マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第235話 陰キャエルフを連れて西大陸へ

 翌朝、食堂で魔道学院名物のさして美味しくないヴィーガン定食を頂いた俺達は、軍服を着た緑髪のエルフの男——彼は第二特務部隊所属のバジル・ルベライトと名乗った――に城下町の外縁部にある軍事基地まで案内された。

 

「『こん棒愛好会』の皆様には、こちらの輸送機に乗って西大陸のハイランド高原まで向かって貰います」

 

 そこには俺達が魔道学院にやってくる時に乗ったオスプレイっぽいジェット輸送機が3機も鎮座していた。

 

「お主ら、正気か? 西大陸には竜種がわんさかおるのじゃぞ」

 

 西大陸は開拓された迷宮都市の周辺を除いておおよそ魔獣の楽園になっているので、中央大陸のように空を飛んで移動するのは推奨されない。

 

 不用意に縄張りの上空を通過なんてしたら、飛竜の群れと鬼ごっこをするのが関の山だ。

 だから普通は専用の船で海路を行くか、キャラバンを組んで陸路を行くかになる。

 

 西大陸の空を自由に移動できるのは上級探索者で編成されたバードマン郵便の特別便とか、高レベル天使で編成された探索者ギルドの定期便くらいなものだ。

 

「皆様が心配される気持ちもよく分かりますが、我々はリスクとリターンを考えた末に空路で向かうことに決めています。何しろ、移送の最中で要人に『脱走』されるようなことがあっては困りますからね」

「『脱走』……?」

 

 言葉のニュアンス的に、俺達を指しているようには感じられない。

 

「ええ、脱走です。……おっと、どうやら確保ができたようです」

 

 俺達がバジルの視線を追って振り返ると、いつものスク水姿で腰にベルトポーチを身に着けたアイリスと並んで、執事服を着たトカゲ頭のドラゴニュートの男が丸めた大きな布団を肩に担いで歩いてくるのが見えた。

 

「待たせちゃってごめんねー、見つけるのに時間が掛かっちゃって」

 

 困り顔のアイリスは両手を合わせてぺこりと軽く頭を下げると、ちろりと小さく舌を出した。

 

「のうアイリスよ、そやつが肩に担いでおるそれは何じゃ……?」

 

 恐る恐るアンバーが尋ねると、アイリスの代わりに執事服のドラゴニュートが答えた。

 

「こちらはメリーベルお嬢様……新たな世界樹の管理者となる王族の末娘です」

「それで、こっちの執事がディヴレスさん。この国で一番強い歴戦のタンクだよー」

「私はただ古株なだけですから、現役のAランク探索者の方がよほどお強いですよ」

 

 そう謙遜(けんそん)しながら、ディヴレスは紐でぐるぐる巻きになっている布団を輸送機の中に放り込んだ。

 

「ぐえっ」

「今、何か聞こえたにゃ」

「おっと、起こしてしまいましたか」

 

 起こしてしまいましたかって。

 

「既に出発予定時刻は過ぎています。皆様も早くお乗りください」

 

 腕時計を見ているバジルに催促(さいそく)された俺達は慌てて輸送機の中に乗り込んだ。

 その場にいた全員が乗り込むと、すぐに扉が閉まって輸送機は空の旅に出発した。

 

 

 V字の隊列を組んで高速で飛翔する3機の輸送機の魔道ジェットエンジンが生み出した騒音が機内に小さく響く中、6人の男女は向かい合わせの座席に適当に腰掛けて床に無造作に転がる布団を見つめていた。

 

「誰かぁ~助けてください~。ここから出してぇ~」

 

 縛られた布団がグネグネと動いているが……誰も彼女を出そうとはしない。

 

「もうそろそろ、いいんじゃないですか?」

「そうだねー……」

 

 アイリスはあんまり乗り気じゃない感じで、布団を縛っていた紐をほどいた。

 すると、広がった布団の中から現れた脂ぎった黒髪がもじゃっと広がった。

 

「うぇっ……こ、ここ、ここは一体どこなんですかぁ~!?」

 

 ハムマン柄のパジャマを着た美形のエルフを限界まで芋臭くした感じの陰キャエルフは、輸送機の小さなガラス窓に飛び付くと外を見てあんぐりと大口を開けた。

 

「メリーベルちゃん、ここは西大陸へ向かう輸送機の上だよーん」

「あ、アイリス……ちゃん……?」

 

 ここでメリーベルは自身をじっと見つめる俺達の存在に気付いた。

 彼女の表情が段々と青ざめていく。

 

「ひえっ、知らない人だぁっ!」

 

 メリーベルはバッと布団に飛び付くと、布団を被って丸くなってしまった。

 ……これ、もしかしなくてもかなりコミュ障を(こじ)らせてないか。

 

「隠れちゃったにゃ」

「世界樹の管理者にするならば、もうちょっとまともな人材を用意できたのではないか? わしはこやつがハイランドで上手くやっていけるか心配じゃ」

「世界樹が成木に育つまで1000年くらいは掛かるから実は放置でもいいんだけど、将来的に領土に組み込むなら名目上は誰か王族が居ないと困るんだよねー」

 

 ここで俺はピンときた。

 

「それで見るからに引きこもり適性の高そうなこいつが選ばれたってわけか」

「当たりー。ネフライト王家は勉強のできない子に厳しいから、メリーベルちゃんにとっても悪い話じゃないと思うよー」

「でもさぁ、さっきバジルに脱走するとか言われていたぞ。アグレッシブなタイプの引きこもりはちょっと面倒じゃないか?」

 

 ディヴレスは(トカゲ頭だから分かり辛いが)キリッとした表情をして答えた。

 

「メリーベルお嬢様はこの老骨が身命を賭して管理致しますから、何も御心配には及びません」

「そうか、俺は頑張ってくれとしか言えないな。……バジル、これからの予定を聞いてもいいか?」

 

 バジルは懐から世界地図――中央大陸と西大陸が載っているもの――を取り出して、メリーベル山脈の頂点に置いた。

 そして、指でなぞってルートを示す。

 

「今日はここからここまで移動して、西大陸の玄関口から北にあるシール岬を目指します。予定通りに行けば、およそ10時間後の午後6時頃には到着するでしょう」

「あひぃ~」

 

 布団の中から何か聞こえるが、無視無視。

 

「今夜はそこでキャンプかにゃ?」

「そうなります。翌日の明朝より、海沿いを北からぐるっと回ってディオゲネス山脈の北端から突入します。このルートなら、魔獣との遭遇は極力避けられるはずです」

 

 なるほど、普通の船では通れない氷河地帯の上空を移動するわけか。

 そして高度を取れる最新鋭の小型ジェット輸送機なら山越えも苦にしない。

 なんだかいけそうな気がしてきたな。

 

「きちんと考えておるならばよい。ダンジョン探索の打ち合わせは現地に到着してからするとして……それまではのんびりと待たせて貰うとするかのう」

 

 アンバーはポーチから読みかけの本—―ハムマンで学ぶネフライト王国史――を取り出して(しおり)を外した。

 

「アンバーはよく本を読む気になれるなぁ、俺だったら絶対に酔っちゃうよ」

「わしは三半規管が強いからのう。これくらい余裕も余裕じゃ」

 

 生命力が高いと色々とプラス補正が付いて(うらや)ましい限りだ。

 それから俺達はそれぞれのやり方で移動中の暇を潰すことにした。

 

 地図を片付けたバジルは同僚の操縦士エルフ達と雑談を始め、ディヴレスは目を閉じたままじっと動かず、アイリスは俺とくっついてイチャイチャしている。

 そしてミュールは……軽業を使ってメリーベル布団の上に乗っていた。

 

「ちょっと臭いけど、ふかふかでいいお布団にゃー」

「そうなのか?」

 

 気になったので顔を近づけて匂いを嗅いでみると、確かにちょっと臭い。

 なんだろうこれ、かすかに実家で飼っていた犬の匂いがするような気がする。

 

「ううむ、悪くない……」

 

 ちょっと臭いけどついつい嗅いじゃう、芋エルフの体臭が染みついたお布団だ。

 

「ハルトくんってこういうのが好きなの……?」

「別にそう言うわけじゃないんだけどさ。ほら、アイリスも嗅いでみなよ」

「えー……あっ、ちょっとハムマンっぽい匂いがする! メリーベルちゃんはハムマンを飼っていないはずなのに、不思議だねー」

 

 しばらく芋エルフの布団で遊んでいると、布団の下からにゅっと手が伸びた。

 

「爺や~、お腹が空きましたぁ~……」

 

 すると居眠りしていたディヴレスの目がカッと見開かれた。

 彼は布団のそばにしゃがみ込むと、懐からスッと取り出したエナジーバーの包みをメリーベルの手に触れるか触れないかのところでちょんちょんとした。

 

「意地悪しないでぇ~」

「お嬢様、お食事は外でするものですよ」

「うぅ~……」

 

 メリーベルは布団の下からのそのそと()い出してきた。

 

「ベルを、ベルを見ないでくださいぃ……」

 

 俺達の視線を敏感に感じ取ったメリーベルは、上に寝転がったミュールが乗っている状態の布団を頭に被せる感じでくるまった。

 

 それからディヴレスから受け取ったエナジーバーの包みを開けて、猫背でもそもそとついばみ始める。

 

「おいひいよぉ……んぐ!?」

 

 頭上から垂れ下がってきたミュールのしっぽに驚いて、被っていた布団を後ろに脱ぎ捨てた。

 

「げほっ、げほっ……!」

 

 気管に入ってしまったのか、酷く咳き込んでいる。

 うーん、大丈夫かなぁ。

 

「お嬢様、お飲み物です」

 

 ディブレスがプシュッと開けて差し出したエナジードリンクの缶を受け取ったメリーベルは、無我夢中という感じでゴクゴクと飲み干した。

 

「ぷはぁ~、死ぬかと思ったぁ~」

 

 パジャマの袖で口元をゴシゴシ拭いたメリーベルは、再びエナジーバーをむさぼり始めた。

 

 それからしばらく。

 すっかりお腹を満たしたメリーベルが布団の中に戻ろうとすると……。

 

「あわわっ、ベルのマイフェイバリットスペースが乗っ取られていますぅ!?」

 

 その布団にはミュールが(くる)まり、ぐうぐうとイビキをかいていた。

 もはや、芋エルフの逃げ場はどこにも無くなってしまった。

 

「誰もメリーベルちゃんのことをいじめたりなんてしないから大丈夫だよー」

「べっ、ベルは知っているんですよ! そこの人が女と見れば誰でも食べてしまうようなケダモノだって……!」

「悲しいくらいに噂が独り歩きしている……」

 

 俺は生粋の巨乳党だから、こんな臭そうな芋エルフには絶対に手を出したりなんてしないぞ。

 でも、もし隠れ巨乳だったら……一考の余地がある。

 

「騒がしい娘っ子じゃのう。少しは落ち着いたらどうじゃ?」

 

 椅子に座って本を読んでいたアンバーが注意すると、メリーベルが本の背表紙を見て驚愕に目を見開いた。

 

「そ、その背表紙はまさか『ハム学』の初版!?」

「有名なのか?」

「有名なんてものじゃないです! ローズ先生の作品はハムラブ界隈(かいわい)ではすこぶる評判なんですから! あぁ、間違いなく本物だぁ……ベルにも読ませて!」

「ぬぅ、やめんか!」

 

 興奮したメリーベルはアンバーから本を奪おうとしたが、ガシッと蹴飛ばされて床に転がった。

 

「あひぃ……」

「お嬢様、アンバー様に失礼ですよ。謝りなさい」

「ご、ごめんなさいぃ」

 

 アンバーは大きなため息を吐くと、ぱたりと本を閉じた。

 

「貸してやってもよいが、初対面の相手にはまず自己紹介するのが筋じゃろう。わしはアンバーじゃ。お主の名前は?」

 

 メリーベルは指先をもじもじさせると、ちょっと恥ずかしそうに答えた。

 

「ベルは、その……メリーベル・ネフライトって言いますぅ……」

「うむ。わしはそれなりに読書家なのじゃが、この『ハム学』とやらがどう有名なのかとんと検討も付かん。是非とも教えて貰えると嬉しいのう」

「あのっ、『ハム学』は400年前に初めて発表された本でですねっ。その革新的な表現方法が沢山のフォロワーを生み出した伝説のBL小説なんですっ! 確かにハムマン愛好家のウィリアムお兄様はイイ顔をしてないですけど、ベルはハムラブに命を()けているんです!」

「ほうほう、してハムラブとは何じゃ」

「それはですね――」

 

 それから始まったのはコミュ障オタクがよくする怒涛(どとう)のハム学トークだった。

 

「—―みんなはスオミー×トマホークがイイって言っているみたいですけどぉ、ベルは断然トマホーク×スオミー派ですっ。そういえば最近はハムカーモノも人気で――」

 

 界隈(かいわい)でしか使われていないであろう専門用語だらけで、俺の右耳から入った情報が左耳から抜け出していく。

 

 そんな俺でも分かることが一つだけあった。

 どうやら、このメリーベルという娘は腐女子のようである。

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