マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
ウィリアムに魔道学院内の客室—―学会に
夜までの暇つぶしに城下町の観光へと出かけたアンバーとミュールを送り出した俺は、アイリスと一緒に魔道学院内の事務所に向かい錬金術スキルの使用許可を得る手続きを行う。
必要書類はアイリスが事前に用意してくれていたので、俺はやたら物騒な内容の書かれた同意書にサインして受付のエルフさんに提出した。
それから書類の処理と許可証の作成が終わるまで、しばらく近くのベンチでアイリスとおしゃべりだ。
「—―そこで、間一髪のところでアンバーが間に合ったんだ。後は姿を現したライトニングエレメンタルをミュールの背に乗って追いついた俺がポジトロンシューターで撃ち抜いておしまいさ」
「第一特務の人、修理費用いくらって言ってた?」
「2億メルだって。……これ、本当?」
「大事な魔道回路は操縦席の近くに収めてあるから……大体200万メルくらいじゃないかなー」
「そうなのか?」
「多分、ローレルさんにお
「そっかぁ……」
それにしたって百倍は盛り過ぎだな。
「ハルト・ミズノさーん」
おっと、受付の人に呼ばれてしまった。
俺はベンチから立ち上がると、事務所のカウンターに向かった。
「こちらが特定魔道技術資格の使用許可証となります。ギルドカードに紐づけてありますので持ち運ぶ必要はありませんが、再発行は行わないので大切にしてくださいね」
受付のエルフさんに顔写真の付いた運転免許証みたいなカードを渡された。
俺は受け取った許可証をポーチから取り出したカードケースに収めた。
中級医療免許と一緒で、ある種のコレクターアイテムだな。
「ありがとうございます」
俺は受付のエルフさんにお礼を言うと、ベンチで待つアイリスのもとに戻った。
「用事も済んだし、レクナムに会いに行くか」
「そうだねー。レクナムさん、きっと小躍りして喜ぶと思うよ」
「容易に想像できるな……」
この想像を現実にする為に、俺達は事務所を出て魔道学院内の入り組んだ広い廊下を歩き出した。
事務所にやってくる間もそうだったが、廊下ですれ違う学者や学生はみんなアイリスに対して敬意というか、畏怖を持っているように見える。
まぁ、それも分からない話ではない。
アイリスは在学中から様々な術式開発で革新的な成果を上げていたし、単位取得と飛び級を重ねて18歳の若さで魔道学院を首席卒業したのだ。
その後は2年間レクナムの研究室に所属し、ニュークリアフュージョンの術式化に成功したことが認められてアイリスは魔道工学科の教授に就任した。
史上最年少の20歳という若さでネフライト王国の実質的な支配層まで上り詰めた彼女の機嫌を損ねればどうなるかは火を見るより明らかだ。
つまるところ、魔道学院の教授とはそれだけの権威を持つ存在なのである。
俺達は長い廊下を歩いて、目的地の鉱物学科の塔の近くまでやってきた。
渡り廊下の先に伸びる塔の高さはこれまで見た中で一番低い。
元々マイナーなジャンルの鉱物学科な上に錬金術スキルの運用には非常に高い魔力値が必要ということもあって、世界のエネルギー事情を塗り替える発見をした割には扱いが悪いようだ。
俺達が解放されていた塔の入口からエントランスに入ると、入口近くに設置されたエナジーバーとエナジードリンクの自販機(ネフライトペイ決済で買える食事にズボラな学者のお供)で買い物をしていたエルフ女子研究員に声を掛けられた。
「こんにちは、アイリス教授……そこにいるのはもしや、あの伝説の探索者ハルト・ミズノではありませんか!?」
アバロンの里にいた時にアイリスから聞いたのだが、レクナムが会う人会う人にやたらと俺のことを持ち上げて話すものだから、俺は変な感じに有名になっていた。
異界より現れし
彼はアクアマリンのダンジョンマスターと砂漠の民の女王を妻にしているという。
パーティーメンバーは全員ハルト・ミズノの女で、その上あの
なんという
そんな感じの恥ずかしい逸話が魔道学院で広まっていたので、俺はアイリスとは別の意味で男子学生からは畏怖の視線を、女子学生からは軽蔑の視線を受けていた。
否定しようにも、どの噂も間違ってはいないから困る。
「はい、俺がハルト・ミズノです……。それで、レクナムは居るかな?」
「教授なら午後の講義中です。もし宜しければ私がご案内いたしますが……」
両腕にエナジーバーとエナジードリンクを抱えた状態で言われてもな。
「あー、いや、なんか忙しそうだし。アイリスに頼むよ」
「そ、そうですか。それでは私はこの辺りで……」
上階へ続く階段からそそくさと逃げるように去っていくエルフ女子研究員の背中を見送った俺は、塔の1階にある講堂の扉を音を立てないようにそーっと開いた。
50人は
黒板の前で身振り手振りを交えながら講義をしているのは、波打つ細い金髪を肩まで流して丸眼鏡を掛けた白衣のエルフだ。
「—―ダンジョンにおける鉱物探査はこれまで探知スキルに頼っていました。しかしこの手法にはスキル使用者の知識量と熟練度によって調査結果が変動してしまうという大きな欠点が――」
残念なことにレクナムの講義を聞いている学生はたったの8人しかいなかった。
7人がローブを着た髭面のドワーフで(髭にリボンを付けた女子もいる)、その中にピンクブロンドの髪――フローライト家出身のエルフが1人だけ混じっている。
「(アイリス、もしかしてこれで全員か?)」
「(うん。これでも増えた方なんだよ?)」
俺達は一番後ろのテーブルの下に隠れて、こっそりレクナムの講義を聞きながら内緒話をしていた。
なんか邪魔するのもアレかなと思ったので……。
「(ちなみにだけど、アイリスは魔道工学科でどれくらいの学生を相手に講義をしているんだ?)」
「(多い時で大体500人くらいかなー)」
「(桁違いだ……)」
俺はこんなに人気な教授を
いや……今更引けはしないのだ、行くとこまで行っちまおう。
「—―はい、今日の講義はここまでになります。次回は『考古学における都市鉱山の役割』についてお話ししますので、歴史に興味がある方は受講してくださいね」
それから20分ほどでレクナムの講義は終わった。
ノートを脇に抱えた学生達が次の授業を受ける為に講堂を退出する姿を隠れたテーブルの下から見送った俺達は、頃合いを見計らってスッと立ち上がった。
「レクナム、久しぶりだな」
俺が声を掛けると、講義の後片付けに念動スキルで浮かせた黒板消しで板書を消していたレクナムの動きがピタリと固まった。
そして恐る恐る……と言う感じで振り返った彼は俺を見て満面の笑みを浮かべた。
「ハルトさん!」
黒板消しを放り出して小走りでやってきたレクナムと、俺は深い
念の為に言っておくが、ただの親愛でそれ以上の意味はない。
「今日到着されたのですね。しばらくはこちらに滞在されるのですか?」
「そのつもりだったんだけどなぁ、明日から仕事で西大陸だ」
「ごめんねー、レクナムさん」
「そうですか……」
レクナムはちょっぴり残念そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直した。
「それでは、限られた時間を有効活用するとしましょう。ハルトさん、研究室に行きますよ!」
俺はレクナムに塔の中を案内して貰った。
2階を占拠する歴代の鉱物学者が収集した鉱物標本(レクナムの研究所にあったものの数倍はあった)を一通り見学して、それから3階の研究室で他の教授や研究員と挨拶をする。
元々鉱物学科の人間はダンジョンの鉱物資源探査を引き受けることで研究費を稼いでいたこともあって、上からそれなりに予算が降りてくるようになった今もそちらに力を入れているらしい。
彼らには魔道工学科と共同開発したという掘削用の魔道具や地質調査用の魔道具を嬉しそうに自慢された。
それはきっとアイリスのコネによるものが大きいだろうけど……良かったね。
レクナムからは錬金術スキルを習得したミスリル技術者についての話も聞いた。
これまで10人のエルフに指導したらしいが、ミスリルを製作できるほどの練度を持つ
その子の名前はコツラ・フローライト。
例によって魔力量のバカ高いフローライト家の出身で、レクナムの結婚相手だ。
いわゆる政略結婚というものらしいが、夫婦仲はそこまで悪くないようだ。
「後学の為に、ハルトさんの錬金術スキルを私の弟子に見せては貰えないでしょうか?」
天才肌のコツラと違って他の弟子は昇華20回の壁を越えられず伸び悩んでいるので、俺に手本を見せて欲しいらしい。
「いいよ、一からやる?」
「はい、できれば……」
ということで、俺達はレクナムが呼び出した弟子エルフ達(コツラ以外は魔道学院の学生ではなかった)を連れて鉱物学科の塔の外にある実験棟まで移動した。
レクナムの透明なプロテクションの中から見学している弟子エルフ達の前で、俺は真空ガラス瓶も使わずに生成した液化水素から昇華を始めた。
現在の魔力量は35万ちょっとあるので、アバロンの里で違法入手したマジックポーション原液をがぶ飲みしていけば支配下のミスリルを一度に35gは作れる。
俺は25回の昇華の末に完成したミスリルを自在に変形させて作った総ミスリル製のペーパーナイフを見せびらかし、レクナムみたいにショボいものしか作れないだろうと舐め腐って見ていた弟子エルフ達の度肝を抜いていい気分になったのだった。
どちらかと言うと劇薬扱いのマジックポーション原液をガブガブ飲んでいることにドン引きされていた気もするが……それは多分、気のせいだろう。