マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
この世界のダンジョンは1万年の寿命を持つが、その年齢は現世に口を開いたダンジョンゲートのサイズで推測できることは以前にも話したと思う。
成体に成り立てのDランクダンジョンのゲートがおよそ10mほどのサイズだとすると、Aランクダンジョンのゲートは30m近くの大きさだ。
ダンジョンの年齢を調べる時はそのサイズを計って年齢を導き出すわけだな。
探索者ギルドが制定しているランク分けの区分はダンジョンが成体になってから0歳~3000歳がDランク、3000歳~6000歳がCランク、6000歳~9000歳がBランクとされている。
つまり、完全に成熟したAランクダンジョンになった時点でダンジョンの寿命は1000年程度しか残されていないということだ。
アザゼルの開発したダンジョンマスターシステムがあるというのにこの辺りのダンジョンをハーフリングが管理していないのは、単純にダンジョンを踏破するだけの実力がないというのが大きな理由を占めている。
この里に住むハーフリングは低層で木材の採取やウサギ狩りをする程度で決して深層まで潜ったりしないし、ダンジョンマスターを目指す他種族の探索者がわざわざ旨味のない僻地のダンジョンを選ぶことはない。
1年前にハイランドまで上級探索者がやってきたのも、探索者ギルドの公開している未踏破ダンジョンの資料をもとにAランクに成長して新たに出現したであろう五層の異界に目立つ資源があるかどうかを調査する為に過ぎなかった。
そしてその調査の結果、彼らはネフライト王国のエルフが建国以来ずっと探し求めていた
事実確認の末、彼らに支払われた懸賞金は億を越えるものになったそうだ。
かつてギース海賊団がマッピングした未踏破ダンジョンの地図を売り払って生計を立てていたように、こういった異界の情報はモノによっては大金に化けるのだ。
話が
もし仮にダンジョンが寿命を迎えていた場合、彼らはどうやってスタンピードを生き延びるつもりだったのか。
それはもちろん、強大な魔獣が襲ってきた時と同様に地下のシェルターに隠れて居なくなるまでやり過ごすのである。
俺達は今日からしばらくの間、里長の家に泊まらせて貰うことになった。
狭いとはいえ客室もあるわけだし、何よりもここはアンバーの実家だ。
まぁ、今は実家から出て独り立ち (?)をしたシトリーの家なのだが……。
「夕食を作る前に、地下まで食材を取りに行きましょう。アンバー、手伝ってくれますか?」
幼児退行から回復したシトリーが尋ねると、アンバーはうむと頷いた。
「ついでにハルト達にも地下の菜園を見せてやるとするかのう」
アンバーはとことこ歩いてリビングの壁際に敷かれていた
するとその下から現れたのは、金属製の大きな扉だった。
「なんにゃこれは……」
「太古の昔に滅びた先史文明の遺した地下施設じゃ。西大陸に移住してきたジャイアントにサバーナ平原を追われたハーフリングが見つけた最後の楽園じゃな」
サバーナ平原は西大陸の南西部にある広大な草原地帯のことだ。
高くそびえるディオゲネス山脈で東西に分断されている西大陸の西側はそのすべてが巨人族—―ジャイアントの支配地となっている。
そこにはポゴスタック帝国の下で築き上げた文明を投げ捨てて蛮族と化したジャイアントの部族が探索者ギルドでも把握できないくらいにはゴロゴロと点在しているので、他種族が
そんな中で唯一高度な文明を保持し、他種族との交流を行っているのが大迷宮都市ネフィリムに住むジャイアントなのだ。
彼らがディオゲネス山脈の南端で防波堤になっているからこそ、今も平和に西大陸東部の開拓ができていると言っても過言ではないだろう。
「うーん、この落とし扉に刻まれている文字はエルク文明のものかな?」
アンバーが引き上げてスッと横にスライドさせた3m四方くらいのサイズの金属製の扉に刻まれた謎の言語と文様をアイリスはジーっと観察した。
「エルク文明にゃ?」
「電力エネルギーを扱っていたとされている、およそ4万年前に存在した文明だよ。中央大陸でエルク文明の遺跡から発掘された魔道技術がポゴスタック帝国の躍進の原動力になったとも言われているんだけど……未だに動いているなんて驚きだねー」
扉の下からは地下深くに続く長い階段が現れた。
黄色い常夜灯が足元を薄っすらと照らすように暖かい光を放っている。
階段の土汚れと
「あちしらが普段使っている魔道具とは違うものなのかにゃ?」
しゃがみ込んだミュールがツンツンと指先で常夜灯を突いた。
「ミュールちゃんにも分かりやすい例で言うと、魔道無線に使われている技術かな。アレもかなり厳しい帯域制限が設けられているんだよねー」
「発生する電磁波がバードマンに多大な健康被害を及ぼすから、統一帝国崩壊後に月光教によって電力や電波を扱う魔道具の利用が禁止されたんだ。……アンバー、これ大丈夫なのか?」
統一帝国時代のエンジェルは毒電波から身を守る為、常に金属製のサークレットを身に着けていたそうだ。
この世界における天使の輪の元ネタとも言える。
当時のバードマンは文明からほど遠い離島にこぞって避難していたそうだし、天使にとってはさぞお辛い職場だったのだろう。
月光教の教典に悪魔の業と記述するくらいには
そういう背景もあり、探索者ギルドは今も電力や電波の利用を強く制限している。
これが地球出身の
「ハイランドの民は生きている施設を使っておるだけじゃから、法的にはグレーな扱いなのじゃ」
「問題があったらバードマン郵便がやってくることもないか」
「そうじゃな。とはいえ、あまり言いふらすでないぞ」
「ほーん、よく分かんないけど分かったにゃ」
俺達がそんな話をしながら先頭を行くシトリーに続いて長い地下階段を降りていくと、開けた明るい空間に出た。
そこは一見すると、何かの地下
ジャイアントが背伸びをしても届かないくらい高い天井には巨大なLED電球のようなものがいくつも吊り下げられ、広い地下空間を明るく照らしていた。
つるつるとした感触の白い内壁のあちこちには大きな四角い穴が開いている。
これはどうも、ハイランドの住民がそれぞれの自宅からこの地下シェルターに行けるようになっているみたいだ。
地下シェルターの中心部には地上で見た日干し煉瓦の家が何棟も建てられていて、その庭先にある柵の中ではハイランドアルパカが何匹も
他のスペースには花壇のような形をした畑が何面にも渡って敷き詰められている。
片方の畑には
「こっちがジャガー芋の畑で、こっちが白アスパラの畑です。白アスパラはですね、採れたてをその日に食べるのが一番美味しいんですよ」
えへへと笑いながら良さそうな白アスパラがないかと白アスパラ畑の奥に消えていったシトリーを見送った俺達がしばらく待っていると、ジャガー芋の畑で農作業をしていたハーフリングの女性達が声を掛けてきた。
「おんやまあ、誰かと思えばアンバーではないか」
「不出来な家出娘がようやっと帰ってきたのかい」
「そいつがあんたの彼氏かい? ひ弱そうなヒューマンだねぇ」
ジロジロと
「確かにわしのハルトはひ弱じゃが……魔力だけはとんでもなく多いのじゃ! ハルト、見せてやるがよい!」
「じゃあまあ、はい」
俺はいつものように懐から取り出したギルドカードのステータスを見せつけた。
カンストのS表記じゃどれだけ上振れているかは分からんけどな。
「フォス爺の言っていた通り、確かに魔力だけは高いみたいだわ」
「本当にひ弱だねぇ、あたしの旦那といい勝負だ」
「ほら、アンバーも早くギルドカードを見せんかい」
どうやら彼女達は、アンバーが里を出てからどれくらい強くなったか興味があるらしい。
「ふふん、わしのステータスを見て腰を抜かしても知らぬからな!」
アンバーが懐から取り出してシュバっと見せつけたステータスは以下の通りだ。
アンバー 33歳 ランクB
魔力D 筋力S 生命力S 素早さS 器用さC
Lv140の壁を越えて2段階目のステータスアップを経たことで、非の打ち所がない最強の前衛職が完成した。
これ以上先は長命種にのみ許された
ミュール 30歳 ランクB
魔力C 筋力C 生命力C 素早さA 器用さB
参考までにミュールの現在のステータスも載せておく。
彼女は東大陸のダンジョンブートキャンプで結構レベルが上がった感じがする。
「これはこれは、ようやっと魔力
「柵の陰に隠れて泣きべそをかいていたアンバーが立派になったねぇ」
「10歳になるまでしょっちゅうおねしょしてフォス爺を困らせていたあの小娘が、よくここまで成長したものよ」
おっとぉ、それは初耳ですね。
詳しくお聞かせ願えませんか?
「な、何を言っておる! わしはおねしょなぞしておらんぞ!」
珍しく焦っているアンバーに、関西のおばちゃんっぽい紫髪のハーフリングが諭すように語り掛ける。
「アンバー、添い遂げる相手には隠し事をしてはいけないよ。いずれどこかで必ずバレるに決まっているんだからね。その時、痛い目を見るのはアンバーなんだよ?」
それはポーチの奥底に秘密の写真集を隠している俺にとっても耳の痛い話だ。
「今まさに痛い目を見せようとしている人間が言うことではないぞ……」
「聞いておくれよ、このアンバーは4歳の時に――」
またぞろおばちゃんが痛い話をしようとした時、白アスパラ畑の奥から2mくらいの長さがある巨大な白アスパラを抱えたシトリーが戻ってきた。
「皆さん、何を話しているんですか?」
「おお、ようやっと戻ってきたか! 重かったじゃろう、わしが運んでやるから寄越すがよい!」
「あ、ありがとうアンバー」
強引にシトリーから白アスパラを奪ったアンバーはくるりと背を向ける。
「鮮度が落ちてはいかん! すぐに家に帰るぞ!」
そのままアンバーは、花壇の間の細い道を抜けて地上に逃げていった。
「アンバーちゃん、行っちゃった」
「仕方ないな、俺達も帰るか」
「アンバーの恥ずかしい話はまた今度、じっくり聞かせて貰うとするにゃ」
ロリババア連合とさよならをした俺達は、頭にクエスチョンマークを浮かべるシトリーを連れて秘密の地下菜園を後にしたのだった。