マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
第248話 Dr.ハルト診療所
大人気冒険小説「わしとこん棒」シリーズ最新作!
わしはハーフリングのアンバー、Bランク探索者じゃ。
東大陸での冒険を終えたわしはアクアマリンに帰ってきた。
身も心もすっかり大きく成長した弟子の稽古をしながら束の間の休息を取ったわしは、アクシデントで中断していた帰郷の旅に出発する。
しかしわしは新たな仲間を迎えに立ち寄った魔道学院で、ネフライトの女王から特別な指名依頼を受けることとなる。
ハイランド世界樹計画、それは故郷のダンジョンとの永遠の別れを意味していた。
今は亡き父母よ、わしはこの身に流れる血を誇りに思う。
ハイランド城での結婚式から1ヵ月が過ぎたその日の昼間、俺は探索者ギルドハイランド支部の診察室でアンバーの書いた自伝風冒険小説「わしとこん棒
「どうじゃ、今回のは凄いじゃろう」
アンバーがやたらと自信満々に差し出したのでどんな内容になっているかと思えば、今まで以上に盛った感じになっていた。
四層の魔物との派手な戦闘シーンに手に汗握るダンジョンからの脱出パートはいいとして……なんかいじめっ子みたいなキャラ付けをされたシトリーが、アンバーが連れてきた恋人(俺)の凄まじい魔力量に腰を抜かしてひぃぃとか言ってる。
「これ、ちゃんとシトリーの許可を得ているのか?」
「フィクションなのじゃから問題ないじゃろう」
「それにしたってなぁ……」
これが原因でお見合いの話が流れたら可哀想じゃないかな。
いや、最終的に改心しているわけだし大丈夫だとは思うけどね。
「それを言ったらお主なんて清廉潔白なイケメンの王子様ではないか。現実を見てみい、女にだらしないはあれむ男じゃぞ」
そのせいで俺は初対面の「わしとこん棒」読者にガッカリされるのが常だ。
顔面偏差値とはそれほどまでに男の価値を決めるのである。
「ハルト先生はいますかー?」
「はーい、いますよー!」
ノック音と一緒に外から声を掛けられたので、俺はアンバーに原稿を返しつつ大きな声で返事をした。
すぐに扉が開いて、赤ん坊連れのハーフリングの女性が診察室に入ってくる。
「すいません、取り込み中でしたか?」
俺の隣の椅子に腰掛けているアンバーを見たハーフリングママが尋ねてきた。
「いえ、ただの暇つぶしなので気にしないでください。今日はどうされました?」
腕に抱いている1歳の男児 (コロンくん)の顔色はいいみたいだし、何か急病というわけでもなさそうだ。
「ええと、先日お伺いした小児予防接種について少しお聞きしたいことがあるのですが――」
「ああ、それはですね――」
俺がこんな場所で医者の仕事をしているのには特に深くない理由がある。
そのきっかけは、俺達がハイランドのダンジョンに世界樹の種子を植えて帰ってきてから数日後に行ったハイランドの里の住民の健康診断だった。
甘ーいジャイアントコーラが大好きなハイランドのハーフリングが知らず知らずのうちに糖尿病にでもなってたりはしないだろうかと心配になったので試しに調べてみたのだが……これがマジでなっていたのである。
そのほとんどは100歳を越える中年以上の比較的高齢なハーフリングだったのだが、みんな自分の家に籠もっていて城壁の彫刻作業にも混じったりしていなかったのでそれまで気付かなかったのだ。
俺は寿命だ何だと言って嫌がるジジババ(見た目は子供)を石の触手でとっ捕まえて、片っ端から治療することにした。
再生スキルがあるこの世界ならインスリン不足は膵臓を新品に取り換えるだけで簡単に治るように見えるが、他に合併症が色々とあったのでそっちの治療でかなり苦労することになった。
文句を言っていた彼らもやはり本心では長生きしたかったのだろう、最後には家族ともども感謝の言葉を頂いたので良しとしよう。
しかしながらコーラ漬けの生活を正さないといずれ再発するのは間違いないので、ずっとここで暮らすわけにもいかない俺はアイリスに相談してみた。
魔道学院からエルフの医者を呼ぶことはできないだろうか、と。
これはダメ元だったのだが、俺が治療に励んでいる間に探索者ギルドの支部をハイランドに誘致する計画が進んでいたようで、そっちの方で何とかなりそうだった。
思いのほか世界樹の若木が成長したことでマジックポーションの原料となる世界樹の葉を採取できる環境が整った為、西大陸各地の
東大陸からの輸入が始まっているとはいえ、需要の特に大きい西大陸に生産数の限られたマジックポーションをこれまでよりも安価な輸送コストで大量に供給できる――ギルド本部としても、ハイランドを特別扱いするには十分なものだった。
そういった背景もあり近隣の迷宮都市から数人の下級天使が派遣されてきたわけだが、俺の希望している医療技術を持つ中級天使の手配には時間が掛かっていた。
医者の数は限られているので、遠方から呼び寄せるとなるとどうしてもそうなる。
この里には元より病院なんて一つもないから、医者にかかりたければ古代の登山道を下って
それが辺境では当たり前のこととは分かっているけど、幼い乳幼児が何人もいるのに放置して旅に戻るのはどうにも納得が行かなかった。
だから俺はアンバー達にお願いして、天使のお医者さんがやってくるまでもうしばらくハイランドの里への滞在を延長することにしたのだ。
まぁ、暑い夏を涼しい高原で過ごすというのも悪くはないだろう。
そういうわけでアンバー達が夏休みを満喫している間、俺は城壁の入口付近に新しく建てられた探索者ギルドハイランド支部の診察室を借りて医者の仕事をしていた。
急ぎの治療が必要な病気や怪我は粗方片付けたので、今は結構暇である。
アクアマリンで取得した中級医師免許のおかげで同じ建物内で事務作業をしている下っ端天使との関係も良好だし、俺に中級医師資格試験を受けるよう勧めてくれたユニエルには感謝してもしきれないな。
「—―というわけです。他に何か聞いておきたいことはありますか?」
ハーフリングママの質問(ほとんど雑談に近かった)に答えた俺が聞き残したことがないか尋ねると、彼女は昼寝から起きてぐずり始めた赤ん坊をあやしながら首を横に振った。
「もう大丈夫です。……子供のオムツを変えたいので、そこのベッドを借りてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
小学校の保健室みたいな小さな診察室にはカーテン付きのベッドが二台置かれているので、俺はそのうちの一台を貸すことにした。
おっと、アンバーが興味津々な様子で彼女の近くに歩いていったぞ。
「ほう、こうやるのか」
「アンバー、
「よいのか?」
「もちろんよ、アンバーもいずれママになるものね」
アンバーが恐る恐る……といったような手つきで紙おむつを替えていると、いきなりピャっと噴水が上がった。
「ぬおっ! こやつおしっこしおった!」
「す、すいませんハルト先生!」
「赤ん坊のやることですから、気にしないでいいですよ」
そうは言ったものの、すぐに掃除と洗濯をする必要はありそうだ。
椅子から立ち上がった俺は、雑巾を探しに部屋の奥の棚へと向かったのだった。