マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第237話 世界で一番高い場所

 それから1時間後、俺達の乗るオスプレイみたいな見た目をしたジェット輸送機は飛竜の群れに追われていた。

 

「ど、どど、どうなっているんですかぁ~!? 魔獣は避けるって言ってたじゃないですかぁ~!」

「お嬢様、お気を確かに!」

 

 向かい合わせの座席に座りシートベルトをした状態で、小窓の外を眺めながらメリーベルは涙目になって叫んだ。

 

「極力、避けるとは言いました」

 

 バジルはパイロットの腕を信頼しているのか、軽く受け流した。

 

「こんなんじゃ足りないにゃ! もっともっとスピードを出すにゃー!」

「メリーベルちゃん、心配しなくても大丈夫だって。ほら、そろそろ反撃が始まるよ!」

 

 追いすがる飛竜達の攻撃を時には障壁で受け流し、時には高速機動で回避しているジェット輸送機の中はまるで絶叫マシンのような状態で、俺達は椅子に座ったまま上下左右にグリングリンと回転していた。

 

 もしもシートベルトでがっちりと身体を固定していなかったら、ミキサーマシンに入れた果物みたいに攪拌(かくはん)されていたことだろう。

 

「は、吐きそう……」

 

 楽しそうな彼女達とは違い、生命力の低い俺は会話をする余裕などなかった。

 血の気の引いた青ざめた顔の俺を隣のアンバーが必死に励ます。

 

「我慢じゃ! こんなところで吐いたらどうなるかお主も分かっておるじゃろう!」

「うぷっ……」

「我慢するのじゃ~!」

 

 両手で口元を抑えて死ぬ気で我慢していると、窓の外がカッと光ってドドドドド……と爆音がした。

 それからすぐに俺達の乗るジェット輸送機は平常運転に戻った。

 

「死ぬかと思った……」

 

 俺は魔力を込めた手を胸元に当ててセルフヒーリングを始めた。

 胃酸で荒れた気管のイガイガが消えて、胸のムカつきが収まっていく……。

 

「新型魔道ミサイルの近接信管はちゃんと発動していたね。実践運用はまだ数回しかしていなかったから少し心配だったけど、これなら量産を考えてもいいかなー」

 

 アイリスは遠くへ逃げ去っていく飛竜達を窓から眺めながら呟いた。

 俺はただただ、次の襲撃が起こらないことを必死に祈り続けていたのだった。

 

 

 その祈りが通じたのかそれ以上のアクシデントは起こらず、昼過ぎにディオゲネス山脈の山頂まで到着した。

 

 標高7000mを越えるこの世界で一番高い山の山頂はカルデラ状の窪地(くぼち)になっていて、その中心点から少しずれた場所に真珠色のダンジョンゲートが口を開いているのが見えている。

 

 数多の文明が発展と衰退を繰り返してきたこの世界で、何万年も昔の時代に生きていたエルフが世界樹を人の目から隠す為に造ったのだろう。

 この窪地(くぼち)は火口の跡というには余りにも人為的で、美しい真円を描いていた。

 

 ホバークラフト機構を発動させて着陸したジェット輸送機から凍り付いた地面に降り立つと、ひゅるりと冷たい空気が周囲を吹き抜けた。

 

「うひぃ~、やっぱり寒いですぅ~……」

 

 メリーベルはすぐに輸送機の中に戻ってしまった。

 北国出身とはいえ、引きこもりならこんなものか。

 

「よーし、頑張って掘り返そう!」

 

 アイリスは別の輸送機から降りた軍人エルフの工兵達を引き連れて窪地(くぼち)の南側に移動し、スキルで生み出した炎で雪を溶かしてその下から現れた石畳を引っぺがし始めた。

 

 バジル達は輸送機の近くで昼食の支度をしている。

 流石にこんな食べ物も何もない場所にまで魔獣が住んでいたりはしないだろうが、一応は結界魔道具も設置しているようだ。

 

 俺達の役割は特にないので、間違っても窪地(くぼち)から出ないようにしつつその辺をうろちょろする。

 するとミュールが早速、ダンジョンゲートに注目した。

 

「こんなところにダンジョンゲートがあるにゃ」

「そうだな」

 

 この地の世界樹がジャイアントに伐採されたのは3000年ほど前だし、ダンジョンゲートのサイズ的にDランク~Cランク相当ってところか。

 

「どんな異界があるか気になるにゃ。ちょっと見ていかないかにゃ?」

「ミュールよ、置いてけぼりにされても知らぬぞ?」

「あちしには忍者ハヤテ号があるから大丈夫にゃ!」

「あっ、待て!」

 

 ミュールはぴょんとダンジョンゲートに飛び込んだ。

 

「あーあ、行っちゃった」

「仕方がないのう。わしが連れ戻してくるから、ハルトはここで待っておれ」

「大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」

「うむ、わしに任せるがよい」

 

 ミュールを追ってダンジョンゲートに飛び込んだアンバーを見送った俺は、少し離れたところに石の流体でリクライニングチェアを作って寝そべった。

 ついでにパラソル型の日除けも用意してちょっとしたお休み気分だ。

 

 ここは雲海の上に飛び出した、世界で一番高い場所。

 相応に空気は薄いが、バジルから貰った高山病予防薬のおかげで気分も悪くない。

 再び地獄の絶叫マシンに乗り込む前に、この天国でしばしの休息を取ろう。

 

「キューキュー」

 

 目を閉じて5分も経たないうちに、ズボンのすねの辺りがもぞもぞとしていることに気が付いた。

 せっかく休んでいるんだから邪魔しないでくれよ。

 

「キューキュー」

「……ん?」

 

 何かがおかしい、と思って目を開ける。

 リクライニングチェアから身体を起こした俺の目に小さな生き物が映った。

 白いモフモフとした産毛に包まれた、大型犬サイズのドラゴンの子供だ。

 

「な、なんでこんなところに……」

 

 そーっと右手を差し出してみると、牙の生えた口でがぶりと食いちぎられた。

 骨の見えた切断面からぴゅーっと鮮血が噴き出す。

 

「あいってー!?」

 

 慌ててリジェネレーションを使うと、切断面に青い光が集まってにょきっと新しい右手が生えてきた。

 初めて自分の身体で欠損の治療を試したが……本当に覚えていてよかった!

 

「こいつめ、許せん!」

 

 口元を赤く血に染めて右手を咀嚼(そしゃく)しているミニドラゴンを、俺は椅子と日除けを変形させた石の触手で雁字搦めに拘束した。

 ミニドラゴンは身体をくねらせるが、逃れられようはずがない。

 

「ふはははは、抵抗しても無駄無駄む……だ……?」

 

 あれれ、おかしいぞ。

 俺の後ろからでっかい影が落ちてきている。

 

 恐る恐る振り返ると、ダンジョンゲートから上半身を覗かせた白い鱗の巨大なドラゴンが蒼い竜眼でじっと俺を(にら)み付けていた。

 

「—―プロテクション!」

 

 俺は反射的にプロテクションを使って防御を固めた。

 装具から取り出した白くどでかいこん棒を構えてアイシクルカノンを打ち放とうとしたその時—―。

 

 ポーンとダンジョンゲートから飛び出したホワイトドラゴンが、白目を()いて大地に転がった。

 小さな影がダンジョンゲートから飛び出し、お腹の上にシュタッと乗る。

 

「ドラゴンなど恐るるに足らず! わしのひひいろ丸は最強じゃ~!」

「アンバー!?」

「おお、ハルトか。これは出口付近で牛の魔物を(くわ)えて飛んでいるところを見掛けてのう、危ないから狩っておいたのじゃ」

 

 よく見ると、ドラゴンの頭の部分がべっこりと凹んでいた。

 こりゃあ即死だな。

 

「ところでミュールは?」

「ちゃんとここにいるにゃ」

 

 ミュールが隣に立ってミニドラゴンの鼻先をツンツンと突いていた。

 ビックリするから気配を消すのはやめて欲しい。

 

「アンバーちゃんお手柄! これ、ブルーアイスホワイトドラゴンだよ。もし気付いていなかったら、氷結ブレスで死人が続出してたかもしれないねー」

 

 異変に気付いたアイリス達が俺達のところに集まってきた。

 

「A班はマジックコンテナと保存容器の用意を! B班は見ていないで自分の持ち場に戻れ! 私は今のうちに血抜きをしておく!」

「はっ!」

 

 バジルはちゃっちゃと部下に指示を出してドラゴンの解体を始める。

 西大陸に派遣されるだけあって、なかなかに手際がいいようだ。

 

「大丈夫? ツガイとかいない?」

「縄張りは広いし、子育てもメスだけでするタイプの竜種だから大丈夫。それと、その子のことだけど……」

 

 石の触手で拘束されたまま、母ドラゴンに向かってキューキュー鳴いているミニドラゴンをアイリスはじーっと見つめた。

 

「育てるのは無理だから、締めて剥製にしちゃおっか」

 

 テイムスキルのないこの世界でドラゴンを育てるのは自殺行為に等しかった。

 それに何より、このミニドラゴンはつい先ほど人の味を覚えたばかりだ。

 

「野生に帰しても人を困らせるだけじゃからのう」

「可哀想だけど、仕方がないか」

「えー、食べないのかにゃ?」

「ミュールちゃん、ドラゴンの肉には毒があるから食べない方がいいよ」

「そいつはとっても残念にゃ……」

 

 俺は輸送機の中から飛び出してこちらに駆け寄ってくるメリーベルに見つからないように、石の流体でそっとミニドラゴンを隠したのだった。

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