マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第244話 ハイランド迷宮探索行(後編)

 ゲートを潜り、俺達は四層の全域を占める奇獣大原野までやってきた。

 隆起した台地の崖下に存在するゲートのそばから辺りを見回すと、そこには果てしなく続く原生環境が広がっていた。

 

 見たこともない巨大な植物の葉を揺らしてのしのしと徘徊する、この世界の生物学からかけ離れた姿をした魔物達。

 

 頭から生えた複数の触手をゆらゆら揺らしながら先っちょに付いた目で足元を探る足の多い奇妙な原生生物を見ていると、まるで宇宙で遭難して見知らぬ惑星に不時着したかのような錯覚に(おちい)ってしまう。

 

随分(ずいぶん)と広いのう。これは骨が折れそうじゃ」

 

 本来存在したであろう2つの異界と狭間(はざま)平原を飲み込んだこの奇獣大原野の広さは、通常の異界の3倍を越える規模がある。

 

 2つの異界が繋がったアクアマリンの岩塊(がんかい)台地よりも広い、世界中にあるダンジョンの異界の中でも5指に入るオープンフィールドだ。

 

「ここも特殊異界の分類に入るからねー。もしかしたら、このダンジョンにもハルトくんみたいな帰還者(リターナー)がいたりするのかも?」

「本当にいたとしても、知らない間に()いて知らない間に死んでいるに決まっているけどな」

 

 帰還者(リターナー)は一層に現れることの方が珍しく、そして生きている状態で見つかることは更に珍しい。

 僻地に存在し、ろくに探索もされていない非管理ダンジョンなら言わずもがなだ。

 

「ベルは弦を引いてばっかりで、もう疲れちゃったよぉ……」

 

 困ったように眉を下げてプルプルと震える右手を見せるメリーベルの肩を、アンバーが優しくポンポンと叩いた。

 

「先ほどはよく頑張ったのう。時間も時間じゃし、予定通り今日は休むとしよう」

「やったぁ!」

 

 嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるメリーベル。

 口では疲れたと言っているが、彼女はまだまだ元気そうだ。

 

 ポーチから懐中時計を取り出して見てみると、現在時刻は18時を過ぎている。

 帰りのことを考えると、ここでしっかり睡眠休憩を挟まなければ厳しいだろうな。

 

「ミュール、セーフポイントまで案内してくれ」

「了解にゃー」

 

 ミュールは手に持っていた四層のマップ(探索者ギルドの資料のコピー)をチラチラと見ながら歩き出した。

 

 ピクピクと猫耳を動かしたり定期的に探知スキルを放ったりと索敵は欠かさない。

 なんだかんだ言っても、彼女は優秀な斥候職なのである。

 

 

 ちょいちょい魔物とはエンカウントしたものの絶対に倒さないよう注意しながら進んだ俺達は、小一時間ほど歩いて大地に斜めに突き刺さった大剣みたいな形をした大岩のよく見える場所にある洞穴までやってきた。

 

 比較的魔物の出現が少ないセーフポイントはいくつかあるが、ここが一番五層へ繋がるゲートに近いそうだ。

 

 ミュールが念入りに魔物がいないか確認した後、洞穴の入口近くに石材で目隠しをしてから、結界魔道具の上に空気供給用にスイッチを入れた「マーメイドの喉笛」と明かりを点けた魔道ランタンを並べた。

 

 俺はいつものように石でテーブルと椅子を用意して……と、忘れないうちに入口の近くに簡易トイレとシャワールームも設置しておこう。

 

 ディヴレスが夕食を作っている間に、俺は三層探索の功労者であるメリーベルに疲労回復マッサージ(超健全)を施してあげることにした。

 

 俺は床に敷いた寝袋の上で腹ばいになっているメリーベルの背中を、魔力を込めた親指でグリグリと指圧する。

 

「あうぅ~、気持ちいいよぉ~」

 

 俺の疲労回復マッサージは鬼の隠れ家亭の常連客にもよく効くと評判なのだ。

 やはり房中術スキル……房中術スキルはすべてを解決する……。

 

「お客さん、かなり凝ってますねぇー。何かお仕事でもされてます?」

「ええとぉ、文筆業を少々……」

「やっぱり! そうだと思いましたよ」

 

 ここでツボをグリっと一押し。

 

「あひぃ~!」

 

 メリーベルはいちいちリアクションが大きくて楽しい。

 

「ハルトハルト、あちしもやって欲しいにゃ」

「わたしもちょっと気になるなー」

「いいぞ、愛の伝道師ハルト・ミズノに任せてくれ」

「なんじゃ、その異名は……」

 

 俺が大昔に古本屋をハシゴして手に入れた、房中術スキルの扱い方が書かれている禁書の筆者ラブリーマロニエの異名だ。

 彼女は世界中で娼館を経営するサキュバス・グループの創設者でもある。

 

 西大陸の少数民族を祖とする女性しか生まれない種族 (ラミアやアラクネ、アマゾネスなど)の中でもサキュバスは特に性に貪欲で、定期的に男を抱かないと精神を病んでしまうほどだという。

 

 かつてサキュバスは男性を襲い干からびるまで犯し殺す怪物として恐れられていたが、西大陸を放浪していたアザゼルが森に潜む彼女達に知恵と文明を授けたのだ。

 

 サキュバス・グループの娼館はアンバーとラブホ代わりに使ったくらいで直接サキュバスのお世話になったことは一度もないが、こうして間接的に利益を得ているので俺は彼女のことをとても尊敬している。

 

 なお、ラブリーマロニエはとっくの昔に寿命で亡くなっているのでこれから会うようなイベントは一切ない。

 

 

 希望者に指圧マッサージを行っているうちにディヴレスのキャンプ飯が完成したので、いっぱい歩いて腹ペコ状態の俺達は食卓の前に集まった。

 

 今夜の献立はジャガー芋のポトフとナッツ入りの全粒粉パンのスライス、温室で栽培されたグリーンリーフを使ったフレッシュサラダにデザートのアップルパイだ。

 

 パンとアップルパイは早朝に焼いたものをマジックバッグに詰めてきたそうだけど、どちらも温め直してあってとても美味しそうな香ばしい香りを放っている。

 

「皆様のお口に合えばよろしいのですが……どうでしょうか?」

 

 彼の手料理を毎日のように食べているだろうメリーベルのことは放っておいて、黙々と食事をしている俺達にディヴレスが恐る恐る尋ねてきた。

 

「当然、サイコーにゃ!」

「うんうん、やっぱりディヴレスさんに頼んで正解だねー」

 

 アンバー達にキャンプ飯を振舞ってイキっていた自分が恥ずかしい。

 そう感じるほど、積み重ねた年季の違いが味に現れていた。

 これだから長命種はズルいんだよ……。

 

「くっ……美味すぎる……」

「わしはハルトの愛情がこもった手料理の方が好きじゃぞ」

「でもアンバーさん、いつもと違ってお代わりしていませんか?」

 

 アンバーは俺からそっと目を()らした。

 俺はそんな彼女の姿を見て、アクアマリンに帰ったら本格的に調理スキルを勉強することを心に誓ったのだった。

 

 

 夕食が終わって歯磨きとシャワーを済ませたら就寝のお時間になるわけだが、ここで四層の魔物を一匹も倒さずに進んだことが効いてくる。

 

 これは他の探索者がおらず飛刈(ひかり)高原みたいな魔物の自然死が起こらない異界の探索中にだけ使える小技なのだが、魔物が()き上限まで到達していることを利用して絶対的な安全地帯が確保できるのだ。

 

 一応はミュールも警戒しているし、警報付きの結界も張っている。

 ここまでやっておけば、万が一にも問題が起こることはないだろう。

 俺達は魔道ランタンの暖かい灯りの下でぐっすりと眠り、翌日の探索に備えた。

 

 

 翌朝何事も無く目覚めた俺達はディヴレス特製のモーニング(とても美味い)を頂いて、手早くキャンプ用具をマジックバッグに片付けてから探索を再開した。

 魔力も気力も十分(じゅうぶん)で、お腹だけは八分(はちぶ)だ。

 

 斥候のミュールを先頭に、道なき道をひたすら歩く。

 基本的に会敵しない限りはスルーして、邪魔になりそうなら遠方から始末する。

 

 奇獣大原野に出現する魔物の多くは、強酸の液体を吐いたり死骸が爆散したりと面倒なタイプが多いのだ。

 

「アイシクルカノン、アイシクルカノン、もういっちょアイシクルカノン!」

 

 俺は目前の岩壁にへばりついているナメクジの化け物みたいな魔物のカオススネイル3匹を氷漬けにした。

 

「ミュール、他に敵はいないよな?」

 

 白くどでかいこん棒を装具に仕舞った俺が尋ねると、ミュールは質問とは別の答えを返した。

 

「ちょっと寄り道してもいいかにゃ? さっき、あっちの方で出現品(ドロップアイテム)っぽい反応があったのにゃ」

「ミュールちゃん、タイムロスはどれくらい?」

「そこの岩壁の中だから30分くらいだと思うにゃ」

「ふむ。そう何度も寄り道をするわけにもいかぬが、一度くらいならええじゃろう」

「やったにゃ! ハルト、早く掘って欲しいにゃ!」

 

 俺の仕事なのかよ……。

 まぁ、ここはリーダーの意見に従っておこう。

 

「じゃあ、アイリスはプロテクションで防護をよろしく。メリーベル、悪いがちょっと休憩な」

「爺や、喉が渇いたよぉ~」

「どうぞ、エナジードリンクです」

「ありがとう、爺や~」

 

 石で適当に作ったテーブルセットでそれぞれ休憩を始めたみんなに背中を向けて、俺はミュールの指定したポイントを目指して岩壁を掘ることにした。

 

 まずは魔力波を通して、岩壁を構成する鉱物の材質をチェックする。

 岩盤がかなり固いから崩落対策は必要なさそうだけど、その代わりにめちゃくちゃ掘り辛そうだ。

 

 俺は作り溜めてあったヒヒイロカネの薄いプレートをポーチから取り出すと、鍛冶スキルでちょいとちぎって変形させてドリルみたいな形状にした。

 

 これを石の触手の先にくっ付けて……ギュイーン!

 よしよし、いい感じだ。

 うっかり出現品(ドロップアイテム)を削らないようにしないとな。

 

 

 それから40分後、俺が鉱山のように掘り進んだ狭い坑道の奥にある色の違う岩盤にヒヒイロカネのタガネを打ち付けると、()がれ落ちて転がった岩が一瞬だけキラリと魔道ランタンの光を反射した。

 

「ミュール、これか?」

「この反応、間違いないにゃ!」

 

 ミュールは岩に飛び付くと、お目当てのお宝を引っぺがして明かりにかざした。

 ケモ化した彼女の右手に握られたそれは見覚えのある卵大の青白いオーブだった。

 

 俺が正体に勘付くと同時に、シュルシュルとミュールの姿が小さくなっていく。

 アイリスに見せるのが先だといつも口を酸っぱく言っているのに、漢鑑定しちゃったミュールはあっという間にケモロリ忍者に変身した。

 

「これ、ハーフリングオーブじゃん……」

 

 確かにダンジョンに落ちている出現品(ドロップアイテム)はダンジョンが過去に飲み込んだ道具が再現されたものだが……こんな偶然が重なるとはな。

 他にもっといいものはなかったのか、遺品の詰まったマジックバッグとかさ。

 

「にしし、これであちしも億万長者にゃ!」

 

 ハーフリングオーブが高く売れたのはどこぞのダークエルフが研究用に必要としていたからであって、これからオークションに出しても億も行かないと思うぞ。

 

「ミュール、出現品(ドロップアイテム)がパーティーの共有財産ってことを忘れていないか?」

「あちしはお宝なんて拾ってないにゃ。見つけたのはただのガラクタにゃ」

 

 そう言いつつ、大人に戻ったミュールはポーチにハーフリングオーブを仕舞った。

 俺に渡す気は欠片も無さそうである。

 

「まぁ、今はいいか。アンバー達が待ちくたびれていると思うからさっさと帰るぞ」

「了解にゃー」

 

 こうしてねんがんのハーフリングオーブを手に入れた俺達は、魔道ランタンを片手に坑道の外を目指して歩き出したのだった。

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