マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第245話 ジャックと豆の木

 ちょっとした寄り道をしつつハイランド迷宮四層、奇獣大原野を進んだ俺達はついに目的地である五層のゲート付近までやってきた。

 

 ミュールの持つ四層のマップには大地に斜めに突き刺さったように見える巨大な岩の裏側に隠れるように存在すると書かれていて、実際にその通りだった。

 

 後は必要な準備をしてゲートに飛び込むだけなのだが……その前に一度だけ大物狩りをする必要がありそうだ。

 

 俺達はドシン、ドシンと地響きを鳴らして近付いてくるクソでかい四つ足のクモみたいな奇妙な見た目の大怪獣—―メタルグラドロンに向き直った。

 

「私が正面を抑えて隙を作ります! アンバー殿はその間に部位破壊を!」

「分かったのじゃ!」

 

 先陣を切るようにダッと駆け出したディブレスが構えた大盾を輝かせると、メタルグラドロンの頭(多分頭)がグイっと引き寄せられるように動いた。

 持ち上がった右前足が、ディヴレスの上にゆっくりと落ちていく。

 

「シールドパリィ!」

 

 ディヴレスのシールドパリィが完全に入り、折り曲げた右前足を地面に着くようにメタルグラドロンが倒れ込んだ。

 一際大きい地響きが鳴り、隣のメリーベルがぴょんと飛び上がる。

 

 倒れ込んだメタルグラドロンの甲殻をシュババっと駆け上がったアンバーは、メタルグラドロンの頭(もう頭でいい)を抜き打ちしたひひいろ丸で殴りつけた。

 

「そうれっ!」

 

 ぐわしゃぁん、とセラミックが砕け散るような音を立てて頭の甲殻が吹き飛んだ。

 その中から覗いたのは、でろりとした粘液を(まと)ったグロテスクな緑色の肉塊だ。

 

「今じゃ、ハルト!」

「ポジトロンシューター!」

 

 俺はチャージして構えていたメカメカしいこん棒から蒼の光条を打ち放った。

 脳天から侵入したビームがメタルグラドロンの体内を乱反射して焼き尽くす。

 すぐに魔力の器から(あふ)れた魔力が体内を満たし、レベルアップを知らせた。

 

「レベルアップだ、仕留めたぞ!」

「ハルトくん、わたしもー」

 

 どうやらアイリスもレベルが上がったようである。

 

「他に魔物はいないみたいにゃから、魔石を取ってきてもいいかにゃ?」

「消滅には時間が掛かるだろうし、帰りに余裕があったら回収でいいだろう」

 

 俺はあのグロテスクな肉塊に手を突っ込むミュールの姿を見たくなかった。

 アンバーとディヴレスが戻ってきたところで、ゲートの前に立った俺達は五層探索の準備を始めた。

 

 俺達が探索者服の上から着るのは魔道学院謹製の宇宙服である。

 それも酸素を供給する生命維持装置が付いた、念話で会話できるタイプだ。

 

 そう、ハイランド迷宮の五層は世にも珍しい無重力の真空環境。

 広大な宇宙空間を再現した、その名も無間(むげん)宙域だ。

 

『じゃーん、スペースネフライト号~!』

 

 まんまる頭の宇宙服を着たアイリスは装具から5mサイズの宇宙船を取り出した。

 昔作った潜水艇の座席部分を丸く切り取ったような見た目をした、風防のない薄い楕円形のUFOだ。

 その背面には2基の魔道ジェットエンジンが備え付けられている。

 

『エースパイロットのミュールちゃん、操縦は頼んだよ!』

『あ、あちしの夢が形になっちゃったにゃ……!』

 

 まんまる頭の宇宙服を着たスペース猫娘は感動に打ち震えていた。

 魔道ジェットエンジン搭載のカッコいい乗り物を乗り回す夢が叶ってよかったね。

 

『宇宙怖いよぉ……』

『お嬢様、お気を確かに……!』

 

 流石に鎧を着たままだと入らないのでディヴレスは鎧を脱いでいる。

 まぁ、彼の防御力はこれまでの冒険で十分に証明されているから問題ないだろう。

 

 宇宙服から伸びた安全帯を椅子の手すりに繋げて、更に全員がシートベルトを身に着けたら準備は完了だ。

 

『ハルトよ、これで大丈夫かのう?』

『大丈夫、ちゃんと繋がっているよ』

 

 指差し確認ヨシ! ご安全に!

 

『出発するにゃ!』

 

 ミュールがレバーを引いてホバークラフト機構を発動させると、ふわりと浮かんだ宇宙船はゲートの中に落ちるように侵入した。

 

 真っ暗闇に染まった視界を照らすように、宇宙船の各部に取り付けられたライトが点灯する。

 

『うわぁ、綺麗。まるで星空みたいだぁ……』

 

 ライトの光を乱反射して暗闇に浮かぶ星々のようにキラキラと瞬いているのは、この生命の存在できない異界で出現しては消えていく魔物からドロップした魔石だ。

 

 あんまり飛ばすと擬態した内殻に船体がぶつかってしまうので、アイリスの展開したプロテクションで透明なスペースデブリを弾きながらゆっくりと飛行する。

 一度は地面らしき場所に衝突したが、船体は無傷なのでセーフとしておこう。

 

『アイリスよ、ゲートは見つかったか?』

『うーん、難しいねー』

 

 俺は二人の話を聞きながら宇宙服のガラス越しにお手製の望遠鏡を覗きこんで、遠くでリポップした牛っぽい魔物が酸欠でご臨終する様を見届けていた。

 こんな異界に生を受けてしまったばかりに……南無南無。

 

『あ、ゲートあった』

『あったの!?』

『うん、あっちの牛っぽい魔物の近く』

 

 望遠鏡から目を離した俺が指差した先には、豆粒サイズの真珠色の輝きがあった。

 仏さんに祈った甲斐があったな。

 

『見えたにゃ。すぐに向かうにゃ!』

 

 魔道ジェットエンジンを点火した宇宙船をビューンと飛ばしてやってきましたダンジョンコアのゲート前。

 このサイズだと宇宙船に乗ったまま通ることはできないが、それも想定済みだ。

 

 ミュールはホバークラフト機構を発動させると、コックピットを慎重にゲートに近付けた。

 ガポッと船体がゲートに(はま)り込み、白くなった視界とともに重力が戻った。

 

『ダンジョンコアに到着にゃ』

『メリーベルちゃん降りて、ちゃっちゃと仕事を済ませるよー』

『う、うん……』

 

 安全帯とシートベルトを外したアイリスが宇宙船から降りると、メリーベルは不安げな顔をしてそれに続いた。

 

 一昨日の予行演習で別のダンジョンのダンジョンコアに一度入っているが、それでも本番となると緊張するのだろう。

 

『宝珠はこれ一つだけみたい。野良ダンジョンはしょっぱいねー』

 

 アイリスはカタツムリの目みたいな細長い迷宮核のてっぺんにくっ付いていた大きな真珠状の宝珠を手に取ると、宇宙船に向かって転がした。

 コロコロと白い床を転がった宝珠はカランと音を立ててコックピットに入った。

 

『ナイスショット!』

『わしの両親の命を粗雑に扱わんで欲しいものじゃ』

 

 ダンジョンは人間の魂を栄養源にして宝珠を生み出していると言われている。

 つまりこの宝珠はこれまでこのダンジョンで亡くなった人間—―アンバーのご先祖様と両親、そしてそのパーティーメンバーの命の結晶だ。

 

 ハイランドの民の宝とするには、これ以上の物はないだろう。

 アンバーは宇宙服のヘルメットを外して中に宝珠を入れると、お腹のだぼだぼとしたところで大事そうに抱えた。

 

『準備できたよー。メリーベルちゃん、やっちゃってー』

『何が起こっても、ベルのせいじゃないですから……!』

 

 一眼レフカメラを構えたアイリスに(うなが)されたメリーベルは、手に持った世界樹の種子を先ほどまで宝珠があった場所に乗せた。

 

 するとドクンと脈動するような光を放った翡翠色の種子から翡翠色の(つる)がシュルシュルと生えて迷宮核に巻き付き始めた。

 幾重にも幾重にも……これ、ヤバくないか?

 

『二人とも、早く船に乗るのじゃ!』

『ひぃ~!』

 

 逃げるように走ってきたメリーベルとは対照的に、パシャパシャと発芽の様子を撮影しながらゆっくりと後退しているアイリス……。

 俺はアイリスを石の触手で掴んで強引に引き寄せた。

 

『もうちょっとだけ、もうちょっとだけでいいから……』

 

 これだから学者気質ってのはいかんのだ。

 シートベルトを付ける時間もなかったので、俺はそのまま石の触手でメリーベルとアイリスの身体を座席にがっちりと固定した。

 

『ミュール、出せ!』

『了解にゃ!』

 

 俺達の乗った宇宙船が逃げるようにゲートから離れると、間髪を入れずゲートの奥から翡翠色の(つる)が飛び出した。

 

 それは紐を編むようにぐるぐると巻き上がると、ある一点に向かって少しずつ太く成長しながら伸び始める。

 その様子はまるで、幼少期に読んだ絵本のジャックと豆の木のようだ。

 

『外に繋がる唯一のゲートに向かっているのか……?』

『いずれにせよ、脱出までの時間は限られておるようじゃ。ミュールよ、カッ飛ばすのじゃ!』

『あちしは光になるにゃ!』

 

 アイリスの透明プロテクションに魔石が弾かれるガンガンという音が響く中、ミュールは四層のゲート付近に設置してあった目印のビーコンに向かって一直線に宇宙船を飛行させる。

 

 宇宙船はホバークラフト機構で減速しつつ潜ったゲートからポーンと四層へ踊り出ると、すぐそばの巨大岩に沿って飛び上がり、そしてその頂点に着陸した。 

 

「も、もう四層に頭を出しておるぞ……」

 

 ヘルメットを外した俺達が広大な異星環境を見渡すと、その中心地に翡翠色の細い(つる)が伸び上がっていた。

 これはいよいよ、猶予が無さそうだ。

 

「アイリス殿、この飛行機で脱出することは可能なのでしょうか?」

 

 未だにカメラを手放さず撮影を続けるアイリスにディヴレスは尋ねた。

 ……ディヴレス、飛行機って言っちゃったよ。

 

「燃料の魔石はさっきの大物を拾えば足りると思うけど、わたしのプロテクションだと三層が厳しいからハルトくんにお願いしたいなー」

 

 俺がメリーベルとアイリスの身体を座席に固定していた石の触手をどかすと、アンバーは手早く二人のシートベルトを付け直した。

 このまま移動するなら、積載重量は少しでも減らしておきたい。

 

「聞いたなミュール、アレを渡せ」

「しょうがないにゃあ……いいよ」

 

 ミュールはぼふんと煙を立てて早着替えの術で宇宙服を脱ぎ捨てると(宇宙服はどこに行った)、ポーチから取り出したハーフリングオーブを俺に手渡した。

 

「お主、それは……」

「さっきはただのガラクタって言って悪かったな。ミュールに頼まれていたんだよ」

 

 オーブを右手に持って念じると、俺の身体がシュルシュルと小さくなった。

 流石は魔道学院謹製の宇宙服、当然のようにサイズ調節機能付きだ。

 

「これで準備はできた。出発しよう」

「こ、子供になっただけで何が変わるんですかぁ……?」

「そりゃあもちろん、器用ささ」

 

 ミュールの意思を反映して、宇宙船は再び空中に浮かび上がった。

 さあて、楽しい楽しい脱出レースの始まりだ。

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