マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第238話 ハイランド高原

 本来の予定ではその日のうちにハイランド高原まで向かうはずだったが、ブルーアイスホワイトドラゴンの解体や世界樹の結界魔法陣の発掘作業に思ったよりも時間が掛かったので、今日はディオゲネス山脈の山頂でキャンプをすることになった。

 

 やることは基本的に昨日と変わらないが、夕食後に一つの儀式が待っていた。

 それはアイリスによる、通常では使い道のないドラゴン素材を用いたマジックアイテムの制作だ。

 

「いちに、さんし……」

 

 準備運動をしているアイリスの目の前には、ジャイアントより大きいサイズの輪切りにされたドラゴンの肉が山のように積み上げられている。

 

「よーし、やるかー!」

 

 アイリスは首飾りに加工した手のひら大の白い鱗—―ブルーアイスホワイトドラゴンの逆鱗—―を目の前に浮かべると、緻密な魔法陣を自身の周囲に展開した。

 1mはあろうかというサイズの青く発光する魔法陣、その数なんと12枚。

 

 (たぐい)まれなる魔力操作技術とマルチタスク能力を持つアイリスの意思によって自在に操られた魔法陣は、積み上げられていたドラゴンの肉を通過し素材に秘められた属性を余さず()し取った。

 

「大事なのはバランス……と」

 

 目に見えるほどに凝縮された属性が、魔法陣の中心で夜闇に白く輝いている。

 アイリスは目の前に浮かんでいる白い竜鱗の首飾りの周囲に12枚の魔法陣を均等に配置し、そして手の動きに合わせて一息にぎゅっと詰め込んだ。

 

「それっ!」

 

 (まばゆ)いばかりの白い光がカッと夜のキャンプ地を明るく照らしたかと思うと、すぐにそれは消え去った。

 残ったのはぼんやりと発光しながらふわふわと浮かんでいる竜鱗の首飾りだけだ。

 

「ふぅ、これで『氷竜の首飾り』は完成だよー。メリーベルちゃん、使ってみて」

「あ、ありがとうございますぅ~」

 

 アイリスは首飾りを掴み取ると、凍り付いた鼻水を垂らして(汚い)ガタガタ震えているメリーベルの方に差し出した。

 

 メリーベルはもこもこの防寒着のフードを降ろして、アイリスから貰った首飾りを身に着けた。

 

「うわぁ、全然寒くないよぉ~!」

「お嬢様、良かったですね」

 

 ディヴレスはハンカチでメリーベルの凍った鼻水をバリバリと削ぎ落とした。

 あの人、何故かメリーベル用の耐寒装備を持ってきていなかったんだよな……。

 

 軍人エルフさんの使っている予備の軍服でも借りたらいいのにとは思ったものの、口に出そうとするといつも邪魔が入るので俺は突っ込みを入れるのを諦めていた。

 

「これなら冬でもなんとか生きて行けそうですぅ……」

 

 アイリスの話では、この「白竜の首飾り」はマジックアイテムとしての性能的にはそこまで大したものではないらしい。

 とはいえ、廃棄予定の素材で作った割には上々の出来だろう。

 

「汗かいちゃった。ハルトくん、一緒にお風呂に入ろっか」

 

 ちょっと離れたところで見学していた俺達のところにアイリスは戻ってきた。

 慣れないマジックアイテムの制作で集中力を使ったのか、褐色の肌が少しだけ紅潮している。

 

「そんなことしちゃっていいのかなぁ」

「大丈夫だってー。ね、いいでしょ?」

 

 アイリスが近くにいた軍人エルフさんに目を向けると、彼は湯浴み場の準備をしている軍人エルフさんに念話で連絡をして、それからこくりと頷いた。

 どうやらOKが取れたらしい。

 

「いいって。ほらアンバーちゃんもミュールちゃんも、一緒に入ろうよ!」

「では、そうさせて貰うとするかのう」

「やったにゃ、一番風呂にゃ!」

 

 こうして俺達は、天に無数の星々が輝くディオゲネス山脈の山頂に設置された露天風呂で混浴を満喫することになったのだった。

 

 ちなみに属性が抜き取られたドラゴン素材は、軍人エルフさんが他のゴミと一緒にダンジョンゲートの中に放り込んで処分しました。

 ダンジョンは環境にとっても優しい生きたゴミ箱である。

 

 

 翌朝、立つ鳥跡を濁さずということわざの通り綺麗にキャンプの後片付けをした俺達は、再びジェット輸送機で空の旅に乗り出した。

 

 頭に白い雪を被って連なっている山脈の上空を、北から南に真っ直ぐ進む。

 不思議なことに、山頂まで続く曲がりくねった一本の黒い道が山脈の上を走っているのが見える。

 

 あれは太古の昔に西大陸に存在した先史文明の遺した登山道らしい。

 あんなものがあるから、エンゲル係数のやたら高いジャイアントが徒歩で世界樹の生える山頂まで到達できたのだろう。

 

 かつてジャイアント達が使った道を逆走するように、ひたすら南へと飛び続ける。

 またぞろ竜種にでも遭遇しないかと内心不安だったものの、特に何事も無く時間は過ぎ去っていった。

 

 南に行くにつれて山脈は段々と低くなっていき、ついには雪が見えなくなった。

 俺達はようやく西大陸の中心点、ディオゲネス山脈の高地に存在するハイランド高原までやってきたのだ。

 

 草原の緑色と大地の茶色が入り混じった標高4000mほどの高地に存在するハイランド高原の上空を輸送機が飛んでいると、遠くに小さな集落が見えてきた。

 日干し煉瓦の外壁に茅葺(かやぶき)屋根、茶色一色の小さな家々だ。

 

「見よ。あそこがわしの生まれ故郷、ハイランドじゃ……」

 

 アンバーは窓の外を見つめて、懐かしさに目を細めている。

 

「ひとまず、あちらの広場に停めさせて貰いましょうか」

 

 ホバークラフト機構を発動した3機のジェット輸送機は、バジルの指し示した集落の端っこにある空き地にふわっと着陸した。

 俺達はシートベルトを外すと、自動で開いたドアから降り立った。

 

 周囲を見渡してみると、集落の方からシュバっと走ってきたカラフルな民族衣装を着たハーフリング達が日干し煉瓦の塀に隠れて、不審な未確認飛行物体をジロジロと見つめていた。

 

「中から誰かが出てきたぞ!」

「エルフにヒューマンに獣人……ドラゴニュートまでいる!」

「あれは、アンバー……?」

 

 ここでハーフリングの一人がアンバーの存在に気付いた。

 アンバーはずいと前に踏み出て、腰に両手を当てささやかな胸を張った。

 

「そうじゃ、わしこそBランク探索者のアンバーじゃ! 見よ、ネフライト王国から引っ張ってきたさいきょーの軍隊を! 今日からこの里はわしのものじゃ~!」

 

 そんな予定は一切ないのだが、アンバーは勢いに任せて言ってしまった。

 突然の宣戦布告に土塀の向こうのハーフリング達がざわつく。

 

「な、なんだってー!?」

「こりゃあ大変だ! フォス爺さんを呼んでこないと!」

「あのエルフさん、すっごいイケメン。魔力も高そうだし、アタシの恋人になってくれないかしら……」

 

 大パニック (?)を起こしつつあるハーフリング達を見ながら、俺は背後からアンバーの両肩をガシッと掴んだ。

 

「アンバー、何をやっているんだ? 話と全然違うじゃないか」

「ちいとばかりテンションが上がってしもうたわい。まあ、なんとかなるじゃろ」

「テキトー過ぎるにゃ」

「あはは、いつもと違って変なアンバーちゃんだねー」

 

 空き地の一角にテントを張って勝手にキャンプの用意を始めた軍人エルフ達を横目に俺達が突っ立っていると、モフモフとした白い毛を身に(まと)ったハイランドアルパカを連れた金髪のハーフリングの女性が歩いてきた。

 

 そのアルパカの背に騎乗していた金髪のハーフリングの男性が、ニコニコと笑みを浮かべて小さな手を振った。

 

「おおい、アンバー! アンバーやーい!」

「フォス爺!」

 

 アンバーはシュバっと走ってアルパカに接近すると、アルパカの背からシュタッと飛び降りて駆け寄ってきた育ての親とぎゅっとハグをした。

 

「フォス爺……長いこと心配を掛けて済まんかった……」

「よう戻った。ワシはお主のことを信じておったぞ……!」

 

 感動の再会をしている二人の様子を遠巻きに見守っていると、アルパカを連れたハーフリングの女性が俺達の方にやってきた。

 

「あのう、あなたがアンバーの彼氏をされているというロリコン魔導士(ウィザード)のハルトさんでしょうか?」

 

 ロリコン魔導士(ウィザード)て。

 そりゃ世間一般的にはハーフリングと付き合う他種族なんてロリコン以外に考えられないだろうが……。

 

「はい、俺がハルト・ミズノですが……貴女(あなた)は?」

「わたしはアンバーの従妹(いとこ)のシトリーと言います。一応はこの里の長をさせて頂いているのですが、どうしてもこの場でお聞きしなければならないことがありまして……」

 

 アンバーの宣戦布告がただの冗談だと分かったことで、呑気に軍人エルフ達と交流を始めた他のハーフリング達とは違ってシトリーはとても真剣な様子だ。

 

「どうぞ、俺に答えられることなら何でも聞いてください」

「ではお聞きしますが、皆さんはこの里のAランクダンジョンを踏破されるおつもりなのでしょうか。もしそうであるのならば、わたしはとても嬉しいのですが……」

 

 先ほどのアンバーの宣言も踏まえて、彼女はアンバーがここのダンジョンのダンジョンマスターになろうとしているんじゃないかと期待しているのだろう。

 

 こんな大人数で大量の物資を抱えて西大陸の僻地までやってくる理由なんて、普通はダンジョンの周囲に新たな迷宮都市を築くことくらいしか考えられない。

 しかし、当然ながら俺達の目的は別にある。

 

「当然、踏破はします」

「そうですか! それは――」

「ですが、シトリーさんが期待されていることとは少し違います。なぜなら俺達は、この地のダンジョンに世界樹の種を植えにきたんですからね」

 

 俺の言葉を聞いて、シトリーは豆鉄砲でも食らったような顔をした。

 うんうん、期待通りの反応でとても嬉しい。

 

「道理でアンバーがエルフを沢山連れてやってきたわけじゃ。こうなってしまったらケツメオオウサギも食べ納めにしなければならんかのう」

 

 ショタジジイのフォス爺がアンバーと手を繋いで、とことこ歩いてきた。

 こうして並んでいるところを見ると、顔がそっくりで兄妹(きょうだい)みたいだな。

 

「そんな……! あのお肉が食べられなくなったら、わたし達はどうやって生きていけばいいんですか!?」

 

 ちなみにケツメオオウサギとはハーフリング達がダンジョンの一層で捕まえているお尻に目っぽい模様があるウサギの魔物だ。

 このケツメオオウサギの丸焼きはハイランドの民のソウルフードなのである。

 

「地下で育てておる白アスパラとジャガー芋があるんじゃから別に死なんじゃろ。それに、ちょっと遠出をして他のダンジョンで狩りをしてもいいわけじゃし」

「やだやだ、わたしはウサギさんじゃなきゃ絶対にやだー!」

 

 シトリーは地面に転がって駄々をこね始めた。

 

「お主、マジか……」

 

 アンバーは20年ぶりに見る親戚の駄々にドン引きしている。

 こんなのが里長で本当に大丈夫なのか?

 

「そのウサギってそこまで危険な魔物じゃないんでしょ? 柵に囲って養殖でもしたらいいんじゃないかなー」

 

 アイリスの提案を聞いたアンバーはううむと頭を巡らせる。

 

「わしの記憶ではここの住民が間違って逃がしたケツメオオウサギはそこら辺の高原でちょいちょい巣穴を作っておったはずじゃから、無理な話ではないじゃろうな」

「じゃあ、ハウス栽培用の温室の隣に専用の家畜小屋を作っちゃおっか」

 

 そんな話をグズグズと泣きながら聞いていたシトリーは起き上がると、涙と鼻水を袖でゴシゴシ拭いてから充血した目でアイリスの顔を見上げた。

 

「エルフのお姉ちゃん、ほんとにやってくれるの?」

 

 完全に幼児退行している……。

 

「うん。メリーベルちゃんもそれでいいよね?」

 

 後ろの方で静かに空気と同化していたメリーベルにキラーパスが飛んだ。

 

「も、もしかしてベルがお世話をするんですかぁ!?」

「お嬢様、自立への第一歩です。頑張りましょう!」

「うぅ、ベルには絶対に無理ですよぉ~!」

 

 そこはきっと、農業担当の軍人エルフさんが大抵のことをやってくれるだろう。

 

「ところで、こっちのアルパカは食べてないのかにゃ?」

 

 ミュールが物欲しそうな顔でハイランドアルパカを見ていると、ペッと吐き出された唾が彼女の顔面にヒットした。

 

「ぎにゃ!?」

「こやつらは家族みたいなものじゃからのう。大事に大事に世話をして、その代わりに毛を分けて貰うだけじゃ」

 

 アンバーはそう言うと、ハイランドアルパカのモフモフとした白い毛を小さな手で優しく()で回したのだった。

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