マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
それから8日後、ようやく俺の担当していた城壁の施工作業は終わった。
予定よりも幾分か長い工期が掛かったのは、みんなで城壁の壁に落書き――もとい彫刻をしていたからだろう。
ただの石壁では面白味がないと思ったのか、工事の途中で暇なハーフリングがやってきてやたらと上手いアルパカの彫刻やらハイランド伝統の文様やらを
これが最終的に里のほとんどの住民が参加するお祭り騒ぎになってしまった。
おんぼろな生活魔道具の修理に追われていたアイリスによる最終チェックの後、完成した結界魔法陣が起動した時なんてみんなでパチパチと拍手して喜んだくらいだ。
慣れ親しんだダンジョンとの別れは辛いに決まっているが、こうやって新たに得るものがあれば前向きに暮らしていけると信じている。
世界樹が成木になる1000年後には用済みになってしまう城壁だけど、将来的にハイランドのランドマークとして残ってくれたら嬉しいな。
なお、今回使われた結界魔法陣はこれまでにない実験的な趣向を取り入れており、なんと空を飛ぶ魔獣の目をごまかす迷彩仕様になっている。
試しにミュールの忍者ハヤテ号に乗って空から観察してみたが、近くだと透明になるのに離れると周囲の景色に溶け込む蜃気楼みたいな不思議な結界だった。
流石は天才
俺に任されていた仕事が一通り片付いて、ハイランドの住民が狩りに狩ったウサギ肉の保存食作りが一段落着いたらいよいよ探索のお時間だ。
ひとまず俺達はキャンプ地に引きこもっていたメリーベルをテントの中から引っ張り出して、ハイランドの里から古代の登山道をアルパカの足で30分ほど下った距離にあるCランクダンジョンにダンジョンマスターシステムをインストールしてきた。
アバロンの里でもやった世界樹を次元間通信のアンテナ代わりにするアレだな。
探索者ギルドをハイランドに誘致することは当分ないそうだが、いざ必要になってから手配するよりは手間が掛からないだろう。
これは本番のダンジョンアタックでの連携訓練も兼ねていたのだが、メリーベルは引きこもりの割にはそこそこ動けていたと思う。
その時に確認した二人のステータスは以下の通りだ。
メリーベル・ネフライト 123歳 ランクD
魔力S 筋力D 生命力D 素早さD 器用さA
彼女は生まれつき器用さがAだったから弓兵ルートに向かったそうだ。
弓を持つのは100年ぶりだって言っていたけど、ブランクを感じさせない命中率は後衛として重宝できそうである。
ディヴレス 2538歳 ランクA
魔力A 筋力S 生命力S 素早さB 器用さB
何だこの化け物……というのが正直な感想。
三段階のステータスアップを見るのはアザゼル以来だ。
彼がネフライト王国最強のタンクというのは本当のことらしい。
それとアイリスのステータスだが、彼女は14歳の時のパワーレベリング以降一度もダンジョンに潜っていないそうなので割愛しても問題ないだろう。
そんな感じで肩慣らしが終わった次の日—―つまりハイランドの里にやってきてから10日目の早朝、俺達はついに本命のAランク迷宮ハイランドの踏破に乗り出すことになった。
その日も里長の家で変わり映えのしない朝食を頂いた俺達は、シトリーお手製の甘辛く味付けした芋餅の入ったお弁当の包みをポーチに仕舞って家の外へ出た。
「では、行ってくるからのう」
見送りにやってきたフォス爺とシトリーにアンバーがお出かけの挨拶をする。
「アンバー、絶対に生きて帰ってくるのじゃぞ~!」
「皆さん、頑張ってくださいね」
「はい、じゃあ行ってきまーす」
俺達が向かったのは里の外れにある空き地に設営されたエルフのキャンプ地だ。
ここには3機のオスプレイっぽい見た目のジェット輸送機を囲むように5張りのテントが並んでいる。
城壁の中に輸送機の格納庫とか軍人エルフの宿舎は既に建てられているし、メリーベルの住居となる城の縄張りも結構前から始まっているが、万が一の事態に備えて最重要ミッションが終わるまではここで寝泊まりをしていた。
「皆様、おはようございます!」
輸送機の近くで夜通し警備をしていたモブの軍服エルフがビシッと敬礼した。
「おはよー、メリーベルちゃんはもう準備できてるかな?」
「それなんですが……先ほどディヴレス様が起こしに向かわれたところです」
彼はチラリと引きこもりメリーベル専用のテントの方に目を向けた。
冷血な鬼畜メガネキャラのコスプレをしたハムマンのイラストがでかでかと描かれた大きなテントがグラグラと不自然に揺れ動いている……。
しばらくするとゴツい鎧を身に
「うぅ、歩きすぎて足が痛い……。もうダンジョンなんて行きたくないよぉ~」
「王族の大事なお役目です。こればかりは絶対に譲れません」
背中を丸めたメリーベルは
「おはよう。原稿の調子はどうだ?」
「おはようございますぅ……。原稿ですかぁ、結構進みましたよぉ~」
輸送機での移動中に話した漫画の存在に興味を持ったメリーベルは、この里についてからずっと自分のテントに引きこもってハム学の同人誌を描いていた。
ゆくゆくはティアラキングダムに住むハム学仲間に漫画の原稿を送って、同人小説の即売会で販売して貰うつもりらしい。
この世界に漫画の技法を広めたい俺としても、漫画家の卵は是非とも育てておきたいところだ。
手先の器用なハーフリングが沢山住んでいるハイランドの里ならアシスタントにも困らないだろうし、将来的にここが漫画発祥の聖地になっちゃったりしてな。
なーんて、それはただの夢物語だ。
「どうせダンジョンに行きたくないのも、運動不足で筋肉痛だからだろう? 後でちゃんと診てやるからさ、もう少しくらい頑張ろうぜ」
「そんなこと言って、ベルにエッチなことしませんか?」
「しないしない。そんなことしたら中級医師免許を剥奪されちゃうよ」
本音を言うと、アンバーにお仕置きされちゃうからだけどね。
「じゃあ、嫌ですけど……もうちょっとだけベルも頑張りますぅ……」
「その意気ですぞ、お嬢様!」
引きこもりのお姫様がほんのりと前向きになったところで、俺達はダンジョンに移動を始めることにした。
ディオゲネス山脈の東側寄りの位置に存在するハイランドの里から続く新たに石畳で舗装された道路を歩き、古代の登山道を挟んで向こう側にある高原のど真ん中にドカンと建つ大きな城壁の門を潜り抜ける。
俺達は基礎ができつつあるメリーベルハウスという名のハイランド城を通り抜け、世界樹の結界魔法陣が刻まれた石板の埋め込まれた広場を踏み越え、中庭の中心にある巨大なダンジョンゲートの前までやってきた。
するとそこでは、普段は城壁の上で愛弓を片手に魔獣狩りをしているバジル・ルベライトが腕時計を見ながら俺達を待っていた。
「おはようございます。メリーベル様、お忘れ物はありませんか?」
挨拶もそこそこに、バジルは出発前の最終確認をした。
彼はタイムスケジュールにめっぽう厳しい。
俺達のしていた城壁の彫刻—―お遊びとも言う――に苦言を
「ちゃんと持ってますよぉ……」
メリーベルは長いもじゃもじゃの黒髪を
その小箱の中には翡翠色に輝くこぶし大の種子が、宝石のように収められている。
「確かに確認しました。アイリス教授、『こん棒愛好会』の皆様、後のことは頼みましたよ」
「この日の為にしっかり準備をしてきたからね。うっかり次元の
古代の石板に記されていた生育条件が完全に整ったダンジョンへの世界樹の種子の植え付けは歴史上でも初めての試みになるので、その後に何が起こるかは誰にも分からない。
保険として大量の食糧を用意してあるとはいえ、また浦島太郎だけは勘弁して欲しいものだ。
「わしらは挙式を控えておるのじゃ。うっかりなどするつもりは毛頭ないぞ」
「今回はユニエルもいないしにゃー」
「さっくり済ませて帰ってきますんで、バジルさんもダンジョンには誰も立ち入らせないよう注意してくださいね」
「ええ、蟻一匹通すつもりもありません」
誰よりも真面目なバジルが門番を務めているのならきっと大丈夫だろう。
「それじゃあ、行きますか」
いざダンジョンへ出発だ。
俺達は足並みを揃えて、ぴょーんとダンジョンゲートに飛び込んだのだった。