マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
俺達4人はフォス爺とシトリーに軽く自己紹介(と言ってもアンバーの送っていた手紙で大体のことは伝わっていたが)をした後、ハーフリングの里にある里長の家に招待された。
他の家よりも大きな日干し煉瓦と茅葺き屋根の平屋で、10歳児相当の身長しかないハーフリングが快適に過ごせるサイズ感で俺達にはちょっと狭かった。
日本人の平均的な身長をしている俺でも背伸びをしたら天井に触れるくらいだ。
この家の中に置かれた木製の家具はどれも見事な彫刻が施されていた。
器用さの高いハーフリングが雪に閉ざされた長い冬にできる手仕事と言えば、やはり裁縫と木工細工なのだろう。
「この里にお客さんがやってくるのは1年ぶりなので、とっても嬉しいです。皆さんゆっくりして行ってくださいね」
シトリーは戸棚から取り出した人数分の木のコップを小さなテーブルの上に置くと中にスキルで生み出した氷を入れて、それから1ガロンはありそうな大きさのガラス瓶を傾けてシュワシュワと音を立てる濃褐色の液体を注いだ。
「この独特の匂い、ジャイアントコーラにゃ!」
ジャイアントコーラはジャイアントが好んで飲んでいるカロリー爆弾とも称される甘々炭酸飲料だな。
これはディオゲネス山脈の南端の
そこがハイランド高原から古代の登山道を使って徒歩で行ける唯一の迷宮都市だ。
「この地に住むハーフリング達にとって、ジャイアントコーラは命の水に等しいものなのじゃ。風邪を引いたら飲み、祝い事があったら飲み、子供は親の目を盗んで勝手に飲む……」
「アンバーの虫歯の原因、絶対にこれじゃん……」
天使の病院もないこんな辺境でガバガバ飲んでいたら糖尿病待ったなしだぞ。
俺はこの里の住人の早死にの原因は食生活にあるんじゃないかと疑っていた。
「わしもこれを飲むのは里を出て以来なのじゃが……こんなに甘かったかのう?」
アンバーは不思議そうに首を傾げた。
俺達が床に土足で座り込んで甘ったるいジャイアントコーラをチロチロと舐めるように頂いていると、椅子に腰掛けていたフォス爺が話を切り出した。
「ところで、お主らはどれくらいこの里に滞在するつもりなのじゃ?」
ネフライト王国の入植計画に詳しいアイリスが俺達を代表して答える。
「早くても3日後にはダンジョンに潜るとして、大体1ヵ月くらいかなー。それくらいでメリーベルちゃんの住居の用意も一通りは終わるはず」
キャンプの準備を終えた軍人エルフ達は、ハイランドの里からアルパカの足で10分ほどの距離にあるダンジョンの周囲に縄張りを始めていた。
輸送機での移動中に建設計画書を見せて貰ったが、今のダンジョンゲートを中心に直径100mほどの広い中庭がある大きな城を建てるようだ。
直径1キロほどの城壁の内側には農作物を栽培するネフライト式温室とついでにケツメオオウサギを育てる家畜小屋、それから世界樹の若木を守る
「思っていたよりも長いのう。ならば、ワシらの方で催しをする暇は十分にありそうじゃな」
「催しですか?」
「うむ。その催しとは……」
フォス爺は椅子から立ち上がって、ビシッと俺を指差した。
「婿殿とアンバーの結婚式をするのじゃ!」
なるほど、結婚式か。
俺もアクアマリンに帰ったら新築のハムカー
「嫁に先立たれて早50年、ワシもいつお迎えがきてもおかしくない歳じゃ。じゃがワシはアンバーの晴れ姿を見なければ死ねんと思うて、必死に健康に気を使って生きてきた……。じゃからのう、お主らは絶対にあのダンジョンで死ぬではないぞ!」
「フォス爺も知っておろう、わしらはいくつものAランクダンジョンを踏破してきたのじゃ。そう心配する必要はあるまい」
「分かっておるが、ワシは心配なのじゃ。探索者をしておったワシの息子夫婦が命を落としたのは、あのダンジョンを踏破しようとしたが為なのじゃからのう……」
「なんじゃと……!」
フォス爺のカミングアウトを受けて、アンバーは
アンバーも探索者の両親が既に亡くなっていることは探索者ギルドの記録を調べて知っていたが、その死因はずっと謎のままだったのだ。
「フォス爺、なぜもっと早く教えてくれなかったのじゃ!」
「正義感の強いお主のことじゃ、教えたら両親の夢を叶えようとこの地のダンジョンマスターになろうとしたじゃろう。それはワシにとって本望ではなかったのじゃ」
それから語られたのは、フォス爺がこれまで誰にも言わずに隠してきたアンバーの両親の秘密だった。
アンバーの父、フォーセルは20歳の時に里を出て探索者になった。
器用さと素早さが高いハーフリングらしく、彼もまたとある探索者パーティーで斥候職を務めてブイブイ言わせていたという。
それから50年ほどが経ち、探索者を引退したフォーセルは赤子を抱えた妻を連れて里に帰ってきた。
ほっかむりを被ったそのハーフリングの女性は、自身をグレイシーと名乗った。
ほっかむりを外したグレイシーの頭はつるりとしたスキンヘッドの状態だった。
それを不気味がる里の住民には病で頭髪が無いのだと話していたが、フォーセルは実の父親にだけは真実を話していた。
それは、彼女の本当の種族がジャイアントだということだ。
グレイシーはジャイアント氏族の族長の娘で、家宝のハーフリングオーブの力でハーフリングに化けていたのだ。
またぞろ種族を変える魔法のオーブの出所が見つかったが、やはりと言うかジャイアント氏族に繋がっていた。
きっと先祖が西大陸のどこかにある古代遺跡でも掘り起こして見つけたのだろう。
アンバーがジャイアントのような偏ったステータスをしたギフトホルダーとして生まれたのは、もしかするとこのハーフリングオーブで無理矢理種族を変えていたのが原因だったのかもしれない。
里長の孫娘が魔力をほとんど持たずに生まれたことが里に広まると、グレイシーはハーフリング達から少しずつ距離を取られるようになってしまった。
子供が出来損ないとして生まれたのは病のせいではないか、もしも移されたらどうしようと口さがない者達からひそひそと噂される始末だ。
このように生き辛いのならば里を出て都会で暮らした方がええじゃろうと見かねたフォス爺はフォーセルに告げたが、二人はこの地のダンジョンマスターになるのだと言って決して譲らなかったそうだ。
そしてアンバーが3歳になった時、フォーセルとグレイシーの元パーティーメンバーがハイランドの里を訪れた。
それは
彼らは再会の喜びを分かち合うと、当時里長をしていたフォス爺の家に泊まり探索の計画を話し合った。
未踏破とはいえ
そう信じてダンジョンの深層へと潜った4人が戻ることはなかった。
幼いアンバーに残されたのは、ラミアの
「多分、彼らはハイランドのダンジョンが既にAランクに成長していたことを知らなかったんだろうね」
「ダンジョンコアだと思って偵察もなしに五層のゲートに飛び込んで即死かにゃ。アンバーのパパも抜けているところがあったんだにゃー」
山頂のダンジョンゲートに考えもなしに飛び込んで、
お前は東大陸でギースから何を学んでいたんだ。
「それにしても、
「じゃが、わしはその偶然のおかげでお主と出会うことができたわけじゃ。わしをギフトホルダーに産んでくれた父母はもちろん、この事実を今まで伏せていてくれたフォス爺にも深く感謝せねばならんな」
アンバーは俺の右腕を抱き締めると、ぎゅっと身を寄せて頬ずりをした。
「いいなぁ、アンバーには好いてくれる恋人がいて……」
健康の為に禁コーラをしているフォス爺の分までジャイアントコーラを飲んでいたシトリーは、空になった木のコップの中を見つめてぼやいた。
「なんじゃ、お主にはまだイイ男がおらんのか? 昔はあんなにモテ自慢をしておったじゃろうに」
「だって、だってみんなわたしを子ども扱いするんだもん。わたしはこんなに里の為に頑張っているのに……」
フォス爺はぐずり始めたシトリーの背中を優しくさすった。
「シトリーはちと子供っぽいところがあるからのう……。そう泣くでない、ワシの伝手でしっかりした婿を探しておるから大丈夫じゃ」
「ううう、フォス爺~!」
アンバーと同じ年のシトリー(32歳)はフォス爺に抱き着いて、お腹のところに頭をぐりぐりと擦り付けた。
「よしよし、いい子じゃぞ……」
彼女が大人になれないのはいつまでもフォス爺が甘やかしているせいだと思うのだが、俺は里長の名誉を守る為にも心の内に秘めてあげることにしたのだった。