マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第247話 エピローグ

 ハイランドの里にやってきてから1ヵ月と少しが過ぎた夏の盛り、わしは完成したハイランド城の一室で叔母達から花嫁衣装の着付けを受けていた。

 今日は城の大広間を借りて、わしとハルトの結婚式を執り行うのじゃ。

 

「この服、わしにはちょっときつくないかのう……」

 

 染色したハイランドアルパカの毛糸を昔ながらの手作業で織り上げたカラフルな民族衣装を着せられたわしは、ぎゅうぎゅうに絞められた帯に不満を(こぼ)した。

 

「里で一番の腕を持つ私があんたの為に仕上げてやったんだから、そんなことは絶対にないわ。ほら立ちな、そろそろお披露目の時間よ」

 

 叔母に背中を叩かれて、わしは椅子から立ち上がった。

 

「分かっておるわい。ゆくぞシトリー」

「ええ、そうしましょう」

 

 中央大陸で結婚式をする場合はホテルや公共施設を借りて探索者ギルドの天使を前に誓約するのが定番じゃが、ハイランドの里ではまた違ったやり方がある。

 

 と言っても新郎新婦がそれぞれの付き添いを連れて、集まった里の住民の前で生涯をともにすることを誓うだけの簡単な儀式じゃ。

 どちらも両親はおらんので、ハルトにはフォス爺が付き添うことになっている。

 

 わしはシトリーを連れて衣装部屋から出ると、廊下を歩いて大広間までやってきた。

 中庭に生える世界樹の若木がよく見える開放的な大広間には料理の乗ったテーブルがいくつも並んでいて、着飾った大勢のハーフリングが談笑をしていた。

 

 ディヴレス達が朝早くから用意してくれた豪勢なネフライト料理を楽しんでくれておるようじゃな。

 

 あやつらが手に持っているグラスに入っているのは、もちろん酒ではなくジャイアントコーラじゃ。

 

「やっとアンバーがきたにゃ!」

「待ってましたー!」

 

 わしは大広間の端でメリーベルの相手をしていたミュールとアイリスに笑顔で手を振ると、中庭に近い場所に設置された木の舞台の上で待つハルトのもとへ向かった。

 フォス爺と並んで立っているハルトはわしと似たような花婿衣装を着ている。

 

「おお、アンバーや……ワシはこの日がくるのをずっと待っておったぞ……」

 

 涙ぐむフォス爺を見ているとついつい釣られて涙腺が緩んでしまいそうになるが、わしはぎゅっと口をつぐんで我慢した。

 みんなが見ておるのじゃ、こういう時くらいはきちんとせねばなるまい。

 

「アンバー、緊張してない?」

「うむ、全然平気じゃ」

「そっか、大丈夫ならいいんだけど。……シトリーさん、そろそろ始めて貰ってもいいですか?」

「みんな、ちゅうもーく!」

 

 シトリーがぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振ると、集まっていた里の住民はおしゃべりを止めて壇上に立つわしらの方に視線を向けた。

 シーンとした静寂の中、シトリーがスピーチを始める。

 

「皆さん、今日はアンバーとハルトさんの結婚式に集まってくれてありがとうございます。この1ヵ月で私達の里にも色々と変化はありましたが、このように素晴らしい場所で式を挙げられるようになったことを里長の私も嬉しく思います」

「そりゃそうだ!」

「次はシトリーの番だもんなー!」

 

 既に結婚を済ませていた若いハーフリング達から野次が飛んだ。

 

「この里の男は見る目がないので予定は未定です。それはさておき、早速新郎新婦から誓いの言葉を頂きましょうか。えっと、まずはハルトさんからお願いします」

 

 ハルトは一歩前に踏み出て、皆の顔を見回した。

 

「俺には複数の妻がいる。一人はアクアマリンのダンジョンマスター、一人は砂漠の民の女王。いずれはアイリスとミュールも加わるだろう。それは一夫一妻が当たり前のこの里では喜ばしいことではないかもしれない」

 

 誓いの言葉に他の女の話から入るのか……。

 シトリーが普通にドン引きしておるが、ええのかのう。

 

「それでも……それでも、俺がこの世界で一番愛しているのはアンバーだ」

 

 ハルトが右手を前にかざすと、虚空から青白い宝玉が現れた。

 右手で掴み取ったハルトの姿がシュルシュルと小さくなる。

 ハーフリング化した彼を見て、ざわざわとしたざわめきの声が広がっていく。

 

「この里の習わしでは新郎が新婦に手作りの贈り物を渡すのが慣例だと聞いた。なら俺は世界で一番愛する妻に、世界で一番素敵な贈り物を渡そう」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべたハルトは中庭の方を向いて右手をかざすと、空中にガラスの球体を生み出した。

 そしてきゅうっと広がった巨大なガラス球を見ながら、懐から小瓶を取り出す。

 

「お主……」

 

 依頼の報酬としてバジルから受け取った世界樹の雫を「らすとえりくさぁ」などと言って使うのをためらっていたのはこの日の為じゃったか。

 ぶっつけ本番じゃが、本当にできるのかのう。

 

「大丈夫、きっと上手くいくさ」

 

 わしの不安な気持ちを()み取ったのか、そう小さく呟いたハルトは小瓶の蓋を開けて一息に中身を飲み干した。

 

 ハルトの全身からとてつもない勢いで魔力が噴き出すとともに短い黒髪が逆立ち、彼の輪郭が立ち昇る青い魔力に包まれる。

 

「ニュークリアフュージョン!」

 

 ハルトが両手を前に突き出して錬金術スキルを行使すると、ガラスの球体から激しい光が放たれた。

 二度、三度と行使していくと、わしらの目にも中身が見えるようになっていく。

 

「くっ……!」

 

 普段の何万倍もの量を一度に昇華しておるのじゃ、その疲労も段違いに違いない。

 じゃが、ハルトは歯を食い縛って錬金術スキルの行使を続けた。

 世界樹の雫が効力を発揮する時間はごくごく短い間と限られておるからじゃ。

 

 集まった里の皆には何が起こっているか分からんじゃろう。

 それでも、とてつもなく大変なことをしていることだけは伝わっていた。

 じゃからわしらは、ただ固唾を飲んで静かにその成り行きを見守った。

 

 そして……。

 ハルトは額から玉のような汗を流しながら、ついに最後の昇華を終わらせた。

 世界樹の雫の効力が切れてふらつくハルトの肩を、わしは両手でそっと支えた。

 

 役目を終えたガラスの球体がパシャリと割れるように崩れ落ち、大きなハムマンフィギュアに変わって中庭に転がる。

 

 空中にはまるでブルームーンのように大きなミスリルの球体が浮かんでいた。

 それはふよふよとこちらに引き寄せられながら、ぐにゃりとこん棒の形に変化していく。

 

「アンバー……こんなもんでいいかな……?」

 

 今なら修正が効くとばかりに、ハルトは不安そうにわしに尋ねてくる。

 そこはビシっと決めて欲しかったのう。

 

「お主が作ったのじゃ、どんな形でも気にせんわい」

「じゃあ、こうしよう……」

 

 わしには一目で分かった。

 ハルトと初めて会った時に見せた、くろがね丸とまったく同じ形じゃ。

 

「なんじゃ、きちんと考えておるではないか」

 

 わしが手元までやってきたミスリルのこん棒を掴み取って高く掲げると、わしらが乗っている木の舞台がその重さでみしりと悲鳴を上げた。

 危ない危ない、もう少しで台無しになってしまうところじゃった。

 

 一息ついたハルトはハーフリング化を解いて元のヒューマンに戻ると、振り返って大きな声で宣言した。

 

「みんなもよーく覚えておけ、これが俺の愛の形だ!」

 

 呆気(あっけ)に取られていた皆にも成功だと伝わったのじゃろう。

 大広間中にパチパチパチと大きな拍手が広がった。

 

「なんだかとても凄いことが起きたような気もしますが……次はアンバーの番です」

 

 わしは両腕でミスリルのこん棒を大事に抱えながら、一歩前に踏み出した。

 

「このこん棒はブルームーンと同じ純粋なミスリルでできておる。ハルトがわしの為だけに作ってくれた、世界に一つしかない特別なこん棒じゃ。よいか、わしはそれだけハルトに愛されておるということじゃ」

 

 ハルトはいつだってわしを一番に立ててくれる。

 それを知っておるから、わしはハルトが「はあれむ」を作ることを許したのじゃ。

 

 本当は嫌じゃが……夜の生活も、わし一人では大変じゃからのう。

 房中術スキルなどという変なスキルを覚えてきおって、わしの生命力が高くなければどうなっていたことか。

 

「皆も知っての通りわしはこん棒が大好きじゃが、ハルトと過ごすうちにいつしかハルトの方が好きになっておった。我ながら現金なものだと思うが、これがわしの本音のところじゃ」

 

 わしがこん棒を収集しなくなった理由じゃ。

 ハルトは特別なこん棒をこうもポンポンとプレゼントしてくれるのじゃからな。

 目が肥えてしもうていかんわい。

 

「わしはいつも貰ってばかりで、ハルトに贈れるような物は何一つなかった。じゃが、これからは違うぞ。なぜなら、わしとハルトは夫婦になったのじゃからな!」

 

 鼻息荒く子作り宣言をしたわしは、壇上から一歩下がってスピーチを終えた。

 

「アンバー、頑張ってください。さて、フォス爺からも一言お願いできますか?」

 

 さらっと流したシトリーがフォス爺に呼びかけると、フォス爺は一歩前に出た。

 その手にはジャイアントコーラの入った大きなジョッキが握られている。

 

「グビグビ……ワシはもう満足じゃ。明日妻が迎えにこようとも、喜んで旅立とうぞ……グビグビ」

「フォス爺、話しながらコーラを飲んでおる……」

「どうやら我慢の限界だったみたいです。わたしもお腹が空いちゃったので、これで結婚式はおしまいってことにしましょう」

 

 それだけ言うとシトリーはフォス爺の手を引いて壇上から降りていった。

 ハーフリング達もわしらを見ることをやめて雑談に興じ始める。

 

「これでいいのか、結婚式……」

 

 結婚式などと言うても、ハイランドの民にとってはただの宴会の口実じゃからな。

 ティアラキングダムの王様がやるような派手なものとは違うのじゃ。

 

「むしろ良く持った方じゃろう。ほれ、わしらもご飯を食べに行くぞ!」

 

 わしは抱えていたミスリルのこん棒を肩に担ぐと、空いた左手で掴んだハルトの手を引いて歩き出したのだった。

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