マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第236話 シール岬にて

 中央大陸と西大陸の間にあるブルームーン海峡は、海中で戦うマーメイド探索者の聖地と呼ばれている。

 

 海峡の名の通りボトルネックのような形をしたこの海域では、潮の流れに乗って外海から回遊してきた海棲(かいせい)魔獣がひっきりなしに通り過ぎる。

 

 地上のダンジョン探索に向かないマーメイドはここでひたすら狩りをしてレベルを上げるのだ。

 

 最低でも上級探索者相当の力量は必要だが、魔石の代わりに魔獣の素材が丸々手に入るので実入りはかなりのものになる。

 エクレアなんて、10年間で一人頭3億メルも稼いだと言っていたくらいだ。

 

 ブルームーン海峡での狩りは、言うなれば世界一危険度の高い仕事であるベーリング海のカニ漁のようなものだろう。

 

 彼女達の働きによって、この世界の人々の食卓には豊富な魚介類が並んでいる。

 本当に、ありがたい話だ。

 

 

 その日の晩、青白い月光をつるりとした頭で反射するハゲルシアザラシがのんびりくつろぐ夜の海岸をシール岬の崖上から見下ろしながら俺は一人で飯を食っていた。

 

 近年は輸送技術が進歩したおかげで、ブルームーン海峡産の加工冷凍された魚肉が世界中に広く流通しているが……こうして美しい夜の海を眺めながら食べる大王マグロの味噌煮も乙なものだ。

 

 今回のハイランド派遣隊の隊長を務めている護り手(ガーディアン)第二特務部隊所属のバジル・ルベライトが色々と保存食を調達してくれたそうで、俺達もエナジーバーではない食事を取ることができてありがたい限りである。

 

「ごちそうさまでした、っと」

 

 よし、腹もくちたのでそろそろキャンプ地に戻ることにしよう。

 立ち上がった俺は、空っぽになった4つの缶詰容器を抱えて歩き出した。

 

 岬の高台にあるゴツゴツとした岩場に土属性スキルで土木工事を行って設営したこのキャンプ地には、3機の輸送機を囲むように6張りのテントが設営されている。

 

 キャンプ地の一角には目隠しのされた簡易的な湯浴み場が用意され、一足先に食事を終えた女性陣がキャッキャうふふと湯浴みを楽しんでいた。 

 

 楽しそうだな、俺も混ぜてよw

 って言いたいところだが、流石に軍人エルフさんやメリーベルなんかが一緒だとそうもいかないだろう。

 

 俺は設置されていたゴミ箱に空き缶を捨てると、自分達のテントの出口付近に置かれていた椅子に腰掛けた。

 

「さてと、いつもの日課でもしますかね」

 

 青白い月明かりに照らされる中、俺はテーブルの上に生成したガラス箱の中にハムマンフィギュアを作っては並べていく。

 ハムマンに衣装を着せ、壁や家具を形作り、色を塗っては固定する――。

 

「わわっ、『ハム学』の名シーンが現実になってる!」

 

 そう、俺は「ハム学」をモチーフにしたジオラマを作っていたのだ。

 

「本当じゃ、良くできておるのう。流石はわしのハルトじゃ」

 

 どうやら集中しているうちにアンバー達がお風呂から戻ってきたようだ。

 

「メリーベル、欲しいか?」

 

 洗われて綺麗になったもじゃもじゃした黒髪を揺らしながら、ヨダレを垂らして(汚い)ハム学のジオラマを眺めているメリーベルに尋ねた。

 

「ほ、欲しいですぅ……はっ!? だ、ダメです! ベルの初めてはそんなに安くないですよ!?」

「別にいらないよ……」

 

 あれからアンバーが言葉巧みにメリーベルから会話を引き出したおかげで、俺達もある程度は人見知りの彼女と話せるようになった。

 メリーベルのステータスとかその辺のことは追々だな。

 

「じゃあ俺は風呂に入ってくるから。アンバー、後はよろしくね」

「うむ。お主もゆっくり浸かって長旅で疲れた身体を休めるがよい」

 

 それから俺はお風呂に行ってバジルやディヴレスと裸の付き合いをした。

 ぶっちゃけ野郎と入っても何も楽しくないのでこの辺りのことは割愛する。

 

 俺のお風呂が終わった頃に魔獣避けの結界魔道具を弄っていたアイリスが戻ってきたので、先に就寝していたミュールに混じってテントの中で雑魚寝した。

 

 

 明朝、手早く撤収の準備をしてから輸送機の前でブリーフィングを行う。

 ハイランド派遣隊は俺達を含めて30人近くいるので、結構な大所帯だ。

 

 俺達は朝食のフルーツグラノーラ(ミルク入り)がたっぷり入った深皿を片手に、バジルの話に耳を傾ける。

 

「これより我々は、西大陸北部沿岸の上空を飛行しながらディオゲネス山脈の山頂を目指すことになります。基本的に魔獣との遭遇は避けるつもりですが、念の為にシートベルトは必ず着用しておいてください」

 

 ホワイトボードに広げた西大陸の地図の一点を、バジルは細い魔杖(まじょう)の先で指し示した。

 西大陸の中心部を分断するように南北に伸びるディオゲネス山脈の北端だ。

 

「あちしらはハイランド高原に行くんじゃないのかにゃ?」

 

 ミュールが首を傾げながら、ディオゲネス山脈の真ん中の辺りを指差した。

 

「ディオゲネス山脈の山頂には西大陸に元々あった世界樹の跡地があるんだよねー。世界樹の結界の解析は済んでいるけど、現存する古代魔法陣を再利用できるならそれに越したことはないから、今回はそれの回収もついでに行うつもりなの」

「そうなのかにゃ? 全然知らなかったにゃ」

「西大陸の世界樹が失われた経緯だけど、これはアンバーちゃんの方が詳しいかな」

 

 アイリスがアンバーに目を向けると、アンバーはうむと頷いた。

 

「3000年ほど前の話じゃが、ネフィリムに住むジャイアント達が武器を鍛える薪にする為に切り倒してしもうたんじゃ。きちんと管理していればいくらでも手に入るというのに、ほんに勿体(もったい)ないことをしたものじゃのう」

 

 それはディオゲネス山脈の登頂に初めて成功したジャイアントの冒険家、ディオゲネスが山頂に生えていた世界樹の枝を大迷宮都市ネフィリムに持ち帰ったことがきっかけになったという。

 

 彼は山脈の名前もそうだし、アンバーの愛する絵本「こん棒の勇者」のモデルになった人でもある。

 ここまで説明したら分かるだろう。

 

 世界樹の守護を国是に掲げるネフライト王国のエルフ達にとっては、木こりのジャイアントが世界樹を切り倒す内容が含まれる絵本がこの世に存在すること自体、認められるわけがない。

 

 だから名もなき絵本作家が描いた「こん棒の勇者」シリーズは禁書とされて、複製と頒布(はんぷ)が完全に禁止されたのだ。

 

「山頂かぁ~、寒いんだろうなぁ~……」

 

 未だにパジャマ姿のメリーベルが愚痴を(こぼ)すと、ドラゴニュート執事のディヴレスがふかふかの防寒着をスッと彼女の前に差し出した。

 

「お嬢様、こちらをお使いください」

「ありがとう、爺や~」

 

 メリーベルはもぞもぞと上から着込むと、空になった皿を地面に置いてそのまま輸送機の中へと入っていった。

 

 隊長の話は最後まで聞くべきじゃないかなぁ。

 まぁ、何かあったら保護責任者のディヴレスがどうにかするだろうから大丈夫か。

 

「それと高山病対策ですが、これから配布する予防薬を必ず服用してください。一錠で丸一日持ちますので――」

 

 いくらかの連絡事項を聞いてブリーフィングが終わりしばらくの時間が経つと、初夏の朝日をつるりとした頭で反射するハゲルシアザラシがのんびりくつろぐ海岸を見下ろすシール岬の高台から、3機のジェット輸送機は飛び立ったのだった。

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