトの世界樹から採取された種子は使い道が厳密に決められていますが……これならば外部に持ち出すことも可能です」

 

 千年に一度しか実を付けない世界樹の種子は世界樹の雫の原料だ。

 世界樹の雫は世界樹の結界の維持に使う古代魔法陣に魔力を供給したり、あるいは有事に国家を守る為に使われている。

 

 ダンジョンマスターシステムが完成する以前はネフライト王国内でスタンピードの恐れがあるダンジョンを枯らす際にも世界樹の種子は使われていたそうなので、あんまり在庫に余裕がないのだろう。

 

「皆さんにはこの世界樹の種子をダンジョンコアに植え付ける手助けをして頂きたいと思っています」

「なるほどのう、そのついでにわしを使ってハイランドの住民を説得したいというわけじゃな」

 

 テーブルに並べられた資料に書かれた非管理ダンジョンの位置はアンバーの故郷であるハーフリングの里の近場にあった。

 このダンジョンを生活の糧にしているハーフリング達にとっては死活問題だろう。

 

「世界樹の枝の需要が高まっている昨今、アバロンの世界樹の発見は非常に喜ばしいものでした。しかし、異形獣の存在を甘く見ることはできません。我々は可能な限り将来を見越して、新たな手を打っておきたいのです」

 

 ここでミュールが一つの疑問を(てい)した。

 

「わざわざ遠くまで行かなくても、その辺のダンジョンに植えたらいいんじゃないのかにゃ?」

「ミュールちゃん、世界樹が成木に育つにはいくつもの厳しい条件があるんだよー。それを満たすのはつい最近Aランクに成長したこのダンジョンだけってこと」

「ふーんにゃ」

 

 ミュールはどうでも良さそうにテーブルの上に置かれていた茶菓子をパクついた。

 

「ところで、この依頼の報酬は何が貰えるのかのう?」

「Aランクダンジョンの踏破補助における成果報酬として、Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』に1億メル。加えて……こちらを提供する用意があります」

 

 プロテアがことりとテーブルに置いたのは美しい装飾が施されたガラスの小瓶だ。

 香水瓶より小さなその瓶の底には、翡翠色に輝く液体が少しだけ入っていた。

 って、これって……。

 

「世界樹の雫じゃないか……!」

「ハルトさんは錬金術スキルの開発者とお聞きしました。(わず)かな量ですが、ミスリル製の武器を作るには十分なものでしょう」

 

 なるほど、これを使ってミスリルのこん棒を作れってことだな。

 アンバーの方をチラリと見て意思を確認した俺は、姿勢を正してからこくりと頷いた。

 

「引き受けましょう」

 

 この案件にアイリスが関わっている以上、元より断るつもりなど一切ないのだ。

 

「ありがとうございます。移動の足は用意しておきますので、明日の朝には出発できるよう準備をしておいてください。ウィリアム、客室まで案内を」

「はい、母上」

 

 こうして俺達は、ネフライト王国を統べる女王から新たなクエストを受注することになったのだった。

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